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第二一八話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 〇八
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「……神よ、癒しの力を……」
「すごい、傷が……!」
ラッシュ司祭の手にほのかに温かく感じる光が灯ると、魔獣に引き裂かれた酷い傷が次第に塞がっていく……神の奇跡を目の当たりにした兵士は美しく微笑む司祭を見て顔を真っ赤にしながら何度も頭を下げる。
メネタトンは小さな街だが、女神を祀る教会は規模感から考えると不釣り合いなくらいに立派なものが建造されており、その理由の一つに郊外にある小さな湖には女神が降り立ったというある意味聖地のような伝説が残っているためだ。
いわば国教が定める聖地とも言える場所にあるメネタトン教会を取りまとめる司祭、ミルア・ラッシュ……旧姓はシンデレラというが、彼女が着任してからこれほどの危機に晒されたことは初めてだった。
「ミルア……大丈夫か?」
「あなた……私の護衛は良いですから、領主様を助けに行ってください」
メネタトンでミルア・ラッシュ司祭の夫として知られるリオン・ラッシュ……三〇代中盤に差し掛かった元冒険者として知られる彼は、国教に雇われる戦士としてこの街で司祭の警護を担当していた。
夫婦である彼らのことを気遣ったミルアの元指導司祭が取り計らってくれたためだが、数年ごとに任地を変えるミルアの護衛役としては破格に腕が立つことからも信頼され、また本人も敬虔な信徒であったことからも黙認されてきた現状がある。
国教の司祭は領主に対しても意見を述べる権限を持っており、ソイルワーク男爵はラッシュ司祭の助言をよく聞き、街に善政を引いていた。
「……君をここに置いてはいけないよ」
「まあ……昔みたいなセリフを言うのね、大丈夫よ……私は自分の身は自分で守れますし、それよりも前線ではリオンの剣が必要になると思いますから」
くすくすと笑うと、冒険者時代とあまり変わらない美しい笑顔を見せてリオンへと笑いかけるミルア……彼らは冒険者時代仲間と共に「青の隻狼」という銀級パーティを組んでいた。
様々な仕事をこなしていたがなかなか金級への昇格ができず、引退を目前に控えていた時期にある事件へと巻き込まれ、結果的に彼らは身の丈に合わない仕事を受けざるを得なかった。
そこで起きた出来事については彼らは基本的に他人に喋ったことはないが、少なくとも冒険者を引退するきっかけとなり、リオンとミルアは結婚して家庭を持つことになった。
「……でも、俺の仕事は君を守ることなんだぞ」
「今の私はメネタトン教会の司祭です、この街が危ないのは神の試練だと思っています、だから全力でこの街を守らねばいけないのです……戦士リオン、貴方の役目はなんですか?」
「国教の命に従い貴方を守ることです司祭」
「では私が戦士リオンに命じます……領主を守りなさい、それは神の意志と同義です」
その言葉を発した後、心配する夫を気遣うように優しく微笑むミルア……彼女の意思が変わらないと理解したリオンは軽くため息をついた後、彼女へと一度首を垂れる。
冒険者時代、ミルア・シンデレラという女性は強くそして意思が強固な人物だった……シンデレラ子爵家の令嬢でありながら出奔し冒険者となって各地を巡り、そしてリオンと出会い恋仲となった。
結婚の挨拶に行った二人にキレたシンデレラ子爵は剣を持って散々リオンを追い回した後、ミルアの鉄拳によって制裁されて渋々結婚を認めることになった。
だがその時の揉め事からミルアは司祭へと叙任された後、父親の圧力から逃れるように地方を転々とする教会司祭の道を歩んでいる。
「……わかった、でも絶対に無理するなよ?」
「大丈夫ですよ……私こう見えても少しは強いんですから」
「知っている……じゃあ行ってくる」
リオンと共に冒険の旅に出ていた頃にも何度も危険な目に遭っているが、ミルアは決して守られるだけのか弱い女性ではない。
はっきりとした物言いと、意思そして強い奇跡の力を持っているので、魔獣が相当に強力でなければ彼女でも対応できるだろう。
ミルアはすぐに運ばれてきた別の怪我人の診察を始め、彼女を一度見たリオンはすぐに前線に向かって走り出す……冒険者としての道が終わった後も彼は剣の腕を磨き続けている。
国教と契約をしてミルア専属の護衛戦士となってからも、その日課は変わっていない……昔受けた仕事で見た、あの時の小さな不死者が見せた流麗な剣技、それが頭の片隅に残って仕方がなかったからだ。
「ミルアを守ることと街を守ることは同義ではないのだがな、まあいいか」
「護衛戦士殿……! 参戦されるのですか?」
「ああ、司祭の許可を取った……俺も戦わせてくれ!」
風のように走るリオンの言葉にぱあっと顔が明るくなる若い兵士……彼が元々冒険者で危ない橋を何度も渡っていた、という話は彼らも知っており、何度か訓練にも付き合っているためリオンの腕前が本物であることを知っているからだ。
魔獣との戦いにも慣れている元冒険者の参戦は心強いのだろう、リオンの姿を見た兵士たちは歓声をあげて彼の到着を喜んでいる。
前線となっている正門付近では、凄まじい数の魔獣……ゴブリンやホブゴブリン、ついにオーガなども参戦し咆哮を上げながら前進してきている。
リオンは剣を引き抜くとそのまま魔獣の群れへと飛び込み、剣を振るう……彼の持つ偃月刀は湾曲した刀身を持つ切ることに特化した剣であり、美しい装飾が施された逸品だ。
「おおおっ!」
体を回転させるように敵を薙ぎ払っていくリオンを見て、兵士たちも続けとばかりに前へと出ていく……リオンの腕前は本物だった。
偃月刀を片手に、盾をうまく使って相手の攻撃を避け斬撃を繰り出し、距離をうまく取りながら相手をいなすように立ち回る。
リオンの参戦により前線であった正門付近の魔獣の活動が一気に押し返されていく……ただ絶対的に数が少ない守備隊側は男爵とリオンに匹敵する戦士は存在せず、兵士たちの中には怪我を負って後退するものや、残念ながら魔獣の餌食となっているものも現れ始めた。
「仲間と逸れるな! 押し出しすぎず後退しながら正門を守るんだ!」
「リオン殿! ありがたい!」
「男爵! 少し後退を……!」
リオンの言葉が終わるか終わらないかという最中、凄まじい殺気を感じたリオンは咄嗟に盾を構えるとそこに向かってどす黒く悪意に満ちた衝撃のようなものが叩きつけられる。
凄まじい衝撃に思わず呻き声を上げながらなんとか防ぎ切り、妙な不安を感じて盾の表面を見ると、わずかだがまるで石のように変色していることに気がついた。
その変化に思わず背筋が寒くなる……これは……! 彼が全身に感じる冷や汗の感触を確かめるまもなく、視界がふっと暗くなると空から凄まじい勢いで彼と男爵の元へと巨大な影が舞い降りる。
「コカトリス……っ!」
「ギョボアアアアアアアッ!」
雄鶏の胴体に毒蛇の尾を持つ魔獣コカトリス……凶暴さではドラゴンに匹敵するとまで言われる魔獣が、大きく羽を広げて憎しみに満ちた目でリオンと男爵を睨みつける。
体高は四メートルを超えており、かなり巨大な個体がその場に出現したことになる……この魔獣は獲物を石化させる強力な指向性のあるブレスを吐き出すことでも知られ、先ほどの一撃を盾で受けれたのは神の奇跡と言っても良い。
ミルアのおかげか……! とリオンは剣を振りかぶって一気にコカトリスとの距離を詰めるために走り出す……メネタトンには縁もゆかりもない二人だが、教会に赴任してからここでの生活は思っていたよりも心地よかった。
彼女がこの街を守るというのであれば、自分は全力で彼女のためにメネタトンを守ると誓う……それが愛する彼女のためになるのであれば。
「かかってこい化け物……ッ! 元「青の隻狼」の意地を見せてやる、コカトリスで引き下がっていられるか!」
「ケヒヒッ! ケヒヒヒッ! なかなか殺しきれないなあ……」
疫病の悪魔ブラドクススはニタニタといやらしい笑みを浮かべながら、魔獣の中に紛れてメネタトンの街を眺めている。
周りに控える魔獣は彼と目を合わそうとはしない……本能的に強者しかも圧倒的に捕食者としての能力に長けた悪魔を直視する勇気のある魔獣など存在しないからだ。
動物同士の喧嘩で視線を合わせた瞬間から始まることが往々にして存在するが、要はそれを本能的に避けている……そういうことなのだろう。
「……でも、このままじゃ目的に到達しないねえ……皆殺しっていうのに」
ブラドクススは考える……疫病の悪魔は元来思考が深い眷族ではなく、命令を曲解することも多々ある者たちである。
ただ個体によって多少なりとも差異は存在しており、ブラドクススは仕草や笑みなどは不快であっても、比較的思考能力に優れた個体として存在していた。
メネタトンという街を滅ぼすにあたって、人間を確実に殺すには何が必要か……病気、病原体などを撒き散らしじわじわと内部から削っていけば良い、という結論に到達する。
真横にいたタスクボアーの体にいきなり指を突き刺す……悲鳴ととともにそのタスクボアーは逃げ出そうとするが、ブラドクススの膂力には敵わない。
グフフと笑いながら疫病の悪魔は魔力を込めていく……それと同時にタスクボアーの体に醜い腫瘍のようなものが肉を突き破って増殖していく。
「ケヒヒッ! キミもこれで感染したよぉ? 死ぬと周囲に病原体を撒き散らす! 花火みたいだねえ、楽しいねえ……ケヒヒッ!」
腫瘍だらけになったタスクボアーはフラフラと前へと進んでいく……その体に膨らんだ腫瘍からはまるで空中へと何かを散布するかのように粉末状のキラキラと輝くものを定期的に吹き出していくのが見える。
周囲にいる魔獣にも次第に変化が訪れていく……本人たちは気がついていないだろうが、体のあちこちに醜くまるで生きているかのように蠢く腫瘍ができていくのだ。
じわじわと数を増やしていく感染した魔獣たちを見つめながら疫病の悪魔は満足そうな笑みを浮かべて、コミカルにくるくると回りながら、ぎこちない踊りを繰り返していく。
「ケヒヒッ! ケヒヒッ! みんなで病気になれば全滅だぁ……じわじわと死に至る病気に感染すれば、みんな神の御許に行けるねッ!」
「すごい、傷が……!」
ラッシュ司祭の手にほのかに温かく感じる光が灯ると、魔獣に引き裂かれた酷い傷が次第に塞がっていく……神の奇跡を目の当たりにした兵士は美しく微笑む司祭を見て顔を真っ赤にしながら何度も頭を下げる。
メネタトンは小さな街だが、女神を祀る教会は規模感から考えると不釣り合いなくらいに立派なものが建造されており、その理由の一つに郊外にある小さな湖には女神が降り立ったというある意味聖地のような伝説が残っているためだ。
いわば国教が定める聖地とも言える場所にあるメネタトン教会を取りまとめる司祭、ミルア・ラッシュ……旧姓はシンデレラというが、彼女が着任してからこれほどの危機に晒されたことは初めてだった。
「ミルア……大丈夫か?」
「あなた……私の護衛は良いですから、領主様を助けに行ってください」
メネタトンでミルア・ラッシュ司祭の夫として知られるリオン・ラッシュ……三〇代中盤に差し掛かった元冒険者として知られる彼は、国教に雇われる戦士としてこの街で司祭の警護を担当していた。
夫婦である彼らのことを気遣ったミルアの元指導司祭が取り計らってくれたためだが、数年ごとに任地を変えるミルアの護衛役としては破格に腕が立つことからも信頼され、また本人も敬虔な信徒であったことからも黙認されてきた現状がある。
国教の司祭は領主に対しても意見を述べる権限を持っており、ソイルワーク男爵はラッシュ司祭の助言をよく聞き、街に善政を引いていた。
「……君をここに置いてはいけないよ」
「まあ……昔みたいなセリフを言うのね、大丈夫よ……私は自分の身は自分で守れますし、それよりも前線ではリオンの剣が必要になると思いますから」
くすくすと笑うと、冒険者時代とあまり変わらない美しい笑顔を見せてリオンへと笑いかけるミルア……彼らは冒険者時代仲間と共に「青の隻狼」という銀級パーティを組んでいた。
様々な仕事をこなしていたがなかなか金級への昇格ができず、引退を目前に控えていた時期にある事件へと巻き込まれ、結果的に彼らは身の丈に合わない仕事を受けざるを得なかった。
そこで起きた出来事については彼らは基本的に他人に喋ったことはないが、少なくとも冒険者を引退するきっかけとなり、リオンとミルアは結婚して家庭を持つことになった。
「……でも、俺の仕事は君を守ることなんだぞ」
「今の私はメネタトン教会の司祭です、この街が危ないのは神の試練だと思っています、だから全力でこの街を守らねばいけないのです……戦士リオン、貴方の役目はなんですか?」
「国教の命に従い貴方を守ることです司祭」
「では私が戦士リオンに命じます……領主を守りなさい、それは神の意志と同義です」
その言葉を発した後、心配する夫を気遣うように優しく微笑むミルア……彼女の意思が変わらないと理解したリオンは軽くため息をついた後、彼女へと一度首を垂れる。
冒険者時代、ミルア・シンデレラという女性は強くそして意思が強固な人物だった……シンデレラ子爵家の令嬢でありながら出奔し冒険者となって各地を巡り、そしてリオンと出会い恋仲となった。
結婚の挨拶に行った二人にキレたシンデレラ子爵は剣を持って散々リオンを追い回した後、ミルアの鉄拳によって制裁されて渋々結婚を認めることになった。
だがその時の揉め事からミルアは司祭へと叙任された後、父親の圧力から逃れるように地方を転々とする教会司祭の道を歩んでいる。
「……わかった、でも絶対に無理するなよ?」
「大丈夫ですよ……私こう見えても少しは強いんですから」
「知っている……じゃあ行ってくる」
リオンと共に冒険の旅に出ていた頃にも何度も危険な目に遭っているが、ミルアは決して守られるだけのか弱い女性ではない。
はっきりとした物言いと、意思そして強い奇跡の力を持っているので、魔獣が相当に強力でなければ彼女でも対応できるだろう。
ミルアはすぐに運ばれてきた別の怪我人の診察を始め、彼女を一度見たリオンはすぐに前線に向かって走り出す……冒険者としての道が終わった後も彼は剣の腕を磨き続けている。
国教と契約をしてミルア専属の護衛戦士となってからも、その日課は変わっていない……昔受けた仕事で見た、あの時の小さな不死者が見せた流麗な剣技、それが頭の片隅に残って仕方がなかったからだ。
「ミルアを守ることと街を守ることは同義ではないのだがな、まあいいか」
「護衛戦士殿……! 参戦されるのですか?」
「ああ、司祭の許可を取った……俺も戦わせてくれ!」
風のように走るリオンの言葉にぱあっと顔が明るくなる若い兵士……彼が元々冒険者で危ない橋を何度も渡っていた、という話は彼らも知っており、何度か訓練にも付き合っているためリオンの腕前が本物であることを知っているからだ。
魔獣との戦いにも慣れている元冒険者の参戦は心強いのだろう、リオンの姿を見た兵士たちは歓声をあげて彼の到着を喜んでいる。
前線となっている正門付近では、凄まじい数の魔獣……ゴブリンやホブゴブリン、ついにオーガなども参戦し咆哮を上げながら前進してきている。
リオンは剣を引き抜くとそのまま魔獣の群れへと飛び込み、剣を振るう……彼の持つ偃月刀は湾曲した刀身を持つ切ることに特化した剣であり、美しい装飾が施された逸品だ。
「おおおっ!」
体を回転させるように敵を薙ぎ払っていくリオンを見て、兵士たちも続けとばかりに前へと出ていく……リオンの腕前は本物だった。
偃月刀を片手に、盾をうまく使って相手の攻撃を避け斬撃を繰り出し、距離をうまく取りながら相手をいなすように立ち回る。
リオンの参戦により前線であった正門付近の魔獣の活動が一気に押し返されていく……ただ絶対的に数が少ない守備隊側は男爵とリオンに匹敵する戦士は存在せず、兵士たちの中には怪我を負って後退するものや、残念ながら魔獣の餌食となっているものも現れ始めた。
「仲間と逸れるな! 押し出しすぎず後退しながら正門を守るんだ!」
「リオン殿! ありがたい!」
「男爵! 少し後退を……!」
リオンの言葉が終わるか終わらないかという最中、凄まじい殺気を感じたリオンは咄嗟に盾を構えるとそこに向かってどす黒く悪意に満ちた衝撃のようなものが叩きつけられる。
凄まじい衝撃に思わず呻き声を上げながらなんとか防ぎ切り、妙な不安を感じて盾の表面を見ると、わずかだがまるで石のように変色していることに気がついた。
その変化に思わず背筋が寒くなる……これは……! 彼が全身に感じる冷や汗の感触を確かめるまもなく、視界がふっと暗くなると空から凄まじい勢いで彼と男爵の元へと巨大な影が舞い降りる。
「コカトリス……っ!」
「ギョボアアアアアアアッ!」
雄鶏の胴体に毒蛇の尾を持つ魔獣コカトリス……凶暴さではドラゴンに匹敵するとまで言われる魔獣が、大きく羽を広げて憎しみに満ちた目でリオンと男爵を睨みつける。
体高は四メートルを超えており、かなり巨大な個体がその場に出現したことになる……この魔獣は獲物を石化させる強力な指向性のあるブレスを吐き出すことでも知られ、先ほどの一撃を盾で受けれたのは神の奇跡と言っても良い。
ミルアのおかげか……! とリオンは剣を振りかぶって一気にコカトリスとの距離を詰めるために走り出す……メネタトンには縁もゆかりもない二人だが、教会に赴任してからここでの生活は思っていたよりも心地よかった。
彼女がこの街を守るというのであれば、自分は全力で彼女のためにメネタトンを守ると誓う……それが愛する彼女のためになるのであれば。
「かかってこい化け物……ッ! 元「青の隻狼」の意地を見せてやる、コカトリスで引き下がっていられるか!」
「ケヒヒッ! ケヒヒヒッ! なかなか殺しきれないなあ……」
疫病の悪魔ブラドクススはニタニタといやらしい笑みを浮かべながら、魔獣の中に紛れてメネタトンの街を眺めている。
周りに控える魔獣は彼と目を合わそうとはしない……本能的に強者しかも圧倒的に捕食者としての能力に長けた悪魔を直視する勇気のある魔獣など存在しないからだ。
動物同士の喧嘩で視線を合わせた瞬間から始まることが往々にして存在するが、要はそれを本能的に避けている……そういうことなのだろう。
「……でも、このままじゃ目的に到達しないねえ……皆殺しっていうのに」
ブラドクススは考える……疫病の悪魔は元来思考が深い眷族ではなく、命令を曲解することも多々ある者たちである。
ただ個体によって多少なりとも差異は存在しており、ブラドクススは仕草や笑みなどは不快であっても、比較的思考能力に優れた個体として存在していた。
メネタトンという街を滅ぼすにあたって、人間を確実に殺すには何が必要か……病気、病原体などを撒き散らしじわじわと内部から削っていけば良い、という結論に到達する。
真横にいたタスクボアーの体にいきなり指を突き刺す……悲鳴ととともにそのタスクボアーは逃げ出そうとするが、ブラドクススの膂力には敵わない。
グフフと笑いながら疫病の悪魔は魔力を込めていく……それと同時にタスクボアーの体に醜い腫瘍のようなものが肉を突き破って増殖していく。
「ケヒヒッ! キミもこれで感染したよぉ? 死ぬと周囲に病原体を撒き散らす! 花火みたいだねえ、楽しいねえ……ケヒヒッ!」
腫瘍だらけになったタスクボアーはフラフラと前へと進んでいく……その体に膨らんだ腫瘍からはまるで空中へと何かを散布するかのように粉末状のキラキラと輝くものを定期的に吹き出していくのが見える。
周囲にいる魔獣にも次第に変化が訪れていく……本人たちは気がついていないだろうが、体のあちこちに醜くまるで生きているかのように蠢く腫瘍ができていくのだ。
じわじわと数を増やしていく感染した魔獣たちを見つめながら疫病の悪魔は満足そうな笑みを浮かべて、コミカルにくるくると回りながら、ぎこちない踊りを繰り返していく。
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