平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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3-1 浮上する黄昏れ

第106話 探偵ミミズクと平凡助手 1

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 正午を過ぎ、空高く昇る陽の光を眩く反射する美しい淡い桃色の砂浜に並び座り、久しぶりの海を眺めている。
 脇を通り過ぎる小さなカニや、色とりどりの丸い小石。
 穏やかに打ち寄せる心地よい波の音や、グラデーションがかかった深い青の海面は、まるで自分が美術館の主役を飾れそうな名画の中にでも入り込んだかのような錯覚に陥る。

 つい先ほど、目的地である漁村ハーベイの全景を望める少し離れた場所へとやってきた。
 てっきり早々にの解決に向け実家を訪ねるものと思っていたのだが、マリンの誘いから、一先ずこの海岸に腰を下ろし昼食を取っている。
 
 ここから窺える村全体の造りはとても優雅なもので、海岸に向かうなだらかな傾斜のある地形には鮮やかな橙色の屋根が密集して立ち並び、海上には縄で繋がれた白いこじんまりとした作業船が数艘見える。
 仕事クエストで来ているのであまり緩む訳にはいかないが、正に風光明媚な美しい景観に、多少の観光気分が湧き出るのも致し方無いだろう。

「綺麗やろ~? ヤマちゃんにこの景色見せてあげたかってん!」

「そうだね~。でもいいのかな? こんなにのんびりしてて」
 牛の赤身の干し肉を切り分けリーフルに差し出す。

 んぐんぐ──「ホッ……」

「ふふ、まぁそんな硬い事言わんと。うちのささやかな夢の一つぐらい叶えさせて」
 膝に抱くリーフルの頭を撫でながら楽し気にそう話す。

「夢って?」

「ふふ~ん! こうやって好きな人と、この砂浜でのんびりお茶するのが小さい頃からの夢やってん」
 快活に微笑み、真っ直ぐ俺の顔を見据えながら答える。

「そ、そうなんだ……」
 気恥ずかしさからこちらを見つめる視線から逃げてしまう。
 
 はっきりとした好意を寄せられている以上、俺としても全くの不感という訳にはいかないもので、異性としての意識は少なからず持っている。
 突然の出会いに唐突な宣言ではあったが、"一目惚れ"とはそういうものなのだろうし、マリンには他に裏も無く、リーフルの事も可愛がってくれている。
 
 一方当事者の俺としては、それに応えられる気持ちがある訳でも無く『あなたとは一生可能性がありません』と明確に返事が出来る訳でも無いというのが現状だ。
 態度を明らかにしない狡さに後ろめたさも覚えるところではあるが、軽々な決断を下すことも出来ず、全く意気地の無い男だと、お得意のが恨めしくも思えてくる。

(こんなだから二十七にもなって、恋愛の一つも出来ないんだろうなぁ……)

「……ヤマちゃん、別に焦らんでええんよ? うちはそんなヤマちゃんやから惚れたところもあるんやし」
 俺の表情を読み解いたのだろう。
 察しの良いマリンが、思いやりを口にしてくれる。

