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第十三話
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并州。呂布と高順は黄巾の討伐軍から戻ると、そのまま匈奴の迎撃軍として丁原に率いられて従軍した。
八戦。
今回の匈奴と戦った回数である。その戦いに丁原は悉く勝ち続けた。その中で呂布、高順、張遼、秦宜禄、李鄒、趙庶の丁原の配下の猛者達はその武勇を余すことなく振るった。
呂布と高順も民が武装した程度の強さしか持たない黄巾との戦いより、数は少なくても黄巾とは比べようがない猛者である匈奴との戦いの方が高揚したのは間違いない。
今は鏖殺した匈奴の兵士一万の骸を丁原とその配下の者達は小高い丘から眺めていた。夕焼けだけでなく、匈奴の戦士達や自軍の兵士達の血に彩られた大地。この凄惨な光景は并州の猛者達にとって見慣れたものであった。
「しかし、これで匈奴との戦も終わりか」
今回の匈奴との戦でも抜群の働きを見せた呂布が呟く。
和連との戦い。そして今回の戦で匈奴や鮮卑の猛者達の大部分が大地へと還った。これによって向こう十年は并州は平穏となるだろう。
「戦がなくなる。民にとっては良いことだろう」
「民にとって良いことだろうさ。だが俺達のような武人にとっては暇を持て余す刻となるぞ、秦宜禄」
秦宜禄の言葉に呂布は不満そうに告げる。
「呂布よ」
「なんだ、親父殿」
そんな呂布に丁原は声をかける。呂布は丁原を実の父親のように慕っている。早くに父親を亡くした呂布にとって、丁原は自分を引き上げてくれた恩人であると同時に父親代わりでもあるのだ。
だからこそ、呂布は丁原のいうことは聞く。
「お前は私が若い頃によく似ている」
「ほう。それは嬉しいことだな」
本当に嬉しそうな笑顔を見せる呂布の方を見ずに、丁原は無数に転がる骸を眺めながら言葉を続ける。
「唯敵を斬る。それは私が若い自分に考えていたことだ。両親を匈奴に殺された私にとって匈奴を斬ることは両親の仇を討つことであった」
丁原が過去を語り始めたことに、配下達は黙って聞いている。丁原は自分の過去を語らない。全ては自分の背中で語ってきた男だ。だからこそ自分達が慕い、唯一の主と認めた男の過去を聞き逃すまいとする。
「私にとって戦場が全てであった。戦場が自分の生きる場所であり、軍こそが私の家族であった。その中で頭角を現したお前達全員が私の息子と言っても過言ではない」
そこまで言って丁原は呂布を見つめる。
「中でも呂布、お前は特に私に似ている。粗暴であるが情に厚く、身内に甘いお前は私に似すぎていると言っても良い。お前になく、私にあるもの。それは経験だ」
「戦場に立った経験ということか?」
呂布の言葉に丁原は首を振る。
「否。上に立った経験ということだ。お前の才能は私のような凡才を遥かに超えている。上に立つことを知り、その苦労とやり甲斐を知ればお前は私以上に相応しい并州の大将となるだろう」
丁原の言葉に全員が無言となる。彼等にとって丁原が絶対の主であり、それ以外に仕えるべき者などいないと考えていたからだ。
だが、その丁原が大将の器として呂布を認めている。
その事実は并州の猛者達に強く印象づける。
しばらく無言であったが、呂布が冗談めかして口を開く。
「それだったら今すぐに立場を変わってくれても構わんぞ、親父殿」
「愚者め。この丁原。引退するつもりはまだないわ」
丁原の言葉に并州の大地に戦士達の笑い声が溢れるのであった。
皇甫嵩率いる黄巾討伐軍は連勝を続け、ついには下曲陽にいた張宝を討ち、既に病死していた黄巾の首領である張角の墓を暴き、その首を刎ねたことによって黄巾の乱は終結した。
しかし、この戦いで全ての乱が終結したわけではなく、むしろ叛乱は増大することとなり、郭嘉が言っていた通り、戦乱の世に突入していくことになる。
