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沈みゆく……
しおりを挟む「それじゃまずは……隔離結界っと」
俺とロジーナ、それからレッタさんを囲むように隔離結界を発動。
センテの方みたいな球体ではなく、高さ十メートルくらいの壁になるような形にして上はあけておく。
「ふぅん……ちょっと見づらいけど、これなら外の様子もわかるわね。結界だっけ? それがあるって事も、目に見えてわかるわ」
「まぁ、半透明だからね。特にそういう風にしようとは思ってなかったんだけど、結界を重ねに重ねたうえに、光を少しだけ屈折させるようにしたらこうなっただけだよ」
張られた結界をぺたぺたと触りながら、ロジーナが感心するように呟く。
相変わらず、レッタさんは放置だけど……まぁ意識を取り戻しても、うるさそうだからいいか。
隔離結界が半透明な理由は、俺にもよくわからない。
万にも及ぶ程の結界を重ねたからなのか、ロジーナに言ったように光を屈折させるように、歪めているからなのか……半透明どころか、光を遮断しないけど外は見えないガラスのような物になると思っていたんだけど。
「んー、気にしなくていいか……えっと次は……」
「ちょっと、今何か変な事を言わなかった? リクが変な事を言い出したら、ちょっとした事でもとんでもない事態になるかもしれないんだから、気を付けてよね!」
「いやいや、何も起こったりしないから大丈夫だと思うよ」
ぼそりと呟く俺の言葉に大きく反応するロジーナ……触って確かめていた隔離結界からも、慌てて離れた。
半透明になっている理由はわからないけど、特に気にするような理由じゃないだろうと結論付ける。
隔離結界からは、氷像になってピクリとも動かなくなった魔物達が薄っすらと見えるし、それでいい。
近くの魔物達は、内部まで完全に凍ったみたいで辺りは静まり返っていた。
無理に動こうとして崩れるようなのもいないし、俺やロジーナの声がよく響くね。
……雪が積もった深夜の静寂に似ている雰囲気……地面はともかく、周囲で凍っているのは魔物だから風流でもなんでもないけど。
「それじゃ、ちゃちゃっと終わらせよう……」
「気軽に言って、実際にできるのはリクだけよ。はぁ……」
呟いて、魔法のイメージに集中する。
近くでロジーナも溜め息を吐いていた……破壊神としてなら、俺以上の事ができるんじゃないかな? とは思ったけど、集中を乱しそうだからやめておく。
「……」
静かに、深く深く集中する。
頭に思い浮かべていくイメージとは別に、騒がしく荒れる感情や魔力なんかがはっきりと知覚できる。
けどそれは無視だ。
今は魔法の形を定める事の方が重要……。
「いや、違うな……」
荒れ狂う感情、それをそのまま開放するようなイメージでいいんだ。
魔力弾使ったり、をロジーナが言ったように物質化させて解放させればとも考えたけど、広範囲に及ぶ魔物達を確実に倒すのは難しそうだから……。
ふと頭に浮かぶのは、燃え盛る炎のフレイちゃん。
直前に、レッタさんに誘導された負の感情を止めようとしているのを見たからかもしれないけど……そうだね、炎がいいか。
「燃える、燃え盛る炎……」
炎なら、今も体の中で荒れ狂っている感情、衝動を発散するのにもちょうどいいし、イメージにも合っている……かもしれない。
けどただ燃えるだけじゃだめだ、凍らせているから燃えるにしても時間がかかってしまう。
魔法は当然俺を中心にして発動されるから……いや、本当にそうか? センテを包んだ時、結界にする魔力を魔力弾に近い状態で迸らせた。
つまり、離れた場所でも俺と魔力そのものが繋がっていればいい。
今ちょうど良く、周辺を調べるために広く魔力を広げているから……。
「全てを飲み込む炎……灰燼に帰す炎。原初の火……」
「ちょ、ちょっとリク……?」
ボソボソと口から自分の声が漏れるのがわかる。
それと共に、広げている魔力へと追加の魔力が供給される。
あちらこちら、数メートル離れた場所だったり、数十メートル離れた場所たっだり、数百メートル離れた場所だったり……数キロ離れた場所でも、ポツポツと血のように赤い何かが現れるのを感じる。
「火の雫、熱と破壊を内包する世界の涙……」
「あ、あちこちで何かとんでもないものが現れている気がするんだけど!?」
魔法名ではなく、むしろ呪文とも言えるような、イメージを固める言葉を紡ぎ出す。
ロジーナの声はなんとなく頭に入ってきているけど、意味を成さずに消えていく。
自意識と感情が混ざり合う……何かが笑っていた、喜んでいた、怒っていた、悲しんでいた。
複数の感情、数万、数十万の感情と自意識が混ざり合い、それはニヤリと笑った……。
「イメージ……コトバ……セカイ……」
混ざり合い、どろどろに溶け合ったワタシが、カラカラに乾いて張り付く喉を動かし音を出す。
「カギ……鍵……セカイ……世界を開ける。コトバ……言の葉」
音は声になり、言葉を形作っていった……。
イメージは世界への鍵。
言葉は言霊。
「開け、世界の門。燃やし尽くし焼き尽くす、命の炎を吐き出せ………」
炎で世界の鍵を作り、門を開いてイメージの現出へとアクセス。
言葉で現象を引き摺り出し、魔力で固定する。
イメージから言葉へ、そして魔力から世界へ繋げる。
「遍在する炎、門を開き命を燃やし、世界を炎に還す……」
「……! ……!」
深く深く、魔力と言葉の繋がり、意識と世界の繋がりに沈み込み、引き摺り出した現象を各地へ配置し遍在させる。
誰かの声が聞こえた気がした。
頭に響く声、だがそれは意味を成さずに消えていく。
ただただ深く、こじ開けた世界と魔力と意識を広げる。
「……っ!」
意識の端にノイズが走る。
何かが繋がりを絶とうとしたのかもしれない……が、それは無駄。
門をこじ開け、意識が繋がり遍在する魔力と繋がる体はもはや俺という個を飲み込み、世界となったから。
「っ! ……っ!」
「開け、開け……流れる炎を命に還し、命は炎に還る……」
何度も走る意識へのノイズ。
だがそれも深く沈んだ意識の中で、引きずり込まれた感情の中ではすぐに薄れて消えた。
意識? 感情? 疑念も飲み込まれ、意味が形になるよりも早く溶け込んでいく。
俺は何をして……? そうだ、魔物を殲滅しようと……世界を壊そうと?
誰かの声が暗く、だが全てが見える内部で響く。
誰の声かはわからない……自分だった何か、それとも別の何かかもわからない。
それでいい。
今はただ、目的をただ果たすだけの存在なのだから。
飲み込まれた? いや、飲み込んだんだ。
制御なんてする必要はない。
ただ溶け合い混ざり合い、一つになればいいだけ。
感情のままに、意識のままに、それらがあるのかどうかすらわからないが、導かれるままに。
繋がった世界と現象を表せばいいだけ……。
全は個、個は世界……さぁ、復讐と絶望の炎を――。
「全てを飲み込み、吐き出す炎を――」
音、声、魔力、意識、感情、全てを繋げて確定された未来を引き摺り出す。
遍在する魔力が、炎が、何もかもを飲み込み……そして弾けた――。
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