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3-1 浮上する黄昏れ
第106話 探偵ミミズクと平凡助手 5
しおりを挟む「どうやろか? 実際にグリフ君の凄い力を見てもろた訳やけど、これでみんなも──」
見世物が終わり、脇に控えていたラウスが口を開く。
「──ちょっと待ってお父さん!」
ラウスの話を遮るようにマリンが村人達の前に躍り出る。
「ん? マリン、どないしたんや?」
「お父さんも、みんなもちょっと待って。やっぱりそいつは大噓つきの食わせ者やで!」
グリフを力強く指差しながら自信に満ちた表情で宣言している。
突然のマリンの宣言に、数々の奇跡を脳内で反芻していた村人達にどよめきが走る。
「ど、どういう事や? お前も一部始終は見てたやろ?」
何故かラウスが少し焦った様子でマリンに問いかけている。
「うん、見てたよ。でも、そいつの見せたパフォーマンスは全部まやかし。神の力なんてあらへんねん!」
『え、マリンちゃん急に何を言い出すんや』 『実際にこの目で見たしなぁ』 『マリンおねえちゃんもやってみたいってこと~?』
皆の前ではっきりとグリフがペテンだと言い切るマリンに村人達から疑念の目が向けられる。
「分かる、分かるよ。あんな不思議な力を目の前で見せられたら、逆にみんながうちを疑いたくなる気持ちも分かる」
「でもな、安心して。それを見抜いたのはうちやないねん。グリフが偽物やって事は、この冒険者ヤマトさんに説明して貰います!」
マリンが宣言と共に俺を指差す。
村人達の視線が一斉にこちらを向き、途端に何とも言えない居心地の悪さを覚える。
「ど、どうも。冒険者のヤマトです」 「ホ」
『え、どちらさん?』 『急にそないな事言うても、どこの馬の骨とも分からんやつが……』 『冒険者言う割には……なんや地味な男やな?』 『よそ者はすっこんどれよ!』
今となってはグリフの事を信用しつつある村人達が口々に疑問を呟き騒ぎ立つ。
当然の反応だろう。
村人達にとっては、グリフよりもさらに見覚えのない男が全てをひっくり返さんと急に名乗り出たのだ。
いくら"冒険者"という身分があろうと、素直に聞き入れ難い気持ちには俺も同情するところだ。
「もおーっ! みんな話ぐらい聞いてよ~!」
『いくらマリンちゃんが言う事やからってなぁ……』 『そうやそうや! 俺達の仕事の助けになるかもしれんのやで!』
「──まぁ待ちいなあんたら!」
突然一人の女性が大声を張り上げ、俺を庇い立つように皆の前に躍り出る。
女性の問いかけに広場に静寂が戻る。
「この人はなんとあのサウド所属の冒険者、しかもその中でも随一の腕利きやねんて! マリンちゃんがそう言うてたんや!」
『サウドかいな! それがホンマなら確かに凄い御仁やとは思うけど……』 『せやなぁ。現に威厳みたいなもんがちっとも……』 『マリンちゃんこそ騙されてるんとちゃうか?』
「ほならなにか? あんたらも昔からよ~知ってる誠実で賢いマリンちゃんが、しょうもない嘘をつくような子やとでも言うんか!」
『それは……』
「なんぼ凄い力を持ってるか知らんけど、素性も知れんこの人よりも、私はマリンちゃんが信じる冒険者のヤマトさんの方を信じるで!」
女性が皆を説得しようと必死になって問いかけてくれている。
「おばちゃん……」
「まぁまぁみなさん。私の事ならお気にされずに。検証されたいとの事でしたらどうぞ気兼ねなくおっしゃって頂いて構いませんよ?」
傍観していたグリフが自信がのぞく声色でもってそう話す。
「ヤマトさん、先程ご挨拶させて頂いた以来ですね。どうでしたか? 神の御業の素晴らしさはちゃんとお伝え出来ましたでしょうか」
「ええ、しっかりと拝見させて頂きました。凄いと思います」 「ホー! (テキ!)」
「ほお……であれば、今更私にどんな疑義がおありで?」
「……グリフさん。あなた随分と研究熱心な方なんですね」
「……」
表情にこそ変化は見られないが、グリフが俺の問いかけにこちらを見据え押し黙っている。
「研究? ヤマちゃん、どういうこと?」
「うん。まずは"神託"の説明からしようか。グリフさん、構いませんよね?」
テーブルに歩み寄り、グリフが用いた道具を指し使用許可について尋ねる。
「え、ええ……」
「ありがとうございます」
「実際にやって見せた方が理解もしやすいかと思いますので、皆さんもご確認ください」
虫を拝借し、俺もグリフと同じように迷路模型の入り口に据え置く。
「出口は……ここですね」
出口となる場所を皆に指し示す。
ダンゴムシに似た虫が触角を駆使しながら迷路内を慎重に、かつ確実に俺が指し示した出口へと向かい歩を進めてゆく──。
『『えっ!?』』
──虫は寄り道をする事無く出口から脱出した。
「ヤマちゃん虫が! どういうことなん?!」
マリンが目を丸くし驚いている。
「これは虫の習性を利用した現象なんだよ」
「習性って?」
「この虫はね、触角を使って壁沿いに進んで行く習性があるんだ。そして進んだ先で行き止まりに突き当たると、今進んで来た壁の方向に曲がるんだ」
