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みぞれの頃 …5
しおりを挟むきゆがそう言った後、流人がさりげなく目を伏せたのが分かった。
そして、ココアを手に持ったまま窓の方へ歩いて行く。
「外はみぞれが降ってるし、ここでしようっか。
きゆのお母さんの手料理が食べれるのは本当に有り難くて嬉しいよ。
大事にしような…
きゆのお父さんとお母さんの事…」
「…うん、ありがとう」
きゆは何かが引っかかったが、でもその時は素直に喜んだ。
院長室の小さな応接台は、きゆのお母さんの手作りのご馳走と島唯一のパン屋で作ってもらったバースデーケーキでぎゅうぎゅう詰めだ。
今日は二人ともアルコールは取らないと決め、コーラで乾杯した。
「きゆ、お誕生日おめでとう。
何歳になったんだっけ??」
きゆはわざとらしく聞いてくる流人をわざと睨みつけた。
「言いたくない」
「27歳のお誕生日おめでとう、きゆ」
流人はきゆを呼んで自分の膝の上に座らせた。
「見た感じは18歳にしか見えないけどな…」
「もう」
きゆが流人のほっぺを軽くつねると、流人はきゆの左頬のえくぼにキスをする。
「きゆ、あのスーツケースを開けてみて」
「また??」
きゆは驚いた顔で流人を見た。
またこの間と同じシチュエーションに、開ける前から可笑しくてたまらない。
そのスーツケースは、院長室の入口にわざとらしく置いてあった。
きゆは流人の顔をチラチラ見ながら前回と同じ表情を浮かべ、でも、前回のようなロマンチックな気分ではなくワクワク感満載のビックリ箱を開けるような可笑しさがつきまとう。
「また、バラの花がきっしり入ってる?」
流人はさあねと言ってとぼけた顔をした。
「え~~何だろう??」
きゆは恐る恐るそのスーツケースのファスナーを開けると、本当にビックリ箱のように何か白いフワフワしたものが飛び出してきた。
「何だろう?…」
「出して広げてみて」
きゆはその滑らかな手触りのレースのようなサテンのような美しい生地の大きな固まりを広げて、自分の目の高さまで持ち上げた。
「……流ちゃん、これ」
きゆは目の前に広がる真っ白なウェディングドレスに釘付けだった。
あまりの美しさにただ見惚れて言葉なんか出てこない。
流人はそんなきゆからドレスを取り上げ、きゆの体に合わせてみる。
「めっちゃ似合ってる…
サイズも多分大丈夫だと思う。
ドレス屋のお姉さんにきゆの写真をたくさん見せたら、絶対これがいいって皆で太鼓判を押してくれたんだ」
きゆはもう一度そのドレスを手に取ると、院長室にある小さな鏡にその姿を映した。
「……流ちゃん、ありがとう…
こんなに素敵なウェディングドレス、見たことがないよ…」
きゆは大粒の涙が溢れて、鏡に映る自分がよく見えない。
でも、幸せそうな顔をしてその鏡を覗きこむ流人の顔はちゃんと見えた。
きゆは大切にそのドレスをハンガーにかけると、倒れ込むように流人に抱きついた。
瑛太にあんな事を言われた後、気にしないように心掛けていたがきゆの心に小さな不安がつきまとった。
でも、違う…
流人は絶対に嘘はつかない…
きゆの今の心の中は、安堵感と流人を愛する想いで溢れている。
「まだ、終わりじゃないぞ」
「え?」
「もう一回、ちゃんとスーツケースを見てみ」
きゆは涙を拭ってもう一度スーツケースの中を覗いてみる。
「何もないよ」
「あるって、よく見てみて」
きゆはもう一度スーツケースを隈なく見た。
「あ……」
スーツケースの底の平面に、小さな何かがガムテープで貼り付けてある。
それも頑丈に…
きゆは丁寧に優しくそのガムテープを剥がすが、べったりくっついているガムテープは中々剥がれない。
「流ちゃん、こんなに強くガムテープ貼っちゃダメだよ、剥がれないじゃん」
「いいよ、べりっと剥がしちゃって。
スーツケースの中でガチャガチャならないように止めてただけだから」
流人は典型的なO型人間だ。四角い部屋も丸く掃いてしまう。
このプレゼントの中身は何か分からないけど、でも、こんなにべっとり貼るなんて…
きゆは流人の話は無視して、それでも丁寧に時間をかけて剥がし進めると、自分の胸の鼓動がどんどん大きくなるのが分かった。
「流ちゃん、これ…」
そのガムテープにグルグル巻きにされていた小さな箱の中身は、可愛らしいダイヤの石をあしらった綺麗な指輪だった。
「貸してみて」
流人はきゆからその指輪を取り上げて、きゆの左手の薬指に優しくはめてみる。
「これは俺が選んだんだ…
きゆのイメージにあった綺麗な指輪を…
気に入ってくれた?」
きゆはもう一度流人に抱きつき、泣きながらキスをした。
「気に入るに決まってるじゃん…
流ちゃんが私のために選んでくれたんだもの…
流ちゃん、本当にありがとう、嬉しくてたまらない…」
流人はきっとにやついているのだろう、キスをしながら流人の歯の感触を何度も感じたから。
「でも、あれは止めてね。
こんな大事な物をガムテープでグルグルにするなんてあり得ないから」
流人はキスをしながら肩をすくめた。
大切な物だからこそ転がらないように貼ったんだろ?と、心の中でぼやきながら。
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