【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)

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想章【思い出と名前】

3.作戦会議

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「───まずは兄様と、セドリック兄上に。知ってほしいことがあるんだ。」


ランスロット、ヴィルヘルムは自分達が対象じゃなかった事に、ユークリッドが何を話そうとしているかを察した。

兄弟で街へ出掛けていたはずなのに、慌ただしく戻ってきたと思えばひとつの部屋に急遽集められた顔ぶれを見てアレクシスも固い顔でユークリッドの言葉を待つ。
せめて、少しでも心が落ち着けるよう伴侶の丸まった背中に手を添えて。

ユークリッドにとって、すっかりいつもの顔ぶれになった全員がひとつの部屋に集まった。

信じてもらえるかも分からない、疑われたとして、証明は出来ないかもしれない。
それでも、隠せない事が起きてしまった以上は。

隣に座るアレクシスの顔を見たら、きっと泣くから。だから今は話をしよう。
──不安に押し潰されそうなユークリッドは、鉛のように重い口を開いた。


「…俺、俺さ。前世の記憶があって───」


前世の記憶を持っていること、前世は神子として召喚された別の世界の人間だということ。
アレクシス達にそれを気付かれたこと。今日、街で遭遇した人物と、フリードリヒの目の前で起きた事。

ユークリッドは全てを話した。これで信じてもらえなくても仕方ない、おかしいと思われても、仕方ない。

目の前で起ころうと、ただ一言「有り得ない」で済ませる他ない、説明のつかない現象を全員に説明し、ようやくユークリッドは息をついた。

諦めの気持ちは正直あった。
でも、二人の兄はすんなり受け入れて、現状を考えていた。

「精神に干渉って、それユークリッドは大丈夫?今もどこか具合が悪いとかないの?」

セドリックに指摘されて、まず信じてもらっていることに驚いていると、アレクシスに抱き上げられて膝の上に座らされた。
こんな真剣な話の時に…とユークリッドは抗議しようとしたが、振り向いた先の表情があまりにも深刻で口を閉じる。

「…具合は、大丈夫。その魔法は一人に一回しか使えないみたい。二回目はとにかく気持ち悪くて洗脳されなかった」
「兄上、殺しましょう。」
「アレクシス、落ち着きなさい。簡単な話ではない。」

愛する伴侶に危害を加えられたアレクシスは、普段よりも冷静さを失っている。ランスロットにもその気持ちは痛い程に理解出来る。
理解出来るが、相手は得体の知れない力を持ち、この国の人間かどうかもわからない。

「ユークリッドに危害を加えた証拠もない。特定も難しい可能性がある。そもそも相手の姿さえ真実かわからん。アレクも分かってんだろ。」
「ッ…わかっています。わかっていますが、ユークリッドの命を狙われているという事ではないですか!」
「アレク、苦しい…」

無意識に強く抱き締めすぎてユークリッドから怯えた声が出た事に、アレクシスの頭に昇った血の気が一気に引いた。
ユークリッドだって気持ちはわかる。伴侶を失うかもしれない恐怖はきっと、アレクシスは人一倍強い。大丈夫、と力の抜けた腕を撫でて落ち着かせる。

「現状、ユークリッドの警備を増やす以外の対応策は無い。今回のように急に攫われればそれすら難しい」
「……」

淡々と告げるランスロットに、アレクシスは腕の中の愛しい伴侶を潰してしまわないよう拳を握ってブルブルと震えていた。伝わる怒りとやるせなさにユークリッドも申し訳なくなる。
だが、現実に向き合って話し合わなきゃいけない。

「…とにかく魔法ってやつが厄介だな。こうも簡単にユークリッドを拉致出来るとなると護衛を増やしたところで手出しできねぇ」
「護衛の多さに大変だったとは言ってたし、なかなか見つけられなかったみたいだから隠れて過ごすのは有りかもしれない」
「誰にも見られなければいいってことか?」

でも、それで取れる対応策は幽閉と同じだ。一生続ける訳にもいかない。

魔法が存在しない世界で魔法の事を解説するのは難しい。ユークリッドだって前世の知識があっても相手がどうかは分からない。
──そもそも、なぜ神子を探していたのだろう。ユークリッドの魂を元の世界に戻すことに執着したのだろう。

「……肉体が欲しい、とか?」
「どういう事だ?ユークリッド」

状況の理解に努めていたフリードリヒが更に追加された情報に対して素直に疑問を投げかける。
ユークリッド以外、誰も理解出来ないらしく視線が集まり、居心地が悪くなりながらもユークリッドは「えっと…」と伝わるように意識しながら話を続けた。

「生き物って、魂と肉体で構成されてるって説があるんだ。魂が抜けると肉体は活動を止めてしまう。ふたつが揃って初めて生命として活動できる…みたいな。
賢者は魂だけを元の世界に戻す事をこだわってて…
元々この世界の人間じゃない俺の魂は、世界の異物だから肉体に魂が定着しにくい…だから身体も弱いって言われた。」

この世界に魂という概念はあっただろうかとユークリッドは首を捻って考える。
フリードリヒはとりあえず気になった部分に口を挟む。

「体質については、育った環境も大きいと思うが…」
「俺を脅す為の言葉だった可能性も確かにあるよ。でも、本当に他の人よりも魂が離れやすい身体だとしたら」

絶対とは言えないけど、考えられる事はこうだ。

「賢者は神子達の身体を乗っ取って、長い寿命を手に入れてるんじゃないかな。」

ずっと、神子を別の世界から召喚する必要性を考えてた。
だって光の魔法を使わせるだけなら、この世界の人間でもいいと思ったから。

魂は惹かれ合う。元の世界に戻りたがってる。だから定着しないと言うなら。
ユークリッドのように召喚されて、転生した神子は居るはずだ。
その転生した神子達も記憶は戻らないかもしれないけど、魂が元の世界に引き付けられているから、この世界の人達よりも魂を抜き取るのが容易なのかもしれない。

「全部、仮説だから全然違う理由ってこともあるけど」
「……本当に神子を喚ぶ魔法陣を各地に残した賢者本人なら、有り得る話だ。神子召喚の歴史は数百年に及ぶ長い風習で、到底ひとりの人間が生き長らえる年数ではない。」

ランスロットの補足がユークリッドの仮設に真実味を持たせる。
ランスロットは長年、神子について誰よりも調べてきた人だ。歴史についても誰よりも詳しい。

「かなり昔の歴史だから文献はほぼ残っていないが…魔法陣という物も、覚えがある。神子を喚ぶ泉に刻まれたものに似た紋章をいくつか見たことがある。」
「…すみません、意見をよろしいでしょうか。」

話を切るようにセドリックが挙手をした。

「賢者とか言う者の真意はわかりません。本人が話さない限り、あれこれ言っても仕方ない。今はユークリッドの命が脅かされている可能性があるなら対処をしたいのですが」
「セディ、何か案があるのか?」
「無いよ。ただ極端に1ヶ所だけに騎士を集めればそこにユークリッドが居るってアピールになる。一時的にレヴァン家の私兵も王城に呼んで全体的に数を増やした方がいいってくらい。」

でも、それも問題がある。
国を預かる面々にはそれが分かっていた。

「いくら王族とはいえ、ユークリッド一人に見えない脅威に備えて無期限で守りを増やすのは…不可能だ。」
「兄上、でも」
「これ以上、冷静さを欠くようなら退室を命じる。…アレクシス、父のようにはなるな。私達は国を生かし、国に生かされる立場だ。」
「……」

ランスロットの言葉を聞いて、怖いから助けてと縋るだけでは駄目だとユークリッドは少しずつ、心の整理をつけた。

「多分…何年も、かからないと思うんだ。俺を何度も同じ事を言って説得するくらい、内心焦ってる」
「…ユーク?」

アレクシスの膝から降りて、ユークリッドは一人で立ち上がった。
…こんな決意をするなら、アレクシスは呼ばなければよかった。

「出来る限り、自衛はする。相手は魔法を使うから警備を増やしたりするのは意味がない…と思うし、いらない。」
「ユーク」
「ただ…明らかに・・・・違う人格になった・・・・・・・・と思ったら」
「ッユーク!!」
「お願いします。…俺を、殺して下さい。
賢者が生き長らえる為の存在なんて、そんなのは許せない。俺で終わってくれた方がいいから」

──立ち上がったアレクシスにキツく抱き締められて、息苦しいけど文句は言わなかった。代わりに

「…アレクも、その時がもし来たら、ちゃんと覚悟して。誰かに頼んでいいから、……魂が違ってもいいなんて、中身が俺じゃなくてもいいなんて、そんな事は絶対に言わないで欲しいんだ。」

それは、俺じゃない。

──本当に、この世界は俺に優しくない。
それでもユークリッドは、大嫌いだけじゃなくなった世界を想って目を閉じた。
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