「今回の場合だと、左壁に沿って進んでるから突き当たると左に曲がる。曲がった後は右壁に沿って進む事になるから、その後の突き当りでは右に曲がる。その動きを繰り返す事になるから、例えすぐに出られる出口があったとしても、そっちの方には進まないんだ」
「へぇ~!! じゃあ神託で操ってたんやなくて、単に虫の癖みたいなもんを利用してただけなんやね!」
「そういう事だね。だからこっちの出口から脱出させたいなら──」
虫を別の入り口に据え置く。
「この入り口ならこの出口、という訳です」
──虫が先程とは反対の出口から脱出した。
『ホンマや……』 『虫の習性……』 『操ってた訳やなかったんか……』
始めこそ疑いの目で俺を眺めていた村人達も、実演した甲斐もあり感心した様子で呟いている。
「くっ……!」
グリフから苦悶の吐息が漏れ出る。
子供の頃に野外授業で教わった知識がこんな形で役に立つとは。
地球のダンゴムシと全く同じ虫なのかは不明だが、姿形が良く似ているおかげで気付けた絡繰りだった。
都度思う事だが、やはり情報や知識といった無形財産は多いに越した事は無い。
「凄いヤマちゃん……さすがの動物好きやね!」
「じゃ、じゃあ、あの船が動き出したやつはどういう事なんや?」
男性が次の疑問について問いかけてくる。
「あ、はい。それも単純な仕組みでして」
船の模型を手に取り確認する。
「よかった、まだ残ってる。早速再現してみますね」
船を大皿の水の上に浮かべる──。
『う、動いた……!』 『お兄さん、力を込めた様子も何も無かったのに……」
──先程と同様に船が縦横無尽に水の上を滑りだす。
「面白いですよね~。俺も初めて見た時は何とも不思議で、びっくりしたのを思い出します」
「どういう仕組みなんや!? 早く教えてえな!」
感激した様子の男性がこちらに詰め寄って来た。
「──す、すみません。説明の前に、皆さんは"表面張力"についてはご存知でしょうか?」
「ヒョウメンチョウリョク? なんなんそれ?」
「えっと、皆さんにも覚えがあると思います」
船を掬い上げ、大皿からこぼれるギリギリまで慎重に水を満たしてゆく。
注がれた水はこぼれる事無く、うっすらと半円状に盛り上がり大皿内に留まる。
『あぁ。うっかり飲み物を入れ過ぎた時に起こるよな』 『そうそう。子供の頃、よくギリギリまで入れたりして遊んでたな』 『それがその、ヒョウメンチョウリョク? 言うんかいな』
「ええ、皆さんがおっしゃられている現象こそ、表面張力によるものなんです」
「簡単に説明すると、液体──水にはその表面を出来るだけ小さくしようとする性質がありまして。その性質は分子に起因する──」
『水の性質?』 『ブンシ?』 『なんや難しいなぁ』
(う~ん、そうか……"科学"って概念がまだ確立されて無い世界みたいだし、そもそも俺もそんなに詳細を語れるほど博識な訳じゃないから、説明するのが難しいな)
「え~っと……早朝の木の葉に付着している朝露を想像してみてください。葉の上で水が丸まっていますよね? あの水が丸くなろうとする力が表面張力なんです」
『あぁ~!』 『そういや葉っぱの上でべちゃ~っとせんと、水滴になってくっついとるな』 『それで、そのなんたらリョクが船とどう関係してるんや?』
「はい。この船の後ろ側の底をご覧いただけますか?」
船を裏返し村人達に見せる。
「裏側……あ! なんか白くて小さい塊がくっついてる!」
マリンがいち早く物体に気付き声を上げる。
「これは"樟脳"というクスノキから取れる成分で出来た物なんですが、この樟脳にはさっき説明した表面張力を弱める働きがあるんです」
大皿を傾け中の水を少し取り出す。
「この状態の大皿内の水は平坦に見えますよね? でも実際には水の表面には引っ張り合う力──丸まろうとする力が働いてる。船の模型を浮かべても静止しているのは、その引っ張り合う力が船を全方位から均等に引っ張り合っているからなんです」
「で、この樟脳が後ろにくっついた船を浮かべると──」
再度船を水の上に浮かべる。
「樟脳の働きで後方の表面張力が弱まり、前から引っ張られる力が勝って船は前進する。さもひとりでに動いてるように見えるという訳です」
──船が水の上を滑り出す。
『はぁ~……?』 『な、なるほど?』 『なぁなぁお母さん。うち、お腹空いてきた……』
俺の拙い説明では伝わり切らないのか、村人達の頭上に漫画表現のようなハテナマークでも浮かんでいるように錯覚するほど要領を得ていないようだ。
「なるほどなぁ! 要するに自然の力を利用した仕掛けやったんやね!」
聡明なマリンは要領を得ているようで、簡潔に皆に分かりやすく表現してくれている。
「あれ? でも、グリフが最初に船を浮かべた時は動いてなかったのになんで……」
「──! そうか! あの力を込めるフリした時!」
「そうだね。こっそり隠し持っていた樟脳を、船に力を込める素振りをするついでに、悟られないよう手で隠しながらくっつけたんだろうね」
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