今日でお別れします

なかな悠桃

文字の大きさ
48 / 68

44

しおりを挟む
ヘッドボードに置いてあったスマホから設定時刻になったことを示すアラーム音が鳴り響き、碧は寝惚け眼の状態で停止ボタンをタップした。

昨夜は貴斗に逢え、夢かと思うような素敵なイヴを過ごさせてもらった。今日も貴斗と一緒にクリスマスを過ごせることで碧は予想以上のアドレナリン分泌過多のせいでなかなか寝付けず、漸く眠りについたのは深夜3時を回った頃だった。

(昨日のフェアのようなヘアメイクは無理だけど少しでも隣に立って恥ずかしくない恰好にしなきゃ)

寝ぐせで爆発した髪を何とかするため碧は早めに朝食を食べ、終わった後すぐにシャワーを浴びる準備を始めた。


「自分じゃなかなか上手くできないか」

シャワーが終わり出掛ける準備に取り掛かりながら肩につくほどに伸びた髪を緩く纏め上げお団子ヘアにした。

「派手過ぎず地味過ぎず・・・」

全身鏡の前に立ち膝丈ほどのケーブルニットワンピースを着、全体のバランスを確認した。
碧は、ずっと閉まってあった箱から15歳の時初めてのデートで貴斗に贈られたピアスを付けた。
瞬間、初めて耳に付けた時の感覚が蘇り、何度も鏡の前で眺めてしまった。辛かった記憶は少しずつ薄れ、上書きされるように新たな想い出が刻まれていくことに碧は心なしか顔が綻んでいった。

碧は事前に準備していた貴斗へのクリスマスプレゼントを鞄に入れ、玄関へと向かった。


☆☆☆
待ち合わせの場所付近まで到着すると同年代の女の子たちがざわついている様子からすでに貴斗が到着しているのが姿を見ずとも碧には理解できた。

貴斗が待っているであろう場所へと足を進めると普段とは違い、前髪をふわっとセンターに分けにセットされていた。白のオックスシャツに黒のスキニーパンツ、ボリューム感のあるカーキ色のダウンジャケットを羽織った貴斗は遠目から見ても目立ち、まるで雑誌の撮影でも行われているかと錯覚する光景が広がり思わず見惚れてしまった。

周りの女の子たち同様、碧も茫然と立ち尽くしていると此方に気付いた貴斗が微笑みゆっくり向かって来た。

「おはよ、早かったね...ってか、可愛すぎて見惚れる」

頬を少し赤らめ恥ずかしかったのか、貴斗は自身の手の甲で口元を押さえ、それにつられ碧の頬も紅潮し心拍数が上昇していった。

「いやいや、貴斗の方が」
(なんでこんな照れるんだろ...)

碧は視線を逸らし無意識に団扇のように手で顔を扇いでいるとその手を取られ指を絡ますように貴斗と手を取られる。貴斗にまじまじと見つめられていると彼の口元から小さく「あ...」と呟く声が漏れた。

まだ持っててくれてたんだ。てっきりもう捨てたかと思った」

碧の耳朶についたクローバーのシルバーピアスを貴斗は指先でそっと触れ懐かしむような表情で見つめた。

「...捨てられないよ。初めてデートで貰った大切な想い出だから」

「そっか...実は俺もつけてきた。碧から初めて貰ったプレゼント」

そう言うと貴斗は橫髪を耳にかけると耳朶にフープピアスが飾られていた。

「久々にピアスコレ付けた...碧の前で彼氏として付けれる日が来てほんと嬉しい」

「そんな大袈裟な...」

貴斗は照れ笑いをする碧の顔を両手でそっと優しく包むと少し冷たい指先が両頬に伝わる。貴斗の顔が近づき、互いの額が優しく触れ合うと貴斗を纏う香水が碧の鼻腔を擽り外まで聞こえてしまうくらいの鼓動が胸から鳴り響く。

「た、た、貴斗っ、流石にこんなとこでの密着は...」

周りからの突き刺さる視線と彼から放たれる甘く孕んだ視線に慌てふためき、そんな碧の姿を見た貴斗は小さく噴き出し、そっと離れると再び手を繋ぎ歩き出した。周りの目を気にするよりも貴斗から受ける甘い攻撃のせいでいつ心臓が口から飛び出すのか危惧しながら碧は貴斗に手を引かれるまま彼に着いて行った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

処理中です...