68 / 190
2-2 回帰と変心
第60話 メンテナンス
しおりを挟むリーゼス様から見舞金として頂いた金貨五枚。
俺が受注出来る範囲のクエスト報酬では、基本的にその日暮らしのような生活なので、纏まった金額が懐にあるというのも珍しい。
今後の事を考え貯蓄に回すなり、何かしらで運用益を出せないかを考えたり、使い道としては色々とあるのだろうが、今回のところは既に決まっている。
預けている"懐炉"の修復代も同じ金貨五枚という話だったので、魔導具店へやってきた。
「こんにちは~」 「ホ~」
「いらっしゃい──」
「──! あんた! 無事だったんだね……」
商品の手入れをしていた魔導具店の店主フォトンが驚きの表情を見せている。
「あ、はい。フォトンさんも俺の事をご存知だったんですか」
「おや? 言ってなかったかい。魔導具や魔導書を扱ってる関係で、ギルドとはそれなりに付き合いがあるんだよ」
「それにしても何があったんだい? 事件現場はそりゃあ酷いもんだったと聞いているよ」
「ええ、あの日は……」
俺の身に起こった事をフォトンに説明する。
「……ふむ。あまり外界とはつるまない事で有名なエルフ族が……あんた運が良かったねぇ」
「本当に随分とお世話になってしまいまして。それにしてもエルフ族の方々は凄いですね。色々な魔法を駆使する所を目にしました」
「あんた魔法に興味があるって言ってたもんねぇ──それはそうと、帰って間もないし病み上がりでもあるんだろう? 代金を用意する時間も無かっただろうに。今日はどうしたんだい?」
「その、色々とありまして……魔法は諦める事になりました。今日は件の見舞金で、懐炉の代金を支払いに来たんです」
「そうなのかい? 私としては魔導書も買ってくれた方が夕飯に一品増えて嬉しいんだけどねぇ」
「ハハ……」
「ちゃんと修理は済んでるよ。思っていたより触媒が安く手に入ったから、代金は金貨四枚で大丈夫だよ」
「それは助かります。よかったなぁリーフル」 「ホ」
代金を支払い懐炉を受け取る。
「って事は懐炉はその鳥ちゃん用なのかい。はぁ~、随分と過保護なもんだねぇ」
「昨年思い知りましたが、サウドの冬は寒いですもんね。部屋に何か熱源が一つでもあれば、俺にも恩恵はありそうですし」
「確かにね。宿の部屋じゃ薪は焚けないものねぇ」
「何か入用ならまたおいで、お得意様になってくれれば私もあんたも寂しくないね、ふふ」
「そうですね、また来ます。ありがとうございました」 「ホ~」
◇
魔導具店を後にした俺は、その足でサウド随一の鍛冶屋、鍛冶工房イーサンへとやってきた。
名前の通り"イーサン"という鍛冶職人が経営する鍛冶屋で、弓や短剣の手入れ等俺だけに限らず、この街の冒険者であれば誰もがお世話になっている老舗だ。
扉の奥から金属を打つ音が聞こえてくる。
「こんにちは~、お久しぶりです」
工房手前側の部屋には数々の武器や防具が整然と陳列されており、並ぶ無機質な装備品達とは裏腹に、商談スペースは清潔でいて工房の窯から来る熱による暖かさで、ぬくもりの感じられる雰囲気だ。
「おぉ! ヤマトじゃねえか。お前はしぶてえ野郎だな、ガハハ!」
豪快な話し方をするこの人物。
この国の王であるアンション王、そのお膝元である首都ジ・アンションにて数年に一度の頻度で開かれるらしい武器防具等装備品の見本市兼品評会において、緑賞──一番の意──を受賞し『王認特級鍛冶師』の称号が贈られた、権威ある鍛冶師がこのイーサンだ。
「ご心配おかけしました」
「なぁに、冒険者にピンチはつきもんだ。まぁ、お前さんの用心深さは有名だし、それ程悲観してもなかったがよ」
「──おーい、リオン! ヤマトが戻って来たぞ~!」
「はーい! 師匠?」──
「──っておいおい、ヤマト‼ リーフルも……心配したぜ、ったく」
彼の名は"リオン"。イーサンの下で修業中の見習い鍛冶師だ。
俺がこの世界に転移して来た頃に同じようなタイミングでリオンもまたイーサンを訪ねサウドへとやってきたらしい。
同じ新参者で年齢も近いという事もあり、彼には共感するところが多く、シシリーやキャシーと同じく付き合い自体は長い方だ。
冒険者として活動を始めて以降、俺の装備はイーサンでは無くリオンに世話になっている。
というのも、イーサンの造り出す装備品はどれも見事な一級品で、当然の事ながら金額もそれ相応だ。
