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第2章 環刻館の後継者(かんごくかんのこうけいしゃ)
第102話 大逆転
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「貴方の方からわざわざ来て頂けるとは! 私の実験に付き合ってくれて本当に有難う御座います」
赤い革製のピチッとした服を身に着けた男が慇懃無礼な態度でザッKeyに話しかけていた。
彼がかませ馬だろう。
「遊ぶ気はねぇ、さっさと終わらせるぞ」
ザッKeyはつまらなそうに言った。
俺達が階段を登りきると、目の前でザッKeyとかませ馬が対峙していた。
その向こうにはダラとフミナの姿があり、その隣には例の獣人が立っている。
『フィールドプロテクション!』
ミカはダラとフミナにフィールドプロテクションを展開する。
『エリアヒール!』
ミカの魔法でダラとフミナの傷が癒えてゆく。
『セイクリッド!』
本来なら優しい光に包まれ、敵の魔法防御力を低下させる魔法なのだが…
「うわぁ、目が!」
「くっ!」
「にゃぁ!」
優しい光どころか猛烈な目潰しだった。
かませ馬とザッKeyと獣人の女はその光りで目をやられた様だ。
俺とミカは、何となくそうなりそうだと予想してコートの袖で目を覆っていたが、何の予備知識も無ければ目をやられていただろう。
敵が怯んでいる間にミカの手をとり、ダラとフミナの元に駆け寄った。
愛用のナイフを抜き、ダラとフミナを拘束していたロープを切る。
ダラとフミナは丁度獣人の陰になっていたお陰で目をやられなかった様だ。
「馬鹿野郎! 無茶しやがって! 何で助けにきた!?」
「お姉ちゃん!」
「フミナ! 良かった、無事で…」
ミカとフミナは抱き合って再開を喜んだ。
「ダラ、話は後だ! ミカちゃん、例の物を!」
「はい!」
ミカはコウキチから預かって来た刀をダラに手渡した。
ダラの腕の動きがぎこちないのにミカも気付いた様だ。
「ダラ様、少し失礼します」
ミカはそう断ると、ダラの背後に周り込み、肩の尖ったところと肩甲骨の間に両手を添えて、『フッ』と気合を入れた。
ダラの肩から『バキッ』と盛大な音がする。
『ヒール!』
すかさずミカがヒールをかけた。
「痛って」
ダラは調子を確かめるように腕を回したが…
「治ってる…だと?」
「体の調子がよくないところで大怪我をしてヒールで治すとたまにそうなるんです」
ミカがダラに説明した。
「骨がズレたままくっついちゃうのよね。 それにしても颯竢様、滅茶苦茶強く無かったですか?」
フミナが俺の元に走り寄って来た。
「私の颯竢様は滅茶苦茶強いのよ」
ミカが誇らしげにフミナに言った。
「ダラ! 怪我はない? 戦えそうかい?」
「あぁ、どうやら本調子のようだ」
「それなら、コウキチさんから借りて来たその刀で復活の狼煙をあげて欲しいところだね」
「やっぱりお前は凄いな…」
ダラは少し肩を落として笑った。
「この刀は?」
ダラはミカから受け取った刀を見て尋ねてきた。
「抜いてみなよ、どんな刀なのかは知らないけど」
ダラは俺に勧められるままに刀を抜いた。
刃渡り80センチ位の刀身は美しく磨き上げられており、見る者を吸い込んでしまいそうだ。
「良く分からんが凄そうだな…」
ダラが呟く。
ようやく視力が回復した様子の獣人の女は俺達を睨みつけて来た。
「クッソー、お前たち! 必ずマサオの仇をとってやるからな!」
「マサオって?」
ダラに尋ねるが、知らないらしく、両手を広げて首を傾げた。
「お前たちにやられたオーガの事だ!」
「あぁ!」
獣人の女に言われて、俺は理解した。
あの時いなかったダラが知らないのも無理はない。
獣人の女の奥でザッKeyとかませ馬が睨み合っていた。
ザッKeyは剣士のようだが、かませ馬は魔法使いの様だ。
あれ?
