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20、アナベルとの会話
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「アナベルさんとこうしてお茶をするのは初めてよね」
「……そうね」
アナベルは居心地悪そうに身を動かした。それを見てイリスは不安になる。
「ひょっとしてお口に合わないかしら」
イリスの気に入った茶を淹れさせたのだが、アナベルの口には合わなかっただろうか。
「いいえ、わたくしもこのお茶、好きだわ」
「ほんと? よかった」
安心してイリスが微笑めば、アナベルは何とも言えない微妙な顔をした。
「アナベルさん?」
どうかしたの? とたずねれば、彼女は手にしていたカップをソーサーの上に置き、こぼれた髪を耳にかけた。
「いいえ。ただ、学生時代のことを考えれば、今こうして貴方とお茶しているのが本当に信じられなくて」
アナベルは空色の瞳でじっとイリスを見つめた。
「貴女、わたくしのこと嫌っていたでしょう?」
「えっと……」
「隠さないでいいのよ。朝の奉仕活動が一緒になった時とか、いつも怯えた態度でわたくしに接していたもの」
「うっ……」
気づかれていた。
「……ええ、ごめんなさい。正直、アナベルさんのことは怖いと思っていたわ」
「そうでしょうね」
「でも……苦手だったけれど、決して嫌いではなかった……と思う」
「あら。上手い言い訳ね」
ふん、とそっぽを向く彼女に、イリスは本当だよと必死で言った。
「すごいなって、思っていたよ。勉強や掃除も、誰に言われなくてもきちんとやっていたし、規律だって少しも破らないよう努力していたもの」
「そんなの、当たり前のことでしょ」
「うん。そうなんだけど、その当たり前が難しいんだと思う」
つい仲の良い子たちと話し込んでしまって、先生に叱られることの多かったイリスは、いつも真面目な生活を心がけているアナベルに感心していた。
思うに彼女が陰でいろいろ言われていたのも、そうした態度を揶揄する心があったからかもしれない。
「それにアナベルさんが言っていること、言葉や言い方はきついけれど、ほとんど正しいことばかりだったもの」
「わたくしだって、別にいつも品行方正なわけではなかったわ」
「そうなの? ……そう言えば、みんなでラファエルのことを話していた時は会話に入ったきたし、王宮でご令嬢たちの話も熱心に聞いていたような……やっぱりアナベルさんもそういうことには興味あるんだね」
イリスがそう言うと、アナベルは一瞬狼狽えたが、すぐに「そうよ」と開き直った様子で認めた。
「だって気になるじゃない」
わたしも、とイリスは打ち明けた。
「でもわたし、彼女たちの話を聞いてとても驚いてしまったわ。都会の殿方ってもう少し素敵な方だと思っていたのに」
「しょせん男は顔だけじゃないってことね。いい勉強になったわ」
「アナベルさんは将来どんな方とお付き合いしたいの?」
「結婚する人間はお父様が決めることだから、その質問はあまり意味がないように思うけれど……そうね、強いて言うなら、わたくしより美しくない男がいいかしら」
「えっ?」
アナベルより美しくない男?
「アナベルさんより美しい男、ではなくて?」
「いいえ。美しくない男よ」
イリスは目を真ん丸と見開いた。
「なによ、その信じられないという顔は」
「えっと、なんだか意外で……」
彼女のことだから、自分の隣に立っても見劣りしない容姿の美しい人間を条件にあげると思っていた。
「自分より美しい男が隣にいたら、そちらにばかり目が行くじゃない」
「だめなの?」
「だめよ、そんなの。夫が妻より目立つなんて許しがたいわ」
「はぁ……」
そういうものなのだろうか?
学校では妻は夫を立てるもの、なんて教えられたが、アナベルの考えはその真逆である。
「わたくしはね、イリスさん。夫にはわたくしという存在を崇め立てるように、接して欲しいと思っていますの」
「崇め立てる……それはアナベルさんのことを神様のように思うってこと?」
「そうよ。わたくしの顔を見るたびに自分はなんて美しい人と結婚できたのかと幸福を噛みしめて欲しいの。わたくしはそんな夫を深く愛するわ。それで周りも、わたくしたち夫婦を見て、あの夫婦はなんて素晴らしいのだろうって感激するのよ」
完璧ではなくて? とアナベルは自信たっぷりに、夢見るように言った。
(アナベルさん、こんなこと考えている人だったんだなぁ……)
ラファエルが見かけで人を判断するなと昔言っていたが、全くもってその通りだと今の話を聞いて思った。
「じゃあ、アナベルさんにとって、王太子殿下やラファエルのような人間は対象外ということ?」
「ええ。論外ね。お二人とも、とても素敵なお顔立ちだけど、一緒に並んでいたら絶対にわたくしの存在が霞んでしまうし、なんであんな女が? って女性陣からの妬みを買う可能性が高いもの」
アナベルは冷静に自分とサミュエルたちの容姿を分析した。
「特に貴女の婚約者は、絶対に勘弁願いたいわ」
「はぁ……」
勘弁願いたいと言われても、すでに彼はイリスの婚約者であるからアナベルの心配は杞憂である。
(でもここまで言われるラファエルの美貌って……)
イリスはラファエルの隣に立つのが不安になってきた。
「まぁ、ラファエル様は容姿の件を抜きにしても、いろいろ怖い噂があるようだから、結婚相手には嫌厭されているようだけれど」
「でも、冷たく拒絶する必要があるくらいには言い募られているわ」
ラファエルとの喧嘩を思い出し、ついイリスは棘のある口調でそう返していた。
「あら、貴女もそんな顔できるのね」
「そんな顔って?」
「嫉妬で歪む、醜い顔」
とっても不細工よ、と言われイリスは思わず頬に手をやる。ふふ、とアナベルが初めて面白そうに笑った。
「……そうね」
アナベルは居心地悪そうに身を動かした。それを見てイリスは不安になる。
「ひょっとしてお口に合わないかしら」
イリスの気に入った茶を淹れさせたのだが、アナベルの口には合わなかっただろうか。
「いいえ、わたくしもこのお茶、好きだわ」
「ほんと? よかった」
安心してイリスが微笑めば、アナベルは何とも言えない微妙な顔をした。
「アナベルさん?」
どうかしたの? とたずねれば、彼女は手にしていたカップをソーサーの上に置き、こぼれた髪を耳にかけた。
「いいえ。ただ、学生時代のことを考えれば、今こうして貴方とお茶しているのが本当に信じられなくて」
アナベルは空色の瞳でじっとイリスを見つめた。
「貴女、わたくしのこと嫌っていたでしょう?」
「えっと……」
「隠さないでいいのよ。朝の奉仕活動が一緒になった時とか、いつも怯えた態度でわたくしに接していたもの」
「うっ……」
気づかれていた。
「……ええ、ごめんなさい。正直、アナベルさんのことは怖いと思っていたわ」
「そうでしょうね」
「でも……苦手だったけれど、決して嫌いではなかった……と思う」
「あら。上手い言い訳ね」
ふん、とそっぽを向く彼女に、イリスは本当だよと必死で言った。
「すごいなって、思っていたよ。勉強や掃除も、誰に言われなくてもきちんとやっていたし、規律だって少しも破らないよう努力していたもの」
「そんなの、当たり前のことでしょ」
「うん。そうなんだけど、その当たり前が難しいんだと思う」
つい仲の良い子たちと話し込んでしまって、先生に叱られることの多かったイリスは、いつも真面目な生活を心がけているアナベルに感心していた。
思うに彼女が陰でいろいろ言われていたのも、そうした態度を揶揄する心があったからかもしれない。
「それにアナベルさんが言っていること、言葉や言い方はきついけれど、ほとんど正しいことばかりだったもの」
「わたくしだって、別にいつも品行方正なわけではなかったわ」
「そうなの? ……そう言えば、みんなでラファエルのことを話していた時は会話に入ったきたし、王宮でご令嬢たちの話も熱心に聞いていたような……やっぱりアナベルさんもそういうことには興味あるんだね」
イリスがそう言うと、アナベルは一瞬狼狽えたが、すぐに「そうよ」と開き直った様子で認めた。
「だって気になるじゃない」
わたしも、とイリスは打ち明けた。
「でもわたし、彼女たちの話を聞いてとても驚いてしまったわ。都会の殿方ってもう少し素敵な方だと思っていたのに」
「しょせん男は顔だけじゃないってことね。いい勉強になったわ」
「アナベルさんは将来どんな方とお付き合いしたいの?」
「結婚する人間はお父様が決めることだから、その質問はあまり意味がないように思うけれど……そうね、強いて言うなら、わたくしより美しくない男がいいかしら」
「えっ?」
アナベルより美しくない男?
「アナベルさんより美しい男、ではなくて?」
「いいえ。美しくない男よ」
イリスは目を真ん丸と見開いた。
「なによ、その信じられないという顔は」
「えっと、なんだか意外で……」
彼女のことだから、自分の隣に立っても見劣りしない容姿の美しい人間を条件にあげると思っていた。
「自分より美しい男が隣にいたら、そちらにばかり目が行くじゃない」
「だめなの?」
「だめよ、そんなの。夫が妻より目立つなんて許しがたいわ」
「はぁ……」
そういうものなのだろうか?
学校では妻は夫を立てるもの、なんて教えられたが、アナベルの考えはその真逆である。
「わたくしはね、イリスさん。夫にはわたくしという存在を崇め立てるように、接して欲しいと思っていますの」
「崇め立てる……それはアナベルさんのことを神様のように思うってこと?」
「そうよ。わたくしの顔を見るたびに自分はなんて美しい人と結婚できたのかと幸福を噛みしめて欲しいの。わたくしはそんな夫を深く愛するわ。それで周りも、わたくしたち夫婦を見て、あの夫婦はなんて素晴らしいのだろうって感激するのよ」
完璧ではなくて? とアナベルは自信たっぷりに、夢見るように言った。
(アナベルさん、こんなこと考えている人だったんだなぁ……)
ラファエルが見かけで人を判断するなと昔言っていたが、全くもってその通りだと今の話を聞いて思った。
「じゃあ、アナベルさんにとって、王太子殿下やラファエルのような人間は対象外ということ?」
「ええ。論外ね。お二人とも、とても素敵なお顔立ちだけど、一緒に並んでいたら絶対にわたくしの存在が霞んでしまうし、なんであんな女が? って女性陣からの妬みを買う可能性が高いもの」
アナベルは冷静に自分とサミュエルたちの容姿を分析した。
「特に貴女の婚約者は、絶対に勘弁願いたいわ」
「はぁ……」
勘弁願いたいと言われても、すでに彼はイリスの婚約者であるからアナベルの心配は杞憂である。
(でもここまで言われるラファエルの美貌って……)
イリスはラファエルの隣に立つのが不安になってきた。
「まぁ、ラファエル様は容姿の件を抜きにしても、いろいろ怖い噂があるようだから、結婚相手には嫌厭されているようだけれど」
「でも、冷たく拒絶する必要があるくらいには言い募られているわ」
ラファエルとの喧嘩を思い出し、ついイリスは棘のある口調でそう返していた。
「あら、貴女もそんな顔できるのね」
「そんな顔って?」
「嫉妬で歪む、醜い顔」
とっても不細工よ、と言われイリスは思わず頬に手をやる。ふふ、とアナベルが初めて面白そうに笑った。
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