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エルンスト1
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いつの間にか、うたた寝をしてしまっていたらしい。
外からサキさんの声が聞こえてきて、ふっと目が覚めた。薄暗い部屋の中で何度か瞬きをして起き上がる。
髪をとかしてきちんと結び、眼鏡をかける。ゆるめていた襟のボタンをあごの下まできっちりと止めてから部屋を出た。
起き上がっても眩暈はせず、頻繁におきていた頭痛や慢性的な肩こりもない。こんなに体が軽いのは初めてだ。
改めてサキさんへ感謝しながら階下へおりると、ちょうど玄関が開いたところだった。
「帰ったぞー」
「ただいま帰りました」
……なぜ、二人は手を繋いでいる?
当然のようにレオとサキさんの手が繋がっているのを見て、一瞬で激情が暴れまわる。今すぐふたりの手を離したいのを我慢して、できるだけ顔に出さずに話しかけた。
「おかえりなさい」
近寄ると、サキさんがパッと手を離した。
丸い頬がほんのりと染まり、恥ずかしそうに私を見上げてくる。手をつないでいたことに気付かないふりをしていると、ほっとしたように笑いかけてきた。
「エルンストさん、体調はどうですか?」
「温泉に入ってから体調がいいですよ。サキさんは楽しんできたようで、よかったです。メロおじいさんは家に帰っていますが、後で来るそうです」
「わかりました。エルンストさんとメロおじいさんにお土産を買ってきたんですよ。エルンストさんは魚介が好きだって言ってましたよね?」
「ええ、大好きです。ありがとうございます」
手が離れたのをいいことに、サキさんをエスコートしてリビングへ行く。椅子を引いて座ってもらうと、レオが夕食をテーブルに並べ始めた。
「明日の食事の用意は私にお任せください」
「エルンストさんはまだ寝ていないと駄目ですよ。化粧品とかプレゼントしてくれたでしょう? そのお返しだと思ってください」
「……使ってくださっているんですか?」
「もちろんです! 使い心地がすごくいいんですよ。ありがとうございます」
その一言で、一気に胸の苦しみが軽くなる。我ながら現金だと思いながら3人で夕食をとっていると、サキさんが話を切り出した。
「私のスキルをよく知るために、レオのご友人のところに行こうと思ってるんです。王都を明け方に出たら夜には着く距離だそうなので、そのための買い出しもしてきました」
「わかりました。荷物は私のマジックバッグに入れてくださいね。重さが軽減されるだけですが、容量に余裕がありますので」
「ありがとうございます! エルンストさんは、本当に私と一緒に行くんですか? 私は心強いですが、エルンストさんの気持ちが大事だと思うんです」
「どこまでもご一緒しますよ。約束したじゃありませんか」
やはり、まだ信用してもらえないのだろうか。
サキさんが城で傷つくのを防げなかった。隙を見て陛下に連絡を取ると思われているかもしれない。王族や貴族と関わらずによくなって、これだけ安堵しているのに。
私の事情など話しても、優しいサキさんに気を遣わせるだけだと思っていたが、きちんと話したほうがいいかもしれない。
「エルンストさんに恋人がいるかもと思いまして……。今まで思い至らずにすみません」
「恋人なんていません。もちろん結婚もしていません。婚約者もいません」
「そ、そうですか」
……食い気味で否定してしまった。
勢いに驚きつつも、サキさんはしっかりとわかってくれたようだった。ここで変な誤解をされたくない。
「お昼ごろに、リラ嬢から無事に王都を出たと連絡がありました。追手もいないようです」
「よかったです! 元々王都を出ようと思っていたとは言っていましたけど、私のせいで早まってしまって……」
「サキさんのせいではありませんよ。聖女召喚のために、サキさんより先に城へ呼ばれていたのですから。サキさんは、召喚されただけです」
メッセージのやり取りが出来るアイテムをリラ嬢に渡していたが、思ったよりも早く連絡がきた。城が混乱しているうちに、最速で王都を出たのだろう。いい判断だ。
「またいつか会いましょう、でも夫に惚れちゃ駄目ですよ、とのことです」
「ふふっ、リラってば。落ち着いたら連絡をしなくちゃいけませんね」
そのままサキさんに今日のことを尋ねると、いろいろと話をしてくれた。自分の感想や元の世界のことを交えながら、にこにこと話すのが非常に愛らしい。
きっとレオも同じ気持ちだ。愛情をたっぷり含んだ目を細めながら、サキさんの言動を追っている。
やがて眠そうに目をこすったサキさんは、お風呂に入って眠ると言ってリビングを出ていった。
「おやすみなさい。ぐっすり眠ってくださいね」
「エルンストさん、レオ、おやすみなさい。エルンストさん、体に異変があったら夜中でも起こしてくださいね」
リビングのドアが閉まると、初めてレオと二人きりになった。カラッとした性格のレオは、私と二人でも気にならないらしく、ハムを食べ始めた。
……まだ食べるのか。よく胃に入るな。
「せっかくだから、二人きりで話しましょうか」
「おう、そうだな」
こうして、夜の密談が始まった。
外からサキさんの声が聞こえてきて、ふっと目が覚めた。薄暗い部屋の中で何度か瞬きをして起き上がる。
髪をとかしてきちんと結び、眼鏡をかける。ゆるめていた襟のボタンをあごの下まできっちりと止めてから部屋を出た。
起き上がっても眩暈はせず、頻繁におきていた頭痛や慢性的な肩こりもない。こんなに体が軽いのは初めてだ。
改めてサキさんへ感謝しながら階下へおりると、ちょうど玄関が開いたところだった。
「帰ったぞー」
「ただいま帰りました」
……なぜ、二人は手を繋いでいる?
当然のようにレオとサキさんの手が繋がっているのを見て、一瞬で激情が暴れまわる。今すぐふたりの手を離したいのを我慢して、できるだけ顔に出さずに話しかけた。
「おかえりなさい」
近寄ると、サキさんがパッと手を離した。
丸い頬がほんのりと染まり、恥ずかしそうに私を見上げてくる。手をつないでいたことに気付かないふりをしていると、ほっとしたように笑いかけてきた。
「エルンストさん、体調はどうですか?」
「温泉に入ってから体調がいいですよ。サキさんは楽しんできたようで、よかったです。メロおじいさんは家に帰っていますが、後で来るそうです」
「わかりました。エルンストさんとメロおじいさんにお土産を買ってきたんですよ。エルンストさんは魚介が好きだって言ってましたよね?」
「ええ、大好きです。ありがとうございます」
手が離れたのをいいことに、サキさんをエスコートしてリビングへ行く。椅子を引いて座ってもらうと、レオが夕食をテーブルに並べ始めた。
「明日の食事の用意は私にお任せください」
「エルンストさんはまだ寝ていないと駄目ですよ。化粧品とかプレゼントしてくれたでしょう? そのお返しだと思ってください」
「……使ってくださっているんですか?」
「もちろんです! 使い心地がすごくいいんですよ。ありがとうございます」
その一言で、一気に胸の苦しみが軽くなる。我ながら現金だと思いながら3人で夕食をとっていると、サキさんが話を切り出した。
「私のスキルをよく知るために、レオのご友人のところに行こうと思ってるんです。王都を明け方に出たら夜には着く距離だそうなので、そのための買い出しもしてきました」
「わかりました。荷物は私のマジックバッグに入れてくださいね。重さが軽減されるだけですが、容量に余裕がありますので」
「ありがとうございます! エルンストさんは、本当に私と一緒に行くんですか? 私は心強いですが、エルンストさんの気持ちが大事だと思うんです」
「どこまでもご一緒しますよ。約束したじゃありませんか」
やはり、まだ信用してもらえないのだろうか。
サキさんが城で傷つくのを防げなかった。隙を見て陛下に連絡を取ると思われているかもしれない。王族や貴族と関わらずによくなって、これだけ安堵しているのに。
私の事情など話しても、優しいサキさんに気を遣わせるだけだと思っていたが、きちんと話したほうがいいかもしれない。
「エルンストさんに恋人がいるかもと思いまして……。今まで思い至らずにすみません」
「恋人なんていません。もちろん結婚もしていません。婚約者もいません」
「そ、そうですか」
……食い気味で否定してしまった。
勢いに驚きつつも、サキさんはしっかりとわかってくれたようだった。ここで変な誤解をされたくない。
「お昼ごろに、リラ嬢から無事に王都を出たと連絡がありました。追手もいないようです」
「よかったです! 元々王都を出ようと思っていたとは言っていましたけど、私のせいで早まってしまって……」
「サキさんのせいではありませんよ。聖女召喚のために、サキさんより先に城へ呼ばれていたのですから。サキさんは、召喚されただけです」
メッセージのやり取りが出来るアイテムをリラ嬢に渡していたが、思ったよりも早く連絡がきた。城が混乱しているうちに、最速で王都を出たのだろう。いい判断だ。
「またいつか会いましょう、でも夫に惚れちゃ駄目ですよ、とのことです」
「ふふっ、リラってば。落ち着いたら連絡をしなくちゃいけませんね」
そのままサキさんに今日のことを尋ねると、いろいろと話をしてくれた。自分の感想や元の世界のことを交えながら、にこにこと話すのが非常に愛らしい。
きっとレオも同じ気持ちだ。愛情をたっぷり含んだ目を細めながら、サキさんの言動を追っている。
やがて眠そうに目をこすったサキさんは、お風呂に入って眠ると言ってリビングを出ていった。
「おやすみなさい。ぐっすり眠ってくださいね」
「エルンストさん、レオ、おやすみなさい。エルンストさん、体に異変があったら夜中でも起こしてくださいね」
リビングのドアが閉まると、初めてレオと二人きりになった。カラッとした性格のレオは、私と二人でも気にならないらしく、ハムを食べ始めた。
……まだ食べるのか。よく胃に入るな。
「せっかくだから、二人きりで話しましょうか」
「おう、そうだな」
こうして、夜の密談が始まった。
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