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37、ラファエルの見舞い
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それから一週間経った頃。ついにラファエルとの面会が許された。事前に知らされていなかったイリスは、部屋まで通されたラファエルの姿を目にしてたいそう驚いた。
「イリス!」
彼はイリスを一目見るなり、抱きしめてきた。
「会いたかった……!」
「ラ、ラファエル……」
苦しいと思ったイリスだが、ラファエルの気持ちが痛いほど伝わってきて黙って背中に手を回した。
「……ラファエル様。どうかそのへんで」
コホンと控えめな咳払いがなされ、執事のパトリスが注意した。ラファエルがぱっとイリスから離れる。
「……悪い。もう二度とイリスに会えないと思ったから」
そんなはず、ない。
イリスはそう言いたかったけれど、ラファエルの顔を見ると決して誇張ではないと悟った。彼はイリスが倒れたことを今でも自分の責任だと思っている。
「お茶を淹れてまいりますが、くれぐれもお間違いのないよう、お願い致します」
「わかっている」
では、とパトリスは頭を下げて退室した。イリスのそばについていたメイドも一緒に出て行ったので、おそらく気を利かせてくれたのだと思う。もしもの時のために扉は半分開かれたままだったけれど。
「イリス」
ラファエルが沈黙から口を開く。
「怖い思いさせて、ごめんな」
「いいの。それよりラファエルこそ、頬は大丈夫?」
コルディエ公爵夫人の扇子で叩かれていたのだ。
「大丈夫だ。あれくらい、平気だ」
そんなことより、とラファエルはイリスの顔を心配した様子で見る。
「まだ体調悪いのか?」
「あ、ううん。これは普通に風邪ひいちゃって」
「なんだって?」
「あはは……でも、もう熱は下がったから」
ただまた体調を崩したことで両親に心配され、ベッドで休むよう言われたのだった。ラファエルが客間ではなくイリスの部屋へ通されたのもそういう理由である。
「本当に大丈夫だから、そんな顔しないで」
「けど……」
ラファエルがあまりにも酷い顔をして自分を責めるので、イリスは寝台から手を伸ばして彼の頬へ触れた。彼の言う通り、傷はできておらず、イリスはよかったと安堵した。
「心配させてごめんね。お医者さまも呼んでくれたそうで……ラファエルがいなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないわ」
「俺がいなければ、コルディエ公爵夫人はあんなに突っかかってこなかったかもしれないだろ」
そういえばあの時、やけに夫人はラファエルに対して当たりが強い気がした。
「もしかして、以前王太子殿下を庇おうとして恨みを買ったのが公爵夫人なの?」
「……ああ」
ラファエルは苦い顔をして頷いた。
「何かのパーティーだったと思うが、あまりにも度を越した態度で殿下に迫っていたから、それ以上はやめてくれとあくまでも義務的に言ったつもりだったが、言い方が癪に障ったのか、結局恨みを買う羽目になった」
この件は国王夫妻の耳にも入り、仲の悪い貴族たちからは嘲笑の的とされ、夫人はさらに屈辱的な思いを味わう結果となった。
これもすべてあの時サミュエルを庇った騎士――ラファエルのせいだ。夫人はそう思い、以後ラファエルと会う度に目の敵にするようになったそうである。
「そんなの、ラファエルのせいじゃないでしょう」
完全な逆恨みである。今回のことも先に絡んできたのは夫人の方であり、ラファエルはできるだけ穏便に済ませようとしていた。
「殿下を庇ったのだって、何もラファエルだけじゃないんでしょう?」
「そうだな。他の先輩方もみな同じように接しているはずだが……どうも俺の態度は鼻につくそうだ」
ラファエルは不可解な様子で愚痴を零した。
イリスは夫人の怒った顔を思い出す。扇子で口元が隠して話していたため、じっくりと見たわけではないが、貴婦人らしい高貴な顔立ちをしていた。
そしてラファエルもひどく整った顔をしている。それは夫人以上と言っていいかもしれない。しかし立場的にはラファエルの方がずっと下である。
たいていの者ならば、公爵家の人間を止めることに躊躇が生まれる。美しい女性ならばなおのこと。
けれどラファエルはそういったことに一切躊躇がなかった。サミュエルの護衛として、彼はただ真面目に、いっそ冷たいとも思われる態度で夫人を引き剥がそうとした。
これが他の騎士――自分より容姿の劣った、媚びへつらう様な態度ならば、あるいは公爵家と同等の貴族ならば、きっと夫人は余裕を持って「あら、ごめんなさいね」と謝ることができたのだろう。
しかしラファエルは違った。
ラファエルの美貌が、媚びない態度が、自分より下の身分が、公爵夫人を狼狽えさせ、プライドを傷つけた。
「俺は、騎士に向いていないのかもしれないな……」
「そんなことないわ。あの時、ラファエルはわたしやアナベルさんを庇ってくれたじゃない。立派に騎士として務めを果たしているじゃない」
「しかし、容姿のせいで変な異名までつけられて、相手をかえって激昂させたら意味がない」
変な異名、と称したあたり、やはり「氷の騎士」というあだ名は好きではないのだろう。
「殿下の護衛は、常に影のように寄り添い、決して目立ってはいけない。俺のせいで殿下に何かあったら、本末転倒だろう」
いつになく弱気な発言であった。イリスが倒れてしまったことで、追いつめられてしまったようにも見えた。
「……ねぇ、ラファエル。目立つなら、逆に利用してやればいいって、あなた以前王宮で言っていたじゃない」
イリスの誤解を解くためにわざわざサミュエルのもとへ連れて行った。変な噂が流れても、気にしないと涼しい顔をして答えたラファエル。イリスはその時の彼をとてもかっこよく思えたのだ。
「守り方は一つじゃないと思うわ。普通じゃないやり方だとしても、結果的に王太子殿下を守ることに繋がるなら、ラファエルは立派な騎士だよ」
「イリス……」
彼の瞳が揺るぎ、グッと堪えるように俯いた。
「だがそれで今回お前を傷つけることになった」
「傷ついてないわ。その前にあなたが守ってくれたじゃない」
まだ反論しようとするラファエルに、イリスは素早く答えた。
「それにわたし、あの時自分が倒れたおかげで周囲の注目が集まって、夫人が逃げてくれて、結果的によかったと思うの」
もしイリスがあのまま意識を保っていたとしても、夫人の剣幕に恐れをなしたまま、ぼうっと突っ立ていることしかできなかったと思う。コリンヌ嬢はさらに激しく責められ、アナベルや自分が再度標的とされ、ラファエルは自分たちを庇うためにさらに頬を叩かれていたかもしれない。
……と考えれば、あれはイリスなりの突破口であったのだ。
「……それは少し、強引すぎる解釈だろ」
「うっ……と、とにかく! もう気にしないで! そんなに落ち込まれちゃ、わたしも自分の弱さが恥ずかしいし、情けないわ!」
イリスが強引に納得させようとすると、ラファエルは呆れた眼差しをして、少し笑った。彼がやっと笑顔を見せてくれたことで、イリスも安心する。
「あのね、ラファエル。わたしも今回のことを踏まえて、自分を変えようと思うの」
「変える?」
「そう。夫人の剣幕にも耐えられるよう、もっと自分を鍛えるわ」
「……具体的にはどうやって?」
「それは……そうね、とにかくお茶会にたくさん参加して、怖いと噂される貴族の方ともお付き合いを重ねて……あとは、うーん……あ、ラファエルにわざと怒られて、免疫をつけるっていうのはどうかしら?」
イリスは必死に頭を回転させて解決策を捻りだせば、ラファエルは呆気にとられた様子で、しかしやがて我慢できないというように笑い声をあげた。
「いけないかしら?」
「いや……いいと、思うぞ。くくっ……イリスらしい、名案だ。特に最後の提案は」
「……ラファエル。あなた馬鹿にしているでしょう?」
「そんなことない。イリスが逃げずに戦うという道を選んだのが意外だったんだ」
なんだかやっぱり馬鹿にしている気がする。
「酷いわ、ラファエル。人が真面目に考えているのに」
「悪い。イリスがあまりにも違う方向に突っ走るから」
もう、とイリスは腹を立てたが、ラファエルが笑ってくれたのでまぁいいかと許した。口元に手の甲を当てて笑いを堪えていたラファエルはやがて深く息を吐いて、自信に満ちた笑みをイリスに向けた。
「イリスのおかげで元気出た。ありがとな」
「わたしは何もしていないけれど……」
「そんなことない。俺はイリスがいるからいつも……」
とそこで彼ははたと何かに気づいたように言葉を切った。
「そうか。俺にとってはイリスだったのか」
「え?」
「生きる活力ってやつ。俺にとってはイリスなんだ」
「ええ?」
それはちょっと……とイリスは思った。
「なんだよ、だってそうだろう。辛いことがあっても、イリスと会って話すと、また頑張ろうって思えるんだから」
「そ、それは……でも、別に素敵とか、そういうのは思わないでしょう?」
「可愛いとは思っている」
さらりと言われた言葉にイリスは一瞬固まった。けれど言った本人も恥ずかしいのか、そっぽを向いた。
「……自分で言って照れないでよ」
「仕方ないだろ。こういうの、殿下と違って俺は言い慣れていないんだ」
確かに日頃から息を吐くように女性を褒めているサミュエルとは経験の差が大きいだろう。けれど、イリスはそれに何だかひどく安心した。
彼がそんなことを言うのは自分だけなのだ。
(恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい……)
えへへ、とだらしない笑みを浮かべていると、ラファエルが「なんだよその顔は」と指摘してくる。
「ラファエルに可愛いって言ってもらえて嬉しいの」
「……嬉しいのか」
「嬉しいよ。好きな人に言ってもらえるんだもん」
イリスがそう言うと、ラファエルはなぜか押し黙った。
「イリスは」
「うん?」
「イリスは俺のこと、どう思っているんだ」
「ラファエルのこと? もちろんかっこいいって思っているよ」
「……あの騎士よりもか?」
「イリス!」
彼はイリスを一目見るなり、抱きしめてきた。
「会いたかった……!」
「ラ、ラファエル……」
苦しいと思ったイリスだが、ラファエルの気持ちが痛いほど伝わってきて黙って背中に手を回した。
「……ラファエル様。どうかそのへんで」
コホンと控えめな咳払いがなされ、執事のパトリスが注意した。ラファエルがぱっとイリスから離れる。
「……悪い。もう二度とイリスに会えないと思ったから」
そんなはず、ない。
イリスはそう言いたかったけれど、ラファエルの顔を見ると決して誇張ではないと悟った。彼はイリスが倒れたことを今でも自分の責任だと思っている。
「お茶を淹れてまいりますが、くれぐれもお間違いのないよう、お願い致します」
「わかっている」
では、とパトリスは頭を下げて退室した。イリスのそばについていたメイドも一緒に出て行ったので、おそらく気を利かせてくれたのだと思う。もしもの時のために扉は半分開かれたままだったけれど。
「イリス」
ラファエルが沈黙から口を開く。
「怖い思いさせて、ごめんな」
「いいの。それよりラファエルこそ、頬は大丈夫?」
コルディエ公爵夫人の扇子で叩かれていたのだ。
「大丈夫だ。あれくらい、平気だ」
そんなことより、とラファエルはイリスの顔を心配した様子で見る。
「まだ体調悪いのか?」
「あ、ううん。これは普通に風邪ひいちゃって」
「なんだって?」
「あはは……でも、もう熱は下がったから」
ただまた体調を崩したことで両親に心配され、ベッドで休むよう言われたのだった。ラファエルが客間ではなくイリスの部屋へ通されたのもそういう理由である。
「本当に大丈夫だから、そんな顔しないで」
「けど……」
ラファエルがあまりにも酷い顔をして自分を責めるので、イリスは寝台から手を伸ばして彼の頬へ触れた。彼の言う通り、傷はできておらず、イリスはよかったと安堵した。
「心配させてごめんね。お医者さまも呼んでくれたそうで……ラファエルがいなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないわ」
「俺がいなければ、コルディエ公爵夫人はあんなに突っかかってこなかったかもしれないだろ」
そういえばあの時、やけに夫人はラファエルに対して当たりが強い気がした。
「もしかして、以前王太子殿下を庇おうとして恨みを買ったのが公爵夫人なの?」
「……ああ」
ラファエルは苦い顔をして頷いた。
「何かのパーティーだったと思うが、あまりにも度を越した態度で殿下に迫っていたから、それ以上はやめてくれとあくまでも義務的に言ったつもりだったが、言い方が癪に障ったのか、結局恨みを買う羽目になった」
この件は国王夫妻の耳にも入り、仲の悪い貴族たちからは嘲笑の的とされ、夫人はさらに屈辱的な思いを味わう結果となった。
これもすべてあの時サミュエルを庇った騎士――ラファエルのせいだ。夫人はそう思い、以後ラファエルと会う度に目の敵にするようになったそうである。
「そんなの、ラファエルのせいじゃないでしょう」
完全な逆恨みである。今回のことも先に絡んできたのは夫人の方であり、ラファエルはできるだけ穏便に済ませようとしていた。
「殿下を庇ったのだって、何もラファエルだけじゃないんでしょう?」
「そうだな。他の先輩方もみな同じように接しているはずだが……どうも俺の態度は鼻につくそうだ」
ラファエルは不可解な様子で愚痴を零した。
イリスは夫人の怒った顔を思い出す。扇子で口元が隠して話していたため、じっくりと見たわけではないが、貴婦人らしい高貴な顔立ちをしていた。
そしてラファエルもひどく整った顔をしている。それは夫人以上と言っていいかもしれない。しかし立場的にはラファエルの方がずっと下である。
たいていの者ならば、公爵家の人間を止めることに躊躇が生まれる。美しい女性ならばなおのこと。
けれどラファエルはそういったことに一切躊躇がなかった。サミュエルの護衛として、彼はただ真面目に、いっそ冷たいとも思われる態度で夫人を引き剥がそうとした。
これが他の騎士――自分より容姿の劣った、媚びへつらう様な態度ならば、あるいは公爵家と同等の貴族ならば、きっと夫人は余裕を持って「あら、ごめんなさいね」と謝ることができたのだろう。
しかしラファエルは違った。
ラファエルの美貌が、媚びない態度が、自分より下の身分が、公爵夫人を狼狽えさせ、プライドを傷つけた。
「俺は、騎士に向いていないのかもしれないな……」
「そんなことないわ。あの時、ラファエルはわたしやアナベルさんを庇ってくれたじゃない。立派に騎士として務めを果たしているじゃない」
「しかし、容姿のせいで変な異名までつけられて、相手をかえって激昂させたら意味がない」
変な異名、と称したあたり、やはり「氷の騎士」というあだ名は好きではないのだろう。
「殿下の護衛は、常に影のように寄り添い、決して目立ってはいけない。俺のせいで殿下に何かあったら、本末転倒だろう」
いつになく弱気な発言であった。イリスが倒れてしまったことで、追いつめられてしまったようにも見えた。
「……ねぇ、ラファエル。目立つなら、逆に利用してやればいいって、あなた以前王宮で言っていたじゃない」
イリスの誤解を解くためにわざわざサミュエルのもとへ連れて行った。変な噂が流れても、気にしないと涼しい顔をして答えたラファエル。イリスはその時の彼をとてもかっこよく思えたのだ。
「守り方は一つじゃないと思うわ。普通じゃないやり方だとしても、結果的に王太子殿下を守ることに繋がるなら、ラファエルは立派な騎士だよ」
「イリス……」
彼の瞳が揺るぎ、グッと堪えるように俯いた。
「だがそれで今回お前を傷つけることになった」
「傷ついてないわ。その前にあなたが守ってくれたじゃない」
まだ反論しようとするラファエルに、イリスは素早く答えた。
「それにわたし、あの時自分が倒れたおかげで周囲の注目が集まって、夫人が逃げてくれて、結果的によかったと思うの」
もしイリスがあのまま意識を保っていたとしても、夫人の剣幕に恐れをなしたまま、ぼうっと突っ立ていることしかできなかったと思う。コリンヌ嬢はさらに激しく責められ、アナベルや自分が再度標的とされ、ラファエルは自分たちを庇うためにさらに頬を叩かれていたかもしれない。
……と考えれば、あれはイリスなりの突破口であったのだ。
「……それは少し、強引すぎる解釈だろ」
「うっ……と、とにかく! もう気にしないで! そんなに落ち込まれちゃ、わたしも自分の弱さが恥ずかしいし、情けないわ!」
イリスが強引に納得させようとすると、ラファエルは呆れた眼差しをして、少し笑った。彼がやっと笑顔を見せてくれたことで、イリスも安心する。
「あのね、ラファエル。わたしも今回のことを踏まえて、自分を変えようと思うの」
「変える?」
「そう。夫人の剣幕にも耐えられるよう、もっと自分を鍛えるわ」
「……具体的にはどうやって?」
「それは……そうね、とにかくお茶会にたくさん参加して、怖いと噂される貴族の方ともお付き合いを重ねて……あとは、うーん……あ、ラファエルにわざと怒られて、免疫をつけるっていうのはどうかしら?」
イリスは必死に頭を回転させて解決策を捻りだせば、ラファエルは呆気にとられた様子で、しかしやがて我慢できないというように笑い声をあげた。
「いけないかしら?」
「いや……いいと、思うぞ。くくっ……イリスらしい、名案だ。特に最後の提案は」
「……ラファエル。あなた馬鹿にしているでしょう?」
「そんなことない。イリスが逃げずに戦うという道を選んだのが意外だったんだ」
なんだかやっぱり馬鹿にしている気がする。
「酷いわ、ラファエル。人が真面目に考えているのに」
「悪い。イリスがあまりにも違う方向に突っ走るから」
もう、とイリスは腹を立てたが、ラファエルが笑ってくれたのでまぁいいかと許した。口元に手の甲を当てて笑いを堪えていたラファエルはやがて深く息を吐いて、自信に満ちた笑みをイリスに向けた。
「イリスのおかげで元気出た。ありがとな」
「わたしは何もしていないけれど……」
「そんなことない。俺はイリスがいるからいつも……」
とそこで彼ははたと何かに気づいたように言葉を切った。
「そうか。俺にとってはイリスだったのか」
「え?」
「生きる活力ってやつ。俺にとってはイリスなんだ」
「ええ?」
それはちょっと……とイリスは思った。
「なんだよ、だってそうだろう。辛いことがあっても、イリスと会って話すと、また頑張ろうって思えるんだから」
「そ、それは……でも、別に素敵とか、そういうのは思わないでしょう?」
「可愛いとは思っている」
さらりと言われた言葉にイリスは一瞬固まった。けれど言った本人も恥ずかしいのか、そっぽを向いた。
「……自分で言って照れないでよ」
「仕方ないだろ。こういうの、殿下と違って俺は言い慣れていないんだ」
確かに日頃から息を吐くように女性を褒めているサミュエルとは経験の差が大きいだろう。けれど、イリスはそれに何だかひどく安心した。
彼がそんなことを言うのは自分だけなのだ。
(恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい……)
えへへ、とだらしない笑みを浮かべていると、ラファエルが「なんだよその顔は」と指摘してくる。
「ラファエルに可愛いって言ってもらえて嬉しいの」
「……嬉しいのか」
「嬉しいよ。好きな人に言ってもらえるんだもん」
イリスがそう言うと、ラファエルはなぜか押し黙った。
「イリスは」
「うん?」
「イリスは俺のこと、どう思っているんだ」
「ラファエルのこと? もちろんかっこいいって思っているよ」
「……あの騎士よりもか?」
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