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週末、碧は徳田と共に徳田が所属するモデル事務所へとやって来た。受付の女性に小会議室に通され二人で待っていると見た目が派手な長身の女性とこれまた見映えする長身の男性一人が入って来た。
「お待たせしてしまってごめんなさいね、私ここの事務所社長をしてます織部真子です。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
碧は椅子から立ち上がり小さくお辞儀をした。真子は緊張気味の碧に座るよう告げ名刺を差し出す。
「お休みのとこわざわざありがとう、あと今回のイベント承諾してくれて感謝してるわ」
「いえ、私みたいなド素人お役に立てれるかわかりませんが徳...nariくんやスタッフの皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります」
「そんなに気張らなくていいからね、私たちはあなたのその自然体が気に入ったんだから...ってごめんなさいね、今から急ぎでオーディションの選考会議に出なきゃいけないから私はここで退出させてもらうわ、詳しい内容はここにいるnariのマネージャーの浪野から説明させるから。バタバタとごめんなさい、また時間のある時ゆっくりお話ししましょう、nariもまたね」
「はい、真子さん」
「お忙しいとこありがとうございました」
碧は再び頭を下げあっという間に社長との対面は終わり、碧は緊張が解けたからか小さく息を吐いた。実は、ここに向かう途中徳田から脅しのような内容を聞いていたためどんな人物が現れるのか畏怖していた。
『うちの社長さ、昔悪かったみたいで男相手に何十人と闘って負け知らずなんだって。なんでも小さい頃から武術という武術を習わされたらしくてさ、しかも口も決して良いわけじゃないから僕ら以上に社員たちが社長にビビってる(笑)普段はいい人なんだけど怒らすとヤバいしあとちゃんとした態度の人間じゃないと逆鱗に触れちゃう』
「ちょっと、話と全然違うじゃない!めちゃくちゃ美人だしすごく優しそうだったし!」
隣に座る徳田の裾を軽く引っ張り小声で碧は囁くと前に座る浪野が含み笑いをした。
「桐野さんがどう教えられたか大体想像つくけど聞いた内容合ってるよ、言い方は悪いがああいう人じゃないと女だてらに一代でうちの事務所を上場まで引っ張りあげれないよね。僕らはあの社長に絶対の信頼を持ってるからあの人の逆鱗に触れるってことは求められてるものを捧げられてない証拠だと思ってる」
「浪野さん、話だけ聞いてるとうちの社員Mばっかに聞こえるよ」
隣でくくっと笑いながら徳田は出されていたアイスティーを口に含んだ。
「ちなみに桐野さんから見てうちの社長何歳に見えた?」
「えっ?んーー...社長っていう位だからなー、でも30代後半かな?」
「ああ見えて50代だから」
徳田からのあまりの衝撃に声も出せずしまりの悪くなった口元を直すことなくそのままポカンとした表情でいると向かいに座る浪野が軽く咳ばらいをし、我に返った。
「まぁ、ここらでうちの社長の話は置いといて、改めまして僕はnariのチーフマネージャーをしてます浪野司です、ブライダルイベント出演ほんとありがとう。今日はまずうちの人間との顔合わせがメインで今後のスケジュールや打ち合わせはまた後日。ちなみに以前会ってるのは現場マネージャーの梶下で今回別の子について行ってるから今日はいないけど今後はそっちと接することが多いと思うからそのつもりでいてね。少しの期間だけどよろしくお願いします」
歳は30代前半、長身の爽やかな好青年といった第一印象の浪野は碧に優し気な声色で話し頭を下げる。
「わかりました、こちらこそよろしくお願いします」
その後は当日までの簡単なスケジュールの流れなどを説明され連絡先を交換し碧と徳田は事務所を後にした。
「今日はほんとありがとう」
「ううん、でも徳田くんの事務所の社長さんは美人だしマネージャーさんまでもイケメンで吃驚したよ、これで徳田くんもnariくんの格好だったら私“捕らわれた宇宙人”状態だったよ」
緊張感から一気に解放されたからか碧は自分でも変なテンションになっていることを気づきながらもふわふわとした気持ちで饒舌になっていた。
「イベントが近づくにつれて打ち合わせや衣装合わせで休みとか潰しちゃうし申し訳ないけどよろしくね」
「うん、よろしくお願いします」
徳田は落ち着いた様子で碧に手を差し伸べ碧もその手を握り返した。その瞬間、碧の脳裏に貴斗の顔が浮かび握った手をゆっくり離した。
「徳田くん、あのね、私...言わなきゃいけないことがあって」
「ん?」
思いつめた表情の碧を徳田は不思議そうに見つめた。碧は腹を括り、大きく深呼吸し徳田の顔を見上げた。
「実はね私、阿部くんとお付き合いすることになって...」
「そうなんだ...で、彼はこのことを知ってるの?」
淡々と話す徳田に碧は気まずそうに頭を横に振り溜息をついた。
「話すと徳田くんのことを言わなきゃいけなくなるしそれに徳田くんとはあんまり相性...良くなさそうだから言うと反対されるかなって思ったらなかなか...」
「んー...確かに彼、僕のこと嫌いっぽいから間違いなく反対するだろうね。でもこのこと内緒にしながら休みの日のデートとか何度も断ることになったら不振に思われないかな」
徳田の言葉に更に重い溜息を吐きしばし二人の間に沈黙が流れる。
「でも、どうして付き合うことにしたの?正直、桐野さん阿部のこと避けてるように見えたけど」
あー...と思いながらも碧は徳田に貴斗との過去の経緯を話した。
「なるほどね...彼、結構一途で真面目な人なんだね」
「いや多分、今まで振られたことないだろうからこんなモブ女にされたことで余計火が付いたんじゃないかな」
碧は空笑いを浮かべ徳田を見つめるが彼は何か考え事をしているのか視線が合わなかった。
「わかったよ、そこは僕がなんとかするから。そもそも巻き込んだのは僕だし桐野さんはいつも通りにしてくれればいいよ、あともし事前に阿部と会う日が分かれば連絡して教えて、もしかしたら予定ずらせることもあるだろうし」
不安げな表情の碧に対し、風が吹き目元の髪がふわっと上がり穏やかな笑みを向ける徳田は何かを決心し遠くを見据えた。
「お待たせしてしまってごめんなさいね、私ここの事務所社長をしてます織部真子です。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
碧は椅子から立ち上がり小さくお辞儀をした。真子は緊張気味の碧に座るよう告げ名刺を差し出す。
「お休みのとこわざわざありがとう、あと今回のイベント承諾してくれて感謝してるわ」
「いえ、私みたいなド素人お役に立てれるかわかりませんが徳...nariくんやスタッフの皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります」
「そんなに気張らなくていいからね、私たちはあなたのその自然体が気に入ったんだから...ってごめんなさいね、今から急ぎでオーディションの選考会議に出なきゃいけないから私はここで退出させてもらうわ、詳しい内容はここにいるnariのマネージャーの浪野から説明させるから。バタバタとごめんなさい、また時間のある時ゆっくりお話ししましょう、nariもまたね」
「はい、真子さん」
「お忙しいとこありがとうございました」
碧は再び頭を下げあっという間に社長との対面は終わり、碧は緊張が解けたからか小さく息を吐いた。実は、ここに向かう途中徳田から脅しのような内容を聞いていたためどんな人物が現れるのか畏怖していた。
『うちの社長さ、昔悪かったみたいで男相手に何十人と闘って負け知らずなんだって。なんでも小さい頃から武術という武術を習わされたらしくてさ、しかも口も決して良いわけじゃないから僕ら以上に社員たちが社長にビビってる(笑)普段はいい人なんだけど怒らすとヤバいしあとちゃんとした態度の人間じゃないと逆鱗に触れちゃう』
「ちょっと、話と全然違うじゃない!めちゃくちゃ美人だしすごく優しそうだったし!」
隣に座る徳田の裾を軽く引っ張り小声で碧は囁くと前に座る浪野が含み笑いをした。
「桐野さんがどう教えられたか大体想像つくけど聞いた内容合ってるよ、言い方は悪いがああいう人じゃないと女だてらに一代でうちの事務所を上場まで引っ張りあげれないよね。僕らはあの社長に絶対の信頼を持ってるからあの人の逆鱗に触れるってことは求められてるものを捧げられてない証拠だと思ってる」
「浪野さん、話だけ聞いてるとうちの社員Mばっかに聞こえるよ」
隣でくくっと笑いながら徳田は出されていたアイスティーを口に含んだ。
「ちなみに桐野さんから見てうちの社長何歳に見えた?」
「えっ?んーー...社長っていう位だからなー、でも30代後半かな?」
「ああ見えて50代だから」
徳田からのあまりの衝撃に声も出せずしまりの悪くなった口元を直すことなくそのままポカンとした表情でいると向かいに座る浪野が軽く咳ばらいをし、我に返った。
「まぁ、ここらでうちの社長の話は置いといて、改めまして僕はnariのチーフマネージャーをしてます浪野司です、ブライダルイベント出演ほんとありがとう。今日はまずうちの人間との顔合わせがメインで今後のスケジュールや打ち合わせはまた後日。ちなみに以前会ってるのは現場マネージャーの梶下で今回別の子について行ってるから今日はいないけど今後はそっちと接することが多いと思うからそのつもりでいてね。少しの期間だけどよろしくお願いします」
歳は30代前半、長身の爽やかな好青年といった第一印象の浪野は碧に優し気な声色で話し頭を下げる。
「わかりました、こちらこそよろしくお願いします」
その後は当日までの簡単なスケジュールの流れなどを説明され連絡先を交換し碧と徳田は事務所を後にした。
「今日はほんとありがとう」
「ううん、でも徳田くんの事務所の社長さんは美人だしマネージャーさんまでもイケメンで吃驚したよ、これで徳田くんもnariくんの格好だったら私“捕らわれた宇宙人”状態だったよ」
緊張感から一気に解放されたからか碧は自分でも変なテンションになっていることを気づきながらもふわふわとした気持ちで饒舌になっていた。
「イベントが近づくにつれて打ち合わせや衣装合わせで休みとか潰しちゃうし申し訳ないけどよろしくね」
「うん、よろしくお願いします」
徳田は落ち着いた様子で碧に手を差し伸べ碧もその手を握り返した。その瞬間、碧の脳裏に貴斗の顔が浮かび握った手をゆっくり離した。
「徳田くん、あのね、私...言わなきゃいけないことがあって」
「ん?」
思いつめた表情の碧を徳田は不思議そうに見つめた。碧は腹を括り、大きく深呼吸し徳田の顔を見上げた。
「実はね私、阿部くんとお付き合いすることになって...」
「そうなんだ...で、彼はこのことを知ってるの?」
淡々と話す徳田に碧は気まずそうに頭を横に振り溜息をついた。
「話すと徳田くんのことを言わなきゃいけなくなるしそれに徳田くんとはあんまり相性...良くなさそうだから言うと反対されるかなって思ったらなかなか...」
「んー...確かに彼、僕のこと嫌いっぽいから間違いなく反対するだろうね。でもこのこと内緒にしながら休みの日のデートとか何度も断ることになったら不振に思われないかな」
徳田の言葉に更に重い溜息を吐きしばし二人の間に沈黙が流れる。
「でも、どうして付き合うことにしたの?正直、桐野さん阿部のこと避けてるように見えたけど」
あー...と思いながらも碧は徳田に貴斗との過去の経緯を話した。
「なるほどね...彼、結構一途で真面目な人なんだね」
「いや多分、今まで振られたことないだろうからこんなモブ女にされたことで余計火が付いたんじゃないかな」
碧は空笑いを浮かべ徳田を見つめるが彼は何か考え事をしているのか視線が合わなかった。
「わかったよ、そこは僕がなんとかするから。そもそも巻き込んだのは僕だし桐野さんはいつも通りにしてくれればいいよ、あともし事前に阿部と会う日が分かれば連絡して教えて、もしかしたら予定ずらせることもあるだろうし」
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