氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ

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19、後悔

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(わたし、なんであんなに怒ってしまったのかしら……)

 帰りの馬車の中でもしばらくプンプン怒っていたイリスだが、馬車に揺られているうちにだんだん落ち着きを取り戻し、自宅へ着く頃にはすっかり後悔していた。そもそもそれほど腹を立てることだったろうか。

(でも、ラファエルがわたしのこと信じてくれなかったのは……やっぱり酷いわ)

 しかし、と冷静になって思い返す。
 彼がイリスを信じようとしなかったのは、サミュエルの名前を出したからだ。

(婚約者より他の男性を頼ってしまったことが、やっぱりいけなかったのかしら……)

 事実がどうあれ、誤解を与えてしまう態度をイリスはとってしまっていたかもしれない。

「はぁ……どうしよう……」

 喧嘩別れ、というより一方的に責め立てて、ラファエルはひどく嫌な気持ちになったはずだ。きっと呆れてしまって、今頃イリスなんかが婚約者であることを後悔し始めているかもしれない。

 そう思うとイリスはますます自分の行いを後悔した。

 次に会う時一体どんな顔をすればいいのだろう。

「――お帰りなさい、イリス。お茶会はどうだった?」

 帰宅すると、母が待ち焦がれていたというように出迎えてくれた。今日の出来事を聞きたくてたまらないという顔をしている。

「……ええ、楽しかったわ」
「王女殿下と仲良くなれた?」

 ベルティーユの名前に、イリスはさらに心が暗くなった。自分は彼女に対しても嫉妬してしまったのだ。

「ごめんなさい、お母さま。わたし、少し疲れてしまったみたいなの」
「まぁ、そうなの? なら、お夕食まで少し休んでいなさい」
「ええ、そうさせてもらいます」

 とりあえず難しいことを考えるのは後にしよう。実際緊張から解放され、心身ともに疲れ果てていた。自室の寝台に倒れ込むと、しばらくいろんな思いが頭の中を渦巻いていたけれど、いつの間にかイリスは深い眠りへと落ちていた。

 次にイリスが目覚めたのは翌日の朝であった。もう昼に近い時刻で、彼女はびっくりしてしまう。

 別に予定など入っているわけではないが、時間を無駄にしてしまった気がして、急いで身支度を済ませ、遅めの朝食を済ませていると、昨夜ラファエルが訪ねてきたことを執事のパトリスに告げられた。

「そんな、ラファエルが?」

 起こしてくれればよかったのに……とつい非難がましく言ってしまえば、パトリスは申し訳ありませんと頭を下げた。

「お嬢様はひどくお疲れのようでしたし、奥様も無理に起こしては可哀想だとおっしゃられたので……」
「お母さまも……そうよね、ごめんなさい、パトリス。あなたはわたしのことを気遣ってくれたのに」
「いえ。謝ることではありません」

 しかしラファエルが自分に会いに来た理由は気になる。

「ラファエル、何か言っていた?」
「私どもには何も……ただお嬢様の代わりに奥様がお相手をなさっておりました」
「まぁ、お母さまが?」

 イリスは一気に不安になってしまった。母はラファエルを傷つけるようなことを言っていないだろうか。

「お母さまはお部屋にいらっしゃる?」
「今日は朝早くから用事がおありだと、すでに出かけていらっしゃいます」

 こんな時に限ってタイミングが合わない。イリスはため息をついて、どうしようかしらと悩む。

(こちらからラファエルに会いに行くべきかしら)

「デュラン様はまた会いに来るとおっしゃっていました」

 パトリスがイリスの思考を読んだように付け加える。

 ラファエルがまた会いに来てくれることを知り、イリスは少し安堵する。だが彼には日中仕事があり、来るとなれば夕方遅くか夜であろう。それまでの待ち時間が辛い。

(でもそれまで自分の考えを整理しておきましょう……)

 そうしてお茶の時間になった頃、またパトリスがイリスのもとへやってきた。

「お嬢様。お客様がお見えでございます」

 きっとラファエルだと、イリスは訪問者の名前を尋ねることもせず玄関へ向かった。

「ラファエル!」

 しかしそこにいたのはラファエルではなかった。

「悪かったわね。愛しの婚約者様じゃなくて」
「アナベルさん!?」

 昨日会ったばかりのアナベルが腰に手を当てて、ふんっと鼻を鳴らした。

「貴女がわたくしのことを歓迎していないのはわかっているわ」
「いえ、そういうわけではなく……」

 急に訪ねてきたので驚いてしまったのだ。説明しようとしても、アナベルは「安心して」と勝手に話を進めていく。

「すぐにお暇させてもらうわ。わたくしだって、予約なしで訪れたことは悪いと思っているの。でも、作ってしまった借りは早く返すのが我が家の決まりでもあるから、こうして足を運ばざるを得なかったの」
「はぁ……?」

 つまり一体何の用だろうかとイリスが主旨を掴めないでいるのと、焦れたアナベルがバサッと音を立てて紙袋をイリスに差し出した。

「これ、差し上げますわ」
「えっと、これは?」
「ご令嬢に人気の香油やレースのハンカチよ」

 茶会に誘ってくれたお礼よ、と言われイリスはようやくアナベルが自分の家を訪ねてきた理由を悟った。

「アナベルさんって義理堅いのね……」
「誤解しないでちょうだい。貸し借りを作るのが、単に嫌いなだけよ。放っておくと、後々面倒事に発展するんだから」

 商売人らしい言葉である。

「それじゃ、要件は済んだから。急に訪ねてきて悪かったわね」
「あっ、待って!」

 帰ろうとしたアナベルをイリスは思わず呼び止めた。なに? と不機嫌そうに振り返られ、一瞬怯むものの、精いっぱい笑みを浮かべた。

「せっかく来てくれたんですもの。どうぞお茶でも飲んでいって」

 イリスの申し出にアナベルはぎょっとした。

「は? わたくしが?」
「ええ。それともこの後何か用事があるかしら?」
「それは、特にないけれど……」

 よかった、とイリスはぱっと顔を輝かせた。

「じゃあ遠慮しないで上がって行って」
「でも貴女、何か用事があるのではなくて?」
「ラファエルのことなら心配しないで。来るのは夕方か夜でしょうし」

 さぁさぁとイリスは立ち竦むアナベルの手を取り、客間へと案内したのだった。

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