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放課後の時間が刻々と迫り碧は授業に身が入らず落ち着かない感情を何度も深呼吸して平常心を保とうとした。昼食から昼休み終了まで友人のnari話は怒涛のように繰り広げられたが上の空の碧にめちゃくちゃキレ周りの友人たちはそれを眺め笑っていた。そんな状況下でも徳田のメッセージが脳内を占めていた。
「終わったーっ、今日カラオケ行こうぜー」
本日最後の授業が終わるチャイムが鳴り、教室内で騒ぐ男子生徒の声にハッとし気づくと今の授業の内容のノートはほぼ真っ白で書かれていなかった。
(ヤバいな...今度誰かに写させてもらわなきゃ)
深い溜息を付きながら帰る準備をしていると誰かに見られている視線に気づき目線をその方向へと向けると貴斗が此方を見据え歩み寄ろうとしていたが、亜梨咲が貴斗の腕を掴み歩みを無理やり阻止した。
「今日はみんなで亜梨咲の誕生日祝うって約束忘れてないよね?」
「いや...」
「この前貴斗いいよって言ったし!みんな玄関で待ってるから早く行こっ」
そう言って亜梨咲は気も漫ろな貴斗を引っ張り教室内から出る時、何か言いたげな視線を向ける貴斗と対照的に亜梨咲からは嘲笑うかのような表情を向けられ碧は思わず視線を逸らした。二人が教室からいなくなり他のクラスメイトたちもちらちらと散るように教室から出て行き教室内は疎らになっていった。
碧は徳田からのメッセージには何も返さなかったが迷うことなく記された場所へと向かった。図書室に着きドアの前で一度深呼吸をしドアを開けた。室内には今日の図書当番の生徒がカウンターに一人、あとは勉強する生徒や読書する生徒などがちらほら見受けられた。
(放課後とは書いてあったけど時間は書いてなかったもんな)
碧はまだ徳田が来てないことがわかると人気のない席へと座り自習しながら待つことにした。
☆☆☆
「あのー、そろそろ鍵閉めたいんですけど」
当番の図書委員が申し訳なさそうに碧の元へとやって来た。気が付くと先ほど残っていた生徒はほぼいなくなり今いる生徒たちも帰りの支度をし今まさに出て行こうとしていた。
「私も図書委員だし鍵は私が返すんで帰ってもいいですよ」
「じゃあ、お願いします」
図書委員から図書室の鍵を受け取り碧はもうしばらく待つことにした。
(あれから結構時間経ってるし連絡してみてまだ来れなさそうなら別の日にしてもらった方がいいかもね)
窓から見える空は既に日が暮れ空は赤黒く染まっていた。
碧は自身のスマホを出し徳田にSMSを送るため内容を入力していると勢いよく“ガラガラ”とドアが開けられる音が聞こえその音に思わず身体をビクつかせた。
「ごめん、呼び出しておいて遅くなっちゃって。先生に頼まれごとして連絡も出来なかった」
急いで走ってきたのが分かるほど息を切らし肩を揺らす徳田が入って来た。
「もう、帰っちゃってるかと思った」
「あー、ほんとは今帰ろうかなって思ってたとこなんだ」
「そっか、ほんとごめんね」
いつも見覚えのある黒髪の厚ぼったい前髪と黒縁眼鏡に碧は何故かホッとしていたが、徳田が周りに誰もいないことに気づくと眼鏡を外し手櫛で前髪を掻き上げた。
「こっちの方では二回目だね」
婀娜めくような表情で意味深な笑みを碧に向け、碧の席へと近づいた。
「まさか...ほんとにあの時の...」
先ほどから友人に何度も見せられた記事からまるで飛び出してきたかのような目の前の人物に碧は唾を呑み込み喉が動く。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ、この前みたいなことはしないから...こっちの方が話しやすいかな?」
徳田は冗談ぽく笑いまた眼鏡をかけ手で前髪をバサバサと戻し普段見慣れた彼に戻ると碧の緊張も少し解れた。
「本当にnariくんが徳田くんなんだね、双子の兄弟とかじゃなくて」
「はは、違うよ正真正銘の同一人物だよ」
碧が座っていた長テーブルの向かいに徳田も席に着き、ふーっと息を吐いた。
「何から話そうかな、とりあえずモデルを始めたきっかけからにしようか...よくある話なんだけど中学の時今の事務所の社長にスカウトされてね、でも俺目立つのとか苦手だし最初は何度も断ってたんだけど『試しにやってみないか、無理ならいつでも辞めてもらって構わないから』って言われて。試し撮りで自分じゃない自分をレンズ越しから目の当たりした時、普段なら絶対出さない表情したりポーズしたり全く恥ずかしいとは思わなかったんだ、むしろ楽しくて仕方なかった。でもだからって“徳田明希良”としての生活を変えるつもりはないことは伝えてたからあっちの世界の時はnariとして、現実世界では徳田明希良としてやればいいって言ってもらえて今に至るって感じかな。前髪で目元隠してるおかげで誰にも気づかれることもなく今までこれたんだけどまさかあの日桐野さんに現場で会うなんて思いもしなかったから驚いたよ」
片手で頬杖を付きながら気恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「ちなみにnariは母方の祖母の旧姓が“成川”だからそっちをとったんだ。akiとかは安直かなって思って、それにもしバレたら一発でわかっちゃうから念には念をってね」
「そうなんだ...それなりに徳田くんとは話してたけど全く気が付かなかったよ」
「実はこの仕事始めた時にね、桐野さんのお姉さん...紅音さんから桐野さんの話聞いてたんだ。まだ入学前だったから高校が一緒ってことと名前と性格とかね、だからって別に仲良くなるつもりもなかったんだけどまさかクラスが同じで委員も一緒になるとは思わなくてね。紅音さんから“碧はこんな性格でこんなにかわいい妹でー”ってさんざん聞かされてたから一方的に知り合いみたいな感覚になっちゃってつい...」
「...紅姉」
碧は日頃の“妹萌”を仕事先の人間にまで言い触らされているとは思わず恥ずかしさで頭を抱え深い溜息をついた。
「なんかほんとごめんなさい...もうあの人の言ってることは聞き流してください...あとできれば聞いたことキレイさっぱり忘れてください」
「いや、実際ちゃんと話したら紅音さんの言った通りの子だなって思ったよ。こんな見た目なのに普通に接してくれたし話していても変な気遣わなくてリラックスできた」
前髪と眼鏡であまり表情は見えないが、碧は徳田の優しそうな笑みが見えたような気がしてつい口元が綻んだ。
「それとね、できればこのことは桐野さんと俺だけの秘密にして欲しいんだ、いつかはバレるかもしれないけど今この二つの生活は気持ちのガス抜きが出来てバランスが取れてるんだ」
「もちろん、誰にも言わない」
碧は口をチャックで閉じるようなジェスチャーをしそれを見た徳田は優しい表情で口角を伸ばした。空気が和み、碧は一番聞きたかった肝心の内容をぶつけるべく一度深呼吸をした。
「...あのね聞きたいんだけどこの間の撮影の時、」
碧が躊躇いながらも言いかけた時、碧のスマホから着信音が室内に響き渡り、光るディスプレイには貴斗の名前が表示されていた。碧は鳴り続ける着信に躊躇っていると向かいに座る徳田から「俺は構わないから出たら?」と促されスライドしようと指をスマホにつける寸前で音は消え代わりに不在着信を知らせる表示が現れた。碧は安堵しながらも取らなかったことで後から何をされるかと思うと気が重かった。
「大丈夫?...今の着信もしかして...阿部貴斗くん?」
「あー.....うん」
歯切れが悪い返事をしながら早くどこかでかけ直さなくてはと思い、机に広げられたノートや問題集などを鞄に片付けた。
「外ももう暗くなってきたしそろそろ帰ろうか?それに図書室の鍵預かってるから職員室にも寄らなきゃいけないし」
碧ははぐらかすように笑みを向け徳田に大袈裟な仕草で鍵を見せた。
一番聞きたかった“何故あの時あんなことをしたのか?”を聞き出すタイミングを逃してしまったのは正直心残りではあったが時間も時間だし貴斗のことも気になり碧はまた改めて聞くことにした。
「俺は職員室行って鍵返してくるから桐野さんは先に...って怖いの?」
「うー、うん...小さい頃からお化け屋敷とかホラー系が苦手で」
二人は室内の電気を消し廊下へ出ると廊下は薄暗く奥を見ると闇が広がり、それを見た碧はゾクっと身震いし無意識に徳田の制服の裾を掴んでいた。恥ずかしそうに話す碧にプッと噴き出し「じゃあ、一緒に職員室行こっか」と言ってくれたため二人で返しに行き生徒玄関へと向かった。
「日が暮れるの早くなったね、そういえば今日は仕事ないんだね」
「うん、一応学業優先にはしてくれてるからね、まぁそうは言ってもスケジュール的には難しいこともあるんだけどね」
「徳田くんすごい人気あるもんね...って失礼ながらそれを最近知ったんですが」
「はは、それはそれで良かったよ」
楽し気に他愛もない会話をしながら生徒玄関に目を向けると誰かが下駄箱に寄り掛かかる姿が見えた。暗がりということもあり男子生徒とは確認できたが顔まではわからず目を凝らしていると徳田が歩みを止めた。
「徳田...くん?」
歩みを止めた徳田の顔を見上げると前から足音がゆっくりと此方に近づくのが聞こえ同時に碧の肌はざわざわと逆立つような感覚に襲われた。
「玄関見たら靴あったし吃驚させようと思ったけど...俺お邪魔だったみたいだね、電話かけても繋がらないわけだ...ねぇー二人で何してたの?」
にこやかに話す貴斗だが殺伐とした空気が犇々と伝わり碧は貴斗の目を見ることができず俯き剣呑な表情を浮かべた。
「桐野さんと一緒にいることをなんで阿部にいちいち言わなきゃいけないの?」
「あっ?」
「ちょっと二人ともそんな喧嘩腰にならないでよ...別に何もないしちょっと話してただけだし」
表情を見せず冷静な口調で話す徳田に碧は慌てて二人を制止し苛立ちを隠せず貴斗は舌打ちをする。
「桐野さん、本当は送るつもりだったけどそれしたら阿部が停学になることになるかもしれないから今日は俺このまま帰るよ、ごめんね」
「あっ、ううん、こっちこそごめんね」
徳田は碧に柔らかな笑みを向け数メートル前、正面に立つ貴斗に一歩一歩近づきあと数歩の距離ですれ違うところで徳田は一度立ち止まる。「あー、そうそう」と碧の方へ首だけ横に向け話し出す。
「...そうだ、桐野さんこの間のここ更に濃くさせちゃったから消えるまで時間かかっちゃうね、ごめんね」
徳田は人差し指を自身の首元へ強調するようにトントンと当て放心状態で立ち尽くす貴斗の横を通り過ぎる。
「彼女を困らせるようなことするからだよ」
過ぎざま髪をかき上げ冷ややかな視線と共に徳田は小さく呟くような音量の言葉を投げつけた。貴斗には大音量で漏れ出るほどに耳から脳内に突き刺さるほどに響いた。
「終わったーっ、今日カラオケ行こうぜー」
本日最後の授業が終わるチャイムが鳴り、教室内で騒ぐ男子生徒の声にハッとし気づくと今の授業の内容のノートはほぼ真っ白で書かれていなかった。
(ヤバいな...今度誰かに写させてもらわなきゃ)
深い溜息を付きながら帰る準備をしていると誰かに見られている視線に気づき目線をその方向へと向けると貴斗が此方を見据え歩み寄ろうとしていたが、亜梨咲が貴斗の腕を掴み歩みを無理やり阻止した。
「今日はみんなで亜梨咲の誕生日祝うって約束忘れてないよね?」
「いや...」
「この前貴斗いいよって言ったし!みんな玄関で待ってるから早く行こっ」
そう言って亜梨咲は気も漫ろな貴斗を引っ張り教室内から出る時、何か言いたげな視線を向ける貴斗と対照的に亜梨咲からは嘲笑うかのような表情を向けられ碧は思わず視線を逸らした。二人が教室からいなくなり他のクラスメイトたちもちらちらと散るように教室から出て行き教室内は疎らになっていった。
碧は徳田からのメッセージには何も返さなかったが迷うことなく記された場所へと向かった。図書室に着きドアの前で一度深呼吸をしドアを開けた。室内には今日の図書当番の生徒がカウンターに一人、あとは勉強する生徒や読書する生徒などがちらほら見受けられた。
(放課後とは書いてあったけど時間は書いてなかったもんな)
碧はまだ徳田が来てないことがわかると人気のない席へと座り自習しながら待つことにした。
☆☆☆
「あのー、そろそろ鍵閉めたいんですけど」
当番の図書委員が申し訳なさそうに碧の元へとやって来た。気が付くと先ほど残っていた生徒はほぼいなくなり今いる生徒たちも帰りの支度をし今まさに出て行こうとしていた。
「私も図書委員だし鍵は私が返すんで帰ってもいいですよ」
「じゃあ、お願いします」
図書委員から図書室の鍵を受け取り碧はもうしばらく待つことにした。
(あれから結構時間経ってるし連絡してみてまだ来れなさそうなら別の日にしてもらった方がいいかもね)
窓から見える空は既に日が暮れ空は赤黒く染まっていた。
碧は自身のスマホを出し徳田にSMSを送るため内容を入力していると勢いよく“ガラガラ”とドアが開けられる音が聞こえその音に思わず身体をビクつかせた。
「ごめん、呼び出しておいて遅くなっちゃって。先生に頼まれごとして連絡も出来なかった」
急いで走ってきたのが分かるほど息を切らし肩を揺らす徳田が入って来た。
「もう、帰っちゃってるかと思った」
「あー、ほんとは今帰ろうかなって思ってたとこなんだ」
「そっか、ほんとごめんね」
いつも見覚えのある黒髪の厚ぼったい前髪と黒縁眼鏡に碧は何故かホッとしていたが、徳田が周りに誰もいないことに気づくと眼鏡を外し手櫛で前髪を掻き上げた。
「こっちの方では二回目だね」
婀娜めくような表情で意味深な笑みを碧に向け、碧の席へと近づいた。
「まさか...ほんとにあの時の...」
先ほどから友人に何度も見せられた記事からまるで飛び出してきたかのような目の前の人物に碧は唾を呑み込み喉が動く。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ、この前みたいなことはしないから...こっちの方が話しやすいかな?」
徳田は冗談ぽく笑いまた眼鏡をかけ手で前髪をバサバサと戻し普段見慣れた彼に戻ると碧の緊張も少し解れた。
「本当にnariくんが徳田くんなんだね、双子の兄弟とかじゃなくて」
「はは、違うよ正真正銘の同一人物だよ」
碧が座っていた長テーブルの向かいに徳田も席に着き、ふーっと息を吐いた。
「何から話そうかな、とりあえずモデルを始めたきっかけからにしようか...よくある話なんだけど中学の時今の事務所の社長にスカウトされてね、でも俺目立つのとか苦手だし最初は何度も断ってたんだけど『試しにやってみないか、無理ならいつでも辞めてもらって構わないから』って言われて。試し撮りで自分じゃない自分をレンズ越しから目の当たりした時、普段なら絶対出さない表情したりポーズしたり全く恥ずかしいとは思わなかったんだ、むしろ楽しくて仕方なかった。でもだからって“徳田明希良”としての生活を変えるつもりはないことは伝えてたからあっちの世界の時はnariとして、現実世界では徳田明希良としてやればいいって言ってもらえて今に至るって感じかな。前髪で目元隠してるおかげで誰にも気づかれることもなく今までこれたんだけどまさかあの日桐野さんに現場で会うなんて思いもしなかったから驚いたよ」
片手で頬杖を付きながら気恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「ちなみにnariは母方の祖母の旧姓が“成川”だからそっちをとったんだ。akiとかは安直かなって思って、それにもしバレたら一発でわかっちゃうから念には念をってね」
「そうなんだ...それなりに徳田くんとは話してたけど全く気が付かなかったよ」
「実はこの仕事始めた時にね、桐野さんのお姉さん...紅音さんから桐野さんの話聞いてたんだ。まだ入学前だったから高校が一緒ってことと名前と性格とかね、だからって別に仲良くなるつもりもなかったんだけどまさかクラスが同じで委員も一緒になるとは思わなくてね。紅音さんから“碧はこんな性格でこんなにかわいい妹でー”ってさんざん聞かされてたから一方的に知り合いみたいな感覚になっちゃってつい...」
「...紅姉」
碧は日頃の“妹萌”を仕事先の人間にまで言い触らされているとは思わず恥ずかしさで頭を抱え深い溜息をついた。
「なんかほんとごめんなさい...もうあの人の言ってることは聞き流してください...あとできれば聞いたことキレイさっぱり忘れてください」
「いや、実際ちゃんと話したら紅音さんの言った通りの子だなって思ったよ。こんな見た目なのに普通に接してくれたし話していても変な気遣わなくてリラックスできた」
前髪と眼鏡であまり表情は見えないが、碧は徳田の優しそうな笑みが見えたような気がしてつい口元が綻んだ。
「それとね、できればこのことは桐野さんと俺だけの秘密にして欲しいんだ、いつかはバレるかもしれないけど今この二つの生活は気持ちのガス抜きが出来てバランスが取れてるんだ」
