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外伝
sideユークリッド_夜会の前に2/2
しおりを挟む好きって気持ちだけで突き進むには、お互いの立場が重すぎる。そう、今更になって恐れた。
子爵家での立場は最底辺、神子の生まれ変わりという事以外は何も強みを持たない、ただの貧弱な男。それが自分という存在の価値だ。
……いや、レヴァン侯爵家という強力な後ろ盾はあるが。
(とにかく足を引っ張らないようにしないと…)
既にプレッシャーに負けそうだ。でも、アレクシスと一緒に生きる為には乗り越えないといけない課題でもある。
やるしかない。
そう、思っていた。
「ユーク、私に任せて大丈夫だよ。力を抜いてもう一度やってみようか」
「ごめん…」
──この間、アレクシスと滅茶苦茶なダンスを踊った時はあんなに楽しかったのに。
夜会に向けて練習している俺は、どうしても動きが固くなってまともに踊れなくなっていた。
(1、2、3…1、2、3、次がターンで…)
「わぁっ!」
「っと…危なかった」
足をもつれさせて転びかけた俺をアレクシスが支える。さっきからこれの繰り返しだ。情けなくて泣きたくなる。
「…ユーク、喉が渇いたからお茶にしたいな」
「ごめん…」
アレクシスは決して責めないし、俺がちっとも素直にならないから…いつも自分のせいにしてお願いしてくる。
その優しさが、申し訳ないとは思うけど…今日は特に心重く伸し掛る。
ダンス練習を中断して外に控えている騎士に声を掛けに行ったアレクシスを眺めながら反省していると
立ち尽くしてる俺の元にいつもの笑顔で戻ってきたアレクシスは手を繋いでソファに移動した。
(…あ、ダンスをしていたから普段ひんやりしてるアレクシスの手が今日は温かいんだ)
些細なことだけど、今更になって気がついた。
アレクシスのこと、なにも気付かないくらい自分にいっぱいいっぱいだったんだ。
そんな落ち込んでいる俺を、アレクシスは背後からヒョイと持ち上げて、そのままソファに腰掛ける。
俺はアレクシスの太腿に座っている形だ。
「…………ちょっと」
「すまない。充電が足りなくて」
白々しいことを言いながら後ろから抱き締めてくるアレクシスに、落ち込んでたのに恥ずかしいやら可笑しいやらで口元が緩んでしまう。本当にずるい。
「今まで触れ合ってて充電が足りないってこと、ないだろ」
「ユークが私を見てくれてなかったから、触れてても充電にならなかったな」
「あ…」
アレクシスに言われてハッとした。
確かに自分の足元に気を取られていて、パートナーの事など少しも考えていなかった。ダンスは二人でするものなのに。
その事にようやく気がついて、アレクシスの顔を見たいけど後ろから抱き締められたままではそれも出来ない。
まず謝りたい。顔を合わせて、謝らせてほしい。
「アレク、あの、」
「なんてね。どれだけ触れても足りないくらい、ユークが好きなんだ。これは私の我儘だ」
右肩にアレクシスの顎が乗り、顔の距離の近さにドキッとした。
「……実は、お茶は別の部屋に用意を頼んだんだ」
「え?」
「ユークに構って欲しくなってしまったから、誰にも邪魔されたくなくて」
カリ、と軽く耳を噛まれて肩が跳ねた。
ぞわぞわとした慣れない感覚に身体は逃げようとするが、アレクシスはそれを許してくれない。
いつも優しく包み込んでくれる腕が、今は拘束しているようで少し恐怖を感じ始める。
「アレク、ごめ」
「…また無理してる。」
「わ、わっ…!」
パッと腕が広げられて、アレクシスの太腿に座っていた俺は途端に安定感を失った。ぐらつく身体が後ろに倒れる。
ぽすっと鍛えられた胸にキャッチされ、今度はゆるくお腹を腕で包まれた。
「今のは怖かったね。…嫌なことは拒否していい。逃げたくなったら、逃げてもいいんだ。
ユークがどうしても逃げられないなら、せめて私に守らせてほしい。…私はユークの伴侶だから」
「……」
背中が温かい。きっと俺が背負えないことは、アレクシスが背負ってくれるのだろう。
最初から、ずっとアレクシスは俺の意思を尊重しようと訴えていたし
子爵家から守ってくれたあの時のように、無条件で俺を守ってくれる。そんな確信がある。
──でも俺は、アレクシスの隣に立っていたいんだ。不相応だとしても、一緒に居たいんだ。守られるだけじゃなくて。
「…拒否したくない。頑張りたい。……アレクと、一緒がいい」
好きって気持ちだけ先行して、王族になる覚悟は出来てなかったけど
でももう離れるなんて、出来るわけないじゃないか。
「うん。……なら、一緒に頑張ろう。」
どうやら一人で頑張らせる気はないらしい。アレクシスがまた、俺の肩に顎を置いた。
身長差があるから、この体勢はアレクシスの背中は見た事ないくらい丸まってそうだ。
(背筋が伸びてないアレクシス、俺も見たいな…)
──互いの頬が当たる距離感だから、俺は横を向いて…ほんの一瞬だけ唇を合わせた。
目を見開いたアレクシスに、してやったと笑う。
「───ッ、ユーク…!」
「さっきの仕返し。…もう一回だけ、踊ってからお茶に行っていい?」
「………もう一回、してからなら」
「ふ。くすぐったいな、それ」
鼻を擦り合わせておねだりしてくる王子様に、俺は目を閉じてそれに応えた。
唇を合わせるには密着しなければならない。すると俺の背中に当たる、鍛えられた胸から鼓動が伝わってきた。
それで俺と同じくらいアレクシスもドキドキしているんだと分かって、何故だか安心してしまう。
「…ありがとう。充電出来た。」
充電は膝に乗せる言い訳のはずだけど、アレクシスが満たされた顔をしているから俺からは何も言わないでおこう。
そう決めて膝から降りて立ち上がって、ふと思い付いた。
振り返って、アレクシスに向き合う。
「───お手をどうぞ。…王子様?」
以前、アレクシスは膝をついて俺をダンスに誘ったけれど
俺は膝を床にはつけず、立った状態で片手を差し出し、お辞儀して女性をダンスに誘うポーズをとった。
クスクスと笑いながらアレクシスも俺の手を取り、立ち上がる。
「身長差があるから、悪いけどダンスの立ち位置は変わらないよ」
「わかってるよ。そのうち成長して追い越すから、その時は交代な」
「どうかな、私はユークリッドと同じ年頃の時にこの身長だったから…」
「え!」
ショックを受けながらも身体を密着させて立ち、──深く息を吸って、吐く。
自分よがりなダンスは、もうしない。
「ユーク、ダンスは呼吸だよ。」
「呼吸?」
「そう」
アレクシスが互いの額を合わせて、微笑んだ。
「私の呼吸と、ユークの呼吸。合わせてひとつになるんだ。」
ゆらりと身体が揺れて、自然と足も動き出す。
視界にはアレクシスしか見えないし、重なった手が、互いの腰を支える手の温かさがひとつに溶け合うような不思議な感覚がした。
──先程、アレクシスが自分を見てくれなかったと言っていたが、理解した。
「……俺、上手く踊ろうとしてた。」
「うん」
「それで、アレクシスのこと、見えてなかったから…楽しくなかったんだ」
「…今は楽しい?」
アレクシスの額が離れて、流れる景色の中で唯一止まってる大好きな顔が優しく目を細めた。
「楽しい。俺、アレクシスと踊るの、やっぱり楽しいんだ」
「うん。……もう一回、キスしてもいいかな?」
「……だめ。」
──拒否をしたのに、アレクシスの顔はどんどん近付いてきていて。
呼吸が混ざり合う中、俺もつい、目を閉じて受け入れてしまった。
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