「マリちゃん……」

「でも覚悟しときや~! 最後にヤマちゃんを手に入れるのは、この大商人マリちゃんやで~!」
 
「ホホーホ~! (ナカマ!)」
 事情が理解できているのかは分からないが、何故かリーフルも右翼を広げやる気を見せている。

「ふふ、リーちゃんも応援してくれるん? 優しい子やなぁ!」
 マリンがリーフルを抱きしめる。 

「アハハ……」


 一人の女性がこちらに歩み寄って来た。

「あらマリちゃん、帰ってきてたんやね~」

「あ、おばちゃん! 今日も散歩~?」

「せやで~。毎日歩かんと、足腰弱ってまうからなぁ」
 女性が足をさすりながら明るく答えている。

「あら、隣の人はどなた? 見た感じ冒険者さんみたいやけど」

「初めまして。サウド所属の冒険者のヤマトと申します。こっちは相棒のリーフルです」

「ホ~」

「なんとまぁ可愛らしい鳥ちゃんやこと! 頼もしい所からはるばるよう来なはったなぁ。マリちゃん、サウドで何かあったんか?」

「ううん、ちゃうよ。おばちゃんも知ってるを成敗しよう思てな。ヤマちゃんはその助っ人やねん」

「あ~、あのグリフっちゅう男な。私も胡散臭いとは思てんねんけど、ラウスさんは何を考えてはんねやろなぁ……」
 女性が怪訝そうな表情で呟いている。 

「"ラウス"はうちのお父さんの事やで」
 マリンが小声で耳打ちしてくれる。

「なるほど……あの、マリちゃんが村を離れている半月程の間、その男について何か変わった事はありませんでしたか?」

「う~ん、目立った異変は何もあらへんよ──あ、でも、ラウスさんが『凄い力の持ち主や!』言うて、あの男を空き家の一軒に住まわすようになってな~」

「私らはその言うんは見た事無いんやけどな。ラウスさんはえらい信用してるみたいでなぁ」

「──あ、せや。飴ちゃん食べる?」
 女性が小瓶から飴を取り出し渡してくれる。

「ど、どうも」 「ホホーホ(ナカマ)」

「まぁ何にせよ私ら村のもんは全然信用してへんし、なんかあったらすぐ相談しに来るんやで、マリちゃん」
 女性が慈しみ深い表情でマリンの頭を撫でる。

「うん! ありがとうおばちゃん。 でも大丈夫やで! うちが連れて来たこのヤマちゃんは、サウドでも随一の冒険者と誉れ高い、頼りになる男やねん!」
 
「ホーホ! (ヤマト!)」──バサッ
 二人がを広げ、大仰に宣言している。

「ちょ、ちょっとマリちゃん!」
 焦り、小声でマリンに訴える。

「大丈夫やって。これぐらいのハッタリかましといた方が、後々協力も得やすいもんやで」
 女性に気取られぬようマリンなりの目論見を答える。

「へぇ~! ホンマかいな! サウドで随一とは、一体なんぼすんのよ~、はっはっは」

「ふふ~ん! うちの旦那さんになる予定の人やから、特別価格で請け負ってもらえてるんやで~?」
 マリンは冗談めかしそう言っているがその実、今回支払われる予定の警護任務に対する報酬は、相場の四倍程と、この厄介事の件も加味された値段となっている。
 ギルドが斡旋するクエストの正否を問う範囲が警護任務のみとなっているのはマリンの配慮によるもので、俺が進んで協力してあげたいと想う理由の一つだ。

「まぁマリちゃん! 行商だけや無くてお婿さんまで見つけてくるなんて、さすがラウスさんの娘やなぁ!」

「──おっと。そういう事ならお邪魔虫はちゃっちゃとおいとましよかな。後は若い二人でごゆっくり~。はっはっは」
 そう言い残し、にやけ顔の女性が散歩の続きに立ち去った。

(矢継ぎ早の関西弁の応酬……圧倒されるな)
 
「おばちゃん今日も元気一杯やなぁ」

「ホホーホ(ナカマ)」

「そうだなリーフル。優しそうな人だったね」

「あのおばちゃんはご近所さんでな。飴ちゃん作るのがすごい上手な人やねん」

「へぇ~。飴屋さんって事?」

「ううん。飴ちゃんはこの村の郷土料理みたいなもんで、商売用に作ってるんじゃなくて、御茶菓子として楽しむ為にそれぞれの家庭が作ってる物でな」

「魚以外にも何か村の特産が欲しいな~と思って、今回試しにサウドで販売してみたって訳やねん」

「なるほど」


「……ハァ~……いつまでもこうやってヤマちゃんとのんびりしてたいけど……それは悪党退治が終わってからやね!」
 マリンが立ち上がり、いよいよ問題と向かい合おうという気概を見せている。

「ホ」──ス
 リーフルが肩に戻る。

「そうだね。まずはそのグリフって人に面会してみよう。俺達がどう立ち回るべきかはそれからだ」
 砂を払いながら立ち上がり、遠景の村を見つめる。
 
 いざ仕事クエストに取り掛かると思うと映る景色も違って見えるもので、先程まで抱いていた絵画のような印象からは一変し、まるでサウドの森に納品物の採集に行く時のような緊迫感を覚える。
 
 砂浜に残る二人の足跡は、村の中腹目掛け進み行く。
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