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放課後、碧は集合場所となる教室へ向かっていた。結局、貴斗は授業には出ず終礼時間にひょっこり現れたが話すタイミングもなくそのまま今に至る。
「では、今月の図書委員会ですが......」
教壇に司会進行を務める委員長が議題に沿って話し始めた。碧は貴斗のことが気にはなりメッセージを書き込むも何故か送信を躊躇っていた。
うわの空でいるといつの間にか委員会は終了し既に周りにいた生徒たちは教室から出て行っていなくなっていた。碧も慌てるように帰宅の準備をし椅子から立ち上がると目の前に一人の男子生徒が現れた。
「なんか久しぶりだね」
「徳田くん...」
相変わらず目元が隠れるくらいのヘアスタイルに黒縁メガネ、全く表情は見えないが唇は少し引き伸び口角が上がっていたのに気づき彼が微笑んでるんだと理解できた。
「今日は姫を守るナイト様はいないんだね」
「ナイト?......そういう冗談はやめて。徳田くんらしくないよ」
普段そんなことを言わない徳田に少し不快な表情を向けるが彼の表情がわからないためこれ以上どうしようもなく途中だった帰宅準備に取り掛かる。
「嫌な言い方だったね、ごめん。久々に学校来て桐野さんに会ったからつい嬉しくなって」
誰もいなくなった教室で碧しかいないことで気を大きくしたのか徳田は眼鏡を外し前髪を掻き上げる。その瞬間、大人びた目元が表れ色気が漂う視線で碧の顔をじっと見つめてきた。
「とっ、徳田くん流石にまずいんじゃない?!もし誰かに見られたら」
「そうだね、でも徳田明希良=nariとは思わないだろうから......それよりこの前、あのあと大丈夫だった?」
「あのあと...」
徳田の質問に初め理解できずきょとんとしていたが段々と記憶が蘇り碧はハッとした顔を向けた。
『あのあと大変だったんだからね!!』
と詰め寄りたかったが流石にそのあと貴斗に無理やりされそうになったとは言えずグッと我慢し言葉を呑み込んだ。
「.....なんであんなこと言ったの?」
「...んー、なんでだろ、友だちを取られそうになった嫉妬心かな...はは、答えになってないか」
軽く笑いながら話すも徳田の憂いを秘めた表情に碧は一瞬視線を離せずにいた。
「桐野さんを守りたかった、っていうと大袈裟に聞こえるかもしれないけど彼と関わりだしてから暗い顔してるの何度か見かけたから。ほら、僕なんかそんなに学校来てないのに気づくって相当でしょ?...だからあの時阿部を見たら苛立ちが爆発しちゃって、でも結果的に君を置いて帰ってしまったの後悔してる、ごめん」
先程のちゃかすような口調から一転し謝罪する徳田に碧はこれ以上攻めるような言い方をするのをやめた。
「徳田くんが冗談であんなことするとは思ってないけど今後はやめてね、私これでも徳田くんのこと尊敬してるしこれからも友だちでいたいから」
碧は優しい笑みを向け徳田もその表情を見ると小さく頷いた。
「じゃあ、そろそろ私帰るね」
「あ、もう少し時間もらえないかな?相談したい事があって」
鞄を肩に掛け教室を出よとした時、徳田に行動を阻まれ碧は不思議そうな顔をした。
「...実はね、今度ブライダルフェアがあってその中のショーに出演することになったんだけど桐野さんに相手役をお願いできないかなって」
「.............へっ?いや!いや!無理に決まってるでしょ!!何言ってんの?!」
「実は年齢別での衣装スタイルを発表することになってて僕が出るのは“20代前半の初々しい二人”ってのがコンセプトなんだけど...自然な表情とか仕草とかってやっぱリアリティあった方がゲストの人たちにも伝わるだろうなって思ったら桐野さんの顔が浮かんで」
「なんで私?!徳田くんの事務所のモデルさんだって同年代の子いっぱいいるでしょ?」
