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寝ている間も続いていた実験

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「わかったのー!」
「うぐっ!」

 俺が起きた事を無邪気に喜び、足踏みをするユノ。
 さすがに苦しいを通り越して、命の危機を感じてきたので頼んで降りてもらう。
 が、降りる際に踏ん張ってベッドの横まで飛び降りたため、一際重い圧をお腹に加えられて悶絶する……今度こそ、内容物ではなく内臓が口から飛び出しそうだった。

 正直なところ、魔物と戦うより……それこそ破壊神と対峙していた時以上に、命の危機を感じたね。
 破壊神よりも人間に命の危機を感じさせる創造神って……。

「ゴホッ! ガハッ! ゴホッ!」
「お、恐ろしいのだわ……あのリクをここまで追い詰めるなんて……もっきゅ」
「そ、そうね。私もユノちゃんに任せたし、ユノちゃんもやる気だったけど、あれはさすがに……いえ、飛び乗るのを最初に教えたのは、私だったわね」

 ユノが降りた反動で体をくの字に曲げて、思いっ切り咳き込む俺。
 近くで聞き慣れた話し声がしている……なんだか戦慄しているような声音だったけど、さっきのを見ての事だろう。

「ごほっ……エルサ、モニカさん?」
「リク、ようやく起きたのだわもきゅもきゅ」
「おはようリクさん。ごめんなさい、どうしても起きなかったからユノちゃんに任せちゃったの」

 咳が収まり、ベッドの横を見てみるとテーブルの上に陣取ったエルサが、寝る前と同じようにキューをモリモリと食べていた。
 モニカさんはベッドのすぐ横で、俺の事を心配そうに見て謝っている。
 まぁ、確かにきっかけはモニカさんだったかもしれないけど、起きない俺が悪い……かな?
 でも、俺ってそんなに眠りが深い方だったっけ? あと、何か良くない夢のようなものを見ていた気がするけど……。

「モニカさんは気にしないで。――でもユノ、人のお腹の上に立つと場合によっては息の根を止めちゃうから、もうやるんじゃないぞ?」
「大丈夫なの、リクにしかやらないの」

 モニカさんの後ろにいるユノに注意するけど、あっけらかんとして悪びれずに答えられた。
 うんうん、俺だからなんとか咳き込むくらいで済んだし、他の人にやらないのなら……。

「全然大丈夫じゃないだろ、それ! 俺にもやっちゃダメなの! ごほっえほっ!」
「リ、リクさん。落ち着いて……はい、お水を飲んで?」
「あ、ありがとうモニカさん。んく……はぁ……」

 たとえ相手が俺だったとしても、飛び乗って立つなんて事しちゃだめだから。
 思わずユノに叫ぶように注意するけど、寝起きだからかさっきの衝撃を引きずっているのか、また咳き込んでしまう。
 モニカさんが上半身を起こしている俺の背中を撫でながら、水を渡してくれた。
 なんだか病人みたいだけど……とりあえず水を飲んで落ち着こう。

「まぁ、ユノには後でたっぷり注意するとして……」
「えー……なの」
「不満そうにするんじゃないの。寝ている人の上に飛び乗るのは、本当に危ないから。はぁ……それでえーっと、今は……っ!」

 不満そうなユノには必ず言い聞かせる事を決めて、俺が寝てからどれくらい経ったのか聞こうと思った瞬間、部屋を揺るがす大きな音と振動。
 一瞬警戒してしまったけど、寝る直前の事を思い出して木窓の方を見る。

「こらー! またそんな……! 何度も何度も……!」
「いや、だがしかし……! 試して……!」
「はぁ……カイツさん、だよね?」
「えぇ。昨日からずっとあぁなの。えっと、リクさんが休んでからと言った方がいいかな?」
「あれだけうるさくても、リクはすやすやと寝ていたのだわもきゅ。私はあまり寝られなかったから、その分キューを食べるのだわもっきゅ」

 外からは、フィリーナがカイツさんを叱る声。
 寝ている前とほとんど変わらない様子に、ちょっとだけ安心したような、むしろ本当にボスワイバーンと合わせて良かったのかという、不安が沸き上がる。
 モニカさんが言うには、昨日からずっとらしい……って事は、俺が寝てから一日ってとこかな、開け放たれている木窓からは、日が高く昇っている様子がわかるし、昼過ぎくらいだろう。
 あとエルサ、よく寝られずに不満なのはわかるけど、キューを食べても寝不足をカバーできるなんて事はないからな? いや、エルサならもしかしたらできるのかもしれないけど。

 それはともかく、さっきの大きな音と振動が何度も起こっていたのかぁ……ご近所迷惑になっていないといいけど。
 騒音問題はご近所関係でも、特にデリケートだから。
 ……宿の周辺は、シュットラウルさんが泊まっている建物以外、少し離れてはいるから大丈夫、かな?

「とりあえずカイツさんの事は、フィリーナに任せておくとして。――モニカさん、今魔物達の方は……あ」

 カイツさんの研究はとりあえず置いていて、モニカさんにあれから状況がどう動いているかを確認しようとしたところで、今度は俺のお腹が盛大に鳴って部屋中に響いた。
 外から聞こえた大きな音よりも小さな音だったはずなのに、なぜか妙に大きく響いた気がして恥ずかしい。

「……とりあえず、話しは朝食……じゃないわね、昼食を食べながらにしましょ」
「そ、そうだね……」
「リク、お腹からすごい音がしたの、面白いのー!」
「恥ずかしいから、あまり言わないでくれユノ」
「お腹空いたのなら、キューを食べるのだわ。私のはあげられないけどだわーもっきゅ」

 モニカさんに促され、昼食を食べる食べにベッドから起き上がる。
 ユノが俺のお腹の音を面白がっているけど、止めて欲しい……誤魔化す事もできないくらい、はっきり響いて恥ずかしいんだから。
 それとエルサは、珍しく自分のために用意されているキューをと思ったら、それはくれないようだ……まぁ、キューだけじゃ味気ないからいいんだけどね、美味しいけど。


「うん、美味しいです。ありがとうございます」
「いえ、非常時ですので、大したものが用意できず申し訳ございません」

 キューを決して手放さないエルサを抱いて食堂に場を移し、少し遅めの昼食を食べる。
 空腹な事もあってか、美味しい食事に舌鼓を打ちながら、用意してくれたメイドさんにお礼を言う。
 メイドさんの方は、ちゃんとした物を用意できなかったと恐縮しているようだけど……十分過ぎるくらい美味しいから問題ない。
 確かに、平常時よりは簡素な料理になっているけど、パン以外にも肉料理やスープ、サラダなどがちゃんと用意されているからね。

「それでリクさん、現在のセンテと魔物の状況ね」
「うん。昨日の今日で大きく状況が変わらないかもしれないけど、一応聞いておきたくて」
「そうね……」

 モニカさんやユノも一緒に食事をしながら、俺が寝ている間の状況を話す。
 ユノ達は、俺を起こすのを優先したために、まだ食事はしていなかったらしい。
 ちなみに、ソフィーやフィネさんは今日も南側の片づけを頑張っているとか……大体一カ月、ずっと魔物と戦っていた場所だからね、それなりに整備するのも時間がかかるんだろう。

 ともあれ、センテの現状。
 モニカさんによると、予想通り大きな動きは今のところないらしい。
 サマナースケルトンがいなくなり、ワイバーンもこちらに引き入れた事で、確かに魔物の追加がなくなったとはいえ、残っている魔物の数も多い。
 北側を堅守しながら、徐々に東側で押し返している途中なのだとか――。


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