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スピリットを呼び出す
しおりを挟む「じゅ、獣神様よりも……っ!」
「わ、私達、何かリク様に失礼を働いていなかったでしょうか……申し訳ございません!」
「む、むぅ。我が国の英雄と言いましたが、獣神様と同等かそれ以上とネメアレーヴェ様が認められるとは……」
「父上、リク様を祀る祠を建て、全ての獣人は毎日リク様に祈りを捧げる事を義務付けるべきではないでしょうか?」
「いやいや待ってください! 俺はただの人間ですから! アマリーラさんも、祀るなんて言わないで、これまで通り……でいいのかな? ちょっとどころじゃなく大袈裟な気もするけど……とにかく、これまで通りで! アールラさんも、失礼な事はなかったですし、歓迎して下さったのは嬉しさしかなかったので! だから、顔を上げて椅子に座って下さい!」
ネメアレーヴェさんでもできない事を俺がやった、それを理解した獣人の方達が、近くで見て知っているはずのアマリーラさんやリネルトさんも含めて、全員椅子から転げ落ちるようにしながら俺へと平伏した。
あと、平伏しながらも変な事を頼もうとするのはやめてください、アマリーラさん………リネルトさんもその後ろでうんうんと頷いているし……。
さすがにやりすぎだし、獣王様も含めて平伏しているのは居心地が悪いからと、慌てて椅子に座りなおしてもらう。
「あははははは! まぁそういうわけでね、僕がリク君なんて呼ぶのもちょっと畏れ多いくらいなんだよ。獣人なら、僕の気持ちがわかるでしょ? 力の理だよ」
「は、はい……」
力の理、武力に限らずだけど、とにかく獣人にとって力を持っている事が優先される、というのはアマリーラさん達と接してきて、さらに獣王国に来て何度か見た。
けど、ネメアレーヴェさんもその力の理を重要視しているのか……。
むしろだからこそ、獣人がそうなっているわけで、始まりがネメアレーヴェさんなのかもしれないけども。
「もしかして、最初に俺を呼ぶときに言い直したのって……?」
「レオンハル達と同じように、僕もリク様って呼ぼうとしたんだ。だけどまぁ、あの場だったし後が大変になりそうだったからね。あとリク君を見ていて、そう呼ばれても喜ばないだろうって」
「そう、ですか。呼ばれなくてよかった……」
獣王様であるハルさんから既に様付けで呼ばれているのに、そのうえさらに獣神様からも様付けされたら、確かに大変な事になっていたかもしれない。
それこそ、アマリーラさんが提案したような祠を建てられて、祀られてもおかしくないかも。
「……リク君自身は知らないようだけど、僕がそう呼びそうになった理由は別にもあるんだけど……まぁこれは今は知らないままの方がいいんだろうね」
「え?」
「ううん、気にしないで」
気になる事を言われた気がしたけど、首を振るネメアレーヴェさんを見たら教えてくれなさそうだったので、気にしない事にする。
「それでえっと、スピリット達の話だね。まぁ、そのスピリット達は僕よりもよっぽど自然、世界の魔力に関して敏感なんだよ。そのスピリット達が危機感を訴えているんだから、マギシュヴァンピーレ、そしてそれを作る者達を許しちゃいけないってわけ」
「……な、成る程」
無理矢理話を戻したネメアレーヴェさん。
ハルさん達は深刻な表情で少しだけ考え、レオルさんやアールラさん、アマリーラさんもだけど、それぞれ顔を見合わせて頷く。
何か重要な事が今、決まったようだ。
「獣神様のお言葉、そして先程我々とリク様との会話でもそう決めておりましたが……会議での検討などの余地なく、アテトリア王国に協力し、帝国との戦争に動く事をお約束いたします」
……ネメアレーヴェさんの登場で、獣王国の協力が確実になったらしい。
無理強いするつもりはなかったのは、アテトリア王国からこちらに手助けをしに来る時に考えていたけど、来た甲斐があったという事だろうね。
「僕がわざわざ出てくる事もなかったかもしれないけど、獣人として、獣王国として今回の件は重大事だと受け止めて欲しかったからね。僕が出てくる事で、より深刻だと気付いたと思う」
マギシュヴァンピーレが量産されたら、世界に充満している自然の魔力総量がどんどん減ってしまう。
帝国がどこかで気づいて止めるかもしれないけど、それでも失われた魔力は戻ってこないし、もし続ければ魔力を持った全ての存在に影響があるとか。
マギシュヴァンピーレは醜悪だったけど、おかげでどれだけ深刻な事態なのか、というのはネメアレーヴェさんのおかげでよくわかった。
それは俺だけでなく、ハルさん達も同様だ……獣神様を祀っている獣人だから、もっと深刻に受け止めているかもしれないけど。
「それから、リク君」
「はい?」
「スピリット達がね、リク君に会いたいらしいんだ」
「そうなんですか? 俺の方も、スピリット達にはお礼を言いたかったので、会えるなら会いたいんですけど……今は呼び出せないので」
「そうみたいだね。僕から見ると、なんとなく理由がわかるよ。スピリットは誰かが呼び出さないといけないんだけど、中継というか代わりに僕が呼び出すよ。そうすれば会えるでしょ? ただリク君みたいに一度に複数を呼ぶ事はできないんだけど。だから、代表して一つだけね」
「わ、わかりました」
俺の代わりに、ネメアレーヴェさんがスピリットの誰かを呼び出してくれるようだ。
というか、ネメアレーヴェさんは俺が魔法を使えないとなんとなくわかっているらしい。
ユノやロジーナみたいに、人間の体というわけじゃないから俺の魂が傷ついているとか、そういうのが見えるのかもしれない。
ともかく、どのスピリットでも呼び出してもらって会えるのなら、センテでのお礼を言えるだろうからありがたい。
「伝説にあるエレメントフェアリー……いえ、スピリットですか。獣神様にお目通りがかなっただけでなく、スピリットも見られるとは……」
「うむ……私は獣神様とは会った事があるが、スピリットとなると初めてだ……」
スピリットを呼び出すと聞いて、レオルさんやハルさん達が喜び交じりで驚いている様子。
ハルさんもネメアレーヴェさんとは会った事があっても、獣王になる時くらいと言っていたから、スピリットとは会った事がなくて当然か。
即位するかどうかって話の中で、スピリットを呼び出してほしいなんて言えないだろうし。
「それじゃ、話がしやすいウィンドスピリットがいいかな。ちょっと待っててね……」
ウィンドスピリットのウィンさん。
ちょっと気障というか、気取った感じのするスピリットだけど、確かに他のスピリット達よりは話しやすいか。
アースさんは、おねぇっぽい事を差し引いても大きすぎてそもそもこの部屋に入らないだろうし、ウォーさんは勢いが強すぎるからね。
俺としては、一番親しくなったと言えるフレイちゃんと会いたいけど、フレイちゃんは言葉が喋れないっぽいしなぁ……俺はなんとなく、言いたい事がわかって意思疎通ができるんだけど、ハルさん達はそうじゃないだろうし。
「~~~~」
ハルさん達が固唾をのんで見守る中、立ち上がったネメアレーヴェさんが壁の方、俺達に背を向けて何かを話している。
獣人さん達も俺も、よくわからない言語のようだけど……壁に向いて何かをブツブツ言っているのは、傍から見たらちょっと怪しい人に見えなくもない。
片耳に手を当てている様子から、俺からすると携帯で電話をしているようには見えるけど、携帯を知らないこの世界の人達から見たら変に思われるかも?
なんて、どうでもいい事を俺が考えていると、何やらネメアレーヴェさんからは焦ったような声がする。
どうしたんだろう?
「ちょ、ちょっと待って! 僕はウィンドスピリットが……!」
「キーキキキー!」
「え……? わぷ!」
こちらにも通じる言葉に戻ったネメアレーヴェさんが、止めるような言葉発するが早いかどうかの刹那、突然虚空に炎が浮かび上がった。
風と共にウィンさんが出て来ると思っていた俺が、その炎に視線を向けると同時、視界いっぱいに赤い色が広がって顔を塞がれた。
ほんのり……ではなく、結構温かいんだけどこれは……。
「リ、リク様!?」
「い、一体何が!?」
「誰かの攻撃ですか!?」
などなど、口や目や鼻が塞がれている俺の耳に、焦った様子のハルさん達の声が聞こえてくる。
「キキ、キキキー!」
「ぼ、ぼおおえあ……」
「はぁ、まったく……これだけスピリットに好かれているのは、リク君しか知らないよ」
聞き覚えのある声に、顔を塞いでいる存在に思い当たったけど、口が塞がれているからちゃんと喋れない。
ネメアレーヴェさんからは、あきれ交じりの声が聞こえてきたけど……これ、息もできなくてずっとこのままなのは少し辛いんだけど……。
「おっと。ほらほら、そろそろリク君を話してあげなきゃ、窒息しちゃうよ? 喜びはもう少し落ち着いた形で伝えなきゃ」
「キキ? キ、キキー!」
俺の心を読んだわけではないだろうけど、息ができていない事に気付いてくれたネメアレーヴェさんが、顔に張り付いていた何かを引っぺがしてくれる。
「プハッ! はぁ、ふぅ……ありがとう、ネメアレーヴェさん。それから、久しぶりだね、フレイちゃん」
「キー!」
呼吸ができるありがたみを感じながら、ネメアレーヴェさんにお礼を言いつつ、襟をつかまれているような恰好……と言っても、燃え盛る炎の塊なんだけど、そんなフレイムスピリットのフレイちゃんに声をかけた。
なんとなく、申し訳なさそうな声と雰囲気だったけど、俺の声を聴いて喜ぶように炎を燃え上がらせている。
やっぱり、聞き覚えのある特徴的な声は、フレイちゃんだったか。
炎に顔全体が包まれるって、結構衝撃的な姿になっていたんだろうなぁ、と先程までの自分を思い浮かべる。
「リ、リク様……なんともないのですか?」
「あぁはい。フレイちゃん……フレイムスピリットは、見たまま炎ですけど、燃やす対象は選べるみたいなので。ほら、触っても温かさは感じますけど、熱くないでいんです」
「キキー!」
俺を心配するような声音で声をかけて来るレオルさん。
目を向けてみると、ハルさん達は俺が炎に包まれたと驚いたのか、全員椅子から立ち上がっていた。
アマリーラさんは……フレイちゃんの事などを知っていたはずなのに、ハルさんとかと同じよう反応をしていたっぽい。
あ、俺の視線に気付いて座りなおした。
「そ、そうなのですか。リク様がそう仰るなら……ですが、何のためらいもなく炎に触れるのは、我々では難しいように感じます」
「そうですか?」
「キキ?」
レオルさんに首を傾げるけど、よく見てみるとハルさんも含めて獣人さんは皆、尻尾をピンと張っているか、足に挟んでいる。
獣は火を怖がると聞くけど、そういった事も関係するんだろうか? ネメアレーヴェさんはフレイちゃんを掴んでいた事からも、そうじゃないみたいだ。
まぁネメアレーヴェさんは獣人を創った獣神様で、獣人とは違うのかもしれないけど……見た目は、獣人と同じく獣っぽい耳と尻尾を持っているんだけどね。
「……はぁ、なんでフレイムスピリットが出て来るかなぁ?」
「キキ、キー! キキキ、キーキキー!」
「リク君に会いたかったからって……まぁ、僕が呼ばないと今は会えないみたいだし、それだけリク君が好かれているんだろうって事にしておくかな。はぁ」
呼び出そうとしたウィンさんの代わりにフレイちゃんが出てきて、溜め息を吐くネメアレーヴェさん。
