君の中で世界は廻る

便葉

文字の大きさ
34 / 47

みぞれの頃 …5

しおりを挟む



きゆがそう言った後、流人がさりげなく目を伏せたのが分かった。
そして、ココアを手に持ったまま窓の方へ歩いて行く。


「外はみぞれが降ってるし、ここでしようっか。
きゆのお母さんの手料理が食べれるのは本当に有り難くて嬉しいよ。
大事にしような…
きゆのお父さんとお母さんの事…」


「…うん、ありがとう」


きゆは何かが引っかかったが、でもその時は素直に喜んだ。

院長室の小さな応接台は、きゆのお母さんの手作りのご馳走と島唯一のパン屋で作ってもらったバースデーケーキでぎゅうぎゅう詰めだ。
今日は二人ともアルコールは取らないと決め、コーラで乾杯した。


「きゆ、お誕生日おめでとう。
何歳になったんだっけ??」


きゆはわざとらしく聞いてくる流人をわざと睨みつけた。


「言いたくない」


「27歳のお誕生日おめでとう、きゆ」


流人はきゆを呼んで自分の膝の上に座らせた。


「見た感じは18歳にしか見えないけどな…」


「もう」


きゆが流人のほっぺを軽くつねると、流人はきゆの左頬のえくぼにキスをする。


「きゆ、あのスーツケースを開けてみて」


「また??」


きゆは驚いた顔で流人を見た。
またこの間と同じシチュエーションに、開ける前から可笑しくてたまらない。


そのスーツケースは、院長室の入口にわざとらしく置いてあった。
きゆは流人の顔をチラチラ見ながら前回と同じ表情を浮かべ、でも、前回のようなロマンチックな気分ではなくワクワク感満載のビックリ箱を開けるような可笑しさがつきまとう。


「また、バラの花がきっしり入ってる?」


流人はさあねと言ってとぼけた顔をした。


「え~~何だろう??」


きゆは恐る恐るそのスーツケースのファスナーを開けると、本当にビックリ箱のように何か白いフワフワしたものが飛び出してきた。


「何だろう?…」


「出して広げてみて」


きゆはその滑らかな手触りのレースのようなサテンのような美しい生地の大きな固まりを広げて、自分の目の高さまで持ち上げた。


「……流ちゃん、これ」


きゆは目の前に広がる真っ白なウェディングドレスに釘付けだった。
あまりの美しさにただ見惚れて言葉なんか出てこない。
流人はそんなきゆからドレスを取り上げ、きゆの体に合わせてみる。


「めっちゃ似合ってる…
サイズも多分大丈夫だと思う。
ドレス屋のお姉さんにきゆの写真をたくさん見せたら、絶対これがいいって皆で太鼓判を押してくれたんだ」


きゆはもう一度そのドレスを手に取ると、院長室にある小さな鏡にその姿を映した。


「……流ちゃん、ありがとう…
こんなに素敵なウェディングドレス、見たことがないよ…」


きゆは大粒の涙が溢れて、鏡に映る自分がよく見えない。
でも、幸せそうな顔をしてその鏡を覗きこむ流人の顔はちゃんと見えた。
きゆは大切にそのドレスをハンガーにかけると、倒れ込むように流人に抱きついた。

瑛太にあんな事を言われた後、気にしないように心掛けていたがきゆの心に小さな不安がつきまとった。
でも、違う…
流人は絶対に嘘はつかない…
きゆの今の心の中は、安堵感と流人を愛する想いで溢れている。


「まだ、終わりじゃないぞ」


「え?」


「もう一回、ちゃんとスーツケースを見てみ」


きゆは涙を拭ってもう一度スーツケースの中を覗いてみる。


「何もないよ」


「あるって、よく見てみて」


きゆはもう一度スーツケースを隈なく見た。


「あ……」


スーツケースの底の平面に、小さな何かがガムテープで貼り付けてある。
それも頑丈に…
きゆは丁寧に優しくそのガムテープを剥がすが、べったりくっついているガムテープは中々剥がれない。


「流ちゃん、こんなに強くガムテープ貼っちゃダメだよ、剥がれないじゃん」


「いいよ、べりっと剥がしちゃって。
スーツケースの中でガチャガチャならないように止めてただけだから」


流人は典型的なO型人間だ。四角い部屋も丸く掃いてしまう。
このプレゼントの中身は何か分からないけど、でも、こんなにべっとり貼るなんて…

きゆは流人の話は無視して、それでも丁寧に時間をかけて剥がし進めると、自分の胸の鼓動がどんどん大きくなるのが分かった。


「流ちゃん、これ…」


そのガムテープにグルグル巻きにされていた小さな箱の中身は、可愛らしいダイヤの石をあしらった綺麗な指輪だった。


「貸してみて」


流人はきゆからその指輪を取り上げて、きゆの左手の薬指に優しくはめてみる。


「これは俺が選んだんだ…
きゆのイメージにあった綺麗な指輪を…

気に入ってくれた?」


きゆはもう一度流人に抱きつき、泣きながらキスをした。


「気に入るに決まってるじゃん…
流ちゃんが私のために選んでくれたんだもの…
流ちゃん、本当にありがとう、嬉しくてたまらない…」


流人はきっとにやついているのだろう、キスをしながら流人の歯の感触を何度も感じたから。


「でも、あれは止めてね。
こんな大事な物をガムテープでグルグルにするなんてあり得ないから」


流人はキスをしながら肩をすくめた。
大切な物だからこそ転がらないように貼ったんだろ?と、心の中でぼやきながら。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ワケあり公子は諦めない

豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。 この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。 大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!? 妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。 そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!! ※なろう、カクヨムでも掲載しております。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里
ライト文芸
赤ちゃんからの幼馴染との初恋が、ずっと、心の端っこにある。 高校三年のある時から離れて、もうすぐ25歳なのに。 そんな時、同窓会の知らせが届いた。 吹っ切らなきゃ。 同窓会は三か月後。 私史上、いちばん綺麗になって、けじめをつけよう。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

処理中です...