メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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「もうこうなったら、今日はとことん言わせてもらうさ。あんたももう大人だ、真実を知るがいい」

 エマの目は、怒りか恨みにか、火を吹きそうに燃えていた。

「いつもいつもあたしを馬鹿にして見下してくれたけれど、あんたの身体のなかにはあたしと同じ血が流れているんだよ。あんたは売春婦と女たらしの腰抜け野郎の子なんだよ。おまけに育ての母親はジゴロ狂いの色気違いさ。男に狂って警察にしょっぴかれたんだから。あたしは自分の身体を売ったけれど、マリーは逆に金で男の身体を買っていたんだよ」

「やめて!」

 エマはまた身体をそらして笑った。カーテンを閉め切ったままの薄暗い家のなかに、地獄の底から響いてくるような声が轟きわたる。

「ひっ、ひっ、ひっ。お、おまけに、あんた知っているかい? マリーが今どこでどうしているか」

「やめて……もう」 聞くのが怖く、コンスタンスはそう言っていた。

「聞いた話じゃ、マルセイユの売春宿で船乗り相手に身を売っているらしいよ」

 ぱりん、とコンスタンスの頭のなかで玻璃がくだけるような音がひびいた。

「う、嘘よ……」

「あそこまで堕ちたらもう女じゃないね、けだものだよ。アハハハハハハ! あんたの大好きなママンは、けだものなんだよ! け・だ・も・の!」 

 エマ自身がすでに人ではなくけだものになっている。もうコンスタンスは我慢できない。

「いや―! うるさい、黙れ!」 

「ひっ! なにするんだい!」

 無我夢中になったコンスタンスは手に触れたものをエマ向かって投げつけていた。

 カップ、皿、スプーンが床に散乱する。

 つぎに手に触れたかなり重たいものも、コンスタンスはほとんど無意識でエマに向かって投げつけていた。

「ひっ!」

 まだ半分ほど中身の残っていた酒瓶が割れるすさまじい音が部屋に響き、床にワインがなまり色の波となってひろがり、さらにそこに赤黒い滴りが混じる。鼻血だろう。

 次の瞬間、咄嗟にコンスタンスは身をひるがえしていた。

「うう……お待ち」

 顔をおさえて床に沈みこみながら自分を呼ぶ女の声をふりきって、コンスタンスはこの地獄の家から逃げ出すためにひたすら走った。 

 短い廊下をぬけ、玄関の扉を開け明るい外の世界に出たときコンスタンスは自分に誓っていた。

(二度とこの家には戻らないわ……。二度と) 
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