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何事にも費用はかかる
しおりを挟む演習後にしばらくシュットラウルさんやアマリーラさんと話し、改めて整列した兵士さん達の前で再びシュットラウルさんが演説っぽい事をやって、解散。
兵士さんへの演説は、俺一人相手に完全にやり込められ、不甲斐ないとか叱咤する内容だったけど、聞いていた兵士さん達はそれぞれ真剣に聞き入っていた。
……少しやり過ぎたけど、いい刺激になったのなら良かった。
あと、演習の終わり際に俺に対して怯えた視線を向けていた人達も、ほとんどが怯えなくなっていた……怪我を跡形もなく治療した事が、良かったらしい。
訓練開始前と違って、俺を疑うような視線を向ける人はもう一人もおらず、アマリーラさんがどこか得意気だったけども。
そういえば、一部……というか、次善の一手を教えられていた中隊長さん達とかは、ユノに対して尊敬するような視線を向け、やたらと丁寧になっていたりもしたね。
次善の一手の有効性以外にも、教える過程でユノの技術を目の当たりにしたかららしい。
「あとは宿に戻るだけだが、少々気が重いな……はぁ」
「どうかしたんですか、シュットラウルさん?」
センテに戻り、宿へと戻る道を歩いている途中、呟きながら溜め息を吐くシュットラウルさん。
さっきまで……というかセンテの門を通るまでは、機嫌良さそうだったのに、どうしたんだろうか?
「シュットラウル様は、今回の演習で使用する事になる、軍費について考えておられるのですよ、リク様」
「軍費……?」
そういえば、騎馬隊を指揮していた中隊長さんが、予算がどうのと言っていたっけ。
走って行った馬は無事全て回収できたらしく、馬には怪我もないみたいだったけど……見晴らしのいい場所だったのが幸いしたらしい。
それ以外に、溜め息を吐くような費用が掛かる事ってあったかな? あ、兵士さん達への給料とか?
「弓矢を使っただろう? 当初考えていた演習では、使用する予定はなかったのだ。当然ながら、矢は消耗品だからな。回収して使える物は使うし、補修で良さそうな物も直して使うだろうが……」
「あー……俺が落ちている矢を使ったりしましたからね」
最初は使う予定がなかった、とは初耳だけど……弓はともかく矢が消耗品なのはわかる。
一本一本はそんなに高い物じゃなくても、相当な数を撃っていたからね。
一度に数百本、それが何度かだから……少なく見ても千本は越えるはず。
しかも、地面に刺さったり落ちている矢を、俺が拾って投擲していたから、損傷が激しく使えなくなった矢もそれなりにある。
あと、木剣で叩き落したり、殺到する兵士さん達が踏んだりとか……補修したとしても、結構数が使えなくなっていてもおかしくない。
「それに、兵士達の装備もですね。模擬戦の時くらいの、鎧への損傷なら兵士それぞれが、自分で修復できるのも多いでしょうけど……」
「最後の、リク殿と歩兵隊との戦いはな……折れた剣や槍などもあるようだ。はぁ……執事達がなんと言うか……」
「予算管理も、執事の仕事ですから……」
矢だけでなく、兵士さん達の装備に対しても費用がそれなりにかかるようだ。
まぁ、やり過ぎた時に、鎧を破壊したりとかしていたもんなぁ……それこそ、修復不可能なくらいな物もあったくらいだ。
シュットラウルさんの重い溜め息が、俺に響く。
宿に戻ったら、執事さんから何か言われてしまうんだろうなぁ……まぁ、嫌みとかではないと思うし、執事さんも予算に関してやりくりして苦労しているんだろうから、ちょっとした意見くらいは言いたくなるのかもしれないけど。
「……演習の最後は、俺がやり過ぎたのも原因なので……装備の修理代を少しくらいは、俺が出しましょうか?」
模擬戦や演習は頼まれた事とはいえ、先頭を歩いて「今日の夕食は何かなぁ?」なんて言っているユノが止めてくれるまで、加減を忘れてやり過ぎていたのも事実。
装備の修理代がかさむのはそのせいだし、多少は俺も出した方がいいような気がした。
……治療はしたけど、兵士さんにそれなりの怪我をさせてしまった事への反省も兼ねているけど。
「……いや、正直なところありがたいが、リク殿に出させるわけにはいかん。今日の訓練は、こちらからリク殿に頼んだ事だからな。貴族の見栄というのもあるが、費用を出してもらうのは外聞が悪い」
貴族としての理由で、シュットラウルさんから俺の提案は断られた。
言われてみれば、訓練への参加を頼んだ相手から、お金も出されたんじゃ貴族の面目は立たないか……そこを上手く隠す人もいるんだろうけど。
そういった事を隠そうとしないだけでも、不正をしていない真っ当な貴族なんだろうね。
「そうです、リク様がお気になさる事ではありません。装備を壊されたのも、全て不甲斐ない兵士達が原因です。ひいては、訓練不足の者達が悪いのです。ですから、リク様は何も気にする事なく、訓練に参加した際には存分に破壊して下さい」
「いや、さすがに装備の破壊を目的に訓練はしませんけど……貴族にも色々あるんですね」
なんというか、昨日のヒミズデマモグとの戦闘が終わった後から、アマリーラさんの俺に対する言動が行き過ぎている事がちらほらとある。
必要以上に持ち上げるというか、本来の雇い主はシュットラウルさんで上司なのに、まるで俺の部下みたいな言葉や動きを見せたり……。
獣人の強さを認める習性みたいなのが、顕著に出ているのかもしれない。
「気にしない者もいるがな。だが、領地を賜り、人の上に立つ者としてはそういう事も大事だ。税を徴収しておきながら、他方から金を受け取るというのは頂けない。民に示しがつかんからな」
「そんなものなんですね……」
「うむ。だからリク殿……その……もう少し、ほんの少しで良いのだが、次に訓練に参加する時は、もう少しだけ加減してくれると、ありがたいぞ?」
「あははは……気を付けます」
貴族って考える事が多くて、やっぱり大変なんだなぁ……と感心する俺に、シュットラウルさんから揉み手をしてやり過ぎないようお願いされる。
そんな下手に出る必要はないと思うんだけど、とりあえず苦笑しつつ頷いた。
すぐ明日というわけじゃないけど、今度の訓練ではできるだけ装備破壊などはしないように、気を付けよう……俺の訓練にもなるかもしれないし。
「ですが、リク様が兵士達に強さを見せつけるには、武器や鎧の一つも破壊して見せませんと。多少の損失は覚悟すべきだと思います」
俺の強さを見せつけるって、訓練だからそんな事をする必要はないのに……アマリーラさん、訓練開始前から言動がやっぱり過激だ。
さすがに、もう俺に疑惑の視線を向ける人はいないから、そうする必要はないんだけど。
「既に今日の模擬戦や演習で、十分リク殿の強さは見せつけたのだがな……アマリーラ、私の部下だという事を忘れていないか? 軍費がかさめば、侯爵家全体に響く。アマリーラの給金にも影響が出るやもしれぬのだぞ? いや、これしきの事で給金にまで影響は出さないようにするが……」
「その時は、リク様に雇ってもらいますので」
「え、俺ですか!?」
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