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外伝
sideユークリッド_夜会1/3
しおりを挟む王族達が集まる控え室に、早めに向かったユークリッドは一番乗りで待機していた。
アレクシスは夜会の前に他に用があるとかで別行動だ。
社交界に王族として顔を出すのは初めての事でそわそわしていると、扉から女性が二人入ってきた。
「あら、貴方がアレクシスの伴侶ね?初めて会えたわね。ランスロットの妻、セレーネよ」
「私は第二妃のカタリナね。」
豪奢な衣装に身を包む二人に圧倒されそうになりつつも、正式な礼のポーズをとって挨拶をした。
「セレーネ様、カタリナ様、ご挨拶が遅れました。ユークリッド・ヴァルターンです」
こうして王族の姓を名乗るのは初めてだ。
まさかの王妃と第二妃との初対面がここでくると思ってなかったから緊張と焦りで礼をしたまま固まっている俺に「あらあら」と二人は頭をあげるよう声をかけてきた。
「弟の息子で、義弟の夫になったと立て続けに聞いた時はどんな子かと気になっていたのですよ」
「良い子そうですわね。お姉様」
「そうね、婚約も式もなく急に入籍だけしたと聞いた時は何事かと思いましたが…」
「あの子も案外情熱的な男だったって事かしら?」
「そういうことみたいね。…ユークリッド、貴方と同じ年頃の息子もいるのよ。近いうちに後宮に遊びにいらっしゃい」
「あ、ありがとう、ございます…」
広い城内で、ランスロットとヴィルヘルムの妻子が離れた所に建ててある後宮に暮らしているとは聞いていたが、会ってみればとても仲の良さそうな様子になんとなく安心した。
(というか、ご婦人方よりも背、低かったんだ俺…)
自分が二人を見あげていることに静かにショックを受けていると、扉がまた開いてランスロットとヴィルヘルムが揃って入って来た。
「セレーネ、カタリナ。早かったな」
「ご婦人より支度に時間がかかるなんて、その美しい顔に必要な装飾がどれほどあるのかしら?」
「……姉上、ランスは俺の準備を手伝っていたから」
「まぁ!相変わらず仲がいいわねぇ。私達のドレスなんて選んだ試しがないのに」
コロコロと笑うご婦人方に、こんなに押されている兄二人を初めて見たと瞬きをしていたら、そんな俺に気付いたセレーネ様がにっこりとこちらに微笑みをかけた。
「私達は先に行くわね。ユークリッド、また会いましょう」
「は、はい!また、お願いします!」
反射で立ち上がって礼をした俺に、「本当に可愛らしいわ」と笑いながら婦人二人は部屋を後にした。
どっと疲れたような顔をしたヴィルヘルムが大きな溜め息をついて見せるので俺も苦笑いする。次兄には書類仕事以外にも苦手なものがあったらしい。
「………アイツら苦手なんだよな。いつも二人でいじってきやがる」
「ドレスを選べば流行に乗っていない、それでは長所を生かせないと却下されてばかりいるから要らないと思っていたが…」
「今の、からかわれてるだけだぞ。」
表情は変わらないけどランスロットは驚いているのだろう。
立ち上がったついでに二人に駆け寄ると、二人とも癖なのか俺の頭に手が伸びて、セットされた髪に気が付いて動きを止めたので面白くなって宙に浮いた二人の手を握った。
「おはよ。二人とも本当に似てるね。今日は髪までセットしてもらったんだから、撫でるの禁止だから!」
「おはよう、ユークリッド」
「似てるか?俺ら正反対だけどなぁ」
「わっ!ははは!」
握った二人の手がそのまま上がって俺の足が床から離れたので、やっぱり似てるじゃんってぶら下がったまま笑った。
ランスロットは綺麗だけどいつも無表情だし、ヴィルヘルムは厳つい顔してる。けど二人とも本当に優しいし、よく俺を甘やかしてくる。そんな二人の兄に懐かない方がおかしいくらいだ。
ぶら下がって遊んでると、低身長でもまぁいいかって気持ちになる。でも筋肉があまりないからすぐに疲れてきてしまった。
