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モフモフの汚れはリクにとっての損失
しおりを挟む「あぁ! リネルトさん、アマリーラさんも! 尻尾が……耳も!」
「え、はい?」
「ど、どうされましたかリク様!? 尻尾と耳でしたら、リク様にならいくらでも……!」
突然大きな声を出した俺に驚くリネルトさん。
アマリーラさんは俺が獣の尻尾と耳に関心を向けている、と勘違いをしているようだけど……いや、モフモフしてそうだなとか、感心を持っていないわけじゃないけどそれはともかく。
リネルトさんもアマリーラさんも、森の中を動き回っていたからか、木をなぎ倒すように動いていたからか、木の葉や土埃などで汚れている。
明るい場所じゃないのではっきりとは見えないけど、毛色などもくすんでいるんだろうな……そうなるともちろん、モフモフも損なわれているはずだ。
「こんな……汚れてしまったら、重大な損失ですよ! とにかく、葉っぱだけでも払っておかないと!」
「リクさん!?」
そう言って、何やらモニカさんの驚く声が聞こえた気がしつつも、リネルトさんやアマリーラさんの尻尾に付いている葉っぱなどを払い落とす。
「あぁもう、耳の方も……」
「にゃふん……あふ……あ、リク様に……これはご褒美でしょうか……?」
「ちょ、ちょっと待ってくだあふんっ! そこは弱……くふ……!」
アマリーラさんとリネルトさんの、妙な声にも気づかず、俺はモフモフを堪能する余裕すらなく二人の尻尾や耳を撫でて、毛が絡んだ葉っぱなどを払い落としていった――。
「ん……ふ……さすが、リク様です」
「テクニシャンですよぉ……ふぅ……はぁ……」
「……申し訳ございませんでした」
顔を赤らめ、妙に色っぽい吐息を漏らすアマリーラさんとリネルトさんの前で、俺は土の上に正座をして深々と頭を下げた。
俺の横には、腰に手を当てて鬼の角でも生えているかのように錯覚するモニカさんが立っている。
「もうリクさんは! 獣人の尻尾と耳は、とにかく敏感なの! それを……女性の二人のそんな場所を、断りもなくいきなり触れるなんて!!」
「モフモフが損なわれるのを避けたく……いえ、すみません。言い訳無用ですね、はい……」
横に立ったモニカさんから、怒りの声。
モフモフが損なわれるという、世界の損失を前に正気じゃいられなかった……という言い訳は、モニカさんの睨み一つで押し潰される。
ヘルサルにある武具店のエリノアさんという獣人女性の店員さんに、ユノが尻尾をモフッていた事はあって、多少は知っていたけど、さすがに無許可で女性の獣人の尻尾や耳に触れるのはご法度過ぎたらしい。
しばらくの間、モニカさんの説教を正座で聞く。
一応、これからもアマリーラさんやリネルトさんと行動を共にする事があるため、尻尾や耳の事も本人達から聞いた。
モフモフな耳はともかく、尻尾は人間にはないものだけど、獣人にとっては重要な器官でもあるらしい。
獣人の種類によって、尻尾の形や耳の形、場所などは違うみたいだけど、とにかく敏感。
それでいて、耳は人間よりも聴覚が鋭く、離れた場所の小さな音を聞き分けられたりもするらしい。
そして尻尾……アマリーラさんの長くて全体が柔らかい毛に包まれている猫っぽいものと、リネルトさんのは細長く先っぽの付近がフサフサの毛で覆われている、牛っぽいものだけど。
それらは、感情によって無意識に動く事があるのはともかくとして、立っている時、動いている時などなど、状況に応じてバランスを取るために必要なのだとか。
尻尾が動かせない状況だと、立っているのも歩くのも難しいらしい。
できなくはないけど、ちょっとした刺激で倒れてしまうとか。
さらに、空気を尻尾で感じて周囲などの様子を窺ったりなどもできる優れものと聞いて、触覚かな? とは思ったけど、口には出さないでおく。
これ以上、モニカさんを怒らせたくないからね……アマリーラさん達にも失礼だし。
ともかく、獣人にとって大切な器官である尻尾と耳は、誇りでもあるらしく、特に戦闘系と言われえるアマリーラさん達のように傭兵をしている獣人さん達は、不用意に触れられる事を禁じているとか。
警戒しているとか、嫌がるではなく、禁じているというところが重要みたいだ。
まぁ、尻尾の位置的に触れられるイコール背中を取られるのと一緒だから、不覚を取る事と同義とかなんとか。
ともかく、気心の知れない相手は、絶対に触ってはならないものだと。
「そんな大事な尻尾と耳を触ってしまって、本当に申し訳ございませんでした!」
アマリーラさんとリネルトさんに、尻尾の重要性を聞き、モニカさんに説教をされた後改めて二人に対し、深々と頭を下げる。
正座している足は、しびれるを通り越してもう感覚がないけど、なんだか土下座しているみたいだ。
いやまぁ、土下座しないといけない事をしたのは俺なんだけど。
「い、いえ……驚きはしましたが、リク様には身も心も捧げておりますので……。ですが、できれば前もって言って欲しかったと」
「リク様がお望みならぁ、私は構いませんよぉ? 驚いたのは確かですけど……」
なんて、アマリーラさんとリネルトさんの二人共、尻尾や耳を隠しながらそう言う。
アマリーラさんは、割と豪快なところがあるけど妙に恥ずかしそうにして、顔を真っ赤にしているね……意外と乙女?
リネルトさんは、妙なしなを作っているけど、それでもアマリーラさんと同じく顔が赤いので、恥ずかしさを冗談めかして誤魔化しているんだろうと思う。
エルサに鈍いと言われ続けている俺だけど、さすがにこの反応を見て、獣人の女性の尻尾や耳を触る事の別の意味を察してしまった。
なんというか、エアラハールさんと同じ事をしてしまったって事なんだろう。
改めてもう一度、深くお詫びをした――。
「はぁ……リクさんがあんな事をするから、少し遅くなってしまったわね」
「うぅ、ごめん。モニカさんに謝っても仕方ないかもしれないけど……」
「む、あちらに冒険者がいますね。撤収する準備をしているようです」
なんとか、アマリーラさん達に許してもらって、もうしないと約束した後再び本来の目的である冒険者さん探しを再開。
まだ少し怒っている様子のモニカさんとは別に、カイツさんはマイペースというか淡々と冒険者さんがいるところに案内してくれた。
とりあえず、気を取り直して……というか切り替えないとね。
昼間でも薄暗い森の中は、もうかなり暗くなっていて明りがないと遠くまで見えないくらいになっているし、俺達も戻らないといけないし。
「よし、それじゃ街に戻るぞ!」
「いやぁ、上々な成果だったんじゃないか?」
「まぁ、俺達にしてはな。だが、他にも冒険者が森に入っているから、俺たち以上の成果を持って帰るのもいるだろう」
「リク様のクランに入るには、もう少し成果を求めたかったが……これ以上暗くなると俺達の方が危ないからな、仕方ない」
などと話している冒険者さん達、男性三人と女性一人という珍しい組み合わせだ。
男性三人に号令をかけていた女性が、パーティリーダ―のようだね。
他に、二人程森に入っているにしては重装備の人がいるけど、そちらの二人は王軍の兵士さんだろう。
観察というか見学としてついてきているので、冒険者さんの行動に関しては特に口出しはしていない様子だ……まぁ、戻ると聞いてほっとした雰囲気は出しているけど。
多分、重装備で森に入って動き回っていたから、疲れてしまったんだろうね。
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