187 / 190
3-5 生業の園
閑話 世界の理……?
しおりを挟む「ホホーホ? (ナカマ)」──「ホーホホ? (タベモノ)」
手掛かりとなる地図が顕現し、決起の夕食も一段落ついた頃。
テーブルの中心ではいつものようにリーフルが愛想を振りまき、おやつをねだり歩いている。
ロングはワイルドベリを。ビビットは牛の高級赤身を。
そしてあの誰も左右できないベルでさえ、受け取った飴をちらつかせ、気を引こうと前のめりになっている。
だが俺に言わせればそれは必然の光景で、疑義を唱える外野もこの街にはそう居ないだろう。
何故ならそこには、圧倒的な”かわいい”が存在しているからだ。
しかしふと思う時がある。
果たしてこの誘因力は、本当にかわいいだけが引き起こすものなのだろうか。
いくらかわいいを極めていると言っても、いちミミズクでしかないリーフルが、本当に愛想を振りまくだけでここまで人間を魅了できるものなのだろうか。
「なあロング。ロングはリーフルのどこが好きなの?」
「へっ? な、なんすか急に……それは当然、可愛いからっすよ!」
控える左手に握られたワイルドベリの数がその言葉の真実味を物語っている。
「ふむ……ビビットさん──は聞くまでも無いですよね。ベルはどうです?」
「はぁ~? べ、別に可愛いなんて思って──」
言いかけた言葉はどこへやら。近付いてきたリーフルに飴を与える事を優先している。
「ですよね~……」
(やっぱりみんなの心には共通の念が流れてる。それは疑いようのない事実だろうな……)
翡翠の綺麗な羽、クリっとした大きな瞳。口元に生える髭のようにも見える産毛もか。
あげつらえばきりのない魅力をその身に宿した無垢なる存在。
庇護欲という、誰もが保有している感情を刺激されるのか。あるいは、もっと別の──
──んぐんぐ「ホッ……」
人数が多い時にのみ許される無制限のおやつを堪能し終えたのか、リーフルがその場に伏せその膨らんだお腹が主張している。
(おかしい……気付いてるのは俺だけなのか……? こうなったら確かめるしかないか)
「なあロング。リーフルの魅力ってなんだと思う?」
「えっ? またっすか? う~ん……可愛いしいっぱい食べるし、抱っこしたら暖かいし……色々あるっすけど、存在そのものっすかね??」
「ビビットさんは──」
「──この愛らしいシルエットと鋭いくちばしのギャップに決まってんだろう?!」
「あ、はい……あはは……」
(相変わらず強火な反応だなぁ……)
「ベルはどう思います? そもそも、ベルは動物への興味はおありなんですか?」
「動物には別に興味なんて無いわ。ま、まあ? リーフルは綺麗な色してるし、私が戯れるには良い気品の羽の色だとは思うわ」
「そうですか……」
現在の俺の、確固たる生きる理由。
それは他の何物でもない、リーフルの存在だ。
リーフルを飢えさせることなく、その身の安全を確保し、成長に必要な全ての要素を用意する。
この、人生の行く先がリーフルへと着地するという生き方は、出会って以来心底に刻み込まれた、この世界における俺の存在を証明するそのものだ。
しかし一方自分を俯瞰してみると、この異常とも言える献身の源泉を把握しているのかというと、決してそうではない。
森で救い上げ成り行きのまま世話を始め、いつの間にか肩に居る事が当たり前になっていた。
そこには確かな心の動きがあった訳でも、目に見える鎖が繋がっている訳でも無い。
あるのはたった一つ。リーフルの平穏を願い、一緒に暮らしていきたいという想いだけだ。
(まして自分の事……か。どこまで行っても、俺は明日のおやつ代の心配をするだけなんだろうなぁ)
「──そういえば、ヤマトさんに改めて聞かれて思ったっすけど、リーフルちゃんってホント不思議な鳥さんっすよね~」
首を傾げリーフルを見つめながら語っている。
「ん? なにが?」
「だってっすよ。リーフルちゃんって、欲しい時に欲しい温もりをくれるというか、なんというか……」
「あ~……あんたの言いたい事、分かるよ。一見ただのおねだりに見える鳴き声でも、あたしらの心を見透かしたようにスッと溶け込むような、癒しをくれる感覚を覚えるもんねぇ」
目を細め柔らかい笑顔を向けている。
「そ、そうなの?」
ベルが少し焦ったように皆の顔を見渡している。
「動物の本能──特に食べ物に対しては素直で真っ直ぐですから、その純粋さは確かに俺達人間には無い部分ですよね。だからでしょうか」
「ん~……いやぁ、あんたのその意見も正しいとは思う。でもなんだかリーフルちゃんの場合は、もっとハッキリしてるというか、突き動かされるような感覚というのか」
「突き動かされる……ですか」
(それってつまり、自分の意に反してって意味だよな……)
「ふん、ユニーク魔法でも使ってるんじゃないの? さしずめ、献上への誘因ってところかしら~」
そう言いながら伏せるリーフルの右翼をつついている。
「ははっ、まさか。あんただけ覚えが無いからって、悔し紛れにそんな奇抜な発想語っちまうなんて、それこそ誘われちまってるじゃないか。はっはっはっ!」
「ムム! ユニーク魔法なんて自分もまだ持ってないっすよ! リーフルちゃんに先を越される訳にはいかないっす!」
拳を作り気合を入れている。
(ユニーク魔法……誘因──⁉ ま、まさかっ……でもそうだ、あの時だって……!)
ロットのお見合いに仲人として参加した動機。ハーベイでグリフと対峙したあの時も。
そして俺自身が、最も忠実で最も献身的な、一番の当事者だ。
思えばすべての行動は、リーフルの『ホーホホ(タベモノ)』という一鳴きに収束していく。
「……みなさん。俺は今、とんでもない真理にたどり着いてしまったかもしれません」
「な、なんだいヤマト。急に気味の悪い物言いだねぇ」
「ええ、そう思われるのも致し方ありません。でもこれだけはお伝えしなければ」
「俺達は……リーフルに因果を支配されています‼」
「「「…………」」」
飛び出た突飛な単語に、皆恐らく頭を必死に回転させているのだろう。
「ヤ、ヤマトさん……? どうしたんすかホントに……」
「──ハッ、そうか! 一人で背負う必要は無いんすよ? ティナちゃんの事なら自分達も──」
「──いやロング、聞いてくれ。さっきベルが言ったユニーク魔法。あれは冗談なんかじゃなく、事実の可能性があるんだ」
「ヤマト……安心なさい。私も手伝ってあげるんだから、心配いらないわよ」
「いえ、考えてもみてください。何故みなさんはそこまでリーフルにおやつを献上するのか。何故俺達はリーフルと触れ合うだけで満たされるのか」
「見た目が『かわいい』というだけでは決して説明のつかない──つまり、魔法的な力が働いていると考えるのが自然なんです!」
自信を以て皆の表情を窺う──
──そこには半開きの口元が三つ。
俺の渾身の口上はカウンターから聞こえる皿洗いの雑音に溶け込み、得も言われぬ静寂が場を支配している。
「はぁ……ヤマト。今日はもう帰って寝な。リーダーとしてみんなを盛り上げようとしてくれたその心意気だけで十分さね。ありがとうね」
「あ、あれ……?」
「私のジョークに乗っかるなんて、やっぱりあなたって魅力あると思うわ。ふふ」
「あのぉ……俺は真面目に……」
「あ、リーフルちゃんもそろそろおねむみたいっすね。明日は朝から忙しいっすから、自分も早めに支度しないとっす!」
「え、ロングあの……」
微かに舟を漕ぎ出したリーフル。
ぞろぞろと皆立ち上がる。
「じゃあお疲れさん! 地図も手に入って、いよいよ明日から本番だ。よろしく頼むよあんた達!」
「あら~ビビット。森へ帰れるのがよっぽど嬉しいみたいねぇ」
「……はぁん? 大体あたしが今まで何度──!」
「誰がそんなこと──!」
激しい口調を舞い散らせ去って行く二人。
「あ、ヤマトさん。明日はリオンさんのところに集合でいいんすよね?」
「う、うん……」
「了解っす! 自分もこれで失礼します! リーフルちゃんも、おやすみなさいっす!」
俺は更に言葉を続けるべきか、逡巡の中ただその光景を目で追うばかりだった。
頭を巡らせ導き出した、確信めいたその答え。
「ホー……ホ? (ヤマト)」
眠気まなこに周囲を見渡し、緩慢な歩みで俺の手の上に乗り甘えている。
「はは……やっぱり最高にかわいいなぁリーフルは」
真相などありはしない。
”かわいい”の魔法の前では、人類皆平等に首を垂れるのだ。
69
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
一流冒険者トウマの道草旅譚
黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。
しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。
そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる