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いつ終わるとも知れない隔離生活
しおりを挟む「とんでもない事、か……現状が既にとんでもない事ではあるが」
自分でも、はっきりとしていないと思う。
そして、そんな考えや思いで、皆を危険に晒してしまうのは本来なら避けるべき事。
今後どうなるかは未知数だけれど、少なくとも結界がある限り、この中にいれば安全である事は保証されているのだから。
わざわざ結界を破って外に出ようとするなんて、シュットラウル様達からすれば、多くの人を危険に晒すための行動でしかないわ……でも、それでも……。
「もしリクが負の感情に支配されているなら、と仮定するのだわ。そうすると、その支配から逃れるには放っておく、おとなしく閉じ込められておく事が、必ずしも正しわけではないのだわ」
難しい表情のシュットラウル様や、マルクスさんを見て、私の考えが否定されると思ったのか、エルサちゃんが話しに入って来る。
私が表情を曇らせたから? いえ、エルサちゃんもリクさんとの繋がりが切れて、どうにかしたいと焦っているんだわ。
抱いている私の腕、エルサちゃんの手が乗っている部分に、力がこもっているから。
人間だったら、強く拳を握りしめている状態なのかもしれないわね。
「エルサ様、それはどういう……?」
マルクスさんが、話しだしたエルサちゃんに訝し気な視線を向ける。
意味がわからなかったというよりも、何を言いたいのかが気になった、という風ね。
シュットラウル様も、エルサちゃんに視線を向けているわ。
「よく考えるのだわ。もしリクが負の感情に支配されていて、破壊衝動なんかに体を任せていたら……それはリク自身が抵抗できなかった、制御したり反発できなかったって事なのだわ。そんな状態、いつまで続くと思うのだわ? 自然に、そのうち解消されるのだわ?」
「それは……しかし、結界を破る事とは関係ないのではないですか?」
エルサちゃんの話に、シュットラウル様が反論。
確かに、いつまで支配が続くのかという事と、結界を破る事は直接関係ない気がするわ。
結界を破ったところで、私達が何もできないのなら、むやみに危険へと飛び込んで行こうとしているだけ……我ながら、結界を破ってリクさんの所に行きたいのに、否定する事を考えてしまっているわね。
「関係あるのだわ。自然に解消できるのならいつまで待てばいいのだわ? その時、この結界はまだ維持されているのだわ? そんな保証、どこにもないのだわ。こう考える事もできるのだわ。リクが最後の理性で、もう自分で他の事ができないから今こうして結界で私達だけでも守れるようにした……とだわ。それは外が危険になるということでもあるのだけどだわ、でも、リクだけじゃどうにもならないという事でもあるのだわ」
「リク様だけでは……」
「待っていても、意味はあまりないと?」
「ないとは言わないのだわ。安全なのは間違いないのだわ。けど、リクへの負の感情の支配がいつまでも終わらなかったら……ずっと維持し続けられるとは思っていないけどだわ、でもいつまで中に閉じこもっていればいいのだわ? 一日だわ? それとも十日だわ? もしかしたら年単位でだわ?」
「……長引けば、必ずしも結界内が安全であり続けるわけもない、か」
一日や二日ならまだいいと思うわ。
むしろ、戦い続けてきた人達が休めるから。
でも、それがずっと続けばどうなるか……結界が維持されている限り外に出られなければ、街は、人は緩やかに壊滅へと向かう。
私でも少し考えればわかるけど、食糧の備蓄がなくなれば長くは保たない。
結界で囲まれている範囲は、自給自足で軍や冒険者全てを賄えるような広さじゃないわ。
私だけでもこうして長引く危険性を考えられるんだから、シュットラウル様やマルクスさんは、もっと色んな事が浮かんでいるでしょうね。
「あくまで可能性なのだわ。本当に長く続くかはわからないのだわ。けど、もしこのまま閉じこもっているのなら、核戦争後の核シェルターなのだわ。多少外は見れるけど、遠くの状況まではわからないのだわ」
「か、核戦争? 核シェルター?」
エルサちゃんの言葉に、首を傾げる皆。
私もよくわからなかったけれど……時折、こういう言葉を使うのよねエルサちゃんって。
リクさんはわかっているようで、通じ合っている気がしてちょっとだけ悔しいのだけれど……。
「間違えたのだわ。リク以外には通じない言葉だったのだわ。中にいれば外の事がわからず想像するしかない、と言いたかったのだわ。とにかく、閉じこもっていれば外がどうなっているのかわからず、ただただ守られるだけなのだわ。危険を伴うとしても、外に出れば多くの状況がわかるようになるのだわ。もしかしたら、リクを止める手立てだってあるかもしれないのだわ」
エルサちゃんは、私と同じく今すぐにでも外に出てリクさんがどうなっているかを確認したいはず。
それでも、自分だけじゃどうにもできないと理解して、シュットラウル様達を説得しようとしているのでしょうね。
不安なのはエルサちゃんもなのに……ちょっと腕が痛いわ。
「エルサ様の言いたい事はわかります。確かに、外に出ようとしなければ状況が変わらないかもしれないし、どうなっているかもわからない。本当に大丈夫なのか、リク殿に対して以外にも我々自身も不安に駆られながら過ごす事になるでしょう」
「リク様に守られている、という事に安心しきっていても長く続けば、いつ出られるのかと不安になります。成る程、エルサ様に言われて気付きましたが、確かにその通りです」
凄いわエルサちゃん、私が上手く伝えられない感情を訴えかけるだけだったのに、エルサちゃんは色んな事を考えて、色んな可能性を思い浮かべていたのね。
マルクスさんは、最初から私からの要請で結界を破るよう動こうとしてくれていたけれど、シュットラウルさんはどちらかと言うと否定的だった。
というのに、今は雰囲気が変わってきているわ。
「それにもし、リクが自然に支配から解放されなかった場合は、私達から呼びかける必要があるかもしれないのだわ」
「私達から……」
私達の呼びかけに、リクさんが応えてくれるのか……エルサちゃんの言っている内容に、希望ともしかしたら届かない不安が同時に沸き上がる。
リクさんにとって、私達がどうでもいい存在だったら、なんて思いまで浮かんで来たわ。
いえ、どうでもいいのなら、こうして結界で守ろうとはしないはず……だからきっと私達が呼びかけたらリクさんも応えてくれるのではないか、という希望。
「呼びかけて、どうにかなるものなのでしょうか?」
「リクも人間なのだわ。だから、多くの負の感情に晒されて衝動に飲み込まれたかもしれないのだわ。けど、親しい人との繋がりが全て切れたわけではないのだわ。もし切れていても、繋ぎ合わせればリクが自分を取り戻せるかもしれないのだわ」
親しい人の繋がり、の部分でエルサちゃんの手に力がさらにこもったわね。
間違いなく、エルサちゃん自身との繋がりの事も考えているのでしょうね……。
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