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前の戦争の敗北や経済的不況からくる怒りやいらだちを、人々は金融界を牛耳るユダヤ人にぶつけたいのだ。アルザス出身のユダヤ系のドレフュスを、祖国を裏切った卑劣漢にしたくてたまらないのだ。
冤罪に苦しむドレフュスは気の毒だが、今のコンスタンスにはそんな世間のことや政治的な問題など考えている余裕もない。思えば、コンスタンスの家もまた経済不況によってあおりを受けた不運な市民のうちのひとつなのだ。ドレフュスに同情している暇も余裕もない。なにより関心がない。
大統領も競馬も反ドレフュス派も今のコンスタンスには遠いものである。
「それはそうと、マドモワゼル……コンスタンス、君、あれからビュルと会ったかい?」
マセ刑事はふと神妙な顔になった。
「え、いいえ」
コンスタンスは首を振った。ビュルともブリジットとも裁判のあと別れてそれきりだ。
「そうか。……マダム・オベールは、さすがにあの家は引き払ったようで、もういないし……。ビュルがどうしているものか気になってね。父親が病気でその薬代のために働いているというようなことを言っていたから、あの後どうしているのか……。また、どこか別の店に行ったんだろうかもしれないが、なんだか心配でね」
「……恋人ですものね。心配でしょう?」
コンスタンスはやや言葉に棘を含ませてみせる。刑事は肩をすくめた。
「やれやれ。……ま、恨まれてもしかたない。しかしこうなると私にも責任はあるからね。今朝、セーヌ河で溺死者があったというから確かめに行くつもりなんだ」
「え? まさかビュルが?」
さすがにコンスタンスは緊張した。あり得なくもない。
病気の親のために売春をして金を稼いでいた少女が、客の男性に恋心を抱いたものの、相手は刑事で彼女を罠にはめたのだ。傷心のあまりセーヌに身を投げても不思議ではない。
「かもしれない。死体は若い娘だったというからね」
「そ、そんな!」
恐怖と心配にコンスタンスは全身から血の気が引いたのを自覚した。
友人、と呼べるほどに親しくなったわけではないが、やはり同じ年頃で、事情を抱え、このパリで必死に生きていたビュルは、ドレフュスよりもはるかにコンスタンスにとって気になる存在である。
冤罪に苦しむドレフュスは気の毒だが、今のコンスタンスにはそんな世間のことや政治的な問題など考えている余裕もない。思えば、コンスタンスの家もまた経済不況によってあおりを受けた不運な市民のうちのひとつなのだ。ドレフュスに同情している暇も余裕もない。なにより関心がない。
大統領も競馬も反ドレフュス派も今のコンスタンスには遠いものである。
「それはそうと、マドモワゼル……コンスタンス、君、あれからビュルと会ったかい?」
マセ刑事はふと神妙な顔になった。
「え、いいえ」
コンスタンスは首を振った。ビュルともブリジットとも裁判のあと別れてそれきりだ。
「そうか。……マダム・オベールは、さすがにあの家は引き払ったようで、もういないし……。ビュルがどうしているものか気になってね。父親が病気でその薬代のために働いているというようなことを言っていたから、あの後どうしているのか……。また、どこか別の店に行ったんだろうかもしれないが、なんだか心配でね」
「……恋人ですものね。心配でしょう?」
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