それは高順や呂布、張遼達の并州の武人達にも他人事ではなくなっていくのであった。
八戦。
今回の匈奴と戦った回数である。その戦いに丁原は悉く勝ち続けた。その中で呂布、高順、張遼、秦宜禄、李鄒、趙庶の丁原の配下の猛者達はその武勇を余すことなく振るった。
呂布と高順も民が武装した程度の強さしか持たない黄巾との戦いより、数は少なくても黄巾とは比べようがない猛者である匈奴との戦いの方が高揚したのは間違いない。
今は鏖殺した匈奴の兵士一万の骸を丁原とその配下の者達は小高い丘から眺めていた。夕焼けだけでなく、匈奴の戦士達や自軍の兵士達の血に彩られた大地。この凄惨な光景は并州の猛者達にとって見慣れたものであった。
「しかし、これで匈奴との戦も終わりか」
今回の匈奴との戦でも抜群の働きを見せた呂布が呟く。
和連との戦い。そして今回の戦で匈奴や鮮卑の猛者達の大部分が大地へと還った。これによって向こう十年は并州は平穏となるだろう。
「戦がなくなる。民にとっては良いことだろう」
「民にとって良いことだろうさ。だが俺達のような武人にとっては暇を持て余す刻となるぞ、秦宜禄」
秦宜禄の言葉に呂布は不満そうに告げる。
「呂布よ」
「なんだ、親父殿」
そんな呂布に丁原は声をかける。呂布は丁原を実の父親のように慕っている。早くに父親を亡くした呂布にとって、丁原は自分を引き上げてくれた恩人であると同時に父親代わりでもあるのだ。
だからこそ、呂布は丁原のいうことは聞く。
「お前は私が若い頃によく似ている」
「ほう。それは嬉しいことだな」
本当に嬉しそうな笑顔を見せる呂布の方を見ずに、丁原は無数に転がる骸を眺めながら言葉を続ける。
「唯敵を斬る。それは私が若い自分に考えていたことだ。両親を匈奴に殺された私にとって匈奴を斬ることは両親の仇を討つことであった」
丁原が過去を語り始めたことに、配下達は黙って聞いている。丁原は自分の過去を語らない。全ては自分の背中で語ってきた男だ。だからこそ自分達が慕い、唯一の主と認めた男の過去を聞き逃すまいとする。
「私にとって戦場が全てであった。戦場が自分の生きる場所であり、軍こそが私の家族であった。その中で頭角を現したお前達全員が私の息子と言っても過言ではない」
そこまで言って丁原は呂布を見つめる。
「中でも呂布、お前は特に私に似ている。粗暴であるが情に厚く、身内に甘いお前は私に似すぎていると言っても良い。お前になく、私にあるもの。それは経験だ」
「戦場に立った経験ということか?」
呂布の言葉に丁原は首を振る。
「否。上に立った経験ということだ。お前の才能は私のような凡才を遥かに超えている。上に立つことを知り、その苦労とやり甲斐を知ればお前は私以上に相応しい并州の大将となるだろう」
丁原の言葉に全員が無言となる。彼等にとって丁原が絶対の主であり、それ以外に仕えるべき者などいないと考えていたからだ。
だが、その丁原が大将の器として呂布を認めている。
その事実は并州の猛者達に強く印象づける。
しばらく無言であったが、呂布が冗談めかして口を開く。
「それだったら今すぐに立場を変わってくれても構わんぞ、親父殿」
「愚者め。この丁原。引退するつもりはまだないわ」
丁原の言葉に并州の大地に戦士達の笑い声が溢れるのであった。
皇甫嵩率いる黄巾討伐軍は連勝を続け、ついには下曲陽にいた張宝を討ち、既に病死していた黄巾の首領である張角の墓を暴き、その首を刎ねたことによって黄巾の乱は終結した。
しかし、この戦いで全ての乱が終結したわけではなく、むしろ叛乱は増大することとなり、郭嘉が言っていた通り、戦乱の世に突入していくことになる。
それは高順や呂布、張遼達の并州の武人達にも他人事ではなくなっていくのであった。
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