平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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第98話 熱波の告白 3

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(家……か)
 なんとも俺のようなさして取り柄のない冒険者に、随分と気前の良い提案をしてくれるものだ。
 家賃宿代の負担が無くなるというのはかなり大きいし、給料まで。

「自分も一緒に……本当に自分なんかも一緒にいいんですか……?」
 ロングが遠慮がちに細々とエドワードに尋ねている。

「何を言う。昨日の君の活躍に、僕は痛く感銘を受けたのだよ。ロング君のその清々しい心根は、この白美プリスティンと並び立つべき素晴らしいものだと感じるよ」

「あ、ありがとうございます……ヤマトさん、かなりの好条件っすね?」

「うん、そうだね……」
 リーフルの事を想えば、エドワードの言うように安全性も高く、約束されたお金も手に出来るとなると、相当に魅力的な提案であることは間違いない。
 加えて『ロングも一緒に』と言ってくれている事で、寂しさや心細さといった、精神的な負担が少ない事も大きい。
 俺の現状と誘いの内容を考慮すれば、一も二も無く前のめりに、むしろこちらから願い出てもおかしくない条件だと思う。

 詳細について考えてみると、エドワードの要望を嚙み砕いて理解するなら、恐らく俺達三人でパーティーを組み、有名冒険者アイドルとして観衆の前に立つ事を余儀なくされる、という事なのだろう。
 だがそれには対価を支払うという話なので、おいしい役回りだとも言えるが、そうなると俺達には当然従事する義務が発生し、簡単に離脱する事は叶わなくなるだろう。
 となれば、稀有な存在であるリーフルの危険が増すこととなるし、俺も人前に立ち、何かを演じるといった柄では無いので、見返りとして十分かと言うと微妙なところか。

「どうだろうか? ヤマト君。他にも何か至らぬ点があるなら、遠慮無く話してくれ」

「……」
 リーフルを見つめ頭を撫でる。

 ──んぐんぐ「ホーホ? (ヤマト?)」

(サウド……当たり前過ぎて考えた事無かったな……)

 そもそも俺がサウドで暮らしている根本的な理由。
 それは、転移した先がたまたまサウド近郊だったからにすぎない。
 何も持たない俺に師匠が仕事を斡旋してくれ、住処を確保し、細々と手の届く範囲のクエストをこなし、と言わば『成り行き』以外の何物でもない。

(リーフルの幸せ……俺がすべき事……)
 エドワードの心情は理解できるし、同情も感じる。
 それに、こんなにも魅力溢れる提案だというのに、何故だろうか……。

 心躍ることも無く何処か現実味が感じられず、ただ漫然と、知人達がそぞろ歩くサウドの街並みや、定宿であるカレン亭の外観が脳裏に浮かぶ。
 
 成り行きで身を寄せた街ではあるが、今となっては心の置けない仲間も出来、野良達の面倒を見る楽しみもあれば、限定的ではあるが頼りにされているという自覚もある。
 そんなかけがえのない温もりは、がらんどうだった俺自身が築き上げた、この世界における歴史そのもの。
 
「ヤマトさん。自分はどこまでもお供します。ヤマトさんの想い──リーフルちゃんを優先するのがいいと思うっす」
 静かに俺の様子を伺っていたロングは全てを察し、一助となる提案をしてくれる。

「…………」
 
「うん……エドワードさん、センスバーチは流通の拠点ですし、市民以外の活動も盛んですよね?」

「まさに素晴らしい慧眼だ。そう、すなわちアンション国内全域に、我々の評判を広く喧伝出来る場所でもあると言えるね」
 エドワードは俺の問いに対し、あくまでも前向きな解釈でもって答える。

「……」

「なぁリーフル、後で露店通りに行こうか?」

「ホゥ……(イラナイ)」
 
「……はは、そかそか」
 リーフルの頭を撫でる。

「すみませんエドワードさん。やっぱりお受けできません」

「なっ、何故だい!?──そ、そうか! 賢明な君の事だ、給料についての具体的な──」

「──いえ、そうではなく……リーフルが喜ばないからです」

「リーフル君……?」

「俺、今回第二の人生はリーフルの為に生きるって決めてるんです。だから、リーフルがご飯を楽しめないこの街には住めません」

「ホーホ (ヤマト)」
 膝の上のリーフルが、伏せる姿勢で俺の顔を見上げ呟く。 

「──くふふ! リーフルちゃんはグルメっすからね!」

「ホ~? (ワカラナイ)」


「……フッ──フハハハッ! いやぁ、本当に君には驚かされてばかりだよ」

「なるほど、理解した! 君は大切な者の為であれば、容赦無く他を振り切れる強靭な精神の持ち主なのだね! まったく素晴らしい!」

「いえ、あの……折角のお誘いをすみません」
 何やら過大に評価をしてくれているが、リーフルが首を縦に振らない以上、俺としては決断するに十分な理由となるだけの事だ。

「いやいや! ますます気に入ってしまったよ! やはり僕は君に憧れる──偉大なる道標よ!」
 何故かエドワードが今日一番の声を張り上げ盛り上がっている。

「えぇ……? 怖いぐらいっすね……」
 ロングが小声で耳打ちする。

「そ、そうだね……」
 驚く程の前向きな性格と言うべきか、確固たるキャラクターの持ち主だと言うべきか、誘いを断られたとはとても思えない明るさだ。

「そういう事であればこのエドワード! センスバーチにおける食文化の発展に尽くすのみ! 君達が住み良い街になるよう、ミント商会の全力をもって味の向上に努めようではないか! はっはっはっ!」
 拳で胸を打ち、まるで舞台上での振る舞いのように大仰な笑いをあげている。 

「あ、いえ、そういう話でも……」 「ホーホホ? (タベモノ?)」
 
「ありがたい……っすね?」 


「まぁ僕も少々事を急ぎ過ぎたようだし、今回は大人しく引き下がろう。だがいずれ! この白美プリスティンと対を成す艶鴉プロノワールとして、共に観客を沸かせようではないか!」

(あ、諦めはしないのか……)

  
 エドワードの振る舞いには今でも若干の戸惑いを覚えるが、同業者として勇気づけられる出会いだった。
 有名冒険者アイドルを演じる事で、間接的に街に貢献するという仕事ぶりは、サウドには見られない珍しいタイプだ。

 実際、エドワードの境遇には同情する。
 誰だって冒険者である事を望んだ者には、満たしたい冒険心もあれば、未知への憧れはあるだろう。
 なので事情の外の所属外で、自由に行動している俺やロングの事が眩しく映るのも理解できる。
 通常であれば敵対心も生まれそうなところを、何の取り柄も無い俺を参考にしたいと言い、目も覚めるような条件を提示したりと、己の不憫をうたうよりも向上しようとするその器の大きさは、まさに賞賛されるべきものだ。

 だが申し訳ないが、俺にとってはリーフルと比べれば些細な事。
 リーフルにとっての一番良い環境を整え、健やかなる成長の手助けをする事こそが俺の人生なのだ。
 
 センスバーチが安全で、魔物の脅威が少ない事は、リーフルと俺にとっては過ごしやすい環境なのかもしれない。
 しかしそれでは、真にリーフルを守り切る実力をつけるには及ばない環境だとも言える。
 それに愛着があり、故郷にも感じるサウドを去るイメージもまるで湧いてこない。
 そう思うと今まで自覚は無かったが、俺は案外、ホームサウド支部というものに誇りを持っているようだ。
  
 俺の暮らす場所ステージは辺境都市サウド。
 今回の告白スカウトは、すっかり自分が"冒険者"なのだと改めて認識させられるものだった。
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