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「桐野先輩、おはようございます。」
生徒玄関で靴を履き替え教室に向かう途中、同じ図書委員で仲良くしている一年後輩の中村舞衣が後ろから声をかけてきた。
「舞衣ちゃんおはよ」
横並びに互いの教室まで一緒に向かい他愛もない会話をしていく。
「先輩?なんかいつもと雰囲気違うような気がするんですが...何かあったんですか?」
心配げに舞衣は碧の顏を覗き込む。昨日のことがあっただけに警戒していたのが舞衣に伝わってしまったらしい。
「ううん、何もないよ。それより舞衣ちゃんもなんか顏疲れてない?なんか悩み事?私でよければ相談乗るよ」
「...あー、んー...私も何もないんですよ。最近夜更かし気味だからですかねー」
愛想笑いをする舞衣の態度に少し違和感を覚えたが、「そっか」と告げそれ以上のことは触れなかった。
(誰にだって聞かれたくないことくらいあるよね)
舞衣の教室は碧の教室の上の階にあたるため途中で別れた。その時、視線を感じた気がしその方向に視線を移すと端正な顔立ちの男子生徒が前を見据えていた。
(あれって確か爽やかイケメン王子って言われて騒がれてる一年生よね...)
はじめ自分が見られてるのかと思ったが視線が合わず彼の視線を追うと階段を上る舞衣の姿が映った。その眼差しが一瞬猟奇的に見えた気もしたが、思い過ごしだろうと気にせず碧も自分の教室へと向かった。
教室に入り辺りを見渡す。まだ、貴斗は来ておらず一先ず安堵し後ろにある自分の席へと座る。
鞄から教科書等を出し準備をしていると、前の席の椅子が乱暴に動きドカっと座る音がした。俯いていた目線を上げると
「おはよっ、碧ちゃん」
左右のピアスが光に反射しチカっと光り、貴斗が碧の机に頬杖をつきながら口角を上げニヤリと笑っていた。今まで接点がなかった二人が急に接近したことで一瞬にして教室内の雰囲気が変わっていった。
ざわつく周りをよそに貴斗は気にする素振りもなく碧の前から離れる気配はなかった。
クラスが一緒なのだから何らかのアクションを仕掛けてくるとは思っていたが不意に身構えなしの状態でこられたため碧は目を見開き固まってしまった。
「貴斗ー、からかうのやめなよー、ほらぁ桐野さん困ってるじゃん」
貴斗がよくつるむグループ内の女子の一人、松本亜梨咲が甘い香りを巻き散らせ、せせら笑いながら二人の元に近づく。
貴斗がいるグループは所謂陽キャに属しクラスでも何かと目立つ存在で、特に貴斗は常に囲まれる存在の派手目な男子生徒だった。
一方碧は、存在感が薄くあまり波風を立てず高校生活を送りたいと思う地味目な女子高生。碧にとって貴斗は一番関わりたくない人種であった。
昨日の状況がきっかけとは言えその中心人物が碧に干渉してきている。亜梨咲の話を無視し鋭い視線を碧に向け話しかけようとした時、朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。亜梨咲は動こうとしない貴斗に怪訝な表情を浮かべながら引っ張って席へ連れて行った。
(...助かった)
心の底からの安堵と同時に自分に纏わりつく剣呑な空気に心の中で嘆息をついていた。
☆☆☆
(...はぁーーー。)
便座の蓋に座りながら碧は深い溜息をついていた。
碧は貴斗対策のため授業が終わり休み時間になる度に急いでトイレへと駆け込んでいた。何度か話しかけられそうなところで教室から抜け出し今のところなんとかうまく撒いていた。
腕時計を見るとそろそろ次の授業が始まる時間が迫ってきた。碧は便座から立ち上がると同じタイミングでスマホにメッセージが届き見ると、今は別クラスの友人からだった。
“天気も良いし久しぶりに屋上でお昼食べよー(*^^*)”
普段屋上は鍵が掛けてあり立ち入り禁止になっている。が、何故か友人は卒業生からスペアキーをもらったらしくたまにこっそりと仲の良いメンバーでお昼を食べていた。
「“了解”っと」
碧は直ぐに送り急いで教室へと戻った。
4時間目が終わり碧は約束の屋上へと向かうためいそいそと準備をしていた。貴斗のグループは既に教室には居らず碧は戻ってこないうちにとランチバッグとスマホを持って屋上へと向かった。
屋上へと続く階段は普段使われていないこともあって少し埃っぽく薄暗い。ドアの前には誰もいなかったため、先に外にいるのかと思いドアノブを回そうと手を伸ばす。
その時グッと得体の知れない何かに後ろから抱きしめられる形で碧の口元を手で塞がれた。あまりの衝撃で頭が真っ白になり恐怖で声も出せないでいると耳元で聞き覚えのある声と嗅いだことのある香水が鼻腔を擽った。
「つーかまーえた」
抑揚のないトーンで囁かれ碧は血の気が一気に引く感触を味わっていた。
生徒玄関で靴を履き替え教室に向かう途中、同じ図書委員で仲良くしている一年後輩の中村舞衣が後ろから声をかけてきた。
「舞衣ちゃんおはよ」
横並びに互いの教室まで一緒に向かい他愛もない会話をしていく。
「先輩?なんかいつもと雰囲気違うような気がするんですが...何かあったんですか?」
心配げに舞衣は碧の顏を覗き込む。昨日のことがあっただけに警戒していたのが舞衣に伝わってしまったらしい。
「ううん、何もないよ。それより舞衣ちゃんもなんか顏疲れてない?なんか悩み事?私でよければ相談乗るよ」
「...あー、んー...私も何もないんですよ。最近夜更かし気味だからですかねー」
愛想笑いをする舞衣の態度に少し違和感を覚えたが、「そっか」と告げそれ以上のことは触れなかった。
(誰にだって聞かれたくないことくらいあるよね)
舞衣の教室は碧の教室の上の階にあたるため途中で別れた。その時、視線を感じた気がしその方向に視線を移すと端正な顔立ちの男子生徒が前を見据えていた。
(あれって確か爽やかイケメン王子って言われて騒がれてる一年生よね...)