この展開って…
強化されたセイクリッドを受けたザッKeyが滅茶苦茶不利な気が…
俺の予想通り、かませ馬の魔法一発でザッKeyは沈黙した。
味方を不利にしてしまった事に罪悪感を感じたが、今はそれどころでは無い。
「かまちゃん、コッチを手伝うッス」
「かまちゃんはやめて頂きましょうか」
そう言いながら、かませ馬は獣人の女と並んだ。
「貴方達に恨みはありませんが、私の雇い主が貴方達を欲しているのです、申し訳ありませんが全力で倒させて頂きますよ」
かませ馬はそう言うと、杖をこちらに向けた。
『ブラックソーン!』
かませ馬の持つ杖の先端に黒い球が発生し、そこから漆黒の棘が無数に生えた蔓が伸び、こちらに迫って来た。
ダラが蔓に剣を合わせて止めに入る。
蔓は当たった物に絡みつき、無数の棘で対象を傷付ける筈だった。
しかし、ダラの持つ刀に触れると蔓は霧散し、刀身に吸い込まれていった。
「何ですと?」
かませ馬は驚いて声を上げた。
「かまちゃん、何遊んでるッスか!? 早くやっつけちゃって!」
獣人の女は癇癪を起して叫んだ。
「いえ、遊んでいる訳では… と言うか、タマモも少しは働いて頂けないものでしょうか?」
「ウチはガヤだから良いんッスよ!」
二人は言い合いをしてはいるが、隙は無かった。
「やれやれ… それにしてもその剣、魔法を吸収するのでしょうか?」
「いや… あぁ! その様だな!」
ダラは自信なさそうに答えた。
「私が何故『神竜使い』と呼ばれるかご覧に入れましょう」
かませ馬はそう言うと、杖を頭上に掲げて叫んだ。
「いでよ! シェンロン!」
「ドラゴンボール!?」
かませ馬の発言に俺は思わずツッコミを入れていた。
かませ馬の召喚に応えて、彼の背後の魔法陣から出て来るのは、当然緑色の蛇の様なドラゴンだと想像していた。
しかし実際に出て来たのは、全身が灰色で背中に蝙蝠の様な羽根の生えた、ティラノサウルス型のドラゴンだった。
「素晴らしい造形美、圧倒的なパワー、これぞシェンロンだとは思いませんか?」
おもわねーよ、何がシェンロンだ、さっきの俺の言葉返せよ…
俺がブツブツと文句を言っていると、シェンロンが口を開き口の中に円状に連なる白く輝く文字列を発生させた。
文字はグルグルと回転し、輝きを増して行く。
「マズイな、竜語魔法(ドラゴンロアー)だ」
ダラが刀を構えて言った。
「マズイの?」
フミナがダラに尋ねる。
「あの円一周に書かれた竜語で『魔法術式』は完成しているんだが、あれが一回転すると一回唱えたのと同じ効果があると聞いた事がある」
ダラに言われてシェンロンの口の中をみると、魔法陣が高速回転しているのが見えた。
一体、何回重ね掛けしているんだ…
全身に鳥肌が立つのを感じた。
『フィールドマジックバリア!』
ミカが対魔法防御壁を展開する。
シェンロンの身長は7メートル程度、剣が届くならなんとかなる。
疾風!
一歩踏み込みシェンロンの首目掛けて飛び上がる。
突き出した草薙の剣がシェンロンの胸から首まで切り裂いた。
シェンロンの胸を蹴って剣を抜き、後方に飛び退き、後方に一回転して元いた場所に着地した。
「残念ですが、シェンロンに生物的な弱点はありませんよ」
傷が全く残っていないシェンロンを見てかませ馬は楽しそうに言った。
「それならば!」
旋風!
高速回転をしながらシェンロンの鼻先目掛けて飛び上がる。
今度はシェンロンの口の中の魔法陣を狙って草薙の剣を叩きつけた。
しかし、何でも切り裂く筈の草薙の剣は、甲高い音を立てて弾き返された。
反発する力に押し返され、俺の身体は地面に叩きつけられた。
シェンロンの口の中では魔法陣がまだ回転し、光り輝いている。
草薙の剣で自傷しなかったのは幸運だったが、地面に叩きつけられた時の衝撃で息が詰まり、思うように身体が動かない。
「颯竢様!」
ミカが俺に覆い被さるように抱きついてきた。
それじゃ立場が逆だ!
良く分からない力が湧き、ミカを押し返すとミカの上に覆い被さった。
シェンロンの口の中の光が大きく膨れ上がるのが見えた。
巨大な魔法が自分たちに向かって放たれたのだ。
光の中心にフミナの背中が見えた。
そしてフミナを背後に庇い、刀で魔法に斬りかかっているのは…
「ダラ!!!」
次の瞬間、凄まじい爆音が鳴り響いた。
誰もが悲鳴を上げて、何が何だか全く訳が分からない。
猛烈な勢いの爆風が身体の表面を叩きつける。
風が治まり、目を開けると、ダラが刀を振り下ろした体勢で立っていた。
背後に立つフミナも無事な様子だった。
「一体何が…」
かませ馬が呟いた。
膝から崩れ落ちるダラの肩をフミナが支える。
「凄く、カッコ良かったよ、ダラ様」
フミナがダラに抱きついて言った。
「馬鹿な… 私のシェンロンが…」
かませ馬は呆然として言った。
シェンロンは脚の一部を残して消滅し、謎の大爆発により、かませ馬とタマモも少なくないダメージを負っている様だ。
「今回は私の完敗、という事にしておいて差し上げましょう」
かませ馬はヨロヨロと立ち上がってそう言った。
別にして貰わなくても俺達の完勝だよ…
「くそー、お前たち、覚えておくッスよ! 必ず仇をとっちゃるッス」
二人はそう言い残して階段の陰に消えて行った。
ミカが俺の下から這い出すと、まだ足元がふらつく俺の手を取り立たせてくれた。
強めの風が、30メートル下の街を見下ろす俺達のコートをはためかせる。
ダラとフミナも隣に立つと
「一時はどうなるかと思ったけど何とかなったね」
フミナは大きく伸びをして言った。
「それにしても一体どうなったの?」
爆発の瞬間、俺は目を閉じていた為、何が起きたのか良く分からなかった。
「俺も良く分からなかったが、剣が吸収した魔法を跳ね返したような感じだったな」
ダラも無意識だったらしい。
「気が付いたらドラゴンが『ドカン』だ」
つまりシェンロンは自分の魔法で倒されたという事か…
「それより、貴族達が冒険者達を引きつれてベルファム邸に向かったぞ?」
ダラが俺にそう言った。
「冒険者達の姿が見えないから、解雇したのかと思っていたよ」
こっちが陽動だったのだろうか?
「ベルファム卿は何故そこまで狙われてる?」
「分からん、何かの利権が絡んでいるのか… ただ、ベルファム卿は生かしておく必要があるようだったな」
子供たちはどうでも良いのか…
コモノの足の大怪我を思い出し、俺は唇を噛んだ。
「あ! ミドルヒール!」
ミカは思い出した様に回復魔法を使った。
そういえば、忘れていた。
ナンバー1の存在を。
「俺とした事が、不覚を取ったか…」
「あの、すみませんでした」
静かに呟くザッKeyにミカが頭を下げた。
「いや、回復、助かった、礼を言おう」
どうやらセイクリッドに関しては根に持っていない様だった。
「この礼はいつかさせて貰うとしよう」
もし根に持っているとしたら、なかなか怖い発言だった。
「次は貴族の館か…」
ザッKeyはそう呟き、斧を担ぐと立ち去ろうとした。
「何かあるのですか?」
「あぁ、お前たちは知らないのか、ギルドに雇われた冒険者達と、貴族達に雇われた冒険者達が戦争を始めるのを…」
ザッKeyは俺にそれだけ言うと
「あまり時間が無い、俺は行かせて貰うぞ」
そう言って階段を十段くらい飛ばして駆け下りて行った。
「颯竢が俺達を助けるために颯爽と現れた時、俺は自分の不甲斐なさに泣きたくなった」
ダラが突然話し始めた。
「かつては命知らずのダラと呼ばれたこの俺が、死ぬ事が怖かったんだ… 護るものがあるって事が、これほど怖い事だとは知らなかった」
なるほど。
ダラの言いたい事が分かった気がする。
「もしフミナちゃんを連れて、人の少ない所で静かに暮らすと言うなら祝福するよ?」
「いや、少し違うな… 逆かな? 今は昔より『生きてる』事を強く実感出来ている」
ダラは言葉を選びながらそう答えた。
「それは今までとは違う強さだと思う、この借りは返すぞ、颯竢!」
ダラの言葉にはもう、迷いは無かった。
「分かった! 行こう、相棒!」
俺とダラの右手のひらが打ち合わせる音が小気味よく鳴り響いた。
確かに、ドワーフ達の都を貴族達の野望の為に戦火に巻き込む訳にはいかない。
しかし、今の俺達にはそれより優先するべきことがあった。
コウキチとの約束もある。
何より、俺達自身が決めた事だった。
「ベルファム卿と、その家族を守る」
北風にコートをなびかせてそう言った。
「颯竢様も、イェーイ」
フミナが俺に手のひらを見せて寄って来た。
「イエーイ」
ミカも同じポーズで俺の前にやって来た。
「何やってるの?」
何となく分かっていたが、何となく二人に尋ねる。
「私達もハイタッチする」
フミナはキラキラした目で俺を見た。
ふと見ると、ダラがニヤニヤして俺達を眺めていた。
「それじゃ行くよ! 二人とも!」
ミカとフミナの寄せる手に手を打ち合わせる。
「イェーイ」
喜ぶ二人を見て、俺はしみじみと思った。
なんか俺達、シリアス似合わないな…
その時、
『ゴウウウウウウウウン』
街の方から激しい音が響いて来た。
俺達は無言で頷き合うと、壁の階段を駆け下りた。
空には黒い雲が広がり始めていた。
赤い革製のピチッとした服を身に着けた男が慇懃無礼な態度でザッKeyに話しかけていた。
彼がかませ馬だろう。
「遊ぶ気はねぇ、さっさと終わらせるぞ」
ザッKeyはつまらなそうに言った。
俺達が階段を登りきると、目の前でザッKeyとかませ馬が対峙していた。
その向こうにはダラとフミナの姿があり、その隣には例の獣人が立っている。
『フィールドプロテクション!』
ミカはダラとフミナにフィールドプロテクションを展開する。
『エリアヒール!』
ミカの魔法でダラとフミナの傷が癒えてゆく。
『セイクリッド!』
本来なら優しい光に包まれ、敵の魔法防御力を低下させる魔法なのだが…
「うわぁ、目が!」
「くっ!」
「にゃぁ!」
優しい光どころか猛烈な目潰しだった。
かませ馬とザッKeyと獣人の女はその光りで目をやられた様だ。
俺とミカは、何となくそうなりそうだと予想してコートの袖で目を覆っていたが、何の予備知識も無ければ目をやられていただろう。
敵が怯んでいる間にミカの手をとり、ダラとフミナの元に駆け寄った。
愛用のナイフを抜き、ダラとフミナを拘束していたロープを切る。
ダラとフミナは丁度獣人の陰になっていたお陰で目をやられなかった様だ。
「馬鹿野郎! 無茶しやがって! 何で助けにきた!?」
「お姉ちゃん!」
「フミナ! 良かった、無事で…」
ミカとフミナは抱き合って再開を喜んだ。
「ダラ、話は後だ! ミカちゃん、例の物を!」
「はい!」
ミカはコウキチから預かって来た刀をダラに手渡した。
ダラの腕の動きがぎこちないのにミカも気付いた様だ。
「ダラ様、少し失礼します」
ミカはそう断ると、ダラの背後に周り込み、肩の尖ったところと肩甲骨の間に両手を添えて、『フッ』と気合を入れた。
ダラの肩から『バキッ』と盛大な音がする。
『ヒール!』
すかさずミカがヒールをかけた。
「痛って」
ダラは調子を確かめるように腕を回したが…
「治ってる…だと?」
「体の調子がよくないところで大怪我をしてヒールで治すとたまにそうなるんです」
ミカがダラに説明した。
「骨がズレたままくっついちゃうのよね。 それにしても颯竢様、滅茶苦茶強く無かったですか?」
フミナが俺の元に走り寄って来た。
「私の颯竢様は滅茶苦茶強いのよ」
ミカが誇らしげにフミナに言った。
「ダラ! 怪我はない? 戦えそうかい?」
「あぁ、どうやら本調子のようだ」
「それなら、コウキチさんから借りて来たその刀で復活の狼煙をあげて欲しいところだね」
「やっぱりお前は凄いな…」
ダラは少し肩を落として笑った。
「この刀は?」
ダラはミカから受け取った刀を見て尋ねてきた。
「抜いてみなよ、どんな刀なのかは知らないけど」
ダラは俺に勧められるままに刀を抜いた。
刃渡り80センチ位の刀身は美しく磨き上げられており、見る者を吸い込んでしまいそうだ。
「良く分からんが凄そうだな…」
ダラが呟く。
ようやく視力が回復した様子の獣人の女は俺達を睨みつけて来た。
「クッソー、お前たち! 必ずマサオの仇をとってやるからな!」
「マサオって?」
ダラに尋ねるが、知らないらしく、両手を広げて首を傾げた。
「お前たちにやられたオーガの事だ!」
「あぁ!」
獣人の女に言われて、俺は理解した。
あの時いなかったダラが知らないのも無理はない。
獣人の女の奥でザッKeyとかませ馬が睨み合っていた。
ザッKeyは剣士のようだが、かませ馬は魔法使いの様だ。
あれ?
この展開って…
強化されたセイクリッドを受けたザッKeyが滅茶苦茶不利な気が…
俺の予想通り、かませ馬の魔法一発でザッKeyは沈黙した。
味方を不利にしてしまった事に罪悪感を感じたが、今はそれどころでは無い。
「かまちゃん、コッチを手伝うッス」
「かまちゃんはやめて頂きましょうか」
そう言いながら、かませ馬は獣人の女と並んだ。
「貴方達に恨みはありませんが、私の雇い主が貴方達を欲しているのです、申し訳ありませんが全力で倒させて頂きますよ」
かませ馬はそう言うと、杖をこちらに向けた。
『ブラックソーン!』
かませ馬の持つ杖の先端に黒い球が発生し、そこから漆黒の棘が無数に生えた蔓が伸び、こちらに迫って来た。
ダラが蔓に剣を合わせて止めに入る。
蔓は当たった物に絡みつき、無数の棘で対象を傷付ける筈だった。
しかし、ダラの持つ刀に触れると蔓は霧散し、刀身に吸い込まれていった。
「何ですと?」
かませ馬は驚いて声を上げた。
「かまちゃん、何遊んでるッスか!? 早くやっつけちゃって!」
獣人の女は癇癪を起して叫んだ。
「いえ、遊んでいる訳では… と言うか、タマモも少しは働いて頂けないものでしょうか?」
「ウチはガヤだから良いんッスよ!」
二人は言い合いをしてはいるが、隙は無かった。
「やれやれ… それにしてもその剣、魔法を吸収するのでしょうか?」
「いや… あぁ! その様だな!」
ダラは自信なさそうに答えた。
「私が何故『神竜使い』と呼ばれるかご覧に入れましょう」
かませ馬はそう言うと、杖を頭上に掲げて叫んだ。
「いでよ! シェンロン!」
「ドラゴンボール!?」
かませ馬の発言に俺は思わずツッコミを入れていた。
かませ馬の召喚に応えて、彼の背後の魔法陣から出て来るのは、当然緑色の蛇の様なドラゴンだと想像していた。
しかし実際に出て来たのは、全身が灰色で背中に蝙蝠の様な羽根の生えた、ティラノサウルス型のドラゴンだった。
「素晴らしい造形美、圧倒的なパワー、これぞシェンロンだとは思いませんか?」
おもわねーよ、何がシェンロンだ、さっきの俺の言葉返せよ…
俺がブツブツと文句を言っていると、シェンロンが口を開き口の中に円状に連なる白く輝く文字列を発生させた。
文字はグルグルと回転し、輝きを増して行く。
「マズイな、竜語魔法(ドラゴンロアー)だ」
ダラが刀を構えて言った。
「マズイの?」
フミナがダラに尋ねる。
「あの円一周に書かれた竜語で『魔法術式』は完成しているんだが、あれが一回転すると一回唱えたのと同じ効果があると聞いた事がある」
ダラに言われてシェンロンの口の中をみると、魔法陣が高速回転しているのが見えた。
一体、何回重ね掛けしているんだ…
全身に鳥肌が立つのを感じた。
『フィールドマジックバリア!』
ミカが対魔法防御壁を展開する。
シェンロンの身長は7メートル程度、剣が届くならなんとかなる。
疾風!
一歩踏み込みシェンロンの首目掛けて飛び上がる。
突き出した草薙の剣がシェンロンの胸から首まで切り裂いた。
シェンロンの胸を蹴って剣を抜き、後方に飛び退き、後方に一回転して元いた場所に着地した。
「残念ですが、シェンロンに生物的な弱点はありませんよ」
傷が全く残っていないシェンロンを見てかませ馬は楽しそうに言った。
「それならば!」
旋風!
高速回転をしながらシェンロンの鼻先目掛けて飛び上がる。
今度はシェンロンの口の中の魔法陣を狙って草薙の剣を叩きつけた。
しかし、何でも切り裂く筈の草薙の剣は、甲高い音を立てて弾き返された。
反発する力に押し返され、俺の身体は地面に叩きつけられた。
シェンロンの口の中では魔法陣がまだ回転し、光り輝いている。
草薙の剣で自傷しなかったのは幸運だったが、地面に叩きつけられた時の衝撃で息が詰まり、思うように身体が動かない。
「颯竢様!」
ミカが俺に覆い被さるように抱きついてきた。
それじゃ立場が逆だ!
良く分からない力が湧き、ミカを押し返すとミカの上に覆い被さった。
シェンロンの口の中の光が大きく膨れ上がるのが見えた。
巨大な魔法が自分たちに向かって放たれたのだ。
光の中心にフミナの背中が見えた。
そしてフミナを背後に庇い、刀で魔法に斬りかかっているのは…
「ダラ!!!」
次の瞬間、凄まじい爆音が鳴り響いた。
誰もが悲鳴を上げて、何が何だか全く訳が分からない。
猛烈な勢いの爆風が身体の表面を叩きつける。
風が治まり、目を開けると、ダラが刀を振り下ろした体勢で立っていた。
背後に立つフミナも無事な様子だった。
「一体何が…」
かませ馬が呟いた。
膝から崩れ落ちるダラの肩をフミナが支える。
「凄く、カッコ良かったよ、ダラ様」
フミナがダラに抱きついて言った。
「馬鹿な… 私のシェンロンが…」
かませ馬は呆然として言った。
シェンロンは脚の一部を残して消滅し、謎の大爆発により、かませ馬とタマモも少なくないダメージを負っている様だ。
「今回は私の完敗、という事にしておいて差し上げましょう」
かませ馬はヨロヨロと立ち上がってそう言った。
別にして貰わなくても俺達の完勝だよ…
「くそー、お前たち、覚えておくッスよ! 必ず仇をとっちゃるッス」
二人はそう言い残して階段の陰に消えて行った。
ミカが俺の下から這い出すと、まだ足元がふらつく俺の手を取り立たせてくれた。
強めの風が、30メートル下の街を見下ろす俺達のコートをはためかせる。
ダラとフミナも隣に立つと
「一時はどうなるかと思ったけど何とかなったね」
フミナは大きく伸びをして言った。
「それにしても一体どうなったの?」
爆発の瞬間、俺は目を閉じていた為、何が起きたのか良く分からなかった。
「俺も良く分からなかったが、剣が吸収した魔法を跳ね返したような感じだったな」
ダラも無意識だったらしい。
「気が付いたらドラゴンが『ドカン』だ」
つまりシェンロンは自分の魔法で倒されたという事か…
「それより、貴族達が冒険者達を引きつれてベルファム邸に向かったぞ?」
ダラが俺にそう言った。
「冒険者達の姿が見えないから、解雇したのかと思っていたよ」
こっちが陽動だったのだろうか?
「ベルファム卿は何故そこまで狙われてる?」
「分からん、何かの利権が絡んでいるのか… ただ、ベルファム卿は生かしておく必要があるようだったな」
子供たちはどうでも良いのか…
コモノの足の大怪我を思い出し、俺は唇を噛んだ。
「あ! ミドルヒール!」
ミカは思い出した様に回復魔法を使った。
そういえば、忘れていた。
ナンバー1の存在を。
「俺とした事が、不覚を取ったか…」
「あの、すみませんでした」
静かに呟くザッKeyにミカが頭を下げた。
「いや、回復、助かった、礼を言おう」
どうやらセイクリッドに関しては根に持っていない様だった。
「この礼はいつかさせて貰うとしよう」
もし根に持っているとしたら、なかなか怖い発言だった。
「次は貴族の館か…」
ザッKeyはそう呟き、斧を担ぐと立ち去ろうとした。
「何かあるのですか?」
「あぁ、お前たちは知らないのか、ギルドに雇われた冒険者達と、貴族達に雇われた冒険者達が戦争を始めるのを…」
ザッKeyは俺にそれだけ言うと
「あまり時間が無い、俺は行かせて貰うぞ」
そう言って階段を十段くらい飛ばして駆け下りて行った。
「颯竢が俺達を助けるために颯爽と現れた時、俺は自分の不甲斐なさに泣きたくなった」
ダラが突然話し始めた。
「かつては命知らずのダラと呼ばれたこの俺が、死ぬ事が怖かったんだ… 護るものがあるって事が、これほど怖い事だとは知らなかった」
なるほど。
ダラの言いたい事が分かった気がする。
「もしフミナちゃんを連れて、人の少ない所で静かに暮らすと言うなら祝福するよ?」
「いや、少し違うな… 逆かな? 今は昔より『生きてる』事を強く実感出来ている」
ダラは言葉を選びながらそう答えた。
「それは今までとは違う強さだと思う、この借りは返すぞ、颯竢!」
ダラの言葉にはもう、迷いは無かった。
「分かった! 行こう、相棒!」
俺とダラの右手のひらが打ち合わせる音が小気味よく鳴り響いた。
確かに、ドワーフ達の都を貴族達の野望の為に戦火に巻き込む訳にはいかない。
しかし、今の俺達にはそれより優先するべきことがあった。
コウキチとの約束もある。
何より、俺達自身が決めた事だった。
「ベルファム卿と、その家族を守る」
北風にコートをなびかせてそう言った。
「颯竢様も、イェーイ」
フミナが俺に手のひらを見せて寄って来た。
「イエーイ」
ミカも同じポーズで俺の前にやって来た。
「何やってるの?」
何となく分かっていたが、何となく二人に尋ねる。
「私達もハイタッチする」
フミナはキラキラした目で俺を見た。
ふと見ると、ダラがニヤニヤして俺達を眺めていた。
「それじゃ行くよ! 二人とも!」
ミカとフミナの寄せる手に手を打ち合わせる。
「イェーイ」
喜ぶ二人を見て、俺はしみじみと思った。
なんか俺達、シリアス似合わないな…
その時、
『ゴウウウウウウウウン』
街の方から激しい音が響いて来た。
俺達は無言で頷き合うと、壁の階段を駆け下りた。
空には黒い雲が広がり始めていた。
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ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
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勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
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主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
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最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
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『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
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そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
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スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
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しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
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※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
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2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
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過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
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世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
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