「もちろん、誰にも言わない」
碧は口をチャックで閉じるようなジェスチャーをしそれを見た徳田は優しい表情で口角を伸ばした。空気が和み、碧は一番聞きたかった肝心の内容をぶつけるべく一度深呼吸をした。
「...あのね聞きたいんだけどこの間の撮影の時、」
碧が躊躇いながらも言いかけた時、碧のスマホから着信音が室内に響き渡り、光るディスプレイには貴斗の名前が表示されていた。碧は鳴り続ける着信に躊躇っていると向かいに座る徳田から「俺は構わないから出たら?」と促されスライドしようと指をスマホにつける寸前で音は消え代わりに不在着信を知らせる表示が現れた。碧は安堵しながらも取らなかったことで後から何をされるかと思うと気が重かった。
「大丈夫?...今の着信もしかして...阿部貴斗くん?」
「あー.....うん」
歯切れが悪い返事をしながら早くどこかでかけ直さなくてはと思い、机に広げられたノートや問題集などを鞄に片付けた。
「外ももう暗くなってきたしそろそろ帰ろうか?それに図書室の鍵預かってるから職員室にも寄らなきゃいけないし」
碧ははぐらかすように笑みを向け徳田に大袈裟な仕草で鍵を見せた。
一番聞きたかった“何故あの時あんなことをしたのか?”を聞き出すタイミングを逃してしまったのは正直心残りではあったが時間も時間だし貴斗のことも気になり碧はまた改めて聞くことにした。
「俺は職員室行って鍵返してくるから桐野さんは先に...って怖いの?」
「うー、うん...小さい頃からお化け屋敷とかホラー系が苦手で」
二人は室内の電気を消し廊下へ出ると廊下は薄暗く奥を見ると闇が広がり、それを見た碧はゾクっと身震いし無意識に徳田の制服の裾を掴んでいた。恥ずかしそうに話す碧にプッと噴き出し「じゃあ、一緒に職員室行こっか」と言ってくれたため二人で返しに行き生徒玄関へと向かった。
「日が暮れるの早くなったね、そういえば今日は仕事ないんだね」
「うん、一応学業優先にはしてくれてるからね、まぁそうは言ってもスケジュール的には難しいこともあるんだけどね」
「徳田くんすごい人気あるもんね...って失礼ながらそれを最近知ったんですが」
「はは、それはそれで良かったよ」
楽し気に他愛もない会話をしながら生徒玄関に目を向けると誰かが下駄箱に寄り掛かかる姿が見えた。暗がりということもあり男子生徒とは確認できたが顔まではわからず目を凝らしていると徳田が歩みを止めた。
「徳田...くん?」
歩みを止めた徳田の顔を見上げると前から足音がゆっくりと此方に近づくのが聞こえ同時に碧の肌はざわざわと逆立つような感覚に襲われた。
「玄関見たら靴あったし吃驚させようと思ったけど...俺お邪魔だったみたいだね、電話かけても繋がらないわけだ...ねぇー二人で何してたの?」
にこやかに話す貴斗だが殺伐とした空気が犇々と伝わり碧は貴斗の目を見ることができず俯き剣呑な表情を浮かべた。
「桐野さんと一緒にいることをなんで阿部にいちいち言わなきゃいけないの?」
「あっ?」
「ちょっと二人ともそんな喧嘩腰にならないでよ...別に何もないしちょっと話してただけだし」
表情を見せず冷静な口調で話す徳田に碧は慌てて二人を制止し苛立ちを隠せず貴斗は舌打ちをする。
「桐野さん、本当は送るつもりだったけどそれしたら阿部が停学になることになるかもしれないから今日は俺このまま帰るよ、ごめんね」
「あっ、ううん、こっちこそごめんね」
徳田は碧に柔らかな笑みを向け数メートル前、正面に立つ貴斗に一歩一歩近づきあと数歩の距離ですれ違うところで徳田は一度立ち止まる。「あー、そうそう」と碧の方へ首だけ横に向け話し出す。
「...そうだ、桐野さんこの間のここ更に濃くさせちゃったから消えるまで時間かかっちゃうね、ごめんね」
徳田は人差し指を自身の首元へ強調するようにトントンと当て放心状態で立ち尽くす貴斗の横を通り過ぎる。
「彼女を困らせるようなことするからだよ」
過ぎざま髪をかき上げ冷ややかな視線と共に徳田は小さく呟くような音量の言葉を投げつけた。貴斗には大音量で漏れ出るほどに耳から脳内に突き刺さるほどに響いた。
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