メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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パリの一日 一

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 明後日は月曜である。コンスタンスはだるい身体に鞭打つようにして、とにかく持ち出せる荷物を用意した。

(とりあえず、ガブリエルの店へ行こう。なにもすぐ娼婦になるわけじゃないわ。しばらくは下働きででも置いてくれるかも)

 そう自分を必死に慰めてみる。

(うまくいけば、メイドでもしながら金持ち客に伝手つてを見つけて、別の仕事を紹介してもらえるかもしれない)

 そんな話を夢想するのは、やはりコンスタンスはまだ十六歳の世間知らずな娘だった。

 しかに世にまったくない話でもない。慈善好きな金満家が貧しい出自の少年少女に教育をあたえてくれることも世間には実際にある。娼館で働くコンスタンスに、出入りの客が欲ぬきで恩恵をもたらしてくれることも……あり得るかもしれないのだ。

 とにかくコンスタンスはそんな夢物語をむりやり信じることで自分を納得させ、「白猫」に身を寄せること決めたのだ。

 どのみちこの家は、明後日には債権者たちに差し押さえられ、家具から食器まですべて持っていかれてしまうことになるのだし、下手にそこに居合わせれば、それこそ血も涙もない債権者たちはコンスタンスに足りない分の借金を支払えと責め寄ってくるかもしれない。

 最悪の場合、彼らによってコンスタンスはどこか安手の売春宿に売り飛ばされてしまうこともありえる。それだけは絶対避けねばならなかった。

「これぐらいでいいかしら」

 コンスタンスはとにかく持って行けるだけのものを三つの大きな鞄にまとめた。一人で抱えて行くのは大変そうだ。

 つづいて家じゅうの引き出しをひっくりかえし、両親の寝室まで探してあるだけのお金をすべてあつめた。そこから馬車代ぐらいはなんとか出せるかもしれない。この数日は、「マドレーヌ」でチップとしてもらったお金でパンとハムを買ってしのいでいたが、それは完全になくなった。

「あ、そうだわ」

 エマが時折、酒屋や仕出し屋の支払いを廊下の壁にかけている絵の額縁の裏に置くのを見ていたことがあった。
父に、どこそこへの支払いがあるからここに置いておいて、と言うこともあれば、コンスタンスに集金が来たら、そこに置いてある封筒のお金のなかから払うように、と伝言することもあった。
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