はじめ自分が見られてるのかと思ったが視線が合わず彼の視線を追うと階段を上る舞衣の姿が映った。その眼差しが一瞬猟奇的に見えた気もしたが、思い過ごしだろうと気にせず碧も自分の教室へと向かった。
教室に入り辺りを見渡す。まだ、貴斗は来ておらず一先ず安堵し後ろにある自分の席へと座る。
鞄から教科書等を出し準備をしていると、前の席の椅子が乱暴に動きドカっと座る音がした。俯いていた目線を上げると
「おはよっ、碧ちゃん」
左右のピアスが光に反射しチカっと光り、貴斗が碧の机に頬杖をつきながら口角を上げニヤリと笑っていた。今まで接点がなかった二人が急に接近したことで一瞬にして教室内の雰囲気が変わっていった。
ざわつく周りをよそに貴斗は気にする素振りもなく碧の前から離れる気配はなかった。
クラスが一緒なのだから何らかのアクションを仕掛けてくるとは思っていたが不意に身構えなしの状態でこられたため碧は目を見開き固まってしまった。
「貴斗ー、からかうのやめなよー、ほらぁ桐野さん困ってるじゃん」
貴斗がよくつるむグループ内の女子の一人、松本亜梨咲が甘い香りを巻き散らせ、せせら笑いながら二人の元に近づく。
貴斗がいるグループは所謂陽キャに属しクラスでも何かと目立つ存在で、特に貴斗は常に囲まれる存在の派手目な男子生徒だった。
一方碧は、存在感が薄くあまり波風を立てず高校生活を送りたいと思う地味目な女子高生。碧にとって貴斗は一番関わりたくない人種であった。
昨日の状況がきっかけとは言えその中心人物が碧に干渉してきている。亜梨咲の話を無視し鋭い視線を碧に向け話しかけようとした時、朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。亜梨咲は動こうとしない貴斗に怪訝な表情を浮かべながら引っ張って席へ連れて行った。
(...助かった)
心の底からの安堵と同時に自分に纏わりつく剣呑な空気に心の中で嘆息をついていた。
☆☆☆
(...はぁーーー。)
便座の蓋に座りながら碧は深い溜息をついていた。
碧は貴斗対策のため授業が終わり休み時間になる度に急いでトイレへと駆け込んでいた。何度か話しかけられそうなところで教室から抜け出し今のところなんとかうまく撒いていた。
腕時計を見るとそろそろ次の授業が始まる時間が迫ってきた。碧は便座から立ち上がると同じタイミングでスマホにメッセージが届き見ると、今は別クラスの友人からだった。
“天気も良いし久しぶりに屋上でお昼食べよー(*^^*)”
普段屋上は鍵が掛けてあり立ち入り禁止になっている。が、何故か友人は卒業生からスペアキーをもらったらしくたまにこっそりと仲の良いメンバーでお昼を食べていた。
「“了解”っと」
碧は直ぐに送り急いで教室へと戻った。
4時間目が終わり碧は約束の屋上へと向かうためいそいそと準備をしていた。貴斗のグループは既に教室には居らず碧は戻ってこないうちにとランチバッグとスマホを持って屋上へと向かった。
屋上へと続く階段は普段使われていないこともあって少し埃っぽく薄暗い。ドアの前には誰もいなかったため、先に外にいるのかと思いドアノブを回そうと手を伸ばす。
その時グッと得体の知れない何かに後ろから抱きしめられる形で碧の口元を手で塞がれた。あまりの衝撃で頭が真っ白になり恐怖で声も出せないでいると耳元で聞き覚えのある声と嗅いだことのある香水が鼻腔を擽った。
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