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森の中での報告会

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「それじゃあ、そちらは何組かの冒険者を助け出したんですね」
「はいぃ。ワイバーンに助けを求められない人や、そもそも助けを呼ばない冒険者もいましてぇ……」

 マンドラーゴの事はともかく、リネルトさん達が森に入ってからの状況だ。
 俺達の方は、無事な冒険者がほとんどだったし、いても少し怪我をしたくらいだったけど、リネルトさん達の方は違ったみたいだ。
 死者は出ていないけど、放っておいたらそうなってもおかしくない冒険者とも何度か遭遇し、ワイバーンに乗せたり森の外へ連れたり、他の冒険者に任せたり、とかもあったらしい。
 あと、危険だったから魔物との戦闘に乱入して助けたりとか。

「リク様達は、森の奥で冒険者達と会ったんですよねぇ? そういう人達は、森の魔物を倒しながら進んでいるので、疲れなどはあるとしても戦闘としては心配なかったんでしょうねぇ」
「成る程、そこまで来られる人達だから、無事だったって事ですね」
「そういう事ですぅ」

 森の中に、それでなくても半分なくなっているから、ここが森の中心部という印などはないけど、俺達は大体真ん中あたりをうろうろしていた。
 今いるここも、真ん中より少し東に寄った場所で、昨日大量にラミアウネと戦った場所とそう離れていないくらいだからね。
 そして、西の端から森に入った冒険者さん達が、その付近まで来られるという事はそれだけ強いという事でもある。
 途中で魔物と遭遇しても難なく倒して、密集した木々の間を通って奥まで入れるわけだから。

 ふるいにかけられたように、森に慣れない冒険者さん達や、魔物と何度も戦うのが厳しい冒険者さん達は、それまでに脱落するって事だろう。
 そんな冒険者さん達に、リネルトさん達は遭遇したってわけか。
 話を聞いて、ワイバーンで空から、リネルトさん達に後ろから、冒険者さん達の見守りを任せて良かったと思う。
 何もしなかったら、死者も出ていただろうから。

 まぁ、基本的に冒険者は魔物と戦う、森の奥などの通常は人が踏み込まない場所の探索などをするため、自己責任。
 もし何かがあって命を落としても、仕方ない事……という風潮ではあるけど、それでもできるだけ生存率は高い方がいいからね。

「うぅ……リネルトばかりリク様と話していてズルイぞ……」
「だってぇ、アマリーラさんだと話が進みませんからぁ」
「ははは……」

 放っておかれたアマリーラさんが、少し涙目になっているけどそれはともかく。
 リネルトさんと情報交換をして、明日からも気を付けて冒険者を見守らないと、危険かもしれないという結論を出す。
 まぁ、今日で十分痛い目を見た冒険者は、大体が俺の作るクランという話やなんとなくで参加した人達もいるみたいだし、明日からは数が減るだろう。
 魔物も順調に減っているようだけどね。

「そういえば、そちらも木を倒して進んでいたようですけど……冒険者さん達には逃げられなかったんですか?」

 俺が木を斬り倒していたのより、小さめの木を倒していたので音が少し小さかったとはいえ、それでも離れていても届くほどの轟音を響かせていた。
 ソフィー達が言っていた通りなら、木が倒れる轟音を聞いたらリネルトさん達からも冒険者さんが離れて行ってもおかしくないんじゃないかと思っていたからね。

「あれは……木々の間が歩きにくくて、アマリーラさんが業を煮やした結果、暴れ始めたんですけどねぇ。でも、特に冒険者が逃げたという事はありませんでしたよぉ?」
「むしろ、助かるし心強いとも言っていました、リク様!」
「むぅ、どうしてそちらはそうだったんでしょうか……」

 アマリーラさんが、というのは置いておいて……俺達とは状況が違った事に疑問を持つ。
 しれっと、会話にアマリーラさんが参加しているけど、それは気にしないでおこう。
 色々と大袈裟ではあるけど邪険に扱うつもりはないし。

「俺が木を斬り倒していた時は……」
「あぁ、成る程ぉ。だとしたら……」
「うむ、おそらくそうでしょうな」

 適当に相槌を打つアマリーラさんはともかく、俺達の状況を話して納得した様子のリネルトさんに、どういう事かを教えてもらった。
 問題は、森に入った位置にあったらしい。
 なんでも、俺達は森の南から……大体の中心地から南の位置だね。
 そこから入ったために、冒険者さん達には俺がやっているとはわからなかったらしい。

 けどリネルトさん達は、冒険者さん達のように西から入ったので、こんな事ができるのは魔物ではなく、アマリーラさんだろうと考えられたからだろうと。
 むしろ、俺とアマリーラさん達が別れて森に入るとまでは知らなかったため、西側の方が俺がやっていると思われていたりもしたとか。
 それでその音に驚いて、魔物が逃げたり、冒険者さんと戦っている最中の魔物が驚いて隙を見せる事などがあったため、助けにもなったらしい。
 西側というか、森の外に近い場所ではラミアウネに追われた魔物が多いので、もともと臆病な群れとかもいて、それで大きな音に驚くのが多かったみたいだ。

 奥まった場所にいる魔物はまた別で、同じ種類でも肝が据わっているというか、数の多い群れだったりしてそれくらいではあまり動じないのかもしれない。
 それで、俺が木を斬り倒しても発見した魔物達は逃げていなかったんだな。
 多少は驚いてはいたのかもしれないけど……。

 あと、戦闘に入る前、魔物がいる場所の近くまで行けば俺もさすがに木を斬り倒すような、目立つ行動はしなかったので、それもあるかもしれない。
 カイツさんのおかげで、確実にこちらが先に魔物を発見できるというアドバンテージがあるのに、それを捨てる手はないからね。

「……そろそろ日も暮れますし、細かい事は戻ってからにしましょう」

 遭遇した冒険者さん達について、大まかには聞いたけど明日の事も含めて、詳細は森を出てからという事で話を終わらせる。
 ここでこうして、ずっと話していてもいけないからな……それでも結構話し込んでしまったけど。
 とりあえず、今日のところはリネルトさん達の方も俺達も、特に大きな事はなく無事に役目を全うできたってところだろうな。
 あ、ワイバーン達もちゃんと労っておかないとな……ご褒美に美味しい物、とかはほとんど食べ物を欲しがらないからどうするか迷うけど。

 ……時間がある時に、ワイバーンボウリングをしてやれば喜ぶかな?
 ワイバーンボウリングとは、ワイバーン数体や樽など何かをピンに見立てて、丸まったワイバーンを転がせて倒す遊びだ。
 いつの間にか、センテにいる王軍の中で流行っていた……兵士さん達の駐屯地にいるワイバーン達が求めた結果らしいけど。

「そうですねぇ。森の中にいる冒険者も少なくなってきましたし、まだいる人には、もう帰るよう促しましょうかぁ」
「あはは、それじゃあまるで引率みたいですね」

 リネルトさんを先頭に、冒険者さん達がずらりと並んで森を出ていく様子を想像してしまった。
 のんびりした雰囲気があるから、リネルトさんは保母さんとか向いているのかもしれないし、子供達にも懐かれそうだ。
 現にユノは結構リネルトさんに懐いているから……冒険者さん達は園児じゃないけど。
 と、適当な考えを打ち切って、もう少しだけ森を見て回るためにリネルトさん達と別れようとしたところで気付いた――。

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