平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
147 / 190
3-2 その人の価値

第107話 目玉商品 2

しおりを挟む

 街灯の明かりがはっきりと色付いた頃、挨拶回りを終え帰宅した二人を交え、少し遅めの食事会が開かれている。
 マリンがサウドへ持ち込んでいたサンマンマはもちろん、"カタ"と呼ばれるイワシに似た魚や、センスバーチで口にしたカメノテ等、漁村ならではの食材がふんだんに使用された豪華な料理が用意され、テーブルの上はなんとも華やかな様相だ。

 大勢で摂る食事は気を遣う事も多いが、リーフルの楽し気な様子や、ソロ冒険者として単身鬼気迫る状況に出くわすこともある最近の生活を考えると、以前日本と比べ賑やかな食事に気分が高揚するように感じる事も多くなった。

 窺える表情からそれはグリフも同じようで、自身を拾い上げてくれた事への感謝が籠る笑顔であったり、心置きなく他人と食事を共にできる喜びに満ちた雰囲気を纏った様であったり。
 全てはこのハーベイに住まう人々の寛容な心が手繰り寄せた幸福な結果ではあるが、リーフルの活躍ぶりに、俺も鼻高々に料理がより一層味わい深く感じられる。

「ど、どうかな……?」
 カタのソテーを口に運ぶ俺を対面から観察していたマリンが、伏し目がちに尋ねる。

「うん! 美味しい。料理は得意って言ってたもんね、納得だよ」

「ホ、ホンマ!? よかったぁ……」
 安堵した様子のマリンが強張り、怒る肩を撫で下ろす。

「ホーホホ! (タベモノ!)」
 リーフルも両翼を小さく広げ、初めての味の感動を表している。

「ほら~言っただろ? 魚は美味しいんだよ」

「ホ……(テキ)」
 味には納得した様子だが、首だけ──目線は魚の眼と交わらないよう背けながら、若干の不快感を口にしている。

「はは『美味しいけど、まだ怖い』って言ってる」

「ヤマトさんはリーフルちゃんの言葉が分かるんでっか! ハァ~……ホンマ凄い御仁やなぁ」

「ラウスさん、ヤマト先生ならばそのぐらい当然の事ですよ」

「ホンマなぁ~! 俺らが必死こいて考えた仕掛けの数々を、ああもあっさりと解き明かしてまうんやから。こりゃサウド支部も安泰やで!」

「ええ、本当に。ヤマト先生にかかれば、この世の総ての真理が解明される日もそう遠くないでしょう!」
 ラウスとグリフの二人が、意気揚々と俺を過大に評価する言葉を口にしている。

「ふふ~ん!」
 何故かマリンも腕組みをして得意げにしている。

「いや、あの……さっきからその、って。やめてもらえませんかね……」

「何を仰るんですか! あなたはこれからの私の人生の目標──尊き頂です! そんな偉大な方を"先生"と呼ばずして……矮小な私には他に形容すべき敬称を持ち合わせておりませんっ!」
 グリフがテーブルに大手を打ち下ろし、目を輝かせながらこちらを覗いている。

「確かにその敬称は納得やな。ヤマトさんは『リーフルのおかげ』なんて謙遜してはるけど、結局言葉にするんわヤマトさんやもんな」
 ラウスが腕を組み大きくうなずきながらそう口にしている。

(う~ん……今回に関してはズルい生い立ち日本人だったからであって、過大な評価は困るな……)
 事前にハードルが上がってしまっている事ほど不利なことも無い。
 過大な評判が広がる事は、後の冒険者活動の足枷になろうことは容易に想像できる。

 リーフルの鋭い気付き、日本人として生きた当時に蓄積された知識、今回はそれらが良い方向に働いただけの結果であり、俺自身は特別に知能が高い訳では無いし、持ち得る知識の量も底が知れているのだ。
 なるべくなら、今では自らも満更では無くなったあだ名である、"平凡ヤマト"として、記憶に留めて欲しいのだが……。

「ふっふ~ん! な? お父さんも納得やろ?」
 ラウスと同じく、腕組みをしたたまま話を聞いていたマリンも、先程にも増して得意げにしている。

「マリン、お前の目利きも随分鋭く成長して、お父さん嬉しいわ!」

「そっか! せやったら正式に──」

「──いや! 結論を出すにはまだ早いで。まだ最後のが終わっとらん」
 ラウスが右手を突き出しマリンの言葉を制しながら、真剣な表情を浮かべる。

「な、なんやの? 見極めて」

(今度は一体何の話だ……)

「仕事は冒険者で、男として頼りがいある。動物にも愛情深くて、頭も相当にキレる」

「う、うん」

「じゃあ、"商才"の方はどうやろか?」

「それは説明したやん! ヤマちゃんはサウドの森の入り口で冒険者の人達を相手に──」

「──せやな、それは聞いた。でもそれだけでは足らんのや」

「え~……だってちゃんと限定品用意したり、値段も相応に高値で販売してるで?」

「うん、その戦略は見事なもんや。少なからず商才はあると見ていい」

「やったら何が気に入らんの?」

の問題や。ヤマトさんがやってはる言う露店は、まぁ言わば隙間産業や。サウド市民全体を対象とした商売や無いな?」

「そりゃだって、ヤマちゃんは"冒険者"なんやから! 本腰入れてやるような事は出来ひんってだけで、やろう思たら出来るよ!」
 納得のいかない様子のマリンが、薄っすらとラウスを睨みつける。

「ちょっとマリちゃん? さっきから一体何の話を……」 「ホ~? (ワカラナイ)」

「……そうか。お前がそないに言うんなら、実際に見せてもらおうやないか!」

「な、なによ……」

「これからお前がサウドで構える店の新製品。サウドには無い、目新しくてかつ、誰もが常に買い求めるような、マリン商店の主力ウリを考え出してもらう!」

「ぐっ……それは……」
 たじろいだ様子のマリンが苦い表情を浮かべ俯く。

「おぉ! お父さんナイスアイデアやね~。ヤマトさんの実力の程も見れるし、マリンの店の先行きも考慮できる。流石は私の旦那や!」
 オリビアがラウスの手をそっと握り、賞賛を口にしている。

「……なるほど。ご息女であるマリンさんと婚姻する為の最終試練として、ヤマト先生のその偉大なる英知を駆使し、御店の成功を導き出して頂こう、と。素晴らしいですね!」

(なっ──婚姻だって?! あくまでも独身の二人をからかう冗談の話だと思ってたのに……)

「ちょちょ、ちょっと待ってください!」
 このままではまずい事になると気付き、慌てて大声を上げる。

「お? なんやのヤマトさん」

「その……あくまで俺は冒険者として仕事でこの村に立ち寄っただけで、マリちゃんの事はその……」

「可能性が無いとも断言できませんが、今はリーフルとの生活を考えるだけで精一杯だと言いますか……」

 ──ス「ホーホ……(ヤマト)」
 俺は恐らく疚しい表情を浮かべているのだろう。
 俺を心配するリーフルが肩に戻り、毛繕いをしてくれる。

「え? あれ……?」

「んん?? どういうこっちゃマリン? ヤマトさんは挨拶も兼ねてって……」
 ラウスとオリビアの二人が頭上に疑問符を浮かべたような、あずかり知らないといった様子で驚いている。 

「えっと……」
 マリンがなんともばつの悪そうな表情で両親を見据えている。

「おや? ヤマト先生はてっきりそのおつもりで……」

「いや、初耳ですね」

 
「ハァ~……なるほどな」
 合点がいった様子のラウスが口を開く。

「マリン、仕損じてもうたな? まぁ相手はヤマトさんや、夢中になってまう気持ちも分かる。けど、今回は戦略ミスや」

「うぅ……」

「商いで扱う"用品や動物"とはちゃう。相手は家族も居てはるやで? まだまだが甘いな」
 ラウスが商売の際に見せるのであろう精悍な顔付きで、マリンを諭している。

「あらまぁ~……ごめんなさいねヤマトさん。この子、初めての恋で。舞い上がってしもてたみたいやわ」
 オリビアがやれやれといった様子でそう話す。

「あ、いえ……」

「ア、アハハ~……で、でもみんな聞いた!? ヤマちゃん『可能性は大いにある!!』って!」

「いや、大いにあるとまでは……」

「せやなマリン! お母さんも応援するで! こんなええ人逃す手は無い!」

「私も大賛成です! ヤマト先生が伴侶とあれば、それはさぞ機能的で効率に満ちた、素晴らしき暮らしとなる事でしょう!」

「むぅ……相手に不足は無い……けど、可愛い一人娘が……くぅ~っ」

(ダメだ……はっきりと告げたつもりが……)

「ホ~? (ニゲル?)」
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

処理中です...