平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
150 / 190
3-2 その人の価値

第108話 後輩の後背

しおりを挟む

 ハーベイから帰還し数日が経ったとある快晴の昼下がり。
 俺達は中央広場のベンチに腰掛け、素早い足取りで人々の足元を縫うように闊歩するセキレイを眺めながら、諸々の世間話に興じていた。

「どうだった? 変わり無さそう?」 「ホー? (テキ?)」

「そうっすね。今日は五匹退治したっすけど、いつも通りだと思います」

「地味な仕事クエストに不満とかはない?」

「そんなの全然無いっすよ! サウド──冒険者でいられるのは、ヤマトさんの教えのおかげっすから」
 曇りの無い朗らかな表情を浮かべ、熱心に提出用の羊皮紙に調査結果を纏めている。
 
 俺はこの世界において異質な存在──魔力が皆無だったり、根本から身体的に劣っていたり──ということもあり、生きる為に冒険者となってからは、なんとか手の届く範囲の地味なクエストをこなしている訳だが、"獣人"であるロングも同様な水準のクエストを率先して受注し、日々実績を積み上げているのだそうだ。

 ロングからは日頃相談や質問等を投げかけられる事が多く、それらについて真剣に応えてはいるが、俺などよりもベテラン勢にお伺いを立てる方が、より冒険者として大成できるのでは無いかと都度思う。
 ロングが高い向上心を持ち、決して安全な領域に甘んじていようとしている訳では無い事は、その仕事ぶりや会話などから明らかなのだが、ロングは今後をどう考えているのだろうか。


 ふいに"お守り"を異次元空間より取り出す。

「おぉ~! 綺麗に元の形に治ってるっすね!」

「リオンには感謝だね」

「ヤマトさんの弓も、自分の事も……やっぱりセンスバーチに帰ってみてよかったっす」
 恐らく同じ心境だろう。
 ロングの父であるミーロの、あの心底安堵した様子の笑顔を思い出し、俺も充足した気持ちが沸き上がる。


「……ロングは目標とかあるの?」

「目標っすか? う~ん……」
 腕を組み天を仰ぎ考え込んでいる。


「ん~、自分は今やっと冒険者として生活できるようになったばっかりっすから、なるべく"失敗"しない事が目標っすかね?」

「ふむ……」
 身体能力はもちろん、年齢や、清く素直な心根等、今後の伸びしろを考えれば、ロングは俺の比ではない程の成長が見込まれる優秀な青年だ。
 だが現状は俺と近しいスタンスで、ただ生活を続けていく事が目標だと言っている。
 ロングの将来を鑑みると、少しもったいなく思えてしまうような目標に見えるのは、俺の一方的な考えなのだろうか。

 
「──あ! そういえばあったっす、目標!」

「お! いいね、聞かせてよ」

「あの"ズボン"が欲しいっす!」

「ズボン……あぁ、最近ギルドで話題になってるやつ?」

「そうっす! ファイアーボールの一発ぐらいなら、蹴ってかき消せるぐらい丈夫らしいっすよ!」

「うんうん。それ俺も聞いたけど、ホントなのかなぁ。確か金貨二十枚だっけ?」

「"ハイウルフ"の毛皮っすからね~。高いのも納得っす」

「目標として具体的な金額が分かってるのはいいかもね。日々のやりくりも計画立てやすいし」

「毛皮、それだけ丈夫なら、リーフルちゃんの肩当にも良さそうじゃないっすか?」

「そうだね……──いやむしろ、リーフルに被せる頭巾として仕立てればより安全に……」

「ホーホホ? (タベモノ?)」

「んー……ローウルフはあんまり美味しくないけど、ハイウルフなら美味しいのかな?」

「リーフルちゃんダメっすよ。ハイウルフはベテランさん達も苦戦する、すっごく怖~い魔物っすから」
 そう言いながら両手を上げ、襲い掛かるかのようなポーズを取りリーフルに示している。

「ホ……(ニゲル)」
 リーフルが身を細め、枯れ枝の姿勢を取り恐れている。


 この中央広場から東区に伸びる道沿いに、主にスーツなど、儀礼用の少し高級な物を扱っている衣料品店がある。
 いつ頃からか、外から望むその店のショーウィンドウ内に、遠目に眺めても分かる程質の良さそうな、一本のズボンが飾られるようになった。
 誰が尋ねたのか、瞬く間にそのズボンの存在はギルド内で話題となり、今や俺達冒険者の間では、ある種の羨望を集めるアイテムとして有名となった代物だ。

 どうやらハイウルフの毛皮で仕立てられたもので、特に耐熱性に優れており、デザインも相応に格好良く、上位種の魔物を素材としているという事もあり値段も随分高価なもので、いつ、誰が颯爽と履きこなしギルドへ現れるのかと、一部の間では賭けに乗じている者もいるほどだ。

 耳にする頻度や、単純にあのズボンが格好の良い品物である事から、俺も注目している話題ではあるが、ロングが物欲を口にするとは意外だった。
 そういった物へは関心が薄いものと思っていたが、やはりロングも年相応にお洒落には関心があるということなのだろう。


「珍しいね? ロング、服とか美味しいものとか、あんまり何かを欲しがったりしないのに。よっぽど気に入ったんだ?」

「そうっす、一目惚れっす! ヤマトさん絶対似合うと思うっす!」

「そうだね、確かにかっこいいも──って、俺が似合う??」

「あれはヤマトさんが履くんです。一目見た時に自分の直感がそう言ったんす『これはお兄ちゃんが履くべきだ』って!」

「いや、気持ちは嬉しいけど、お金は自分の為に使って欲しいかなぁ」


「……前にヤマトさん言ってたっす『結果がどうであれ、それまでの過程は自分の糧になる。終わった瞬間より、頑張って進んでる間の方に、その人の価値はあるんだよ』って」

「だから、実際に自分がヤマトさんにズボンをプレゼント出来るかどうかは関係ないんです。自分がクエストを頑張る為の材料ってだけっす!」

「──あ、もちろん履いて欲しいのは欲しいっすけど!」

「……ロングには敵わないなぁ」 「ホホーホ(ナカマ)」

 自身の考えとは矛盾しているので、恐らく俺はそんな事は言っていない。
 ロングが語った話は、いつかの俺の話を、ロングなりに前向きに捉え噛み砕いた解釈なのだと思われる。

 この世界のように、魔物や武器など無くとも、習い事や部活動、受験に就職といった、現代においては大人に至る過程だけに絞っても、結果が全てを左右する競争は存在する。
 その過程が尊い事や、ないがしろにしたくない気持ちも当然持ってはいるが、ある程度距離のある他人からは結果で判断するしかない事も、人間の営みにおいての摂理だ。

 なので俺としては、冷めたく、苦い現実ではあるが『基本的に人間は結果が全てだ』という考えに変わりはない。
 だがロングは、恐らくそれを理解した上でなお、"人の情"というものを信じていると言っているのだ。
 
 そんなロングと接していると、憧れや羨望といった感情が俺の胸を締め付ける。
 自分が一度手放したもの──少しは欲張ってみたいとさえ思える。


「ロングはいつも俺のおかげって言ってくれるけど、俺もそうだよ。ありがとな」

「ホ」

「リーフルもそうだって言ってる」

「えぇ~、なんすか急に。まさか! 他にも自分に買って欲しい物があるんすか?!」

「おだててる訳じゃないよ。こっちの話」

「それより、そろそろ報告に行った方がいいんじゃない? キャシーさん心配性だし」

「それもそうっすね『ロング君、どこも怪我してない?』って、もう何回聞かれた事か……」

「はは、じゃあ夕飯時に宿うちに集合で」

「了解っす! 楽しみっすね~」

「ホーホホ! (タベモノ)」

 下位冒険者達の日常。
 派手な武勇伝や豪華な報酬などは介在しない、平凡そのものの昼下がり、その一幕であった。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

処理中です...