平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
88 / 190
2-4 平凡の非凡

第75話 次のステップへ

しおりを挟む

 俺が街の外で露店を始めるに当たり、何か限定品──新しいシロップ等を開発した方が良いのではと提案してくれたのは、様々な接客業をこなしてきたダナの経験から来るアイデアだ。
 今のところ三種類のシロップがあり、特にウーイとヒール草を用いた"リーフルスペシャル"は看板商品で、ベリ、シディが銅貨三枚で販売しているのに対し、リーフルスペシャルは銅貨六枚と、倍の値段にも関わらず一番人気の売れ行きとなる。
 その事実から分かる通り、物が良ければ少々値が張ろうと消費者は納得して財布を開くという事だ。

 限定品を用意するという発想自体は統治官も勧めていたように、売り上げに関わる重要な部分なので、何とか開発するべきだが、肝心の発想が降りて来ない。
 今日は俺一人という訳では無いので、二人の助力も請えばいいのだが、それでも中々難航している。

 計画の肝である露店の準備に向けて、ダナ、メイベルの二人と、ギルド近くの喫茶店で休憩がてら相談をしていた。

 んぐんぐ──「ホッ……ホーホ? (ヤマト)」
 リーフルがラビトーの肉のおやつを飲み込むと、俺の目の前のクッキーを指し、上目遣いで訴える。

「…………」
 
「ホーホ? (ヤマト)」
 リーフルが俺に歩み寄り圧を強める。

「…………」
 俺は心を鬼にして目を逸らし、リーフルの要求を無視する姿勢を貫く。
 今日の所はいくら何でもこれ以上"甘味"は与えられない。

「ホー! (テキ)」

「…………」

「ホーホホ! (タベモノ!)」

「リーフルちゃん……」
 メイベルが苦笑いを浮かべている。

「じゃ、じゃあ私のをどうぞリーフルちゃん」
 ダナが自身の皿の上のマカロを差し出す。

「ありがとうございます──でも駄目なんですダナさん。今日はさすがに食べ過ぎです」

「ホ~……」
 リーフルが翼を開きテーブルの上に伏せ、休息する姿勢をとっている。
 それもそのはずで、今日はパン屋の定休日を利用し工房を借りて、朝からメイベル、ダナとヘレンの手も借り限定品の試作を行っていた。
 その際に産まれる選考外のパンやシロップは、当然食べて消費する事になるので、リーフルはここぞとばかりに平らげてしまっていた。
 頬袋があるわけでも、胃が複数あるわけでも無いリーフルが次々についばんでいると、そうなる事は自明の理で、今日これ以上は健康に良くないどころか、悪いレベルの摂取量となる。

 動物が食べ物の事を最優先に考えて行動しているのは当たり前で、成長期であるリーフルが沢山食べたいと思うのも自然な事だ。
 普通の食事であれば多少甘やかす事も厭わないが、甘味となれば話は別だ。
 それにリーフルはお腹を空かせている、もしくは食い意地が張っての主張という訳では無く『ヤマト達と同じ物が食べたい』という気持ちが強いのだと思う。
 
「可愛いからついあげたくなっちゃうけど、確かにヤマトさんの言う通り今日は朝から少し食べ過ぎたものね」

「そういえばパンも二つ分くらい食べてたわ」

「ハッキリとした事が分からないから怖いんですよね。基本的には何を食べても大丈夫みたいなんですけど、後々どんな影響が出るか……」

「ふふ──それにしても難しいわねぇ。ただシロップの種類を増やしても特別感が無いし……」
 
「パンの方はメイベルの発想でいいと思いますね。後の詰めはヘレンさんと相談しながら、完成させるのを期待してるよ」
 
「うん! そっちは任せてね。私、この機会にパンもお手伝いできるようになりたいの!」
 メイベルはリーフルをイメージして葉っぱの形を模した緑色のパンを作ろうと、ヘレンさんと前々から相談していたらしく、今回用意したい限定品にそれを抜擢しようという話だ。
 
(かき氷の種類か……──あ、練乳! そういえば練乳が欲しいな)

「何かフルーツを乗せるっていう考えは悪くないと思うわ。ヤマトさんのアイテムBOXだからこそ実現出来るアイデアだし」

「そうですね~。劣化しないのは本当に……はっ!」

「──ダナさん、これで行きましょう!」
 妙案を思いつき、光明が差したことで意気揚々とその場はお開きとなった。


 
 宿の一階受付にて、シシリーを説得するべく計画について説明している。
 
「……というわけで、三日置きにって感じでやろうかと思ってるんだ」 「ホ~」

「う~ん……わかったわ。でも気を付けてね」

「知っての通り無茶はしないよ。死んじゃったら元も子もないしね」

「じゃあ約束してくれる?」

「ん?」

「帰ってくる日は一番に私に顔を見せて。約束してくれないと部屋は空けておいてあげないんだから……」

「うん、わかった」
 
「ホホーホ(ナカマ)」
 
 俺の立てた計画。
 その大筋としては、休憩所を利用しながら森に単身分け入り、魔物を狩りながら、定番の納品物を収集してゆくという、所謂"修行"じみたものだ。
 普段はある程度成功が約束された依頼を選別し、日銭を稼ぎ生活をしている訳だが、仕事クエストを受けるでもなく、さらに危険を冒し森で活動するとなれば、当然収入の目処が立たなくなる。
 そこで考え付いたのが"露店"の営業だった。
 
 俺のアイテムBOXであれば食べ物が劣化する事は無いし、収集した物が飽和し持ちきれなくなるという事も無い。
 無制限に物を運べるというのは移動販売に持って来いだと思い付き、森へ出入りする冒険者達を相手に甘味を販売しようと考えた。
 わざわざ街に帰らなくとも甘味が手に入るという利便性を強みに、商機があると踏んだ訳だ。
 実際には休憩所での販売は禁止され少々面倒は増えてしまったが、営業自体を禁止された訳ではないし、リーゼスの言う事ももっともなので、文句を付けるなんて傲慢というものだろう。

 森の休憩所であれば魔物除けの魔導具が設置され比較的安全性も高いし、武器を振り回しても他人を危険に晒す心配も無く、心置きなくロングソードの感覚を掴むのに活用できる。
 それに、アウトドアというものに少々憧れもあったし、あえて危険な状況で過ごす事で、察知能力や度胸を養うといった狙いもある。
 "勇猛果敢な冒険者"なんて性分では無いが、折角加護がパワーアップした訳だし、やはり多少の力は付けたい。
 なので季節が凍てついてしまう前のこのタイミングなら行動もしやすく、野外で夜も過ごしやすいので、思い切って行動に移してみようと思い至った。
 
 限定品の選定が終わり次第『平凡ヤマトバージョンアップ計画』のスタートだ。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...