ユノやロジーナにも構われず、ちょっとかわいそうになってきた……。
それにしても、ネメアレーヴェさんもフレイちゃんと話せるみたいだね。
ハルさん達は、よくわからないといった表情だけども。
呼び出せるし、さっきはよくわからない言語を使っていたから、それも関係するのかもしれないけど。
ちなみに俺は、言葉としてはっきりわかるわけではなく、雰囲気とか声のトーンなんかでなんとなくわかるくらい。
あれだ、犬猫を飼っている人が、なんとなくその犬猫の事がわかるみたいな……フレイちゃんは犬や猫じゃないけど、懐き方は犬っぽくはある。
「あ、フレイちゃん。そのままだったら皆話しずらいみたいだから、形を変えられるかな?」
「キキ? キー!」
「ちょま……! ぐふぅ……」
今はただの燃え盛る炎だから、以前んのように人に近い形になってもらうよう頼むと、すぐに形を変えてくれた。
上半身だけだけど、腕や美少年のような美少女のような姿になるフレイちゃん。
相変わらず赤く燃え盛っているようなのは、まぁ仕方ないけど、これで少しはハルさん達も落ち着いてくれるかな?
「リ、リク君……というよりこの場合はフレイムスピリットか。いきなりやらないでよ、結構な力を持っていかれたよ?」
「キー?」
「僕が軟弱なんじゃなくて、自由に形を変えても平気なリク君がおかしいんだよ」
ついに神様にまでおかしいと言われてしまった……ユノやロジーナには前から似たようなことを言われている気がするけども。
とにかく、フレイちゃんが形を変えるのは呼び出した誰か、召喚者の力を使うらしい。
四元素のスピリット全部を呼び出した時、人型だったのも含めてそれなりに魔力を使ったのは自覚があるから、そういうものなのかもしれない。
「まぁとりあえず、こちらはフレイムスピリット。フレイちゃんって呼んでます」
「キー!」
「フレイちゃん……ですか。人の形で多少は恐怖が薄れましたが、それでも強大な気配を感じます。リク様は、それどころではありませんが」
それどころではないってどういう事だろう……。
ハルさんは、フレイちゃんより俺を見ているけど、戦慄しているような雰囲気なのはフレイちゃんという呼び方に対してなのかはよくわからない。
「ははは、まぁスピリット達は魔力の集合体のようなものだからね。自然の魔力そのものと言ってもいいかな? リク君とはまた違って、獣人なら誰しもがレオンハルと似たような感想になると思うよ。自然の驚異を正しく感じるってところかな」
ちょっとした騒動のような事はあったけど、落ち着いた頃合いに改めてハルさん達にフレイちゃんを紹介。
フレイちゃんを見たハルさん達は、形が人っぽくなったからかさっきまでのように尻尾で恐怖を表現しなくなった。
それでもフレイちゃんの方を見て戦慄しているようではある。
獣人さんだけ感じる事ができる何かがあるんだろう。
「フレイちゃん、センテではありがとう。他のスピリット達もそうだけど、おかげで助かったよ。俺だけでなく、多くの人がフレイちゃん達に守られたし――」
ネメアレーヴェさんがフレイちゃん……というか、スピリットに関してハルさん達に話しているうちに、改めてお礼を言っておく。
「呼び出せなくてごめんね。今は魔法が使えなくなってて」
「キキ、キキー?」
「うん、大丈夫。体の方は特に問題ないし、魔法が使えないなりに色々考えているから」
心配するように、炎の手を俺の頬に伸ばすフレイちゃんには、平気だと示すように笑っておく。
燃え盛る炎だけど、全然怖くなく、むしろ温かみを感じるくらいだ――。
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