「んー、まぁそうなんだけど...今回のイベントは大手の美容関係やメディアがスポンサーとして入ってるから事務所としても力入れてるんだけど僕としては自然体でやりたいって伝えてて。だって結婚する相手に仕事の笑みを向けるのはなんか違うんじゃないかって。それにこの前の撮影、うちの社長にも耳に入ったらしくて高評価だったんだよ、“nariから素の表情を出せる彼女ならこちらとしてもお願いしたい”って言うくらい。だからあとは桐野さんの“イエス待ち”なんだけど」
全く予想しなかった徳田からの要望になかなか言葉の消化ができず徳田が話し終えた後もひたずら茫然としていた。
「桐野さん?」
nariの顔で覗き込まれたため碧は思わず驚倒し無意識に後退りしてしまった。
「で、でも私なんて...そんなの無理だよ。この前のだって半ば強制で姉に頼まれて仕方なくだったし...」
「...そうだよね、無理言ってごめん。結構大きな仕事で僕的にも今後の仕事のキャリアアップに繋がりそうだったから。それに前回の撮影で桐野さんとやってみて凄く楽しくてやりやすかったしスタッフ受けもほんと良かったから今回のイベントも出来れば一緒にって思ってたんだけど...今の話は忘れていいから。引き留めてごめん。気を付けて帰ってね」
徳田は少し悲しそうに微笑みながら小さく碧に手を振った。
「......どうしたの?」
なかなかその場を離れない碧に訝しげな表情で見つめると「プロじゃないんだから失敗しても責任取れないからね」諦め混じりの声色で拗ねたような口調を向けやむを得ず徳田の頼みを了承した。
「ありがとーっ!バイト代は弾むって言ってたしクリスマスも近いからいい小遣い稼ぎになるから」
普段見たことのない徳田の表情に小さく嘆息し呆れ笑いを浮かべる。頼まれると断れないこの性格に情けなさを感じつつも目の前で喜ぶ徳田の顔を見たら仕方ないなと思い腹を括る。ただ、碧の頭にはそれと同時にまた一つ悩みの種が生まれたことへの答えは見つけ出せずどうすればいいのか頭を悩ませた。
「では、今月の図書委員会ですが......」
教壇に司会進行を務める委員長が議題に沿って話し始めた。碧は貴斗のことが気にはなりメッセージを書き込むも何故か送信を躊躇っていた。
うわの空でいるといつの間にか委員会は終了し既に周りにいた生徒たちは教室から出て行っていなくなっていた。碧も慌てるように帰宅の準備をし椅子から立ち上がると目の前に一人の男子生徒が現れた。
「なんか久しぶりだね」
「徳田くん...」
相変わらず目元が隠れるくらいのヘアスタイルに黒縁メガネ、全く表情は見えないが唇は少し引き伸び口角が上がっていたのに気づき彼が微笑んでるんだと理解できた。
「今日は姫を守るナイト様はいないんだね」
「ナイト?......そういう冗談はやめて。徳田くんらしくないよ」
普段そんなことを言わない徳田に少し不快な表情を向けるが彼の表情がわからないためこれ以上どうしようもなく途中だった帰宅準備に取り掛かる。
「嫌な言い方だったね、ごめん。久々に学校来て桐野さんに会ったからつい嬉しくなって」
誰もいなくなった教室で碧しかいないことで気を大きくしたのか徳田は眼鏡を外し前髪を掻き上げる。その瞬間、大人びた目元が表れ色気が漂う視線で碧の顔をじっと見つめてきた。
「とっ、徳田くん流石にまずいんじゃない?!もし誰かに見られたら」
「そうだね、でも徳田明希良=nariとは思わないだろうから......それよりこの前、あのあと大丈夫だった?」
「あのあと...」
徳田の質問に初め理解できずきょとんとしていたが段々と記憶が蘇り碧はハッとした顔を向けた。
『あのあと大変だったんだからね!!』
と詰め寄りたかったが流石にそのあと貴斗に無理やりされそうになったとは言えずグッと我慢し言葉を呑み込んだ。
「.....なんであんなこと言ったの?」
「...んー、なんでだろ、友だちを取られそうになった嫉妬心かな...はは、答えになってないか」
軽く笑いながら話すも徳田の憂いを秘めた表情に碧は一瞬視線を離せずにいた。
「桐野さんを守りたかった、っていうと大袈裟に聞こえるかもしれないけど彼と関わりだしてから暗い顔してるの何度か見かけたから。ほら、僕なんかそんなに学校来てないのに気づくって相当でしょ?...だからあの時阿部を見たら苛立ちが爆発しちゃって、でも結果的に君を置いて帰ってしまったの後悔してる、ごめん」
先程のちゃかすような口調から一転し謝罪する徳田に碧はこれ以上攻めるような言い方をするのをやめた。
「徳田くんが冗談であんなことするとは思ってないけど今後はやめてね、私これでも徳田くんのこと尊敬してるしこれからも友だちでいたいから」
碧は優しい笑みを向け徳田もその表情を見ると小さく頷いた。
「じゃあ、そろそろ私帰るね」
「あ、もう少し時間もらえないかな?相談したい事があって」
鞄を肩に掛け教室を出よとした時、徳田に行動を阻まれ碧は不思議そうな顔をした。
「...実はね、今度ブライダルフェアがあってその中のショーに出演することになったんだけど桐野さんに相手役をお願いできないかなって」
「.............へっ?いや!いや!無理に決まってるでしょ!!何言ってんの?!」
「実は年齢別での衣装スタイルを発表することになってて僕が出るのは“20代前半の初々しい二人”ってのがコンセプトなんだけど...自然な表情とか仕草とかってやっぱリアリティあった方がゲストの人たちにも伝わるだろうなって思ったら桐野さんの顔が浮かんで」
「なんで私?!徳田くんの事務所のモデルさんだって同年代の子いっぱいいるでしょ?」
「んー、まぁそうなんだけど...今回のイベントは大手の美容関係やメディアがスポンサーとして入ってるから事務所としても力入れてるんだけど僕としては自然体でやりたいって伝えてて。だって結婚する相手に仕事の笑みを向けるのはなんか違うんじゃないかって。それにこの前の撮影、うちの社長にも耳に入ったらしくて高評価だったんだよ、“nariから素の表情を出せる彼女ならこちらとしてもお願いしたい”って言うくらい。だからあとは桐野さんの“イエス待ち”なんだけど」
全く予想しなかった徳田からの要望になかなか言葉の消化ができず徳田が話し終えた後もひたずら茫然としていた。
「桐野さん?」
nariの顔で覗き込まれたため碧は思わず驚倒し無意識に後退りしてしまった。
「で、でも私なんて...そんなの無理だよ。この前のだって半ば強制で姉に頼まれて仕方なくだったし...」
「...そうだよね、無理言ってごめん。結構大きな仕事で僕的にも今後の仕事のキャリアアップに繋がりそうだったから。それに前回の撮影で桐野さんとやってみて凄く楽しくてやりやすかったしスタッフ受けもほんと良かったから今回のイベントも出来れば一緒にって思ってたんだけど...今の話は忘れていいから。引き留めてごめん。気を付けて帰ってね」
徳田は少し悲しそうに微笑みながら小さく碧に手を振った。
「......どうしたの?」
なかなかその場を離れない碧に訝しげな表情で見つめると「プロじゃないんだから失敗しても責任取れないからね」諦め混じりの声色で拗ねたような口調を向けやむを得ず徳田の頼みを了承した。
「ありがとーっ!バイト代は弾むって言ってたしクリスマスも近いからいい小遣い稼ぎになるから」
普段見たことのない徳田の表情に小さく嘆息し呆れ笑いを浮かべる。頼まれると断れないこの性格に情けなさを感じつつも目の前で喜ぶ徳田の顔を見たら仕方ないなと思い腹を括る。ただ、碧の頭にはそれと同時にまた一つ悩みの種が生まれたことへの答えは見つけ出せずどうすればいいのか頭を悩ませた。
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