君の中で世界は廻る

便葉

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みぞれの頃 …6

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二人はウェディングドレスと指輪を眺めながら、きゆのお母さんが作ってくれたご馳走を食べた。
流人はきゆのお母さんの鶏の唐揚げが一番の好物だ。
大きな口を開けパクパクと鶏の唐揚げをほおばる流人を見て、きゆは一枚写真を撮る。


「お母さんに送っていい? きっと喜ぶから」


きゆがスマホを向けると、流人はから揚げを箸に持ちニッと笑った。
東京で美容室へ行ってきた流人は、またいいところのお坊ちゃまの雰囲気が戻ってきている。
きゆは、今の流人を早く母に見せてあげたくて、何枚も写真を撮った。




「なんか、外は吹雪いてる感じ?」


流人は窓の方を見てきゆにそう聞いた。


「ううん、雪は降ってないよ、雨混じりのみぞれが降ってるだけ。
この島にはあまり雪は降らないの、残念だけど…」


きゆは窓の方へ行き、外を確かめて残念そうに肩をすくめた。
その後に続いて流人も窓の近くへ来る。


「私の名前、何できゆか分かる?」


流人は後ろからきゆを抱きしめ、首を振った。


「27年前の今日は天気予報で雪予報が出てたんだって。
父と母は雪の降る日に娘が生まれるかもって喜んでたら、雪じゃなくみぞれだった。
本当はゆきって名前にする予定だったけど、みぞれだったから、ひっくり返ってきゆになったって笑って言ってた」


流人はきゆの両親の顔を思い浮かべ、笑うのを堪えた。


「ひどいよね…
ひっくり返したなんて…」


「いいじゃん、俺はきゆって名前好きだよ。
珍しいなって思ってたけど、その由来を聞いてなるほどなと思った。
きゆのお父さん達、センスあるよ」


流人は外を見ながら、きゆを更に抱き寄せた。


「うん、今は気に入ってるからいいんだけどね。
今まで同じ名前の人に、まだ会った事ないし…

流ちゃんの名前は?
流って字はちょっと珍しいよね?」


「流の字は、どういう状況でもその時の正しい流れにちゃんと乗れるようにだって」


「院長先生らしい」


きゆはそう言ってクスッと笑った。


「絶対的じゃないところが院長先生のいいところだもんね。
私達にも、いつも考える時間を与えてくれて、言われてやるんじゃなくて考えて自分で率先してやることを教えてくれたもの」


流人は特に何も言わなかった。


「流ちゃん、院長先生と奥様と話せた?」


きゆはこの流れなら自然に聞けると思い、流人にさりげなくそう聞いてみた。


「きゆ、ケーキ食べようか」


流人はきゆの話を軽く無視し、またテーブルに戻った。

きゆはそんな流人を見つめながら、胸の中を支配し始める不穏なざわめきに負けないよう必死に笑顔を作った。


流人はケーキにろうそくを7本立て、ライターで火をつけた。
時間が経つにつれ、きゆが暗い顔になっているのは分かっていた。
でも、流人は、普段と変わらない明るい笑顔でバースデイソングを歌い始める。
きゆの不安を心に感じながら…


「きゆ、お誕生日おめでとう!」


寂しそうに座っているきゆに、流人はジェスチャーで消してと伝えた。
きゆはこちらまで悲しくなるような笑みを浮かべ、力なく息を吹きかける。
でも、何度吹いても最後の一本が消えない。
すると、流人も一緒に息を吹きかけ、めでたく7本のろうそくは全て消えた。

それでも、きゆの表情は、流人の胸を締め付けた。
ウェディングドレスをプレゼントしても高価な指輪を贈っても、親の承諾をもらったという報告には何を並べても敵わない。
流人もそのきゆの切実な願いを誰よりも分かっていたし、そして、誰よりも手に入れたかった。


「きゆ…
よく、聞いて……

今の俺達の状態は、さっきのろうそくと一緒なんだ。
6本までは簡単に消せたけど、最後の1本が中々消せない。
でも、二人で消したら簡単に消せただろ。

いつかは、親父達も分かってくれる。
残った最後の1本も必ず消える、だって、ろうそくは蝋がなくなったら絶対消えるんだから…

それと同じだよ。
親父達は絶対分かってくれる…

きゆは何も心配しなくていいから…」

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