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第118話 残響の中
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「何が……」 「ホホーホ……? (ナカマ)」
この状況を顧みるほどの気力は無い。
ただ朧げに、受け取った情報を反芻する事しか出来ない虚ろな意識。
これまで何度もこの代償を経験しているが、まるで真空圧縮されているが如き全身の不自由は初めてだ。
(と、とにかく……リーフルだけは)
何が正解なのか、どうすれば答えを辿れるのか。
考えているようでまるで空っぽな、ただリーフルの安全を憂う心が、膝をつき、上体を起こす力を沸き上がらせてくれる。
「ホーホ……(ヤマト)」
頬を寄せ心配そうに呟いている。
ふらふらと剣を杖代わりに、頼りない足元を前へ押し進める。
せめてあの木の根元に身を寄せ、少しでも気配を殺さないと。
視界の端にはリーフルの悲痛な表情。
だが罪悪の輪郭がハッキリと浮かぶ余力も残っていない。
木の幹にそのまま倒れ込む。
周囲を捉える為に半身を翻すのがやっとの思いだ。
(こんなギャンブル……何が、冒険……だよ)
活路を見出した高揚感も、それはその後を考慮しないだけの蛮勇に過ぎない。
だがまさか、誰が『仲間の消失』など予測出来るものだろうか。
そんな言い訳を並べたところで、現実は俺を赦さない。
国内屈指の苛烈地である深域に平凡が一人。命を賭してでも守りたいとのたまう存在を傍に置きながらだ。
きっと人の根源の現れなんだろう。悪癖の論理的な思考はなりを潜め、望みと後悔の念だけが意識を支配する。
「リーフル……逃げ……て……くれ……るか?」
「ホッ! (イラナイ!)」
「ハ……だよ……な」
そのまま肩を貫いてくれれば少しは救われるのに。
だが優しいリーフルはどちらも決して選ばない。だからこそリーフルなんだ。
だからこそ俺は非凡へと背伸びなどするべきでは無かった。
ここからどうすればリーフルを街に帰せる。今俺に出来る事はなんだ。
せめて這ってでも休憩所へ引き返せればいいのに。
意識が飛んでしまわないように堪えることしか出来ない不甲斐無さが口惜しい。
(ダメ……だ……考えても……前に進まない……)
身を隠せるような都合の良い魔導具など手元には無い。
いつもの装備とそれなりの食料、そして現物資産として温存している納品物があるだけだ。
体が言う事を聞いてくれない以上、収納してきた魔物達を囮として撒くことも叶わない。
とうとう本当の限界の訪れだ。
やっぱり俺は、みんなが居ないと何も成せない偽物の冒険者なんだ。
手心の優しさに気付かず、高度な遊びを繰り広げる皆の輪の中でおもちゃを振り回し、その気になっていた愚か者。
自分はもう少し利口な方だと思っていた。慎重な性格が見せていたのは幻想ではなく、事実だったというわけだ。
それでも諦められないのは、リーフルの無事を見届けていないから。
この身を差し出しリーフルが助かるのなら喜んで差し出す。腕でも頭でも、何でも持って行ってくれて構わない。
唯一の取り柄、観察を奪われた俺に残された、魂の願いをどうか神様に届けて欲しい。
「──! ホ……! (テキ!)」
周囲をゆっくりと見回しながらリーフルが呟いた。
(テキ……)
「くっ……させ……ない……! せめ……て……俺を消費……して……から……に」
リーフルを抱き込み背を向ける。
地を擦るような乾いた音が近付いてくる。
「ホーホ (ヤマト) ホッ……! (ニゲル)」
「ごめ……ん……リー……フル。最後……まで……一緒……に」
気配が強まるにつれて意識が遠のいてゆく。
背面に感じる複数の感触。
少しでも壁になれれば────
────
──
─
この状況を顧みるほどの気力は無い。
ただ朧げに、受け取った情報を反芻する事しか出来ない虚ろな意識。
これまで何度もこの代償を経験しているが、まるで真空圧縮されているが如き全身の不自由は初めてだ。
(と、とにかく……リーフルだけは)
何が正解なのか、どうすれば答えを辿れるのか。
考えているようでまるで空っぽな、ただリーフルの安全を憂う心が、膝をつき、上体を起こす力を沸き上がらせてくれる。
「ホーホ……(ヤマト)」
頬を寄せ心配そうに呟いている。
ふらふらと剣を杖代わりに、頼りない足元を前へ押し進める。
せめてあの木の根元に身を寄せ、少しでも気配を殺さないと。
視界の端にはリーフルの悲痛な表情。
だが罪悪の輪郭がハッキリと浮かぶ余力も残っていない。
木の幹にそのまま倒れ込む。
周囲を捉える為に半身を翻すのがやっとの思いだ。
(こんなギャンブル……何が、冒険……だよ)
活路を見出した高揚感も、それはその後を考慮しないだけの蛮勇に過ぎない。
だがまさか、誰が『仲間の消失』など予測出来るものだろうか。
そんな言い訳を並べたところで、現実は俺を赦さない。
国内屈指の苛烈地である深域に平凡が一人。命を賭してでも守りたいとのたまう存在を傍に置きながらだ。
きっと人の根源の現れなんだろう。悪癖の論理的な思考はなりを潜め、望みと後悔の念だけが意識を支配する。
「リーフル……逃げ……て……くれ……るか?」
「ホッ! (イラナイ!)」
「ハ……だよ……な」
そのまま肩を貫いてくれれば少しは救われるのに。
だが優しいリーフルはどちらも決して選ばない。だからこそリーフルなんだ。
だからこそ俺は非凡へと背伸びなどするべきでは無かった。
ここからどうすればリーフルを街に帰せる。今俺に出来る事はなんだ。
せめて這ってでも休憩所へ引き返せればいいのに。
意識が飛んでしまわないように堪えることしか出来ない不甲斐無さが口惜しい。
(ダメ……だ……考えても……前に進まない……)
身を隠せるような都合の良い魔導具など手元には無い。
いつもの装備とそれなりの食料、そして現物資産として温存している納品物があるだけだ。
体が言う事を聞いてくれない以上、収納してきた魔物達を囮として撒くことも叶わない。
とうとう本当の限界の訪れだ。
やっぱり俺は、みんなが居ないと何も成せない偽物の冒険者なんだ。
手心の優しさに気付かず、高度な遊びを繰り広げる皆の輪の中でおもちゃを振り回し、その気になっていた愚か者。
自分はもう少し利口な方だと思っていた。慎重な性格が見せていたのは幻想ではなく、事実だったというわけだ。
それでも諦められないのは、リーフルの無事を見届けていないから。
この身を差し出しリーフルが助かるのなら喜んで差し出す。腕でも頭でも、何でも持って行ってくれて構わない。
唯一の取り柄、観察を奪われた俺に残された、魂の願いをどうか神様に届けて欲しい。
「──! ホ……! (テキ!)」
周囲をゆっくりと見回しながらリーフルが呟いた。
(テキ……)
「くっ……させ……ない……! せめ……て……俺を消費……して……から……に」
リーフルを抱き込み背を向ける。
地を擦るような乾いた音が近付いてくる。
「ホーホ (ヤマト) ホッ……! (ニゲル)」
「ごめ……ん……リー……フル。最後……まで……一緒……に」
気配が強まるにつれて意識が遠のいてゆく。
背面に感じる複数の感触。
少しでも壁になれれば────
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