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2-6 外地にて
第90話 冒険者ギルド・センスバーチ支部 1
しおりを挟む俺の第二の故郷であるサウドを出発して一日半。
途中休憩に立ち寄ったニコ村では、時期外れの虫の大発生に遭遇するという不運に見舞われはしたが、その事を除けば至って順調。
街に入る際、がらんとした荷台を検められ多少怪しまれはしたものの、無事センスバーチへと到着した。
今回請け負った"定期便"を担当するという仕事も、全ては俺が持つスキルである、アイテムBOXの異次元空間の中に収納しているので、例えば雨風で物資が劣化する事も、何かの拍子に紛失し、数が不足するという事も起こり得ないので、仕事内容としては簡単な部類だ。
移動の行程が快適であったのは、ベテラン御者のガリウスに因るところが大きいが、この程度の距離であれば、今後もいい稼ぎの一つとなるやもしれない。
ギルド前に降り立った俺達は一旦解散、ガリウスはバルと一度休憩に、ロングはビビットが勧める有名なカフェがあるとの事で、二人で出掛けて行った。
二人きりでカフェに行く事を提案したのは他でも無い俺なのだが、中々良いアシストが出来たのではないかと思う。
納品の手続きなど担当者の俺一人で十分。
皆で押し掛けても退屈なものだし、ビビットがロングとの距離を縮めるのに『勝手を知らぬ街で』という、ある種の不安定な状況が良いアクセントになるのではと踏んだのだ。
一方俺は、サウドにて預かる定期便の物資を納品する為、冒険者ギルド・センスバーチ支部へと一人足を踏み入れた。
(中の造りは似てるんだなぁ。酒場が併設じゃないって所が違うけど)
受付人が横に三人程整列できる長さのカウンターに、依頼書が張り出される掲示板。
カウンター奥には守衛担当の冒険者が詰める部屋や、資料が保管され職員が雑務を行う部屋、倉庫に続いているであろう廊下等、サウド支部と然程変わりは見受けられない。
早速仕事を完遂する為、受付に尋ねてみる。
「こんにちは。サウドからやって参りました、定期便です」
冒険者証を提示し用件を伝える。
「はい、こちらでお伺いしますわ。あら? 確かこの名前……肩に鳥……」
受付の女性が俺の冒険者証を見るや否や、訝しむ表情を浮かべ何やら呟いている。
「あの……何か不備でも?」
「ぐぬぬぬっ……あなた!──あなたがそうなのね!!」
突如受付の女性がカウンターに両手を打ち下ろし立ち上がり、俺を指差し声を荒げる。
静まり返るギルド内。
「ホ~? (テキ?)」
張り詰める空気などなんのその。
様々な経験から、豪胆さの増したリーフルの羽繕いの音だけが微かに響き渡る。
(突然なんなんだこの人……それに、俺の事を知ってる……?)
「──っ! いけない……な、何でもございません事よ、おほほほ……」
我に返り、大声を上げてしまった事に狼狽している。
「て、定期便でしたわね! どうぞ応接室へお越しくださいませ」
サウドと同じ、衝立で間仕切られた簡易的な応接室へと誘導される。
「分かりました」
女性の後に続き移動する。
◇
「先程は取り乱してしまいまして、申し訳ございませんわ。まずはご挨拶を」
「私はこの栄えある冒険者ギルドセンスバーチ支部の看板娘! を務めます、"フライア"と申しますわ」
どこの支部でもギルドの顔であるというのは誇らしいものなのだろうか。
名をフライアと言う職員の女性が、語気を強め腰に手を当て胸を張り、"看板娘"である事を強調して話す。
(う~ん?? さっきから何だか……)
先程からのフライアの立ち振る舞いには何とも言えない既視感を覚える。
「ご丁寧にありがとうございます。サウド支部に所属しております、冒険者のヤマトと申します。今回は俺が定期便を担当致しまして、物資を運んできました」
「ホ」
書類をテーブルに差し出す。
「遠路はるばるお疲れ様でございますわ。では早速、検品の荷下ろしに──」
「──あ、馬車には乗ってません。俺が全て収納してますので」──ボワン
証明の為にサウド製マジックポーションを三本程取り出して見せる。
「なっ……!?──ちっ。そういえばそんな事言ってたわねあいつ……」
左右に別れた長い巻き髪の銀髪、長いまつ毛に整った顔立ちは所謂"お嬢様"を彷彿とさせる容姿をしているフライア。
そんな看板娘にふさわしい美人な彼女の表情が刺々しいものへと一変し、口調も粗暴な雰囲気に急変する。
「??」
「ホホーホ? (ナカマ?)」
どうやらリーフルも同じように感じている様子で、互いに顔を見合わせる。
(そうだよなぁ……素直に聞いてみるのが早いか)
「あのぉ……先程から気になってたんですが、もしかして"キャシー"さんとお知り合いなんですか?」
「キャシー……そう、キャシー!! あいつばっかり! ずるいずるい!」
キャシーの名を口にした途端、フライアが癇癪を起こしたように両手足をばたつかせ、憤っている。
「えっ、あの……どうもすみません」
彼女の態度や言葉から、何か因縁がある事は明白だが、事情が掴めないので取り敢えず謝っておく。
……というよりも、成人女性の駄々っ子を前に、俺には他に為す術が無い。
「──ハッ!……お恥ずかしいところを。おほほほ……」
先程同様我に返り、落ち着いた雰囲気に居直る。
「え~っと、倉庫に移動した方がいいですよね?」
これ以上要らぬ地雷を踏む前に、仕事を終わらせるべく進言する。
「そ、そうですわね! では、倉庫の方へお願いいたしますわ」
フライアの後に続き、物資を検品してもらう為に倉庫へと移動する。
◇
無事倉庫で仕事を完遂した俺は、再びフライアと応接室にて紅茶を囲み、話し合っていた。
「いやぁ、さすがセンスバーチですね。高級そうな物が沢山ありますね」
倉庫で目にした保管されている品々は、俺の知る相場の高い物から、未知の煌びやかな布や食器、装飾品だったり、頑強そうな鱗に覆われた何かの魔物と思しき尻尾だったり、とサウドに比べ嗜好品の類が多いような印象を受けた。
「あんなの反則よ……」
ぶつぶつと爪を噛みながら何やら呟いている。
「あ~……よ、よく驚かれるんですよ~、ハハハ……」
恐らくアイテムBOXの事を指しての言葉だろうが、一人の世界に没入し、自問自答する癖があるようなので、何とも接し辛い。
「さっきの倉庫内でもそうだけど、散々見せちゃったんだからもういいわよね?」
(自分で認めるんだなぁ。潔いところを見ると嫌いなタイプの人では無さそうか)
「ええ。正直俺としても、何かあるたびに変容されても戸惑いますし」
「看板娘も楽じゃないのよねぇ『優雅に愛想良く、羨望を集める存在であれ』」
「統治官様の仰る努力義務も分かるけど、四六時中ニコニコお嬢様なんてやってらんないわよ」
「へぇ~。同じギルド職員でも、統治官様の色が違うんですね」
「ぐぬぬっ……ホントだったらとっくに有望冒険者の求婚にまみれて、玉の輿に乗って人生楽々! だったはずなのに……」
再び自分の世界に没頭し、恨み言を並べている。
(人生設計は十人十色あるとはいえ、露骨に願望を話す人も珍しいな……)
「アハハ……ところで、キャシーさんとはどういったご関係なんですか?」
「あいつは私の敵よ! あいつさえいなければ私は──」
衝立をノックする音。
「お話し中失礼します。フライアさん、緊急要請です」
何やらギルド職員が鬼気迫る表情を浮かべ、応接室にやってきた。
「──こほん。承知しましたわ。 ヤマト様、少々失礼いたします。お話は後程」
フライアがカウンターへと急ぐ。
「あ、はい」
「ホ~? (テキ?)」
リーフルが、立ち去るフライアを指し尋ねる。
「う~ん、どうかな? 悪い人では無さそうだけどね」
話は途中だが何もせず待つのも暇なので、観光気分でも味わおうと、街へ繰り出すことにした。
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