もちろん万人に向けて造られた二級三級の汎用品も工房では販売されているが、それでも新米冒険者には中々手が出しにくい値段となる。
俺の基本的な装備は師匠に用立ててもらったものがほとんどだが、同じ新米として、リオンを応援したい気持ちもあったし『リオンの修行に付き合うのなら格安で面倒を見てやる』とのイーサンの提案もあり、その後の矢の補充やメンテナンスに関してはリオンを頼っているのだ。
「ごめん。すぐには帰って来られる状況じゃなかったんだ」
「そっか。まあとにかくお前が無事ならなんでもいいよ。危うく俺の貴重な修行相手を失うところだったぜ」
口ではそう言うが、リオンが少し素直ではない性格なのを知っている為、俺を心配してくれていた事は表情から見て取れる。
「はいはい──今日はこれ、ロングソードを見て欲しくてさ」
ロングソードを手渡す。
「お?? いつもの短剣は?」
「事件の詳細──までは聞いてないよね。俺の短剣は証拠品として押収されちゃってて」
「そうなのか。でもよ、ロングソードなんて扱えるのかよ? 短剣なら新しく用意するぜ?」
「えっと……」
(こういう時説明に難儀するんだよな……)
加護のおかげで筋力が増えたなんて事を主張しても、出先で頭をやられて帰って来たと思われるだけなので、黙っておくことにする。
「うん、ありがとう。でも短剣の方は汎用品でいいや。今は予算があんまり無いし、出来合いの安いのを一本もらうよ」
「それで、今後はロングソードも慣らしていこうと思ってるんだ。短剣だと厳しい事も多くて」
「まあ慎重なお前の事だから大丈夫だろうけど、背伸びのし過ぎは禁物だぜ?」
「うん、弁えてるつもりだよ。ロングソードの整備が終わったら、森で訓練合宿でもしようかと思ってるんだ」
「なんだよ、珍しいな? 随分と前のめりじゃん」
「う~ん……強くなりたい訳じゃないんだ。けど、せめてリーフルだけは守り切れるようになりたいんだ」
「……それもそうか。リーフルはヤマトだけが頼りだもんなぁ」
リオンが慈しみ深い表情でリーフルの頭を撫でている。
「ホホーホ(ナカマ)」
「──だな。リオン、どうやらヤマトはいつになく真剣だ。そいつ、気合入れて仕上げてやれ」
「こりゃあお前も負けてられねえな?」
傍で商品の手入れをしていたイーサンがリオンに発破をかけている。
「師匠……ヤマト、任せとけよ! 必ず唸らせてやる!」
「期待してるよ」
冒険者としては微々たる進歩かもしれないが、安全を重視する俺にとって、短剣からの脱却は大きな変化だ。
もっと強い魔物を、もっと難易度の高い仕事を。そんな理想は俺の性分じゃない。
多くは望まない。ただ一つ、リーフルだけは何としても守り切りたい。
リオンならその願いの一助となってくれるはずだ。
120
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜
自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。
世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。
派手に振られて落ち込んでいる精霊王。
逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。
可愛すぎて人間が苦手になった真竜。
戦場のトラウマで休養中の傭兵――。
そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、
異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。
異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、
このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。
日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。
そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。
傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる