今日でお別れします

なかな悠桃

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「ん、...ちょっ、んっ、ねぇ...っん、んーーっ.....もうっ!!」

いつの間にか部屋の壁に追い詰められていた碧は抵抗すべく貴斗の胸元を強く押し距離をとる。やっとの事で喋れるようになった碧は自身の手の甲で濡れた口許を拭う。

「もうっ!唇おかしくなるっ!腫れちゃう!」

「だって.....」

頬を紅潮させながら碧は軽く貴斗を睨むが、当の本人は全く反省するどころか口を尖らせながら物足りなそうな表情をしていた。

「これでもかなり我慢してる方だから、まぁ片手じゃ色々厳しいし...それに碧のご両親との約束もあるから今はそれ以上出来ないし」

「当たり前でしょ!!」

「だってやっとだよ?!そりゃー今までだって何もしなかったわけじゃないけど、碧の気持ちが戻ってきてくれたって考えただけで」

そう言いながら碧に抱きつこうとした瞬間、碧は避けるようにするりとすり抜け難を逃れる。

「お父さんとの約束!これ以上変なことしたら今後一切手伝わないからね!」

碧はノートを広げていたテーブルに戻り写していない部分を黙々と書き写す。そんな碧を目の当たりにしながら貴斗は萎々とした表情で肩を落としていた。その姿に碧はペンを走らせていた手を止め恥ずかしさを押し殺しながら俯き言葉を洩らす。

「.....べ、別にくっつきたくないって言ってるわけじゃなくて.....今は状況が状況だから...その.....治ったら」

その瞬間、貴斗の表情はあからさまに上機嫌な様子になり碧は呆れ半分で感嘆を吐く。

「わかった、我慢する」

碧は完全に納得はしてないんだろうな、と思いながらも一応は理解を示してくれたことへ安堵した。
「そういえば...」、貴斗は思い出したかのように立ち上がり自身の机の引き出しから以前取り上げられた眼鏡を碧の前に置いた。

「ちょっとでもさ、碧の何かを手元に置いときたくてあの時つい...ね。でももう必要なくなったから返すよ」

「はは、まぁ伊達だからそんなに困りはしなかったんだけど。元々は貴斗に気づかれないようにかけてただけだし.....でももうそれも関係なくなったから掛けなくてもいっ「それはダメ」

碧は現在掛けていた眼鏡を外そうとすると遮るように貴斗からまさかの言葉が返ってきて碧はキョトンとした表情になっていた。貴斗は碧が今掛けている眼鏡を外し、自身が取り上げていた眼鏡へと付け替える。

「卒業するまではこのままの碧でいて。そうじゃないと本当の碧がバレて他の男に寄ってこられたら.....」

「いやいや、眼鏡外しただけでそんな変わるわけないでしょ」

そう軽く足らいながらも貴斗の表情は真剣だったためこれ以上反論することを諦め碧は小さく頷き中指でブリッジを押し上げた。碧はヨリを戻すことで一つどうしても気にかかることがありその内容を告げるため視線を貴斗に向けた。



「......貴斗、私からも一つお願いがあるんだけど...いいかな?」

「ん?」






――――――――――
「たーかとっ、はよっス.....ってお前なんか朝から機嫌悪くね?」

生徒玄関で碧が靴を履き替えていると後ろから男子生徒の声が聞こえ振り向くといつもつるんでいるチャラそうな友人が貴斗に絡んでいた。

「別にー、いつも通りだけどー」

「そうかぁ?おっ!桐野おはよー」

「.....おはよう」

碧はそそくさとその場から離れようとした時、男子生徒に声を掛けられ渋々振り向いた。そこには、眇めた視線をこちらへ送る貴斗と目が合ってしまい思わず逸らしてしまった。

おはよー、あれ?今日唇腫れてない?なんかいつもより赤いし腫れぼったいようなー...なんかすげーそそるわー、こんなの見たら俺我慢できなくてキスしたくなっちゃう♡ってかシちゃおうかな♡」

「なっ?!」

貴斗は微かに歪んだ笑みを浮かべ碧の傍まで行き顎を軽く上げさせられ指先で碧の唇に触れた。その行動のせいで周りにいた生徒たちの視線が一斉に二人に注がれる。あまりの唐突な行動に碧は身動き出来ず固まってしまった。

「バッ!貴斗お前朝から何やってんだよ!桐野ごめんなー、ったく、そういうことはノリが通じる相手にしろよな」

友人は碧から引き離すように貴斗を引っ張ろうとするがなかなかその場から動かず婀娜めく視線で見つめられ碧の鼓動が激しく全身を叩いた。

「ほら、もう行くぞ」

友人の言葉にハッと我に返り碧は貴斗から数歩後退り距離をとるとそのまま貴斗は引っ張られるように教室へと歩いて行った。その際チラッと碧に視線を向け不敵に笑みを浮かべ口元から少し舌を出し悪戯っ子のような表情を見せた。

(確信犯め...マスクでもしてくればよかった)

あからさまな態度をとられたせいでドッと疲れが表れ思わず溜息をつく。先ほどの光景を見ていた周りの女子生徒たちが碧を見ながらヒソヒソと話している視線に気が付き、居たたまれなくなった碧は急ぎ足で自身も教室へと向かった。
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