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コンスタンスは認めざるを得ない。勉強はやれと言われているから仕方なくやっているに過ぎない。興味もないし、まして人にそれを教えたいなどと思えない。それよりもデパートや商店街で新作のドレスや帽子、そして買えなくともきらびやかな宝石を眺め、カフェでゆったりとくつろぎたい。コンスタンスは美しいもの、贅沢なものが大好きな娘なのだ。
ふと、以前、父と食事をしたシャンゼリゼ近くのレストランで見かけた女性たちのことを思い出した。
そこで、何かを待っているように飲み物だけを注文して、絶えず出入り口に目をやっていた女性に目がいった。身なりはかなり豪華だが、良家の令嬢や人妻とはどこかちがって見える。うまく説明できないが、普通の女性とはややちがって見えた。コンスタンスの知っている教師や秘書、メイドや家政婦、事務員、店員という職種の女性たちとはどこかちがう。まとっている雰囲気がなにかちがうのだ。
とにかく、堅気――その言葉すらそのときは知らなかったが――ではないのだ。一番近いところで女優だろうか。興味をひかれてついつい彼女を目で追っていると、父親に注意された。
(コンスタンス、あんまり見てはいけないよ)
(パパ、あの人きれいね)
異質ではあっても、その女性には独特の美しさがあった。ドレスも高価そうだし、物腰もどこか目を引くものがあり、身体に濁った紫の風をまといつかせてているようで、それはふしぎと印象的な雰囲気だった。幼かったコンスタンスには解らなかったが、それは色気というものなのだろう。
(しっ! コンスタンス、あんな人と関わってはいけないよ。あ、ほら、新しいママンが来たよ)
そうだ。そのとき後妻となるエマを紹介されたのだ。だが、現れた新たな母は、そのとき見かけた女性ほど美しくは思えなかった。
思えば、エマだとてあのときの女性と似たようなものだったのだ。いや、聞いた話ではモンマルトルの酒場で働いていたというのだから、シャンゼリゼ通りで客を待っていたあの女性の方が、ずっと上級だったのだろう。モンマルトルの酒場女は庶民を相手にするが、シャンゼリゼ通りの女は紳士階級を相手にする。コンスタンスは生意気にもそんなことを考えてから、また悩みはじめた。
ふと、以前、父と食事をしたシャンゼリゼ近くのレストランで見かけた女性たちのことを思い出した。
そこで、何かを待っているように飲み物だけを注文して、絶えず出入り口に目をやっていた女性に目がいった。身なりはかなり豪華だが、良家の令嬢や人妻とはどこかちがって見える。うまく説明できないが、普通の女性とはややちがって見えた。コンスタンスの知っている教師や秘書、メイドや家政婦、事務員、店員という職種の女性たちとはどこかちがう。まとっている雰囲気がなにかちがうのだ。
とにかく、堅気――その言葉すらそのときは知らなかったが――ではないのだ。一番近いところで女優だろうか。興味をひかれてついつい彼女を目で追っていると、父親に注意された。
(コンスタンス、あんまり見てはいけないよ)
(パパ、あの人きれいね)
異質ではあっても、その女性には独特の美しさがあった。ドレスも高価そうだし、物腰もどこか目を引くものがあり、身体に濁った紫の風をまといつかせてているようで、それはふしぎと印象的な雰囲気だった。幼かったコンスタンスには解らなかったが、それは色気というものなのだろう。
(しっ! コンスタンス、あんな人と関わってはいけないよ。あ、ほら、新しいママンが来たよ)
そうだ。そのとき後妻となるエマを紹介されたのだ。だが、現れた新たな母は、そのとき見かけた女性ほど美しくは思えなかった。
思えば、エマだとてあのときの女性と似たようなものだったのだ。いや、聞いた話ではモンマルトルの酒場で働いていたというのだから、シャンゼリゼ通りで客を待っていたあの女性の方が、ずっと上級だったのだろう。モンマルトルの酒場女は庶民を相手にするが、シャンゼリゼ通りの女は紳士階級を相手にする。コンスタンスは生意気にもそんなことを考えてから、また悩みはじめた。
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