飛び降りて…あ、でも衣装汚しちゃいけないんだっけと考えてると、後ろからふわりと抱きかかえられる。振り向かなくても誰かわかった。
「おかえり、アレク」
「ただいま。楽しそうにしていたんだね」
ほらな。なんて内心得意気になってるのを知らないアレクシスは「落ちたら危ないよ」と軽い注意と共にすぐに降ろしたので、後ろを振り返るといつもの優しい顔がこちらを見ていた。
「用事、終わったんだ?」
「うん。大切な物を取りに行っていたんだ」
「…ランス、俺らも早めに行かないといけねーんじゃなかったか」
「あぁ。アレクシス、ユークリッド、会場で会おう」
「ん。ランス兄さん、ヘル兄さん、また!」
二人が背中を向けたところで、兄二人が同じ形の礼服を身に付けている事に気がついた。細身と大柄だとこんなにも見た目が変わるのかと感心していると、アレクシスに手を取られて椅子へと誘導される。
夜会は大体の時間が設定されて、参加者はそれぞれのタイミングで当城するので割と自由が効くらしい。
交流を広めたい人は長時間会場にいるらしいけど、アレクシスと俺は、俺の体力を考えて二時間程度の滞在予定となっているそうだ。
「あ、ランスロットの奥さん二人に会ったんだ」
「セレーネ様達か。素敵な女性達だっただろう?」
「うん。優しそうで、綺麗だった」
アレクシスと隣り合わせに腰掛け、今後の流れだったり挨拶の答え方など軽い打ち合わせをする。
ダンスはまぁ、失敗するかもしれないけど…アレクシスと楽しめればそれでもいいかと開き直る事にした。
「それで…大切な物なんだけど」
「うん」
アレクシスがポケットから小さな箱を取り出し、差し出してきた。
そのサイズ感に少なからず期待してしまう自分を抑えつつ受け取り、箱を開く。
「…アレクの青空だ」
二つ並んだ指輪に、緑の石と青い石がそれぞれ埋め込まれている。俺は迷わず青い石の方を手に取った。
「これ、どこの指にはめればいい?」
「貸して」
俺から指輪を受け取って、左指の薬指に通された。
この世界でも結婚指輪は左の薬指なんだなと感心していると、アレクシスが自分で緑の石の方の指輪を薬指に通そうとしたので阻止して俺がアレクシスの指にはめた。
「綺麗だな…」
「入籍しかしていないから、大急ぎで作ったんだ。…緊張したよ」
苦笑いで指輪をはめた手の平を合わせてくるアレクシスに、緊張?と気になって首を傾げた。
「贈り物には色々あってね…でも来てみたらユークリッドが兄上達にぶら下がって楽しそうにしてたから気が抜けた」
「あれは二人が!…いや、俺も楽しんでたけど。でもそっか…嬉しいよ、アレクシス」
合わせた手を二人の顔の間まで持ち上げると、指輪に嵌った石と同じ色の瞳が並んだ。
こんなに全く同じ色の石を探すなんて、大変だったんじゃないだろうか。
「結婚の証明ってより、お守りみたいだな…」
「お守り?」
「これ付けてると、ずっとアレクシスに見守られてるみたいでさ…なんていうかなぁ」
なんて言ったらいいか考えてると、揃いの指輪をじっと見て少し涙ぐんでるアレクシスに気がついた。
「……」
俺に話せない、贈り物に関しての記憶があるんだろう。
だって前世から再び出会うまで16年も差があるんだ。色々あって、おかしくない。
俺も前世については話さないから…アレクシスが話したくないならお互い様だって思うけど。
(でもその涙が俺に対してじゃないなら…ちょっと、嫌かもしれない)
ポケットからハンカチを出して、アレクシスの目に当てた。雨のように綺麗な涙でも、今は流して欲しくない。
「ユーク?」
「んーん。…そろそろ行こうかなって」
アレクシスの指輪に乗ってる石は、俺の瞳の色だ。他の誰でもない、俺とアレクシスだけの対の指輪。
今はそれだけを思って欲しくて、重ねた手の指を絡めて意識を向ける。
──知らない記憶に、嫉妬した。
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