13 / 43
エルンスト1
しおりを挟む
いつの間にか、うたた寝をしてしまっていたらしい。
外からサキさんの声が聞こえてきて、ふっと目が覚めた。薄暗い部屋の中で何度か瞬きをして起き上がる。
髪をとかしてきちんと結び、眼鏡をかける。ゆるめていた襟のボタンをあごの下まできっちりと止めてから部屋を出た。
起き上がっても眩暈はせず、頻繁におきていた頭痛や慢性的な肩こりもない。こんなに体が軽いのは初めてだ。
改めてサキさんへ感謝しながら階下へおりると、ちょうど玄関が開いたところだった。
「帰ったぞー」
「ただいま帰りました」
……なぜ、二人は手を繋いでいる?
当然のようにレオとサキさんの手が繋がっているのを見て、一瞬で激情が暴れまわる。今すぐふたりの手を離したいのを我慢して、できるだけ顔に出さずに話しかけた。
「おかえりなさい」
近寄ると、サキさんがパッと手を離した。
丸い頬がほんのりと染まり、恥ずかしそうに私を見上げてくる。手をつないでいたことに気付かないふりをしていると、ほっとしたように笑いかけてきた。
「エルンストさん、体調はどうですか?」
「温泉に入ってから体調がいいですよ。サキさんは楽しんできたようで、よかったです。メロおじいさんは家に帰っていますが、後で来るそうです」
「わかりました。エルンストさんとメロおじいさんにお土産を買ってきたんですよ。エルンストさんは魚介が好きだって言ってましたよね?」
「ええ、大好きです。ありがとうございます」
手が離れたのをいいことに、サキさんをエスコートしてリビングへ行く。椅子を引いて座ってもらうと、レオが夕食をテーブルに並べ始めた。
「明日の食事の用意は私にお任せください」
「エルンストさんはまだ寝ていないと駄目ですよ。化粧品とかプレゼントしてくれたでしょう? そのお返しだと思ってください」
「……使ってくださっているんですか?」
「もちろんです! 使い心地がすごくいいんですよ。ありがとうございます」
その一言で、一気に胸の苦しみが軽くなる。我ながら現金だと思いながら3人で夕食をとっていると、サキさんが話を切り出した。
「私のスキルをよく知るために、レオのご友人のところに行こうと思ってるんです。王都を明け方に出たら夜には着く距離だそうなので、そのための買い出しもしてきました」
「わかりました。荷物は私のマジックバッグに入れてくださいね。重さが軽減されるだけですが、容量に余裕がありますので」
「ありがとうございます! エルンストさんは、本当に私と一緒に行くんですか? 私は心強いですが、エルンストさんの気持ちが大事だと思うんです」
「どこまでもご一緒しますよ。約束したじゃありませんか」
やはり、まだ信用してもらえないのだろうか。
サキさんが城で傷つくのを防げなかった。隙を見て陛下に連絡を取ると思われているかもしれない。王族や貴族と関わらずによくなって、これだけ安堵しているのに。
私の事情など話しても、優しいサキさんに気を遣わせるだけだと思っていたが、きちんと話したほうがいいかもしれない。
「エルンストさんに恋人がいるかもと思いまして……。今まで思い至らずにすみません」
「恋人なんていません。もちろん結婚もしていません。婚約者もいません」
「そ、そうですか」
……食い気味で否定してしまった。
勢いに驚きつつも、サキさんはしっかりとわかってくれたようだった。ここで変な誤解をされたくない。
「お昼ごろに、リラ嬢から無事に王都を出たと連絡がありました。追手もいないようです」
「よかったです! 元々王都を出ようと思っていたとは言っていましたけど、私のせいで早まってしまって……」
「サキさんのせいではありませんよ。聖女召喚のために、サキさんより先に城へ呼ばれていたのですから。サキさんは、召喚されただけです」
メッセージのやり取りが出来るアイテムをリラ嬢に渡していたが、思ったよりも早く連絡がきた。城が混乱しているうちに、最速で王都を出たのだろう。いい判断だ。
「またいつか会いましょう、でも夫に惚れちゃ駄目ですよ、とのことです」
「ふふっ、リラってば。落ち着いたら連絡をしなくちゃいけませんね」
そのままサキさんに今日のことを尋ねると、いろいろと話をしてくれた。自分の感想や元の世界のことを交えながら、にこにこと話すのが非常に愛らしい。
きっとレオも同じ気持ちだ。愛情をたっぷり含んだ目を細めながら、サキさんの言動を追っている。
やがて眠そうに目をこすったサキさんは、お風呂に入って眠ると言ってリビングを出ていった。
「おやすみなさい。ぐっすり眠ってくださいね」
「エルンストさん、レオ、おやすみなさい。エルンストさん、体に異変があったら夜中でも起こしてくださいね」
リビングのドアが閉まると、初めてレオと二人きりになった。カラッとした性格のレオは、私と二人でも気にならないらしく、ハムを食べ始めた。
……まだ食べるのか。よく胃に入るな。
「せっかくだから、二人きりで話しましょうか」
「おう、そうだな」
こうして、夜の密談が始まった。
外からサキさんの声が聞こえてきて、ふっと目が覚めた。薄暗い部屋の中で何度か瞬きをして起き上がる。
髪をとかしてきちんと結び、眼鏡をかける。ゆるめていた襟のボタンをあごの下まできっちりと止めてから部屋を出た。
起き上がっても眩暈はせず、頻繁におきていた頭痛や慢性的な肩こりもない。こんなに体が軽いのは初めてだ。
改めてサキさんへ感謝しながら階下へおりると、ちょうど玄関が開いたところだった。
「帰ったぞー」
「ただいま帰りました」
……なぜ、二人は手を繋いでいる?
当然のようにレオとサキさんの手が繋がっているのを見て、一瞬で激情が暴れまわる。今すぐふたりの手を離したいのを我慢して、できるだけ顔に出さずに話しかけた。
「おかえりなさい」
近寄ると、サキさんがパッと手を離した。
丸い頬がほんのりと染まり、恥ずかしそうに私を見上げてくる。手をつないでいたことに気付かないふりをしていると、ほっとしたように笑いかけてきた。
「エルンストさん、体調はどうですか?」
「温泉に入ってから体調がいいですよ。サキさんは楽しんできたようで、よかったです。メロおじいさんは家に帰っていますが、後で来るそうです」
「わかりました。エルンストさんとメロおじいさんにお土産を買ってきたんですよ。エルンストさんは魚介が好きだって言ってましたよね?」
「ええ、大好きです。ありがとうございます」
手が離れたのをいいことに、サキさんをエスコートしてリビングへ行く。椅子を引いて座ってもらうと、レオが夕食をテーブルに並べ始めた。
「明日の食事の用意は私にお任せください」
「エルンストさんはまだ寝ていないと駄目ですよ。化粧品とかプレゼントしてくれたでしょう? そのお返しだと思ってください」
「……使ってくださっているんですか?」
「もちろんです! 使い心地がすごくいいんですよ。ありがとうございます」
その一言で、一気に胸の苦しみが軽くなる。我ながら現金だと思いながら3人で夕食をとっていると、サキさんが話を切り出した。
「私のスキルをよく知るために、レオのご友人のところに行こうと思ってるんです。王都を明け方に出たら夜には着く距離だそうなので、そのための買い出しもしてきました」
「わかりました。荷物は私のマジックバッグに入れてくださいね。重さが軽減されるだけですが、容量に余裕がありますので」
「ありがとうございます! エルンストさんは、本当に私と一緒に行くんですか? 私は心強いですが、エルンストさんの気持ちが大事だと思うんです」
「どこまでもご一緒しますよ。約束したじゃありませんか」
やはり、まだ信用してもらえないのだろうか。
サキさんが城で傷つくのを防げなかった。隙を見て陛下に連絡を取ると思われているかもしれない。王族や貴族と関わらずによくなって、これだけ安堵しているのに。
私の事情など話しても、優しいサキさんに気を遣わせるだけだと思っていたが、きちんと話したほうがいいかもしれない。
「エルンストさんに恋人がいるかもと思いまして……。今まで思い至らずにすみません」
「恋人なんていません。もちろん結婚もしていません。婚約者もいません」
「そ、そうですか」
……食い気味で否定してしまった。
勢いに驚きつつも、サキさんはしっかりとわかってくれたようだった。ここで変な誤解をされたくない。
「お昼ごろに、リラ嬢から無事に王都を出たと連絡がありました。追手もいないようです」
「よかったです! 元々王都を出ようと思っていたとは言っていましたけど、私のせいで早まってしまって……」
「サキさんのせいではありませんよ。聖女召喚のために、サキさんより先に城へ呼ばれていたのですから。サキさんは、召喚されただけです」
メッセージのやり取りが出来るアイテムをリラ嬢に渡していたが、思ったよりも早く連絡がきた。城が混乱しているうちに、最速で王都を出たのだろう。いい判断だ。
「またいつか会いましょう、でも夫に惚れちゃ駄目ですよ、とのことです」
「ふふっ、リラってば。落ち着いたら連絡をしなくちゃいけませんね」
そのままサキさんに今日のことを尋ねると、いろいろと話をしてくれた。自分の感想や元の世界のことを交えながら、にこにこと話すのが非常に愛らしい。
きっとレオも同じ気持ちだ。愛情をたっぷり含んだ目を細めながら、サキさんの言動を追っている。
やがて眠そうに目をこすったサキさんは、お風呂に入って眠ると言ってリビングを出ていった。
「おやすみなさい。ぐっすり眠ってくださいね」
「エルンストさん、レオ、おやすみなさい。エルンストさん、体に異変があったら夜中でも起こしてくださいね」
リビングのドアが閉まると、初めてレオと二人きりになった。カラッとした性格のレオは、私と二人でも気にならないらしく、ハムを食べ始めた。
……まだ食べるのか。よく胃に入るな。
「せっかくだから、二人きりで話しましょうか」
「おう、そうだな」
こうして、夜の密談が始まった。
90
あなたにおすすめの小説
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります。
リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ひみつの姫君からタイトルを変更しました。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる