メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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「まぁ、そういう子もいるだろうけれど」

 一瞬、クレオは考え込むような顔を見せたが、すぐに蔑むような表情になる。

「それだって友達が持っているようなドレスや帽子が欲しいからっていうような馬鹿げた悩みだよ。食べるものにも事欠いて身を売る女たちからしたら、ふざけるなって言いたくなるもんさ。僕は以前、きょうだいを養うために娼婦になった娘の話を取材したことがあるけれど、そういう事情を抱えてメゾン・クローズに入った子を見ていると、路上で気軽に男に声をかけて小遣こづかい稼ぎする娘たちなんて……馬鹿々々しくってさ」

 コンスタンスは下唇を噛んだ。

 食べるために身を売る娘は哀れで、ドレスを買うために身を売る娘はただ愚かだと誰に言い切れるだろうか。

 クラスの皆が持っている華やかなドレスをまとえない少女の青春というものがどれだけ惨めで暗いものになるか、この男装の女記者には想像できないのだろうか。できないだろう。こうして話していてどことなく感じるが、クレオは普通の少女時代を送らなかったにちがいない。良い意味でも悪い意味でも、通常の少女、女性とは、彼女はまるで違っている。
 
 そんな事を思うと、また目の前の女性記者に奇妙な好奇心と関心がコンスタンスの胸のなかでふくらむ。

 自分とは性格はまったく違うが、けっして嫌悪できない強烈な魅力がクレオにはある。

「今日は本当にありがとうございました。……あの、何かあったらまた連絡してもいいですか?」

 このまま別れるのが寂しいような物足りないような気持ちになって、コンスタンスはそんなことを言っていた。

 学院を辞めてしまえばもうアガットとは会えない。「マドレーヌ」の店の娘たちを、友人と呼ぶにはまだかすかな抵抗がある。向こうも、決してあからさまな敵意こそは見せないが、自分たちとコンスタンスがどこか違うことを察して、必要以上の好意は寄せてこない。

 彼女たちと友情をはぐくむときが来るなら、それはコンスタンスがあの家で彼女たちとおなじく娼婦の仕事をするようになったときだろう。

(それは……嫌よ。すくなくとも、今はまだ嫌……)

 身を売るにはまだ心の準備も覚悟もできていないのだ。コンスタンスのなかで、自分はそんな娘ではないという十代の乙女の矜持きょうじが叫ぶのだ。

「うん。あ、良かったら今住んでいるところの住所を教えてくれないかい?」

 困った……。

 だが、コンスタンスは店の住所を伝えた。記者らしくクレオはメモと筆記道具を常備しており、それらを手持ちのバッグから取り出すと書き記す。

「……わたし、そこの家でメイドの見習いみたいなことをしているんです」

「ああ、そうなんだ」

 コンスタンスの口調に察するものがあったのか、クレオはそれ以上は何も言わない。
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