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飛来するレッタさん
しおりを挟む魔力感知も驚きでちょっとだけおろそかになっていたせいもあるけど、俺の隙を作って仲間を逃がし、さらに攻撃を加えるアクリスはかなり頑張ったと思う。
ともあれその塊を、時間が経って体を覆う魔力が戻りつつあるのに任せて、左手の拳で叩き割る。
そこからもう少し踏み込んで、予備の剣を鞘から抜いて魔法のタメから解放されたアクリスが突進してくるのに合わせて、眉間へと突き刺した。
「ふぅ……よし、追いかける!」
息を吐いている暇なく、突き刺した剣をアクリスから抜き、倒れるのを見守る時間も惜しいとばかりに、逃げたアクリスの方へと向かった走る。
一瞬でトップスピードになった俺が、自分で言うのもなんだけど弾丸のように飛び出して、逃げたアクリスを補足。
アクリスも必死なのか、かなりの速度で走っているけど追いつけない程じゃない……。
魔力感知の範囲内にアクリスが入り、徐々に距離を縮めて……。
「巨大な岩!?」
フッと俺自身に影が差したのに気付き、上を見上げるととんでもない速度で横から岩が飛んで来ていた。
俺目掛けて……ではなく、アクリス目掛けてだ。
狙いがアクリスという事は、これは……!
「逃げたアクリスは任せなさいって言っていたでしょう?」
「レッタさん!?」
その巨大な岩の上から、ヒョコッと顔をのぞかせたのはレッタさん。
え、うそ、大量の土を固めて岩にして飛ばす、とかならまだしも、その上に乗ってるの!?
なんて俺の驚きを余所に、走って逃げるアクリスに横から近付いて行く。
見ている限りでは岩を操っているとかではなく、ただ真っ直ぐ飛んでいるだけで、アクリスが逃げる方角、さらに逃げる速度から岩の到達地点と合わさるように飛んでいる……んだろう、多分。
「角度良し……さぁ、絶望しなさい!」
岩の上から聞こえて来るレッタさんの声。
物騒な言葉な気がするけど楽しそうだなぁ……まぁあのまま巨大な岩がぶつかれば、アクリスなんてひとたまりもないし、そりゃ絶望するよね。
なんて思って、走って追いかけながらも注目するのは飛んでいる岩。
段々と高度を落として、アクリスにぶつかるんだろうと予想した……あれ、岩の高度が落ちない? ずっと同じ高さを飛んでいる?
いや、ほんの少し低くなって行っている気はするけど、一体どんな勢いで飛ばされた岩なのか。
というか、このままじゃアクリスの上を通過するだけのような?
そう思った瞬間、アクリスの斜め上に岩が差し掛かった刹那……。
「シャドウニードル!」
レッタさんの声が周囲に響き渡り、地面から突き出した針によってアクリスが縫い付けらた。
黒い針、かな? 真っ黒なそれは無数に地面から突き出しているようで、急所とか関係なく突き刺されたアクリスはなすすべなく、一瞬で動かなくなった。
「ふふん。ロジーナ様、私の活躍を見て下さいましたかぁ!?」
「……遠くてあんまり見えてないとは思いますけど」
誇らしげなレッタさんの声は、なおも飛んでアクリスを通過し、さらに俺からも離れて行く岩の上から聞こえて来る。
ドップラー効果のように、段々と小さくなっていくけど……そもそもロジーナからはほぼ見えていないと思う。
俺の声は向こうに届いていないだろうけど、まぁレッタさんが楽しそうだからいいか。
というかあの岩、どうやって止まるんだろう? グングンと離れて飛んで行っている中で、少しずつ高度を落として行っているのはわかるんだけど……もしかして地面に激突するまであのままなのかな?
なんて思っていたら、その岩が急に空中で静止。
飛んでいく勢い自体がなくなった瞬間、ズンッとこちらにまで響く重い音と共に地面へと落下した。
「……無事、ではあるんだろうね。岩が壊れているわけでもなさそうだし。はぁ、まぁ何はともあれアクリスの討伐は終了かな」
レッタさんを見ていたかはともかく、こちらに近付いてくるユノやロジーナ、リネルトさんに手を振りつつ、追いかけていた今は動かなくなったアクリスの所へ。
「あれ、さっきの黒い針は……魔法だから、消えたって事なのかな?」
アクリスを突き刺していた黒い針は、影も形もなくただ全身に二、三センチの無数の穴を開けているアクリスがあるだけだった。
「魔法だからと言うのも間違いではないわ。魔法で実体化させた影を突き刺したんだもの」
「レッタさん」
アクリスを観察しながら呟く俺に、岩から降りてきたレッタさんがそう言った。
レッタさんは特に怪我やどこかを痛めた様子はないので、岩が落ちた事などでの影響はなさそうだ。
まぁ俺と違って、後先考えず無茶な事はしないか。
「影って事は……あぁ、そういえば」
レッタさんが乗っていた巨大な岩が、アクリスの真上ではなく斜めに差し掛かった位置になったあたりで、魔法を放っていた。
それとレッタさん自身も角度良しとか言っていたし、多分岩と斜めから差し込む太陽の光の位置を調整して、アクリスの真下に影を作ったんだろう。
「大体はわかったようね。影を利用する魔法だけれど、影がなくては使えない……制約って程大袈裟じゃないけど、制限がある魔法なのよ。だから、影がなくなればその魔法自体も霧散するってわけ」
「だから、アクリスを突き刺した針が何も残っていないんですね……」
なんという、使い方によっては危険を感じる魔法かと思う。
魔力を調べる術があれば別だけど、目で見る限りでは痕跡がほぼ残らないようなもの……魔力も、時間が経てば空気中に溶け込んで調べようがなくなるし。
暗殺向きの魔法、というイメージだ。
復讐を誓い、それしか生きる意味を見出せなくなったレッタさんには、ある意味合っているような気がしないでもないけど。
それに、光に当たれば消えるのは欠点ではあるんだろうけど、逆に言えば夜ならば使い放題のようなきもするなぁ。
「闇を使うわけじゃないから、多分リクが考えているよりも不便な魔法よ。あくまでも、影がなければいけないから。つまり、光があってこそ影が作られるってわけ」
「成る程。夜とかは関係なく、影があるかどうかが重要なのか」
「光が強ければ強い程濃い影ができる。その影が濃いかどうかも関わって来るわ。夜のかがり火で作った影なら、アクリスを貫く程にするのは難しいでしょうね」
レッタさんと話しているうちに、こちらへ来たロジーナが俺の考えている事を見抜いて教えてくれた。
そこまで便利ってわけでもないみたいだ。
闇ではなく影が重要なら、光がなければいけないわけで……。
場合によっては昼間の方が使いやすいとかもあるかもしれない。
「ロジーナ様ぁ! 私の活躍、見て下さいましたか!?」
「あーはいはい。遠目でなんとなく砂粒が動いているくらいの感覚で見ていたわよ」
「はぁ~、ロジーナ様に見て頂いた。それだけで私は満足です!」
「それって……いや、レッタさんが満足そうだからいいか」
砂粒くらいだったら、活躍を見るも何もないんじゃないかと思ったけど、ぞんざいに答えるロジーナにも満足して満面の笑みを浮かべるレッタさんを邪魔するのは悪いし、余計な事は言わないようにした――。
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