温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん

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誕生日パーティー

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「では、これで失礼いたします」


 私たちに気を遣ったマウエンが出ていくのを見送ってから、もう一度ロビーを見た。
 ……このホテルが私のものになっただなんて、未だに信じられない。ほかにも3つのホテルと、お城のような豪邸をもらったのに。
 じーんとしながら天井まで綺麗なホテルを見つめていると、ギルがマジックバッグからアイテムを取り出していじりだした。


「このホテルの大きさなら、作った清掃アイテムの範囲を調整すれば無駄なく設置できるはずだ。ちょっと確認する」


 ギルの指が指揮をするように動く。たった数十秒で満足いく結果になったのか、うっすらと微笑んだギルはアイテムをマジックバッグにしまった。


「これなら各階にひとつずつアイテムを置けばよさそうだ」
「ありがとう、ギル。ギルがいてくれて心強いよ」


 そう言った途端、ギルは目をわずかに見開いて私を見つめた。
 しまった、アイテムを作れる人間がいてよかったと聞こえたかもしれない。

 私も温泉だけを褒められていたら、きっと微妙な気持ちになっていた。私のスキルにしか価値がないのかなって。
 エルンストやリラ、お城を出てから出会った人たちが私自身を好きになってくれたから、そんな気持ちを抱かずにいられるのに。


「私は召喚された時の待遇が良くなかったでしょ? だから、私の味方でいてくれる人の存在がすごくありがたいの。ギルがアイテムを作らなくても、その気持ちは変わらないよ」
「……僕がアイテムを作らなくても? 僕にはアイテムしかないのに?」
「そんなことないよ! ギルがそうなら、私も温泉にしか価値がないってことになる。私はギルがいてくれるだけで嬉しい」
「僕がいるだけで……?」
「そう。ギルが生まれてきてくれて嬉しいんだよ」


 なんだか大げさになってしまったけれど、結局言いたいのはそういうことだと思う。
 異世界に来てから私に寄り添ってくれた人すべてに感謝している。生まれてきてくれて、私に出会ってくれた。誰か一人でも欠けたら、私の人生はひどいものになっていたかもしれない。


「そうだ、ギルの誕生日はいつ? パーティーをしないとね」
「そ、それは……誕生日パーティーというやつか……?」
「うん」


 バタバタして人の誕生日を気にしている余裕はなかったけど、みんなの誕生日も祝いたい。


「……誕生日パーティーなんてしてもらうの、初めてだ……。レオが誕生日プレゼントをくれるだけで、すごく嬉しかったのに……まだ上があるのか……」


 嬉しさで頬を上気させたギルは、あどけない笑みを浮かべた。きらきらと輝いた瞳はステンドグラスのように綺麗だ。


「気合いを入れてパーティーをするね!」
「……うん。楽しみにしてる」


 残念ながらレオとエルンストの誕生日は過ぎていたことがわかったけれど、ギルの誕生日は一週間後だったので、4人だけで誕生日パーティーをすることにした。

 誕生日パーティーまでの間にエルンストの元同僚の人たちがやってきたので、北領にいる意思があるか確認をしたり、それぞれの得意な仕事やエルンストの話を聞かせてもらったりした。
 みんなエルンストと同じスキル貴族で、王都のお城ではパワハラされていたという。


「ずっと王都にいる貴族たちは傲慢なんですよ。スキル貴族を貴族だとは思っていない。使い捨ての道具だと思っているんです」
「やめたいと思っていたんですが、スキル貴族が自分から城を出ていくなんてあり得ないことなので、我慢して働いていました。エルンストが新しい道と事実を教えてくれたんです」
「僕たちはエルンストと一緒に働こうと思ってやってきました。エルンストがサキ様の補佐をするというのなら、どうぞサキ様の下で働かせてください」


 やってきた人たちは数十人にもなる。ひとりひとり話をしてみて、問題のある人はいないように感じた。エルンストとレオも大丈夫だと言ったので、銭湯経営に関わってもらうことにした。
 まだ開業もしていないけれど、温泉はすでに需要はある。北領の貴族たちはもはや毎日温泉に入っていて、その噂はかなり広がっている。
 ホテルは大きいが、需要に対して数が足りない。ヴィンセントにもらったほかの建物も銭湯にする日が来るだろう。

 ホテルの改装が始まり、従業員の募集をして面接したり、頻繁に訪ねてくるヴィンセントとお茶をしていると、あっという間にギルの誕生日がやってきた。
 夜の12時になった時に3人で「お誕生日おめでとう!」と言ってクラッカーをならし、大きなホールケーキのろうそくを吹き消して、プレゼントを渡した。
 明日は仕事を早めに終わらせ、みんなでご馳走を食べる予定だ。


「こんなふうに誕生日を祝ってもらうのは……生まれたことを祝福してもらえたのは初めてだ。……ありがとう」


 レオがギルと肩を組んで笑う。エルンストはケーキを切り分けて、一番大きなものをギルへ渡した。
 私たちのお祝いの言葉やプレゼントに目を輝かせているギルは、子供のようで可愛かった。



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