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魔法具になったガラスの確認

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「ええ、まさに天職です。ほら、見て下さい……ふんっ! この鍛えられた筋肉を! ここで鍬を振るい始めて、冒険者だった頃よりもさらに体が鍛えられているんです。ふんっ、ふんっ……どうですリク様? 私の筋肉は! 素晴らしいでしょう!」
「あー……」

 体に力を入れ、筋肉を盛り上がらせてポーズを取り始めた元ギルドマスターさん。
 なんだろう、ここは「キレてるよ!」とか声をかけてあげた方が喜ぶんだろうか――。


「小屋からは、多少の魔力が漏れているようだが……魔法具化の影響と、ガラスに含まれている魔力が大きいから。それと、結界を維持するための魔力を放出しているからだろうな……」

 魔力補充用のガラスが置かれている、掘っ立て小屋のうち一つを外から眺めて、アルネが呟く。
 元ギルドマスターさんによる、即興で始まってしまった筋肉鑑賞会は、数分ほど眺めていたけどエルサにが突然「暑苦しいし、見苦しいのだわー!!」と叫びながらの両後ろ脚を使ったドロップキックが顔にめり込んで終了した。
 まともに話せたようには思えないけど、とりあえず元気そうだったし、なんというか生き生きとしていたから問題はなさそうだから、ヤンさんにはそう伝えておこうと思う。

 ちなみに、元ギルドマスターさんはドロップキックがめり込んだ事よりも、見苦しいと言われた事に少しだけ落ち込んでいた……暑苦しいの方はいいんだ、自覚があるのかも?
 マックスさんとヴェンツェルさんだけでなく、フォルガットさん達鉱夫さんやノイッシュさんといい……別に筋肉好きじゃないし、俺は男なのに縁ができてしまうのは、エルサ以上に俺が叫びたかったんだけどね……はぁ……。

「ん、リク。どうした?」
「……いや、なんでもないよ。ちょっと自分が知り合う人の中に、特定の方向に特化した人が多いなぁと思っていただけだから」

 小屋の事よりも先程の事を思い出していたら、アルネが首を傾げて声をかけられた。
 そう言えば、エルフの集落にいるエヴァルトさんも、アルネやフィリーナとか他のエルフと違って、大柄だったというのを思い出した……まぁ、美形なのでアンバランスでも暑苦しい雰囲気が少しは緩和されているので、まだマシだけど。
 ともあれ、縁があり過ぎて困る筋肉さん達は置いておいて、小屋にあるガラスの確認だね。
 結界はちゃんと維持されているようだし、問題はなさそうだけど……とりあえず、さっさと確認を終えて戻って休みたい……。

「ふむふむ、成る程な……」
「どう? ガラスの方は大丈夫そう?」

 小屋の中に入り、積まれているガラスをいろんな角度で見たり、手を近付けて見たりとして確認してしきりに頷いているアルネに、声をかけて聞いてみる。
 一緒に小屋へと入ったクラウスさん達も気になるのか、アルネに視線を向けていた。

「問題という程ではないが、やはり即興で魔法具化をしたせいか、今一つな部分があるな」
「今一つな部分?」
「あぁ。さっき外で小屋を見た時にも感じたんだが、フィリーナの目がなくとも、漏れ出している魔力を感じた。あれは、少々多めに魔力が放出されているから、漏れていたようだな」
「漏れているって事は、無駄に魔力を放出しているって事になるから……場合によっては予想より早くガラスから魔力がなくなるんじゃ?」

 俺は探査魔法で、魔力を調べていないからわからないけど、アルネとかエルフだからこそ感じ取れる微妙な違いみたいなのがあるようだ。

「いや、そこは問題ない。まぁ、当初の予定より早くガラスから魔力がなくなるかもしれないが……リクの魔力が多過ぎるのだろう、短くなっても一年とかその程度だ」
「確か……数十年は結界に補充する魔力があるっていう話だったね。数十年中の一年なら、そこまで大きな問題でもない……のかな?」

 魔力が保たれる期間から考えると、一年程度なら何も問題はなさそうに感じる。
 まぁ、クォンツァイタと違って、ガラスへ魔力を補充する事ができなさそうだから、少しでも期間が長いに越した事はないんだろうけど。

「期間そのものは、余裕があるのだからそれまでに、ガラスの魔力が尽きた場合の事を考えればいいだろう。別案はあれを使って既に考えているから、問題はないな」
「なら、大丈夫そうだね。でも、結局どうして魔力が漏れているんだろう?……聞いても、理解できるかはわからないけど」

 別案と言うのは、多分クォンツァイタを使っての事だと思う。
 でも、問題はないにしても今一つだったり魔力が漏れてしまっているのは、なぜなんだろうか?
 魔法研究に詳しくないから、聞いてもわからないかもしれないけど……。

「フィリーナは即興で魔法具化したり、リクの膨大な魔力をと考えると、よくやっている方だろうけどな。ふむ……わかりやすく言うと、例えば管に水を流すとする。流すのはガラスで、流れていく先は結界だな。水は魔力だ」
「うん」

 管に水……ホースを使って水をというイメージが近いかな。
 流れるのは魔力、と。

「流れた先で使われる水に合わせるように、管が調節されて一定以上は流れないようになっているのだが、ガラスから流される水が多過ぎて必要以上に出てしまう圧力が発生しているみたいだな」
「管が調整されて狭いから、ガラスから水をもっと流したくても流せない状況で、根本で詰まっているって事?」
「そんな感じだ。そして、ガラスに繋がっている管は別に蓋の役目をしているわけではないから、余分に出そうとしている水はどうしても隙間から漏れてしまうわけだ」

 ふむふむ、つまり蛇口から勢いよく水を出そうとしているけど、ホースの穴が小さすぎて容量以上に水を出してしまっている。
 そのため、繋がっている元の蛇口から隙間を使って水が漏れ出しているって事だね……多分。

「それじゃ、それをなんとかしたら水……魔力が漏れだす事はないんだね?」
「その通りだ。まぁ、簡単な対処で十分そうだ」
「どうやればいいのかな、アルネ?」
「過剰に魔力を結界に流すわけにはいかないから、管は広げられない。ガラスの魔力は膨大だから、放出を少し控えめにしていてもあまり変わらないだろう……やるけどな。そこからさらに、結界へと繋がっている魔力の道の元部分で隙間を塞ぐわけだな」
「少しだけ魔力放出を控えめにしながら、隙間を塞げば漏れる魔力はほぼなくなるわけだね」
「まぁ、リクの魔力で膨大な量だから、フィリーナも私ももてあましてしまう。じっくりと研究できればいいのだが、既に機能している以上それくらいしかできないだろう。ともあれ、漏れる魔力がほぼなくなるから、その影響は大きいだろうな」

 どうやるのか、詳しくはわからないけど……研究に時間をかける事もできないので、今対処できる方法という事だろう。
 ともあれ、一年くらいと言ってもガラスが機能している期間が伸びるに越した事はないので、アルネの案で良さそうだ。

「……魔力が漏れる影響が大きいって、結界を維持する期間が減るのは一年くらいなんでしょ? それなら、影響が大きいとは言えないんじゃないかな?」


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