温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん

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レオとのデート

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「せっかくなんだ、王都のいいところも見とかなきゃな。俺のおすすめでいいか?」
「うん、お願いします」
「よしっ、任せとけ!」


 歩くのに合わせて、くるぶしまであるワンピースの裾が揺れる。後ろから吹いてくるやわらかな風にすくわれて、伸ばしっぱなしだった髪がなびいた。
 レオは動きやすいシャツとパンツだ。シンプルがゆえに、レオの整った顔と背筋が伸びて鍛えられている体が際立っている。
 帯剣しているのが異世界って感じだ。


「まずは大通りの噴水からだな。行こう!」


 レオの手が伸びてきて、そうすることが当たり前のように私の手を握った。
 丸みのない男性らしい手は指まで長くて、大きな手にすっぽりとおおわれてしまっている。


「レオ、手が……」
「悪い、左手がよかったか? 俺は右利きだから、利き手は開けておきたくて」
「そうじゃなくて、どうして手を握るの?」
「レディーが外出してる時は、こうしとかないと声をかけられるぞ」
「えっ、そうなの?」


 美男美女は目の保養だけれど、声をかけられるとあたふたしてしまう気がする。


「……あー、悪い。嘘ついた」


 珍しく歯切れの悪いレオを見上げると、頬がほんのりと赤かった。右手の甲で口元を押さえ、顔を隠すようにしている。
 これは……照れている?


「いや、嘘じゃなくて、声をかけられることが多くなるとは思う。ただ俺は、サキと手をつなぎたかったんだ」


 レオの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。繋いだ手から好意が伝わって、私の心臓を通って全身に広がっていった。


「サキが嫌じゃなったら繋いでいたい」
「あ、えっと、うん……はい……」


 混乱してうまく返事ができない私を見て、レオが真っ赤なまま笑った。


「ふはっ、サキ、顔が熟れたベリーみたいだ」
「レオだって、苺みたいだよ」
「だって、すげー緊張してる。どうしようもなく嬉しいんだ」


 その顔が本当に嬉しそうで、何を言えばいいかわからなくて口を噤んだ。

 レオは、最初から私という人間を尊重してくれていた。頼りになった。
 私の悩みや戸惑いを、明るく吹き飛ばしてくれる。レオが笑うとなんだか嬉しい。
 出会ったばかりなのに、私にとってレオの存在はとても大きくなっていた。


「噴水を見に行こうぜ。城は嫌なとこかもしれないけど、王都にはいいやつもいっぱいいるんだ。何があっても、俺が守るから」
「うん、頼りにしてる」


 とにかく、今は自然体でいよう。レオが私を見てどう思うかは、レオの自由だ。
 手をつないだまま歩き出すと、レオが歩くペースを合わせてくれた。足の短い私のペースは遅く、レオは長い脚を持て余している。
 ちょっと申し訳なくて速度を上げようとすると、レオが足を止めた。


「おっ、こんなとこに花が咲いてる。いつもさっさと歩いちまうから気付かなかった」
「花びらの色が一枚ずつ違う! 綺麗だねぇ」


 ガーデニングが趣味らしい家の庭で、薔薇のような形をしている花が、いくつも咲いている。淡い色合いの花びらはグラデーションになっていて、とても綺麗だ。


「ありがとう、サキ。サキのおかげで、いいもんが見れた」
「……こっちこそ、ありがとう」


 レオは、自然なままの私でいいと伝えてくれている。その気持ちがとても嬉しい。

 そのあとレオは、見るものすべてが珍しい私に合わせて、ゆっくりと歩きながら噴水を見に行ってくれた。
 白いタイルで作られた道の真ん中にある噴水は、とても大きかった。噴水のまわりにはぐるりと花壇があって、噴水の水しぶきが水やりの代わりになっているようだ。
 人も多くて賑わっている。レオが有名だからか、一緒にいる私を見てくる人も多い。


「くそっ、サキが可愛いからみんな見てくるな。わかる、サキは可愛い……!」
「えっ、そっち? レオが格好いいから、横にいる私を見てるんじゃない?」
「いや、サキがすげー可愛いからだ!」
「そっか、ありがとう」


 レオが熱弁しているのを、さらっと流す。
 この世界の人たちは顔立ちが整っている人が多い。今だって道行く人たちの鼻は高く、足は長い。メロおじいさんも、若い頃はさぞモテただろうというイケオジだ。
 それに比べて私は……いや、何も言うまい。むなしくなるだけだ。


「……本当にサキは可愛いのに」


 レオが拗ねたようにぶつぶつと言うので、思わず笑ってしまった。


「レオがそう思ってくれて嬉しいよ」
「俺にとってサキは世界一可愛いからな」


 さっきまではお世辞だと思えていたのに。そんなふうに言われると、心臓が勝手にうるさくなってしまう。
 つないだままだった手がゆるやかに動かされて、優しく私の指をなでていく。


「サキの手、小さいな。それに、すげぇやわらかい」
「ど、どうも……」


 しまった、もっといい返事があったはずなのに。こんなところで恋愛経験値の低さが露呈してしまうとは……!
 年上のお姉さんらしく! と思ったところで、ハッとする。そうだ、今日はありのままの自分を見てもらう日だった!


「えっとですね、実は、この歳で恋愛はあまり経験したことがなく」
「サキのいた世界の男って、見る目がねえな! ちなみに俺もだ。恋人もいないし」
「そうなの? レオってモテるでしょ?」
「冒険者だから、いろんなとこを回ってたんだ。S級に上がるためのポイントを取ろうと思った時、直感のスキルが働いたんだ。王都に行けって。たぶん、サキに会うためだったんだろうな」
「こ、光栄です……」


 照れた様子もなく、レオが言う。
 ひとりで赤くなっていると、レオに顔を覗き込まれた。手をきゅっと握られて、愛しいものを見るように微笑まれる。


「うん、やっぱり可愛い」
「しっ……!」


 しっ、心臓が……! 心臓が爆発する!
 至近距離でちょっとワイルドな年下のイケメンに口説かれるとどうなると思う!? こうなる!


「そろそろ行くか。ここらへんにアイス屋があるんだ」
「うん、そうしよう!」


 このままだと心臓が持たない!

 ちらっと手元を見たレオが、ポケットに何かを入れる。
 気になって見てみると、ポケットから紙の端がはみ出ていた。大事なものなら、きちんとポケットに入れたほうがいいはずだ。


「レオ、ポケットから紙が出てるよ」
「あー、と……それはだな……」


 言い淀んだあと、レオは赤い髪を乱暴にかき乱した。


「レディーが喜ぶ場所を知らないから、昨日の夜メロじいに聞いたんだよ! サキと買い出しに行くときに行こうと思って! あーもう、カッコ悪ぃ……!」


 そう言ってレオはしゃがみこんでしまった。

 えっ、可愛い……!
 レオはこういうことに慣れていると思っていたのに、そうじゃなかったんだ。メロおじいさんにデートスポットを聞いて、メモして持ってきてくれていたんだ。


「かっこ悪くなんかないよ。レオが色々と調べてくれて、とっても嬉しい」
「……本当か?」
「うん。アイス楽しみだね」


 むしろ、レオがデートに慣れていないのにホッとしてしまった。
 おおっと、これはもしかすると、もしかするのでは……?

 頬をなでる春の風が優しい。私の心も、だんだん前向きになっていく気がした。



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