851 / 1,955
元ギルドマスター発見
しおりを挟む遠くからでも雄叫びが聞こえそうな程、気合十分で鍬を振るっている筋骨隆々とした、上半身裸のおじさん……もとい元ギルドマスターに話しかけるって、結構な難易度な気がした気が重い。
さらに、頭にくっ付いているエルサは暑苦しい相手が苦手なので、抗議のためなのか俺の髪の毛を引っ張っているし……痛いし抜けるのが嫌だから止めて欲しいんだけど……。
「とりあえず、理由だけでも先に聞けるといいかな……」
話しかける前に何をしているのか聞くため、作業員さんの中から忙しそうではない人を探して、元ギルドマスターの事を聞いてみる。
それによると、本当は他にも仕事があって畑を耕す必要はない事をわかっているんだけど、あの人はさっさとそちらの仕事を終わらせて、体を鍛えると言って鍬を振るい続けているらしい。
うーん……マックスさんの影響おそるべし……というか、自分の仕事はさっさと終わらせているのか……それなら、今は必要ない事でも誰かが止めるのも難しそうだね。
情報を入手して、気が重いながらもエルサに髪を引っ張られつつ、元ギルドマスターの方へクラウスさん達を連れて向かった。
あ、いい事を思いついた。
要は体を動かせればいいんだろうし、それなら無駄に鍬を振るう以外にも方法がある……ちょっといろいろと目的を忘れかかっている人達もいた事だし、丁度いいかな。
マックスさんがなんて言うかはともかく、よく話すくらい親しい間柄なら、反対はしないだろうからね。
「えっと、すみませーん!」
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
元ギルドマスターに近付いて呼びかけようと思ったら、そういえば名前を知らないなぁと気付いたので、とりあえず当たり障りのない呼びかけになった。
俺の声は、気合を入れて鍬を振り下ろす際の声にかき消されて、元ギルドマスターは気付いていない様子だ。
ひたすらに鍬を振るうのに集中しているのもあるんだろう、もうこれだけで帰りたくなってきた……。
いやいや、思いついた事も提案しないといけないし、ここまで来たんだからね。
ちなみにエルサは暑苦しいのが苦手だからと、俺の頭にくっ付きながら器用に自分だけを包むように結界を張った。
モフモフの感触が、結界の固い感触になって寂しい……あと、ここ魔力溜まりの影響範囲に近いんだけど……まぁ、端の方だし魔法を使える位置だから大丈夫か。
植物が多いおかげで、魔力溜まりの渦巻く魔力が分散されていて、今回は濃い場所に行ってもエルサは大丈夫そうだし。
「はぁ……すぅ……すみませーん!!」
「ふんっ! ふ……お?」
「んんっ! すみません、元ギルドマスターですよね!」
「おぉ、そうだが……ギルドマスターと言われるのも少し懐かしくも感じるなぁ……って、リク様ではありませんか!!」
「……ようやく、反応してくれた……はぁ……」
「リク、気付いたのだからもう通常通りの声で話してもいいのではないか? まぁ、向こうは叫ぶような声を出しているが……」
「あ、そうだったね。向こうはまぁ、気合を入れて集中していた影響なんだと思うよ。少ししたら、落ち着くかな?」
手を伸ばせば届くくらいの距離まで近付いて、耳へ向けてようやく気付いてくれた元ギルドマスターさん……なんだろう、これだけで凄く疲れた気がするんだけど。
手を止めてくれたので、もう一度叫んで元ギルドマスターなのを確認する。
アルネは手で耳を塞ぎながら、声の音量を落としても大丈夫だと言われてしまった……まぁ、さすがにこちらには気付いたから、もう大丈夫だろう。
向こうもかなり大きな声で応えているけど、すぐに落ち着いてくれるだろうからね。
というか、以前会った時はこんなに大きな声を出す人じゃなかったんだけどなぁ……。
「これはこれは、リク様。どうしてこのような場所に? いえ、このヘルサル農園をもたらしたのは、リク様の功績なのですから、好きに訪れてもいいのですけど……おっと、先程は声を掛けられても、すぐに気付けなかったようで、申し訳ありません。それに、お見苦しい姿をお見せしてしまっています」
「いえいえ、まぁ集中していたんでしょうから……今回は、ちょっとヘルサルに寄ったのでここの様子を見てみようかと思ったんですよ。それに、結界を張ってそのまま放っておくのも無責任ですからね」
元ギルドマスターさんは、鍬を振るって滴る汗を首にかけたタオルで拭きながら、ぺこぺこと何度も頭を下げながら質問と謝罪を投げられる。
相変わらず、見た目と違って腰の低い人だなぁ……拭き切れていなかった汗が、頭を下げた拍子にこちらへ飛んでいる気がするけど、気にしない方がいいんだろう。
あと、以前会った時はここまで丁寧ではなかったようにも思うけど、ギルドマスターじゃなくなったからかもしれない。
あの時は、立場もあったし他のギルド職員や冒険者がいたりもしたからってのもあるかな。
「さすがリク様。人々をちゃんと見ていて下さる! 魔物を倒して英雄視される冒険者は、これまでにもいましたが、国が認めた英雄になれるのは、そのお考えがあってこそですな!」
「いや……あまり持ち上げないで下さい……」
「持ち上げるなんてそんな! 私はただ事実を申しただけです!」
前にあった時も、ヘルサル防衛戦の時の事を感謝をされたりはしたんだけど、ここまで露骨じゃなかった。
なんで今になって、そんなに持ち上げるようになっているのかわからないけど、とりあえず持ち上げすぎるのは控えめにして欲しい……後ろでクラウスさんが、それは自分の役目と言いたそうにしながらも、元ギルドマスターを睨んでいるから。
……なんでこう、俺は筋肉隆々としたおじさんに縁があるんだろうか? いや、別に女性にばかり持て囃されたいわけじゃないけど。
パーティが女性ばかりだから、それはそれでおかしなことになりかねないからね……もっとこう、エフライムのように普通に接してくれればいいんだけど、と思うのは叶わぬ願いなのか。
「とにかく、ヤンさんに言われて元ギルドマスターがどうしているか、様子を見に来ただけです」
「ふむ、ヤン……いや、今はギルドマスターと呼んだ方がいいですな。ギルドマスターはもしや私を連れ戻そうと考えていたりは……しないでしょうな。ヤンは優秀なので、そつなくこなしていそうです」
「まぁ、話した限りでは大丈夫そうでしたね」
「なら、ヤンには楽しく天職を手に入れたと伝えておいて下さい。あ、リク様のお手を煩わせないように、私が冒険者ギルドまで行きましょう」
「うーん、まぁ急に辞めたみたいなので、一度は冒険者ギルドに行って話した方がいいとは思いますけど、俺からも言っておきますよ。それにしても、天職ですか?」
ヤンさんからは俺が頼まれたからね、話す機会があれば言っておこう……それとは別に、元ギルドマスターは一度冒険者ギルドの人達と話す必要がありそうだけど。
それはともかく畑を耕すというのは、連続してやると重労働になるというのは容易に想像は付くけど、それが元ギルドマスターにとっての天職なのだろうか?
いやまぁ、本来の仕事をさっさと終わらせて、必要ないのに鍬を振るっているのだから、本人にとっては楽しい事なのかもしれないけどね――。
0
あなたにおすすめの小説
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる