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暗闇の中の建物
十一
しおりを挟む「俺は闇。思い出してごらん、沙耶。今は無理でも君は思いだして、そしてわかるよ」
彼はふわりと私に笑い頭をゆったり撫でてくる。
「此処が何で君が何か──」
それは呪文のように私の耳にこびりついた。
「君の記憶の中にそれはあるはずだ。答えは既に持ってる、俺は二度同じ事は言わない主義なんだ。答えは記憶の中……」
「私の─────」
彼は目を閉じ、すぐに匠を見据える。
「君、沙耶の恋人?」
突然の問いに匠は眉をしかめつつもこくりと頷いて見せた。
「沙耶を頼む。そこの扉を開けて外に出て」
「は?ちょっと待てよ、何が何だか───」
シッと人差し指を口に当てる彼。
その瞳の中で、漆黒の瞳が揺れた。
「ゆっくり話してる時間が無くなっちゃった、いい?俺の話をよく聞いて」
彼は神妙な面持ちで静かにこう言う。
「影がくる。深い影だ」
影だったり闇だったり…此処はどんなところなんだろう。
とにかく闇は目の前の彼で、そして────
恐らく此方に敵意はないと言うこと。
私のことを知っていて、そして助けてくれようとしてる。
「信用するな。彼は俺と同じ姿をしてる。今のところ”やみ”には俺と奴しかいない」
早口に彼はまくしたてる。
「今後、俺の姿を見ても気安く声をかけるな」
その瞳は真剣で、私は静かに頷いた。
匠も同様。
「何かあったらこれを使って電話してきて」
ポイッと乱暴にも投げ渡されたのは真っ黒な携帯。
「此方からも連絡する」
まくしたてて彼は早足に部屋を出て行ってしまった。
最後に振り返ったその瞳は闇が揺らめいていて、彼は例えるなら本当に闇が等しいのだと思った。
投げ渡された携帯を手に、私は匠と屋敷を後にする。
ひとまず、味方がいることに私達は安堵した。
同じ闇。
もう匠の姿も肉眼でとらえられないけど、不安はあまりない。
疲れもないのは闇と名乗った彼のおかげだろう。
思い出したい。
消えてしまった記憶を─────────。
──────
───二人が出て行くのを確認する事もなく闇は影と対峙した。
同じ姿。
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