温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん

文字の大きさ
28 / 43

傾いている心

しおりを挟む
 おじいさんがいた部屋の近くの一室で、そわそわと朗報を待つ。私の温泉を鑑定すると、きちんと「ポイズンアリゲーターの毒を治す温泉」になっていた。
 私たちはそこで部屋を出たので、そこからヴィンセント達がどうしたのかはわからない。最初に通されたのとは違う部屋に案内され、5人の騎士らしき人が私たちについている。
 何かあったら私たちをバッサリということだろう。

 大丈夫だと思っているけれど、不安は消えない。そわそわと待っていると、乱暴にドアが開いた。
 思いっきり体がビクついてしまって、横に座っていたエルンストに体当たりしてしまった。私を守るようにレオが立ち上がる。
 入ってきた騎士は、息を切らせて私を見つめた。


「イゴール様が、いっ、意識を取り戻しました……! すぐに来ていただけますか?」


 呼びに来た騎士さんの後ろを、早足でついていく。
 イゴールが寝ている部屋に到着して騎士さんがノックをすると、中からしっかりした声が聞こえてきた。ヴィンセントともバートとも違う声。
 ゆっくりとドアが開かれ、部屋へ足を踏み入れる。ベッドには、起き上がってこちらを見ているイゴールがいた。


「恩人をこのように出迎えて申し訳ない。寝たきりで体が衰え、立てないのだ」
「どうぞお体を第一に考えてください。私はサキと申します」
「私はアグレル家の前当主、イゴール・アグレルだ。解呪していただき、感謝する」


 イゴールが深く頭を下げる横で、ヴィンセントとバートも同じようにしている。
 イゴールの受け答えはしっかりしていて、体がふらついていない。温泉が効いたことに、心底ほっとした。


「頭を上げてください。今、どのような状態ですか?」
「それはこちらから説明いたします」


 イゴールの横に立っている男性が進み出る。私の温泉を鑑定していた男性で、スキルが鑑定だと言っていた。凛々しい顔立ちの男性は、きりっとした顔で説明してくれた。


「改めまして、私の名はスヴェンと申します。イゴール様の状態を鑑定いたしましたところ、イゴール様の呪いは解呪されていますが、三日間のみとなっています」


 険しい顔をしたスヴェンやイゴールが安心するように微笑みかける。三日ごとに温泉に入らなければ、また元の状態に戻ると思っているはずだ。
 エルンストを見上げると、私が何を言おうとするかわかったのか、すっと一歩出てくれた。


「こちらのエルンストは、最近過労で倒れました。私の温泉に入り効果がきれた三日後には、よく効く薬を飲んだような状態になっていました。イゴール様は、解呪スキルで徐々に回復に向かっている状態と同じになっているのではと推測しています」
「なるほど……。三日後にもう一度鑑定をしてみます」


 最後にもう一度イゴールにお礼を言われてから退室する。しばらく寝たきりだったのだから、かなり疲れているはずだ。
 それから私たちは、温泉の効果がきれるまでお城にいることになった。それぞれ広い客室を使っていいと言われ、使用人までつけてくれると言われたところで少し揉めた。


「俺はサキの護衛だ。ほかの部屋にいると守れない」
「その通りです。ですがレオと二人きりなのはあまりよくないので、私も一緒にいることにしましょう」
「待て、僕だけひとりは嫌だ」


 そう言われても、異性と一緒の部屋で休むのは抵抗がある。さらに、ヴィンセントが厚意でつけてくれた使用人もまだ信用できないと言われれば、確かにと思ってしまう。
 王都での使用人……というかお城にいる人たちは、リラとエルンスト以外いい思い出がない。
 イゴールの解呪をしたからいい扱いを受けているけれど、解呪したからこそ命を狙われてもおかしくない。

 四人で考えた結果、使用人は断り、客室と繋がっている使用人の部屋で私以外の三人が寝るということに決まった。
 最初は私が使用人の部屋で寝ようとしたけれど、女性にそんな扱いはできないと猛反対された。あと、大きいとはいえベッドが一つしかないので、三人で寝たくないと言われた。使用人の部屋には一人に一つずつベッドがあるのだからそちらがいいと言われれば、その通りだ。

 三日の間、魔物除けの温泉を出して本当に効果があるか試したり、パーティーに出たり、イゴールやヴィンセントと話したりしながら過ごした。
 魔物除けの温泉はきちんと効果があったので、たくさん出して自由に撒いてもらうことにした。急いで街を囲むように側溝を作っているとのことで、最善のスキルを持つエルンストや、たくさんのアイテムを作っているギルは大活躍らしい。


「久しぶりに二人きりだな」
「そうだね。レオとデートした日が、すごく昔に思えるよ」


 午後のやわらかい陽射しの中、レオとふたりでティータイムを楽しむ。レオが食べているのは大きなお肉をはさんだサンドイッチで、みるみるうちになくなっていく。


「なあ、サキ。俺が言ったことを覚えてる?」


 日の光を浴びたレオは、それはそれは綺麗に笑った。


「サキは俺の一番大切な人だ。きっと、ずっと変わらない。それは忘れないでくれ」
「……うん」
「サキは俺たちを格好いいとか綺麗とか言ってくれるけど、この世界の男は整った顔が多いんだ。女性と結婚できるのはそういう男が多いだけだから、サキは引け目なんて感じないでくれよ。俺たちにとって、サキは世界一可愛いんだから」


 喉がつまって、すぐに返事はできなかった。
 ただ、レオの言葉が嬉しい。そう言ってくれるレオだから心が揺れ動くのに、レオにはそれがわからないらしい。
 少し笑ってから、自分の心を肯定するように頷いた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...