1,165 / 1,955
正体不明の夢のような何か
しおりを挟むドロドロした何かが、体を包んでいる。
思うように体が動かせない。
俺、確か寝ていたはずだけど……ここは?
「暗い……? いや、黒いのか」
何もない空間、何かに邪魔をされているわけではないはずなのに、遠くが見えない空間。
明りがないからかと思ったけど、そうではなくただただ黒い空間だった。
「な、なんだこれ……」
自分を見下ろすと、粘性の高い何か黒い液体が体にまとわりついている。
これのせいで動けなかったのか……? いや、そうじゃない。
動かそうとして動かないのではなく、勝手に体が動こうとしてもがいていようだ。
「また破壊神が何か……? いやでも、どこかおかしいというか自分の体が自分のじゃないような」
破壊神に隔離された空間を思い出したけど、あれとは違う。
ただただ重苦しいと感じる空間に、触れている感触すらないまとわりついている何か。
そして、思考とは別に動こうともがく体。
さらに時折、目の前に人が現れては消えていく……。
「似たような感じを、どこかで……あ!」
異常な状態なのに妙に冷静な思考はともかくとして、なんとなく近い感覚を知っているのを思い出した。
姉さんと再会する前に見ていた夢だ……あれは、俺自身の後悔とか懺悔の念のようなものが渦巻いていた、と今では考えられるけど……それと似ているんだ。
ただ違うのは、目の前に現れては消えていく人の形をした何かが、一切見た事がなく、しかも俺に対してとかではなく別の何かに対して憎んでいるという事かな。
「あの夢と似ているって事は、これも夢……?」
姉さんに対する懺悔の夢は、俺の深層心理とか辛くて封印した記憶とか、なんかそんな感じの意識が夢として表れていたもの……だと思う、多分。
姉さんとの再会で解決はしたけど、とにかくあの夢とは違って俺自身にはっきりとした意識がある。
これは夢じゃないのか? いやでも、どう考えても寝ていたはずの俺がこんな不気味空間に来るわけがないし……破壊神の干渉ではなければ、夢だと思うしかない。
「確か……夢を見ている事を自覚するのって、明晰夢って言うんだっけ?」
体は動かせないのに、というか勝手に動こうとしているのに、妙に思考だけはクリアだ。
自分であるはずの体、その目から周囲を見ているわけではなく、俯瞰して見ているような感覚さえある。
いや、確かに自分の目でも見えているんだけど……奇妙な感覚でよくわからない。
「でもなんだろう、こんな夢を見るような事に思い当たる節がないんだけどなぁ……? さっきから出て来る人にも、見覚えがないし。だとしたら夢じゃない? いやでも、夢以外だと説明が付かないし」
なんとなくわかっているのは、一定の決まった間隔で俺の目の前に人が現れるという事。
規則性があって男女交互に現れては消えていく……そういえば、昨日? 一昨日? この空間や夢のせいなのか時間の感覚が曖昧だけど、センテに戻って休んだ時にも、近い物を見ていた気がする。
あの時は、声のようなものも聞こえていたようだけど、あれも夢だったのだろうか?
ただどちらにも共通しているのは、現れた人は俺に対してではなく別の何かに対して、怒りや憎悪を持っているという事。
向けている対象が何かはわからないけど、俺じゃない事は間違いない、
目元がくっきり見える人もいるけど、そう言った人は総じて俺を見ていないから……顔の向きからして別方向の人もいたくらいだ。
でも、それならどうして……俺に向けられるなら、まぁ無理矢理考えて夢に見るのもわからなくもない……かもしれない。
けど、俺以外に向けられているはずの憎悪を、俺が見させられている意味がわからない。
「うーん……なんだろうこれ。見たくない物を見ているような、見てはいけない物を見ているような気分だ」
姉さんの夢とは違って、自分への後悔とか焦燥感のようなものは一切ない。
不快感……はなくもないけど、それでも早く目覚めたいとか目覚めなければ、といった事は感じない。
ただただ、動けず目の前に現れる人の影のようなものを見せられているだけだ。
体はもがいているけど、勝手にやっているだけだし……そもそも本当に自分の体かも怪しく感じられてきた。
考える事だけは自由にできるから、こうして適当な事を考えているんだけど。
でもそういえば、本当に明晰夢だったら俺の思考次第で夢の内容も変わるはず……だよね?
夢が夢である事を自覚しているだけじゃなく、自分の意識で夢の内容を変えられるのが明晰夢だったはず……うろ覚えだけど。
でも俺がどれだけ考えても、見えている光景は一切変わらない。
黒い空間で、何かよくわからない物にまとわりつかれ、人の影が定期的に現れては消える。
そもそも、黒い空間なのに全てはっきり見えているのはどういう事だろう? 黒いと暗いの違いってなんだ?
いや、色としての黒と、明りがない状態の暗いで違いはわかるんだけど……どうして俺は、ここが暗いのではなく黒いって思ったんだろう?
「リ……!」
「ん?」
退屈になって益体もない事を考えていると、どこからか俺を呼ぶ声。
はっきりとは聞こえなかったけど、それが俺を呼ぶ声だとはなんとなくわかった。
「……ク……! お……!」
「聞いた事があるような?」
どこかで聞いた事のある声。
幼いような、それでいて長い年月……人間の尺度では計れない程、とてつもなく長い時間を過ごしている何者かの声。
でも、よく近くで聞いている無邪気な声が耳になじんでいるような、そんな声。
なんだろう、この声は確実に俺を呼んでいるんだけど……絶対に無視してはいけない気がする。
その声が重要な事を言っているとかではなく、頭の中で本能か何かが警鐘を鳴らしている気がするんだ。
夢だとか人の影とか、そんなよくわからないものとは関係なく、俺自身の体に大きな危険が迫っているような……先程まで感じなかった焦燥感を、聞こえる声は沸き立たせる。
早く、この声に応えないと……夢を見ているよりも、体が動かない事よりも、怖い何かが迫っているような……。
「リク―! 起きるのー!!」
「ぐふっ!!」
衝撃、重み、痛み、苦しみ……唐突の感覚に、肺の中にある空気を全て吐き出す。
その他色々な物を出しそうになったけど、そもそもに出る物がなかった……しばらく何も食べていないからだろうか。
「ようやく起きたのー!」
「ぐっ……はっ……はぁ、はぁ……ユ、ユノ?」
「そうなの! リクを起こしに来たのー!」
無邪気な声を上げる何者か、正体を確かめるため必死で吐き出した空気をあえぎながら、目を開けた。
衝撃その他の正体は、俺のお腹の上に立ってふんぞり返っているユノだった。
……前も、お腹の上に飛び乗るのは止めてって言ったのに……しかも今回は体で圧し潰すのではなく、立っているし。
フィリーナの影響だろうか? いやカイツさんの背中に乗った時、ユノはいなかったはずだけど。
「おふっ……がふっ……ユノ、ちょ、ちょっとその状態で動かないで……というか降りて……」
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる