1,311 / 1,955
隔離結界内部
しおりを挟む「どうなっているのだわ!? これは、リクの結界なのだわ? でも、こんなの今まで見た事がないのだわ!」
人間より少し大きなくらいになったエルサちゃんが、頭上で叫ぶ。
リクさんがヒュドラーとレムレースを倒してから、遊撃隊となっていた私達は少しの休息の後、エルサちゃんと合流していた。
北側は、ヒュドラー、そしてレムレースという強力過ぎる魔物を失って、さらにリクさんの魔法で大打撃を受けて進行が止まっていたから。
中央で父さん達とも合流して無事を確認し、順調にリクさんがヒュドラーを倒して行っている事を聞いて、安心したのも束の間。
ユノちゃんがリクさんの伝言を報せてくれて、よくわからないけど好機だと多くの兵士が突撃した。
私やソフィー達もその中に参加し、魔物と戦っていた矢先の事だった。
突然エルサちゃんが騒ぎ始めたの。
その少し後、急に私達……いえ、街ごと全てを包むような何かが出現した。
それは壁であり、なにものをも通さない絶対的な盾となって、向こう側にいる魔物を通さない。
ただ、戦っていた魔物の一部は包まれた中にもいたため、こちら側にも混乱を来しながらも集中して討伐されている。
入り込んでいた魔物も当然強力……キマイラもいたし、父さんがアラクネと呼んでいた人間の上半身が生えた蜘蛛の魔物なんかもいた。
アラクネ……単純に人間を引き裂くなどの攻撃力はキマイラの方が強いようだけど、あちらは一度絡め捕られたら自力では抜け出せない糸を吐き出す。
キマイラとアラクネが一度に襲って来ると、数十人の兵士や私達で事に当たってすら犠牲が出る始末。
それでも、救いは内側にいる魔物が少なかった事。
頭上でエルサちゃんが騒ぎ、混乱している中でも少しずつ魔物が駆逐されて行っている。
母さんと父さん、マルクス隊長が、冷静に指示を飛ばしてくれたおかげだと思うわ……もしかしたら表面は冷静でも頭の中では慌てていたりするのかもしれないけど。
それでも私達だけだったら、少ないけど強力な魔物に甚大な被害を受けている所だったかもしれないもの。
いえ、少なくない犠牲は出ているのだけれど……でも、絶命した人は私が見る限りでは少ないわ。
……息が絶えていないだけで、かろうじて命を繋ぎとめている人が、これからそこに加わる可能性はあるけれどね。
「リクさんだから……で済ませられる事態じゃないわよね?」
「おそらくな。先程、エルサがリクの様子がおかしいと言っていた。それに、東南へ向かっていったあの気持ち悪い泥のような何かも気になる」
「私は、黒く艶やかな宝石にも見えましたが……でも気持ち悪かったのは確かです」
三人がかりで、オルトスに止めを刺しながら今の状況を把握するために話す。
エルサちゃんがリクさんの結界と言った、私達を包んだ少しだけ透けている何かが発生する少し前。
ソフィーが言ったように、これまで魔法の輪を通すミスリルの矢ってよくわからない物で後方援護していたエルサちゃんが、ピタリとそれを止め、戦っていた私達の所へきた。
さらにその直前、センテの上空から黒くて何かよくわからない……ソフィーが言うには気持ちの悪い泥、フィネさんが言うには黒く鮮やかな宝石のような何かが東南へと流れて行ったのを見たの。
私は、蠢く生き物だった物の塊のように見えたけど……人によって見方が違うのかもしれない。
どう見えたとしても、同じ意見なのは気持ち悪いという事。
もしかすると、あれが以前リクさんやエルサちゃんが言っていた、センテを渦巻く気持ち悪い何かが目に見えるようになった結果なのかもしれないわね。
「……くっ! 硬いな。ビクともしない……無理をすれば、剣の方があっさりと折れそうだ」
「こちらも駄目ですね。魔物やこちら側の魔法が当たっても、壊れた様子は一切ありません」
「んっ! はぁ、私もよ。やっぱりこれは、エルサちゃんが言っているようにリクさんが使った結界みたいね」
ソフィーが剣を力いっぱい振り下ろし、フィネさんが斧を振り下ろす。
私も槍を全力で、皆もやっていたように次善の一手で魔力を這わせていたんだけど、それでもビクともしなかったわ。
それが、目の前を塞ぎ外と内を隔てている何かがリクさんのやった事だという、証明のように思えた。
ただ、これまでリクさんが使っていた結界って、目に見えないはずなのよね……でもこれは、そこにあるのがはっきりと見えるし、外側は薄っすらと透けて見えるくらいだし……。
「なんなのだわ、なんなのだわ、なんなのだわ!! リクとの繋がりも一切感じないのだわ! おかしいのだわ、緊急事態なのだわ!」
頭上で騒ぐエルサちゃんも、今の状況は理解していない様子。
いつも冷静で慌てたりは……よくしていたわね、特にキュー関連で。
でもエルサちゃんの慌てる様子は、何が起こっているのか一切理解できない私達にも焦りのようなものを沸き立たせる気がした。
いえ……そうじゃないわね。
エルサちゃんとは関係なく、私自身が何か悪い予感のようなものを感じているんだわ。
なんだろう、喪失感に近いような……大事な物が失われた悲しみが、悪い予感となって私の胸に去来しているの。
それは目の前の魔物を倒しても、結界らしき何かに槍を突き込んでも、一切晴れる事はなくむしろ、膨れ上がるばかり。
「……っ! エルサちゃん!」
「だわ! おかしいのだわ、おかしいのだわ!」
思い切って浮かんだままで騒いでいる、慌てているエルサちゃんを呼ぶ。
声に応えて、私のすぐ近くに降りて来てくれたけど……冷静にはなれないのか、ただ慌てておかしいとばかり繰り返す。
こういう時、私達の近しい人の中で一番冷静に状況を見定めてくれるユノちゃんがいればなぁ、と思う。
あの子……というのは少し失礼かしら? リクさんが言うには創造神だとかで、それが納得できるくらい他の人間とはかけ離れた達観した事言ったり、動きをしたりするけど。
でも今ユノちゃんは、リクさんの伝言をするために北へ向かっているから。
結界? に包まれて足を止めていなければ、そろそろ北に布陣する侯爵軍の大隊長さんの所に到着すると思うけど。
……そういえば、もう何度も顔を合わせているのに大隊長さんの名前を知らなかったわ。
今気にする事ではないけれど……とにかく、エルサちゃんを落ち着かせないと。
「モニカ!」
「せぁっ!」
「ごめん、ありがとうソフィー! エルサちゃんを落ち着かせて話してみるから……ソフィーとフィネさん、しばらくお願いできる?」
「承知しました。お任せを!」
エルサちゃんに気を取られていると、私に襲い掛かってきた魔物を、ソフィーとフィネさんが協力して切り倒してくれる。
危なかったわ……まだ内側に入り込んでいる魔物が、いなくなったわけじゃないんだから、油断はしないようにしないとね。
でもそこはそれ、私の周りを浮かんでクルクル回り続けるエルサちゃんをどうにかするため、しばらく周辺はソフィー達に任せる事にした。
数はリクさんの後方で戦っていた時よりかなり少ないし、味方も多いから、大丈夫よね――。
0
あなたにおすすめの小説
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる